GMOペパボが運営するオリジナルグッズの作成・販売サービス「SUZURI byGMOペパボ」(以下「SUZURI」)では、顧客の利便性と買い物体験を向上させるため、決済手段の拡充、新規登録や会員ログインの改善に着手。「SUZURI」での顧客体験が大幅にアップし、新規会員数は大幅増、売り上げにもポジティブなインパクトとなり、改善効果をあげている。
この改善アプローチの1つが、AmazonのID決済サービス「Amazon Pay」の導入および実装改善。その舞台裏を、SUZURI事業部の長峰健太氏(マーケットプレイスチーム プロダクトマネージャー)、中島聖巴氏(マーケットプレイスチーム エンジニア)、白石翼氏(マーケットプレイスチーム デザイナー)に聞いた。
クリエイター登録者数88万人超の「SUZURI」。販売用から自分用まで用途はさまざま
「SUZURI」は、クリエイターがアップロードした画像から、Tシャツやスマホケースなどのオリジナルグッズが手軽に作れるオンデマンドグッズ作成サービス。Webとアプリで展開し、作成できるアイテムは約60点。購入者から注文が入ると、GMOペパボの連携工場で製作して出荷する仕組みとなっている。
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「SUZURI」のビジネスモデル
クリエイターが在庫リスクを抱えることなくモノを作って販売できるサービスという特性から、自分用と第三者への販売用の両方で利用が進んでいる。クリエイター登録者はイラストレーターやYouTuberなどで、コロナ禍中には芸人やタレントなどがグッズを作成する事例も増加した。各クリエイターのファンがグッズを買いに「SUZURI」に訪れるケースが多いという。
ほかにも、子どもが描いた祖父母の似顔絵をグッズにして贈るプレゼント用途や、法人やスポーツクラブがオリジナルのアイテムを作るといったケースもある。たとえばスポーツクラブのチームウェアの場合、「SUZURI」上で展開したアイテム販売ページのURLをチームのメンバー全員に共有すれば、1人ひとりにサイズやカラーを聞いたり集金したりする必要がなくなるため、その利便性も好評を得ているという。
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「SUZURI」で作成されたTシャツやステッカーなどのグッズ。デジタルコンテンツの販売も可能だ
連携工場の1日に製造して出荷できる数量が「SUZURI」のキャパシティになるため、連携工場を増やしていくと同時に、1社1社の工場の売上増や規模の拡大に「SUZURI」が少しでも貢献できるよう、購入者数の増加に努めていきたい。多くの人にグッズを作っていただきたいが、一方でクリエイターやグッズが増えるほど、“埋もれてしまう”グッズが出てきてしまう。現在は検索性やレコメンドなど顧客体験の向上により力を入れているところだ。(長峰氏)
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マーケティングチーム プロダクトマネージャー 長峰健太氏
顧客体験向上のため、「カラーミーショップ」の実績から「Amazon Pay」を導入
顧客体験を改善する取り組みの一環として決済手段の利便性向上に着手したのが2023年2月。「SUZURI」のWebとアプリの双方にAmazonの決済サービス「Amazon Pay」を導入した。
GMOペパボではECサイト構築サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」(以下「カラーミーショップ」)と、ハンドメイド作品のオンラインマーケット「minne byGMOペパボ」においては以前から「Amazon Pay」を導入しており、両サービスで高い成果を収めていたことから、「SUZURI」でも導入を決めた。
「Amazon Pay」の実装改善で会員登録~初回購入までのフローが11ステップから3ステップに短縮。ログイン連携と商品詳細ページにボタンを設置
「SUZURI」のブラウザで商品を購入する際はゲスト購入が可能だが、アプリで商品を購入する際は会員登録が必須。そのため「SUZURI」のアプリは、初回購入者が買い物を完了するまでに、会員登録画面への遷移やメールによるリダイレクトなどで11ステップも要していた。アプリ会員を増やしたいにもかかわらず、この購入ステップの多さが、購入の大きなハードルになっていたという。
この課題の解決に向けて2024年5~6月、会員登録や会員ログインの簡素化と購入フローの短縮を実現するために、「Amazon Pay」での決済と同時に「Amazon Pay」を使った新規会員登録、会員ログインもできるようにした。
特に初回購入ユーザーの購入フローが11ステップあったアプリでは、メールを介した会員登録が不要となったことで3ステップに短縮。結果的に顧客体験の向上に大きく寄与し、会員登録数は増加しているという。
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アプリでのフローの主な改善イメージ(上部が「Amazon Pay」実装改善後。画像ではフローが改善した部分を主に表示)
加えて、アプリでは商品詳細ページにも「Amazon Pay」のボタンを設置。「SUZURI」のように一点買いの多いサイトの場合、コンバージョン率を高める効果が実績として表れているという。
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商品詳細ページでの「Amazon Pay」導入前後のイメージ。「Amazon Pay」ボタンの視認性が高い
会員登録したユーザーの約4割が「Amazon Pay」経由に
「Amazon Pay」を活用したログイン連携や、アプリでの商品詳細ページ上に「Amazon Pay」ボタンを設置した「SUZURI」。こうした顧客体験改善の後、「Amazon Pay」の決済比率はさらに拡大し、「SUZURI」でもっとも利用される決済手段となった。
「Amazon Pay」の決済機能だけを導入した直後の2023年3月は、全決済手段のうち約20%の利用比率で、それでも高いシェアに驚いたというが、顧客体験改善を経た現在(2024年10月時点)は約30%に達している。また、アプリの商品詳細ページから購入確定した割合(購入CVR)は10%近い数値で推移(2024年5月11日~6月7日)。このうち「Amazon Pay」経由が3割を占めているという。
「Amazon Pay」による顧客体験の改善により、会員登録率も向上した。Webとアプリを合計した訪問者に対する会員登録率を見ると、2023年1~8月中が0.93%だったのに対し、2024年の同期間では1.43%に伸長。アプリだけで計測した場合に至っては、2023年1~8月中の9.54%から11.07%にまで増加した。
加えて、会員登録したユーザーのうち、「Amazon Pay」経由の割合は2024年6~10月の期間で37%という高水準。「SUZURI」では「Amazon Pay」のほかに、Google、Apple、XなどのIDで会員登録や会員ログインができるようにしているが、「Amazon Pay」以外のID経由のログイン数が減ることなく「Amazon Pay」が伸長している。
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IDサービス経由の新規会員登録者の内訳
「Amazon Pay」が導入されることで「その後の購入も安心かつ簡単に行える」という認知を獲得でき、サービスの利用、ひいては購入の後押しになることが、他のソーシャルログインと比べた際の強みだと思う。
強みを生かすために、できるだけサービス利用の早い段階でユーザーが気がつけるよう「Amazon Pay」ボタンの視認性を高められたこと、「Amazon Pay」自体がもともと広く使われているサービスということが相まって、利用者数やコンバージョンに成果が表れたと思う。(白石氏)
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マーケットプレイスチーム 白石翼氏
「Amazon Pay」による会員登録のしやすさも寄与し、「SUZURI」全体で見ると、従来通りの会員登録数の増加に加えて、1日に約200件の会員登録数が上乗せで増加している。上乗せの分は、「Amazon Pay」の効果が大いに出ていると見ている。これにより、売上アップにもつながった。
「Amazon Pay」経由以外の新規会員も含まれるものの、会員登録が必要なサービスでは登録から購入までのフローを簡潔にする重要性が改めてわかったという。
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新規会員登録などでは、IDサービスのなかで「Amazon Pay」の視認性を高めている
まずは訪問者数の多いWeb側の「SUZURI」で会員登録を促し、そのうちのコアユーザーがよりユーザビリティの高いアプリを利用するようになってから、ファンをどんどん醸成していこうとする狙い通り、順調にファン化が進んでいるという。
「SUZURI」は、アプリにおいては会員登録をしないと購入できない仕様だが、「Amazon Pay」とのログイン連携によって、チェックボックスで会員登録の同意を得るものの、体験としてはゲスト購入のような簡潔なステップで会員登録と購入完了ができるようになった。これにより明らかに顧客体験が向上、会員数も一気に増加した。
これは、自分がユーザーであっても大事なポイントだと感じる。また、「Amazon Pay」のブランド力も魅力の1つ。初めて使うECサイトで個人情報を入力する際の不安はすごく共感でき、「Amazon Pay」があることで安心して購入できた人は多いと実感している。このような複数の要因で、「Amazon Pay」の利用比率が高まっているのだろう。(長峰氏)
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会員未登録ユーザーが商品購入と同時に会員登録する場合の画面遷移
ログイン連携で離脱率が改善。利便性が競合サービスとの差別化につながる
「SUZURI」が感じる「Amazon Pay」の魅力について、SUZURI事業部の3人は①UI/UXの向上②競合との差別化③購入完了までのハードルの低減――の3点をあげる。
1点目のUI/UXの向上は、「Amazon Pay」で決済をすれば、個人情報の入力が必要ないまま、短い購入ステップでスムーズに購入できることを指している。
「Amazon Pay」導入前は、たとえば配送先のマンション名や部屋番号の書き忘れや入力ミスなどが珍しくなかった。その点、サービスの利用頻度が高いAmazonアカウントに登録されている情報は最新かつ正しいことが多く、「Amazon Pay」で決済する購入者による配送先不明はほぼ発生していない。購入者と「SUZURI」の双方にとってメリットが大きいという。
2点目の差別化については、「SUZURI」のようなオンデマンド物販サービスを展開する競合他社のなかで、Amazonアカウントと簡単に会員連携できることは「SUZURI」の優位性につながっているという。最後の3点目においても、購入ステップが短縮したことにより、特にアプリの離脱率で大きな改善効果を得ているようだ。
充実したサポートと開発資料で、実装完了までスムーズだった
「Amazon Pay」のアカウント連携の実装スケジュールは、2024年3月に打ち合わせを始めた後、4月から開発を始め、5月にはWebを、6月にはアプリをリリースした。Amazonのサポートが充実しており、当初の予定どおりスピーディーかつスムーズな進捗(しんちょく)が可能だったと中島氏は振り返る。コスト面は開発に2人月程度、開発以外で1人月程度の費用に収まったという。
「Amazon Pay」で事例や対応方法を紹介するドキュメントが用意されており、そのとおりに進めたような形だった。
また、プロジェクト管理ツールを使って「Amazon Pay」のシステム担当者と直接やり取りできるようにしていただいただけでなく、テキストでのコミュニケーションでは複雑になりそうな場合には、Amazon側からすぐにミーティングの声がけをいただいた。手厚いサポートによって課題を随時解決しながらスケジュールどおり進められたので、とてもありがたく思っている。(中島氏)
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マーケットプレイスチーム エンジニア 中島聖巴氏
今後も「Web接客型Amazon Pay」などの機能拡張に意欲を示す
「Amazon Pay」のさまざまな機能を先行して活用している「カラーミーショップ」の事例から、「SUZURI」でも今後さらに機能を追加していきたいという。
その1つが、「Web接客型Amazon Pay」だ。たとえばほかの決済手段でカート後のフローに進んでいたユーザーが、配送先の入力画面などで一定時間入力作業が進んでいない場合に、ユーザーを自然にサポートする形でポップアップウィンドウを表示し、煩雑な情報の入力が不要な「Amazon Pay」の利用を提案する機能である。
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「Web接客型Amazon Pay」の注文フロー
「Web接客型Amazon Pay」は、何秒入力がなければポップアップウィンドウを表示するかなどの設定が、導入各社で調整可能。情報を入力している段階のユーザーの離脱防止と売り上げの底上げになる効果があり、「カラーミーショップ」を利用するEC事業者からも好評を得ているようだ。
「SUZURI」はこのほか、アプリで商品詳細ページに設置した「Amazon Pay」ボタンがコンバージョンに効果を発揮していることから、同様の実装をWebでも検討しているという。
物販もデジタルの創作物も。クリエイターの活動を応援するプラットフォームへ
現時点での「SUZURI」は、物販のグッズ販売が収益の主な柱だが、一方で、3D作品や音声ファイル、モーショングラフィックスのテンプレートといった、デジタルコンテンツの創作物を販売するクリエイターも増えてきている。
「SUZURI」内の一機能として、クリエイターが有償でオリジナルのイラストや似顔絵などのリクエストをユーザーから募集できるコミッションサービス「SUZURIコミッション」も開始。募集人数1名から可能で、販売金額は1,000円~5万円、納品時期は最大60日後までの間でクリエイター自身が調整できるなど、クリエイターのチャレンジを後押しする環境がそろっている。
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「SUZURI」で展開している「SUZURIコミッション」
今後はデジタルコンテンツの販売や「SUZURIコミッション」の領域でも、クリエイターとユーザーの利便性強化を図っていきたいという。
「SUZURIコミッション」においても、今後は「Amazon Pay」を利用できるようにしたいと考えている。クリエイターの活動を物販に限らず応援するプラットフォームとして、顧客体験の向上とクリエイターに喜ばれる機能の拡張に引き続き努めていく。(長峰氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:新規会員数が1日あたり200件ベースで増加、売上にも大きなインパクト。CVRが最大10%増となったオリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI」の買い物体験改善事例
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