LPOの実践手法

LPOの実践手法

ではLPOを実際に行い、ランディングページの直帰率を減らしてサイトのコンバージョン率を上げていくには、どのような方法があるのだろうか?

大きく分けて2つのプロセスがある。1つは「ユーザーニーズに合わせた最適なメッセージの表示」であり、もう1つは「テストを通じたメッセージの最適化」だ。

[1]ニーズに合わせた最適なメッセージを表示する

ランディングページの大きな目的は、アクセスしてくるユーザーの目的を予測し、そのユーザーの興味を引き、次のページに進んでアクションを誘うようなメッセージを表示することだ。広告キャンペーンで作成したページであれば、キャンペーンの内容に連動した形でページをデザイン・作成するだろうが、個々にアクセスしてくるユーザーの興味は微妙に違うかもしれない。いかに個々のユーザーの興味を的確に捉え、最適なメッセージを表示していけるかが、ランディングページの直帰率改善の鍵だと言える。最大公約数のユーザーを想定したランディングページを1枚しか作らない場合も多いだろうが、場合によってはユーザーの興味ごとに個別のランディングページを作成し、よりターゲティングされたメッセージを伝えていくことも重要だろう。いくつか最適なメッセージを伝える方法を示す。

キーワード別のランディングページを用意する

サイトにアクセスするユーザーの興味といってもさまざまなものがあり、簡単に特定できないケースも多いだろうが、比較的特定しやすいのが検索エンジン経由でサイトにアクセスしているユーザーではないだろうか。特にキーワード広告やSEOを行っているのであれば、そもそもユーザーの興味を検索キーワードでターゲティングして複数のキーワード広告に広告出稿したりSEO対策を行ったりしているわけだ。

たとえば、東京で新築マンションを探しているユーザーが検索をする場合でも、そのニーズによって「品川 分譲マンション」だったり、「ペット可 マンション」だったり、「一人暮らし 新築マンション」だったりと、さまざまな検索をするだろう。仮に「品川でペット可の一人暮らし用マンション」を販売しているデベロッパーがキャンペーンを行ってキーワード広告を出稿する場合、3つの要素すべてを含めたランディングページを1枚だけ作成してすべてのユーザーをそこに誘導するのではなく、検索キーワードに応じてそのニーズに最適なランディングページを個別に作成するのだ。検索キーワードごとにそれぞれのランディングページに誘導することで、ユーザーの興味を最も引くと思われる内容のメッセージが目に飛び込んでくるようにできる。ランディングページをぱっと見て自分が求めていたものに合致する内容が大きく書かれていれば、直帰率を大幅に下げられるだろう(図5)。

図5 検索キーワードによって表示メッセージを変更

広告掲載媒体や広告素材でもユーザー属性が変わる

検索キーワードで直接的なユーザーニーズを分けられない通常のバナー広告でも、出稿する媒体や広告素材によってもある程度ユーザーニーズや属性をターゲティングすることが可能だ。広告を出稿する際は掲載サイトのリーチ力だけでなくユーザー属性なども調べたうえで、掲載先サイトを決めのだ。たとえば複数のサイトに広告出稿する場合、サイトごとに微妙にユーザー属性や興味が違うことも当然ありえる。実際、掲載サイトごとに個別の広告素材を作成することもあるだろう。さらにサイトや広告素材ごとに、ユーザーの属性や興味に合ったメッセージやデザインのランディングページを作成することで、全体の離脱率を下げていくことは十分に可能だ。

アクセス時間別にランディングページを分ける

もちろんサイトにアクセスしてくるユーザーには、直接アクセスしてくるユーザーも多くいるわけで、属性や興味をターゲティングできないケースも多々ある。または同じ属性・興味のユーザーであっても常に同じメッセージが最適だというわけではないかもしれない。たとえばアクセスする時間帯によって、メッセージを変更することで興味をより高めることも可能ではないだろうか。たとえばDVDを販売しているECサイトであれば、深夜にアクセスしてくるユーザーに対しては「深夜の眠れない時間を過ごすのにぴったりな、まったり系作品」を推薦表示することもできるかもしれない。レストラン情報提供サイトであれば、平日の午前中にアクセスしてくるユーザーにはランチ用のクーポンを表示、午後にアクセスするユーザーにはディナーの割引券を優先表示することで、サイトの利用率を高めることができるかもしれない(図6)。

図6 アクセスする時間によって表示メッセージを変更

ECサイトであれば季節や時事のイベントごとにお奨め商品を変更することは通常のプロモーション活動の中で行っているだろうが、1日や1週間単位でもユーザーの状況に応じてより最適なメッセージを配信することは十分に考えられる。

現在はアドワーズ広告などで曜日や時間帯によって広告のスケジュールを指定できるので、時間帯ごとにリンク先を変えたキーワード広告を表示するように設定すれば、特殊なシステムを用意しなくても時間帯ごとにランディングページを切り替えることが可能だ。

ランディングページが作られない理由

ユーザーニーズに合わせてランディングページを最適化していく方法はさまざまなものがあるが、複数のランディングページを用意しているウェブサイトは非常に少ない。SEMを行っている企業であれば数百、数千のキーワード広告に出稿し、キーワードの種類ごとに別々の広告コピーを検索結果上で表示し、クリック率を高める工夫しているはずだが、肝心のランディングページは最大公約数的ニーズを狙った1ページだけ、というケースも意外に多い。ランディングページを複数作成することは、広告コピーを複数作成するのに比べて労力がかかり、また運用管理も大変になることは確かだ。しかし、それにしても現状、もう少し工夫があってもいいのではないだろうか。

単純に、これまで集客にはさまざまな努力を行っていても、肝心の集客後のユーザーのコンバージョン率改善にはあまり意識がいかず、せいぜいランディングページを1枚用意するだけ。企業のマーケティングプロモーション活動が「集客活動」にフォーカスしすぎていたのかもしれない。そんな状況だからこそ、今、LPOが注目されてきているのだろう。

[2]テストを通したメッセージのさらなる最適化

ユーザーニーズを察知し、個別のランディングページを用意することでユーザーごとに最適なメッセージを表示するだけですべてが解決するわけではない。そのランディングページが本当に最適なものかどうか、言い換えればそのランディングページが最も直帰率が低く、コンバージョン率を向上するページであるかどうかは、まったくわからないのだ。もちろん、そうなるべく、ユーザーニーズや属性を想定し、デザイナーやディレクターに高品質のランディングページを作ってもらう努力は行うだろうが、本当に優れたランディングページであるのか、確証はどこにもない。

仮にそうした努力を通じてサイトの離脱率やコンバージョン率が改善したとしても、それは以前の状況との比較に過ぎず、それが「最も効果が高い」ランディングページであるかどうかはわからない。60%あった広告キャンペーンサイトの直帰率が50%に減ったとしても、残りの50%はまだ直帰しているのだ。多少の改善があったからと言って、そこで満足してしまっていては、LPOを最大限活用しているとは言い切れない。ターゲティングしたユーザーにランディングページを見せる場合でもそのクリエイティブやメッセージの内容を入れ替え、テストしてみることで、より効果の高いランディングページを作り上げていくことが可能になるのだ。

スプリットランテストによるLPO

ランディングページのテストを行う最も効果的な方法が、「スプリットランテスト」だ。広告を分けて(スプリット)実行する(ラン)と言う意味から作られた用語だ。

たとえばランディングページにアクセスしてくるユーザー2000人に対して1000人ずつに2つのページデザインを表示し、どちらのデザインの方が直帰率が低いか測定することで、効果の高いデザインを測定する手法だ。通常このように2パターンでテストするケースが多いことから「A/Bテスト」と言われることもある。ダイレクトマーケティング業界ではダイレクトメールや新聞広告の効果測定などで何十年も使われてきたテクニックだ(図7)。

図7 スプリットランテストでより良いデザインを判断

インターネットであれば、印刷物などに比べ、はるかに低価格でテストが実施できるわけで、本来もっと活用されて良い手法なのだが、何故かこれまであまり活用されてこなかった。方法自体も簡単で、ランディングページにアクセスするユーザーに対して、順番に別の内容のページを見せるだけだ。これで、離脱率やコンバージョンまで測定することでデザインの効果を簡単に測定できる。ページを順番に表示するには、次の3とおりの方法がある。

  • アドワーズ広告の[複数の広告原稿を追加作成]機能を使って、複数のリンク先パターンの広告を作る
  • ページ自体を1日ごとに入れ替え、日別で効果を比較する
  • CGIやPHPで簡単なプログラムを組む(知識が必要になる)

テストの注意点

このようなテストを行う場合、テストする要素は、次のようにたくさんある。

  • 全体のデザインテイストや色
  • レイアウト
  • キャッチコピーの内容
  • イメージ写真の有無や大きさ、内容
  • 本文のメッセージの内容

注意すべき点としては、「1回にテストする要素は1つにする」ことだ。テストしたい要素が複数あるからと、さまざまな要素を変更したページでテストしてしまっては、あるパターンの離脱率が低かったとしても、どの要素が良い影響をもたらしたのか特定できなくなってしまう。テストしたい箇所が複数ある場合でも、1か所ずつテストを行い、効果の高い要素とその内容を1つ1つ見つけ出していくことが重要だ。

その意味で、テストを通じたLPOは地道で時間のかかる作業となるが、そうした努力を継続的に続けていくことが、広告キャンペーンの効果改善のみならず、効果の高いデザインやメッセージを配信していくうえで貴重な情報となり、サイトの全体的なコンバージョン率の向上、ひいてはウェブビジネスの成功につながっていくのだ。

多変量解析/マトリックステスト

ダイレクトマーケティングの歴史が長い米国では、スプリットランテストを進化させた「多変量解析」テストの手法が昨年頃から普及してきている(「多変量解析」と言うと難しく聞こえるため、筆者は簡単にマトリックステストと呼んでいるが)。

ページ上のテストしたい複数の要素や要素同士の組み合わせの効果測定まで行う手法だ。手法としては、たとえばページ上での写真・キャッチコピー・申し込みボタンの3つの要素を3パターンずつ用意し、そのすべての組み合わせのクリエイティブを作成して同時並行でテストする手法だ。組み合わせのパターンとしては3×3×3で27パターンあるわけだから、全部をテストしようとすると大変な労力がかかりそうだが、最近は専用のASPサービスなどが複数登場しており、主にこれらのツールを使って運用を効率化して行われることが多くなっている(図8)。

図8 マトリックステストで最適な組み合わせを見つける
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