[独占単独インタビュー]ティム・オライリーが語る「Web 3.0」とは?
Tim O'Reilly独占直撃インタビュー
Web 2.0の父が語る「Web 3.0」とは?
11月7日から9日にかけてサンフランシスコで開催された「Web 2.0サミット」会場で、「Web 2.0」という言葉を世界に広めたTim O'Reilly氏本人に独占直撃インタビューを行った。
Tim O'Reilly氏が考えるWeb 2.0のその先にあるもの、そしてWeb 3.0とは?
協力:インプレスR&D インターネット生活研究所 堀田 有利江
まだまだ拡大の余地がある「2.0」の世界
この盛況ぶりはすごいですね。まずはイベントの大成功おめでとうございます。
Tim: ありがとう。
Web 2.0の今後の展開について教えてください。Web 2.0の先にあるものは何と考えていますか?
Tim: いくつかあると思う。
1つには、ユーザーデータのみならず、様々な端末やセンサー機器などから収集されるデータの活用法の進化だ。
これはすでに起ったことだが、Web 2.0では、ユーザーにとって容易にアクセスできるアプリケーションが数多く開発され、以前より多くの人々が気軽にネットに集まるようになった。そしてネットワーク効果が最大限に活用されるようになった。ただ、その大半はまだ、人々がオンラインで何かをしている形に留まっている。写真をシェアしたり、テキストを入力したりなどね。
しかし今後は、ユーザーがウェブ入力したデータのみならず、他の形で蓄積されたデータがもっと活用されるようになっていくのではないかと思う。例えば、車載端末や携帯端末、自動改札機など、人々が日々持ち歩いたり利用している機器や端末には、日々様々なデータが蓄積される。そうしたデータについても、連携効果を高めることで得られる集合知は大きい。例えば、車載端末から集められた情報を活用する渋滞情報サービスなどだ。
これまでネットで収集されたデータの多くは、マーケティングやデータマイニング分野などで活用されるに留まっていた。しかし今後は、それ以外の分野における活用も模索の道が広がるのではないかと思う。そうした動きは、これまでのWeb 2.0をさらに進化させると思う。
もう一つには、Web 2.0の波は一般ユーザー主導から、より様々なビジネス領域に拡大していくということだ。
シリコンバレーだけでなく、銀行、保険会社や、製造業者などにも広がり、ITと実社会はもっと接近・融合していくだろう。例えば、今朝Jeffが講演で触れたような、Amazonが提供するウェアハウス・サービスなどもその例と言えよう。
モノ作りは、以前より低コストにできるようになってきた。そうすると、ユーザーが何かをデザインし、カスタム製造することも可能になる。例えば、「スレッドレス・ドットコム」というTシャツサイトがある。そこでは、ユーザーがTシャツのデザインを提案し、他のユーザーがどのデザインがいいかを投票する。メーカーは最も人気が高かったデザインのTシャツを製造するんだ。これはネットの力を活用して実現するカスタム製造に近い形態だ。
現在はアウトソーシング製造が主体だが、今後はもっとパーソナライズド製造が進むだろう。中長期的な流れの中で、我々はまさにパーソナライズド製造の始まりを目撃しつつあるのだ。つまり、ネットを通してシェアされるのは、音楽ではなくデザインだったりするんだ。この兆候は、Googleの「スケッチアップ」(3Dデザイン・ソフト会社)買収にも現れている。また、「セカンドライフ」に見られるように、今後リアルとバーチャルの世界の情報はもっと活発に融合していくだろう。ネット上のアバターが、クレジットカードにプリントされたりなど(自分の顔写真ではなく)。
つまり、私がここで言おうとしているのは、Web 2.0の進化やイノベーションは、まだまだ拡大余地が大きいということだ。もっと多くの幅広い分野で、Web 2.0は広がっていく余地があるということだ。
もし「Web 3.0」を唱える人がいたら……
つまり、あなたは現段階で“Web 3.0”を改めて定義する気は無いということですか?
Tim: そういうことだ。
最初、このコンファレンスのトピックスとしてWeb 3.0を取り上げていたようだったので、日本では「Web 3.0は何か」ということについて関心が高まりつつあったのですが。
Tim: 先に触れたように、データ・ウェブなどの考え方が大切になってくるとは思うが、(Web 3.0が何かはまだちょっと……)
これまでWeb 2.0は、新興企業や新たな事業機会が主導してきたが、今後は大企業におけるWeb 2.0化が加速すると見ている。Web 2.0の考え方やネット活用の仕方は、スタートアップによるコンシューマー向けサービスが主流だったが、次の4、5年はエンタープライズ分野にもっと普及してくるだろう。
このコンファレンスも、新興ネット企業のみならず、IBMやサンマイクロシステムなどエンタープライズ企業もスポンサーになっていますね。
Tim: そうだね。エンタープライズでもWeb 2.0的な情報提供・共有やデータ連携、英知の集結が進み、新しい価値やサービスを進化させていく姿が見られるようになるだろう。
ちなみに、Web 3.0はいつ来ると考えればいいですか?
Tim: Web 3.0は来年とか、1年、2年で来る話ではないよ。もっと独創的なイノベーションや、革新的な進化の話なのだから。
Web 2.2やWeb 3.0などについて唱える人など色々いるようですが…。
Tim: もしWeb 3.0が来たなんて話をする人がいたとしたら、信じない方がいいね(笑)。
■下記に、O'Reilly氏インタビューのポイントを改めてまとめる。
- Web 2.0の考え方は、まだより様々な幅広い分野に拡大余地がある。
- ユーザー入力データのみならず、様々な端末やセンサー機器などから収集されるデータも連携活用されることで、新たな集合知の創造につながるだろう。
- これまで以上に、Web上のデータが重要な役割を果たすようになる。
- 向こう4、5年は、Web 2.0はより多くのビジネス領域に拡大していくだろう。
- Web 3.0は、まだ当面は想定していない。
コメント
私なりのWeb3.0の定義 (^-^;)
オライリーさんの意見に反して、今まで、市民の立場からいろいろWebにかかわってきた経験から自分なりにWeb3.0とその上でのユーザアプリケーションとそれを使ったビジネスモデルを考えてみました。
http://nvc.halsnet.com/jhattori/IHK/Web3_business_model.htm
Web3.0は誰もまだ明確に定義していませんが、Web本来の目的が何かをまずとらえるとして、その進化のコンセプトが何かを明確にしましょう。
まずWebの目的とは何かと申しますと、「情報の共有化」です。わかりやすい身近なシステムとしては、インターネット上のデジタル図書館などがあります。
そのWebの基本にあるのは、まず情報提供(情報発信)、すなわち情報のデジタル化です。
ただWebサービスが始まったWeb1.0世代では、その情報発信をする人たち、と言うのが、特に限られた人たちでした。それが、Web2.0の「ブログ」や「Wikipedia」、「YouTube」、「Amazon.com」、「JanJanなどの市民メディア」、その他、オークションサイトなどの発展でどんどん、一般の人たちにも裾野が広がってきました。
その利用する人たちの裾野の広がりという意味でも、Web1.0世代ではある特定の人たちに限られていたのが、Web2.0世代ではブログやSNS、携帯サイトなどの普及も伴って、若い人たちを中心に広がってきました。そして次の世代のWeb3.0世代では、よりシームレスな情報発信、情報交換ができるようになる、ということが大きなコンセプトとして定義します。そこでは子供やお年寄りなどが意図して参加しなくても実質的に情報発信(情報参加)できるようにしてあげることが必要になってきます。簡単に言えば、従来、オンラインバンキングなどの、かなりセキュリティのガードが高いサイトにはいるのに、いちいちパスワード入力などのログイン操作が必要でしたが、その煩わし認証操作を意識させないことです。そのためには情報発信、情報交換のための強固なセキュリティと社会的にも認められた自動認証システムの構築が不可欠です。
同様に、シームレスな情報参加としては、リアルタイム性も欠かせません。瞬時に、意識しなくても必要な情報なら共有のインターネットのデータベースに、その時、その場所の情報がアップされ、更新されていくのです。
そういうWeb3.0世代に欠かせない市民の側で必須のソフトは何でしょうか?
それは私が約10年前、アメリカから帰ってきた1996年に構想を始めた、パーソナルサーチエンジンをベースとして、自動応答認証システムも組み込んだソフトです。それは必要な情報提供要求や問い合わせに対して、信頼してよい対象の相手(主治医や取引銀行)からならば自動的に判断して、そのセキュリティレベルに応じた情報を提供し、逆に欲しい情報に対して、常にアクセスして探して、情報が入手した段階で、その所有者に知らせてくれるパーソナルサイバーエージェントというソフトです。それは、これからは携帯などの端末にも搭載されるでしょう。
このパーソナルエージェントの機能をユーザーにとって便利な機能として市民に提供し、その一方では必要なコンピューティングシステムとして、空きの時間を使わせてもらう、というビジネスモデルが今後の大きな市場をもつ、Web3.0世代の市民メディアのビジネスモデルの1つになっていくのでは、と考えています。
以上