コロナ禍によって大きく見直されたのが“リアル”の価値。「手に取ってみたい」「試したい」など、リアルでしか提供できないその価値に改めて気付いた消費者は少なくありません。事業者側も同様です。COUNTERWORKSがマーケティング・宣伝・広報担当者に対して実施した「ポップアップストアに関する実態調査」では、2024年に強化したいマーケティング施策として「ポップアップストア」が3位にランクイン。リアルでのマーケティング活動に関する注目度の高さがうかがえます。
本記事では、ポップアップストア業種内で一定の割合を占める「食物販」に着目。メリットや出店費用、費用対効果など、「食物販」のポップストアを解説していきます。
食物販でポップアップストアを開催する目的
そもそも「食物販」とは、食品の販売を指します。レストランやカフェといった食事がメインの業態は「飲食店」、その場での調理を伴わず、個包装された食品を販売する場合は「食物販」と分類されているケースが多いです。
ただし、「食物販」であってもフード・ドリンクの試食・試飲を提供する場合は「飲食店の営業」に該当するケースがあることには注意が必要です。
また、期間限定のポップアップストアでも食品を販売する場合には食品営業許可の取得が義務付けられています。
そのような食物販でポップアップストアを実施するメリットは、以下の3つがあげられます。
- SNS経由の認知拡大
- 次回出店エリアや実店舗展開のテストマーケティングに
- 繁忙期や新商品販売時の拡販アプローチ
それぞれ解説しますので、詳しくみていきましょう。
1. SNS経由の認知拡大
比較的リーズナブルな価格で1個から購入できるケースの多い食物販は、購入者が自身の思い出作りの一環として、購入商品をInstagramやTikTokに投稿するケースが自然発生しやすいカテゴリーです。販売ブランドのアカウントタグ付けや新規フォローでトッピング無料や割引といったコンテンツを準備することで、出店効果を最大化できます。
2. 次回出店エリアや実店舗展開のテストマーケティングに
コロナ禍を経て、食物販においても自社ECサイトで商品を消費者に直接販売する「D2C」を採用するインターネット発のブランドが増えています。一方で日本国内におけるEC化率は10%にも満たず、ほとんどのブランドが実店舗出店、また店舗数の拡大を検討しています。
上記の出店過程において、自社ブランドに合う顧客やエリアをリサーチするためにいくつかのエリアで数日間のポップアップストア出店を実施し、本格的な実店舗展開などに向けた予測精度を高めることができます。
3. 繁忙期や新商品販売時の拡販アプローチ
食物販は季節イベントやマスメディア・SNSによる反響で需要が突発的に激増するシーンが見られます。そういった機会を最大化する目的で、自店舗の近隣でのサテライトショップの設置、通常オンラインのみのD2C食品ブランドが、たとえばクリスマスなどの繁忙期に数日間限定のポップアップストアを開催といった拡販手段として、ポップアップストアは有効です。
初出店におすすめのスペースタイプ
食物販の初出店においては、以下のスペースタイプが適しています。
マルシェ
マルシェとはフランス語で「市場」を意味する言葉で、個人単位(またはそれに近い規模の業者)が人通りの多い場所に集まって出店した集合体を指します。
多くの人々が集まる場所に、決まった日時で開催される形式でコンビニや商業施設などでは購入することが難しい産地直送素材やオーガニックな生鮮食品、1点モノのアイテム、思わぬ掘り出し物などの希少な商品を発見できます。その独自性によって、消費者にとっては足を運ぶたびに新鮮で珍しい体験が期待できる場として人気を集めています。
出店者目線では、手頃な金額の出店料のほか、イベントによりますが什器の貸出も対応しているマルシェイベントもあり、準備コストを最小限にしてポップアップストア出店にチャレンジできる利点があります。
マルシェでは消費者とのダイレクトな交流が生まれ、商品の魅力をたっぷりと伝えられたり、消費者のニーズをヒアリングできたり、新規顧客を開拓できたりと、事業に生かせる点がたくさんあります。
こうした交流は消費者にとっても嬉しいポイントとなっています。生産者の顔を見られる上、どのように商品が作られたのかも聞けるので安心して購入できたり、食材であれば調理のコツを聞けたりと、安心感やプラスアルファの情報を得られる機会にもなるのです。
さらに、ほかの出品者との交流が生まれ、情報交換やコラボレーションにつながることもあります。
オフィスビル
「オフィスビル」は、事務所・業務に使用される用途の建物部分が多く占める建物のことを指します。商業地区やビジネス地区などに位置していることが一般的です。
オフィスビル内では、ロビーエントランスをはじめとして、エレベーター前やエスカレーター横の人流が発生するちょっとした遊休スペースでポップアップストア出店が可能です。
気分転換で通常とは異なるお菓子、コーヒー、紅茶などの嗜好品を欲しているオフィスワーカーにとって、遠出せずとも非日常シーンを演出できるアイテムと出会えるのがオフィスビル内のポップアップストアの特徴です。
上記に加え、オフィスビル内では入社や昇進祝い、退職時の労い等、様々な歓送迎のシーンがあり、プチギフトの需要があるほか、取引先への手土産として地方特産品やトレンドアイテムを購入される需要もあります。
毎週火曜日に〇〇屋さんが出店するので出社する、といったアンケート結果が寄せられているオフィスビルもあり、ブランドのファン作りにも効果が見られます。
また、オフィスビルのピークタイムは主にランチタイム(11時~13時)と退勤時間帯(17時~19時)に二分されるため、該当時間帯に2人体制にする、商品のタイムセールを実施するなどの調整がしやすく、出店費用以外の見えない出店コストの削減にもつなげることが可能です。
出店費用はどのくらい? 費用対効果は?
食物販に最適なスペースタイプをご紹介しましたが、気になる出店費用はいくらくらい掛かるのでしょうか? タイプ別にいくつかピックアップしてみます。
マルシェ
出店費用の相場:1万円〜1万5000円
出店効果:マルシェは駅直結施設や駅周辺でイベント開催されることが多いため、通行客はもちろん、SNSで事前告知することで、既存顧客の来場を促すことも可能です。また、来場者との距離感が近いイベントであることも特徴であり、来場者から商品に関する質問が積極的に飛んできます。その他、出店者同士の交流によって、出店場所やノウハウの共有も実施できるメリットもあるようです。
オフィスビル
出店費用の相場:5000円〜2万円
出店効果:オフィスビルは、イベントや商品の口コミ効果の波及が期待できます。購入された商品が営業先への手土産となったり、オフィスに持ち帰って食べたり、利用するシーンを他のオフィス内メンバーが見るといったシーンにおいて、購入客1人1人を通じた小さなプロダクトプレースメントにつながるとも言えます。出店費用も商業施設と比較してリーズナブルな設定であるため、毎週〇曜日に出店する、といった一定の頻度を意識した継続出店でコアなファンを作り出すスペースとして有効活用できます。
出店までに必要な準備
食物販イベント実施にあたって、各市町村区の管轄保健所への営業許可に関する問い合わせ・申請が必要です。
イベント来店者に無料でコーヒーを提供するなど商用目的でない飲食物提供の場合は許可申請を必要としないケースも多いですが、市町村区ごとの管轄保健所で方針やルールが異なるため、電話でイベント概要と提供したい内容を伝え、適切な対応に向けた情報収集はすべきです。
また、利用したいスペース別に必要な手続きが異なります。大型商業施設では営業許可、本人確認書類、イベント実施履歴(写真)に加え、PL保険の加入や検便検査結果報告書の提出も必要となるケースもあります。
結果が出るまでに時間を要する検査もあるため、1か月前には出店希望スペースの必要書類を把握し、準備をしておくことを推奨します。
- 本人確認書類
- 法人の場合
- 登記簿謄本・営業許可書・印鑑証明書等の公的書類の写し
- 個人の場合
- 優先順位の高い順に、以下いずれか1点の写し
- 開業届・マイナンバーカード・免許証・健康保険証等の写し
- イベント実施履歴
- 営業許可証
- 「菓子製造業許可」「みそ又はしょうゆ製造業許可」「酒類製造業許可」「あん類製造業許可」など
- PL保険(生産物賠償責任保険)
- 検便検査結果報告書(開催日起算で〇か月以内まで)
事例の紹介
食物販のポップアップストア活用事例として、“みんなの故郷「白馬」をつくる”をミッションに掲げ、長野県や東京都を中心に自社醸造のクラフトビール「HAKUBA CRAFT」を展開するrethを事例として紹介します。
商材:クラフトビール
主な販売チャネル:自社EC、卸販売(長野県内、東京都内の小売店、飲食店、宿泊施設)
ポップアップストア出店を検討したきっかけ:自社商品の認知拡大
事例のポイント
- 初めての出店は自社商品のターゲットが多いマルシェイベントで開催
- 季節限定商品や新商品のプロモーションにポップアップストア出店を活用
- 常設出店に向けたエリアマーケティングを兼ねた複数出店
rethは自社の醸造拠点である長野県栂池高原に位置する「HAKUBA BEER GARAGE」で飲食提供を実施しているものの、今後のさらなる事業発展のためにポップアップストア出店を検討し始めました。
まずは、長野県内のビール祭りやサマーフェスティバル、マルシェといった集合出店スタイルのイベントに参加しながら、自社の商品がどんな顧客層に人気なのか、どのように手に取られるかといった顧客理解を深めていきました。
ポップアップストア出店にチャレンジするなかで予想外だったのは2点。1点目は食品衛生法に沿った営業所申請や届け出が想定より実務的なコストが少なかったこと。5日以内の臨時営業である場合は、一般営業施設(固定店舗)許可の手続きと異なり、臨時出店届出で対応可能だった点もあり、スペース選定や商品展開に関するアイデアの検討に時間を投下することができました。
2点目は、デパ地下や駅ナカといった人気の食物販スペースの出店ハードルや競争率が高いという点です。来店数も多く、認知度も高いスペースほど人気の出店スペースとなりますが、多くの商業施設では出店経験の有無、商品展開のイメージが出店申込時に必要とされており、初出店のフェーズではハードルが高いことを学びました。
上記のような経験を重ね、ポップアップストア出店の目的を明確化できました。季節限定商品や新商品は、海外観光客向けに英語の商品説明POPがあるだけで試飲がなくとも購入されることが多かったのは、試飲ありきで出店条件を想定していたのとギャップがありました。
今後は東京都内で2年以内に常設店舗をオープンすることを目標に、都内で有力な出店エリアを模索するポップアップストアを定期開催していく予定です。
まとめ
本記事では、食物販のポップアップストア展開における解説をしました。
ポップアップストアは実店舗展開のチャネルとしてリーズナブルな手法ですが、出店目的や経験に沿って、出店スペースを選定し、適切な出店経験を重ねていくことで効果を最大化できます。
出店費用や必要な手続きに加えて、何のためにポップアップストアの出店をしたいのか、ぜひ考えるきっかけとしていただければ幸いです。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:食物販のポップアップストア、費用対効果はどうなの? コストはどの程度かかる? 出店の基礎情報から事例を徹底解説 | その道のプロが解説するポップアップストア出店の“いろは”
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