「新しい販促施策をしたいけれど予算がない」。こんな時に活用できるのが「小規模事業者持続化補助金」です。販売促進に関わる費用が広く対象となる一方で、WebやECサイト制作のみの申請、パソコンの購入には利用できないなど、EC事業者には気をつけたいポイントもあります。自社申請のポイントも含めて概要をお伝えします。
※本記事は、2024年2月10日時点の情報です。最新の情報は「小規模事業者持続化補助金」の公式ホームページを確認してください。
目次
- 小規模事業者持続化補助金とは
- 最近の主なアップデート
- 「ウェブサイト関連費」の上限が1/4に
- 「専門家謝金」「専門家旅費 」の廃止(第12回)
- 「雑役務費」の廃止(第15回)
- 自社で申請書を作成する場合のコツ
- 1. 自社の経営状況分析の妥当性
- 2. 経営方針・目標と今後のプランの適切性
- 3. 補助事業計画の有効性
- 4. 積算の透明性・適切性
- 加点・減点
- 留意点
- 商工会・商工会議所で発行する書類があるため早めに
- 使った後で振り込まれるため自己資金は必要
- 補助対象期間のみが補助対象
小規模事業者持続化補助金とは
ECサイト運営事業者が申請できる補助金はいくつかあります。経済産業省は、「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」などを、通年で募集する補助金として設けています。
そのなかでも、小規模事業者持続化補助金は、補助上限額は50~250万円と先にあげた補助金の中では少額であるものの、対象となる経費の用途が広く、ECに関する業務の範囲と重なるところが多い補助金です。
つまり、補助金の活用により、販促施策を大きく前進させることができます。まずは概要をざっくりつかんでみましょう。
補助対象者
「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」に定義された「小規模事業者」です。
- 商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く)……常時使用する従業員の数 5人以下
- サービス業のうち宿泊業・娯楽業&……常時使用する従業員の数 20人以下
- 製造業その他……常時使用する従業員の数 20人以下
個人事業主は対象になりますが、医師、歯科医師、助産師は対象にならないなど、範囲も定められています。詳細は公式サイトで公開されている公募要領を確認してみましょう。
補助対象者の範囲(画像は
公募要領からキャプチャ)
公募要領は、本補助金のルールブックのような存在です。募集回ごとに、少しずつ変更がありますので、判断に迷ったときや、詳細を確認したいときは、第三者の情報を鵜呑みにせずに、まずは公募要領を確認することをお薦めします。
補助率、補助上限
使った費用の全額が補助されるわけではありません。補助される割合を補助率、補助される金額の上限を補助上限と言います。多くの事業者が当てはまる「通常枠」では、補助率2/3、上限50万円ですから、75万円を使う計画を立て、75万円を使うとそのうち50万円が補助金として手元に戻ってくるものです。
※すべての枠(類型)で、インボイス特例の要件を満たす場合は、補助上限額に50万円を上乗せ
多くの企業は「通常枠」で申請することになります。しかし、国の施策を推進するためにいくつかの特別枠(類型)が設けられており、通常枠より補助金額が優遇されています。たとえば、賃上げを計画している事業者は、賃金引上げ枠に該当する可能性があります。公募要領をもとに、経営者や関係部署に該当するものがないか確認してみましょう。
対象経費
小規模事業者持続化補助金では、具体的に以下の経費が、補助の対象になります。以下、第15回の公募要領から抜粋し、一部わかりやすく表現を変更しました。EC担当者の皆さんにおいては、イメージのつきやすい経費が多いことでしょう。
経費区分 概要 対象となる経費例(抜粋) 広報費 パンフレット・ポスター・チラシ等を作成および広報媒体等を活用するために支払われる経費
- チラシ・カタログの外注や発送
- 新聞・雑誌等への商品・サービスの広告
- 看板作成・設置
- 試供品(販売用商品と明確に異なるものである場合のみ)
- 販促品(商品・サービスの宣伝広告が掲載されている場合のみ)
- 郵送によるDMの発送
ウェブサイト関連費 販路開拓等を行うためのウェブサイトや EC サイト、システム(オフライン含む)等の開発、構築、更新、改 修、運用をするために要する経費
- 商品販売のためのウェブサイト作成や更新
- インターネットを介したDMの発送
- インターネット広告
- バナー広告の実施
- 効果や作業内容が明確なウェブサイトのSEO対策
- 商品販売のための動画作成
- システム開発に係る経費(インターネットを活用するシステム、スマートフォン用のアプリケーション、業務効率化のためのソフトウェア、システム構築など)
- SNSに係る経費
展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談会等を含む) 新商品等を展示会等に出展または商談会に参加するために要する経費
- 展示会出展の出展料等
- 関連する運搬費(レンタカー代、ガソリン代、駐車場代等は除く)
- 通訳料・翻訳料
旅費 補助事業計画(様式2)に基づく販路開拓(展示会等の会場との往復を含む。)等を行うための旅費
- 展示会への出展や、新商品生産のために必要な原材料調達の調査等に係る、宿泊施設への宿泊代
- バス運賃・電車賃・新幹線料金(指定席購入含む)・航空券代(燃油サーチャージ含む。エコノミークラス分の料金までが補助対象)、航空保険料、出入国税
新商品開発費 新商品の試作品や包装パッケージの試作開発にともなう原材料、設計、デザイン、製造、改良、加工するために支払われる経費
- 新製品・商品の試作開発用の原材料の購入
- 新たな包装パッケージに係るデザイン費用
委託・外注費 販路開拓等の取り組み(以下「補助事業」)の遂行に必要な業務の一部を第三者に委託(委任)・外注するために支払われる経費(自ら実行することが困難な業務に限ります。)
- 店舗改装・バリアフリー化工事
- 利用客向けトイレの改装工事
- 製造・生産強化のためのガス・水道・排気工事
- 移動販売等を目的とした車の内装・改造工事
- (補助事業計画の「Ⅰ.補助事業の内容」の「3. 業務効率化(生産性向上)の取組内容」に記載した場合に限り)従 業員の作業導線改善のための従業員作業スペースの改装工事
- インボイス制度対応のための取引先の維持・拡大に向けた専門家(税理士、公認会計士、中小企業診断士等)への相談費用
上記の他、以下の経費区分が設けられ、販路開拓等の取り組みを、広く補助対象としています。
- 機械装置等費:例)顧客管理ソフトウェア、試作のための3Dプリンター(通常のプリンターは不可)
- 資料購入費:例)販路開拓等の取り組みに不可欠な図書等
- 借料:例)補助事業を実行するために借り入れた機器・設備のリース料・レンタル料
- 設備処分費:例)補助事業実施にあたり作業スペースを確保するために発生した廃棄・処分費用
「これも対象になるの?」と疑問に感じた場合は、公募要領を確認しましょう。「対象とならない経費例」についても記載があります。販路開拓等のプランの全体像を練る前に一読をお勧めします。
最近の主なアップデート
小規模事業者持続化補助金は公募を重ねるごとに小さな変更点が発生しています。大きなアップデートがあったのは第8回(2022年6月締切り)。最新の第15回の情報をもとに、『ネットショップ担当者フォーラム』で掲載された記事(2020年5月)からの変更点を確認してみます。
「ウェブサイト関連費」の上限が1/4に
ウェブサイト関連費という新たな経費区分が追加されました。これはホームページ制作などに関連する費用で、以前は広報費の中に含まれていましたが、第8回以降、独立した経費区分となりました。
EC事業者に重要なのが、ウェブサイト関連費には補助金交付申請額の4分の1を上限とする制限が設けられた点。ウェブサイト関連費には、商品販売のためのウェブサイト作成・更新費用、インターネットを介したダイレクトメール発送費用、インターネット広告費(Facebook、Instagram、Googleなど)が含まれます。すなわち、補助上限50万円の一般枠では、Webマーケティング関連の補助上限は12.5万円、その他に新商品開発やオフライン施策を申請に含める必要があるということです。
前項の「対象経費」も参考に、視野を広げてみましょう。補助金のスケジュールを踏まえて商品開発をしていく、施策をオムニチャネルで計画する、などとうまく補助金を使った計画が描いてください。
「専門家謝金」「専門家旅費」の廃止
専門家謝金と専門家旅費という経費区分が第12回から廃止されました。これにより、コンサルタントなどの専門家に対する謝金や旅費が認められなくなりました(インボイス対応の相談費用を除く)。
小規模事業者では専任担当が不在のことが多く、プロモーションに関連し、SEO対策、SNS運用、Webマーケティングの全体設計、プレスリリースの添削などの専門領域でコンサルタントに依頼することもあるでしょう。これらの経費は対象外である点に注意したいです。
「雑役務費」の廃止
雑役務費は、補助事業計画に基づいた販路開拓を行うために臨時的に雇い入れた者のアルバイト代、派遣労働者の派遣料、交通費として支払われる経費として設けられていた区分です。これが第15回から廃止となりました。
たとえば、プロモーションに関連して展示会出展時のブース出展の手伝い、パンフレット制作におけるモデル役、チラシ配布のためにアルバイトをお願いするといった費用は対象外になりました。
自社で申請書を作成する場合のコツ
本補助金は審査があるため、専門家に代行をお願いする事業者も多いのですが、EC事業者の皆さまには、自社で申請書を書くことをお勧めします。審査といっても、ビジネスコンテストのように数社が選ばれる類のものではなく、事業計画の内容の適切性を審査し、総合的な評価が高い順に採択されるものです。コロナ禍以降、採択率が最も低かった一般型第4回でも約44%、7128件が採択されています。
審査では、「様式2」で記載する<経営計画>と<補助事業計画>の内容が肝になります。主に記載する項目は、日頃、ネット担当者の方がお考えの、新商品の販促やキャンペーンの企画書の項目と似通っているのです。ここでは、公募要領にある「審査の観点」をもとに、ポイントを解説します。
1. 自社の経営状況分析の妥当性
会社の経営状況や、自社の、また商品やサービスの強みを把握しているかをチェックします。経営状況というと難しい印象がありますが、様式2の各欄に「1.企業概要」「2.顧客ニーズと市場の動向」「3.自社や自社の提供する商品・サービスの強み」など、記載すべき項目が指定されていますので、参考にしながら、具体的かつ客観的な情報を記載します。
様式2は、Wordの申請書ですが、必要に応じて、写真、グラフ画像を貼り付けても構いません。本補助金にプレゼンテーションの機会はありませんから、書面だけで見やすい計画書の作成を心がけます。
様式2の「経営計画」に関する記入欄(画像は
公募要領からキャプチャ)
2. 経営方針・目標と今後のプランの適切性
経営方針・目標と今後のプランが、自社の強みや対象とする市場(商圏)の特性を踏まえているかをチェックします。<経営計画>の「4.経営方針・目標と今後のプラン」が、様式2の各欄1~3で記載した内容と整合性があるか確認しましょう。
たとえば、右肩下がりの市場にもかかわらず、根拠なく、「3年後に売り上げを2倍にする」という目標を掲げても、審査員の納得感は薄いでしょう。様式2の各欄1~3の中で、「自社商品に関連し、●●の観点でブームがきており、当社ホームページのPV数が前年比4倍となっている」「●●には、パートナー会社にノウハウがある」などと実現可能性に触れておき、「パートナー会社と提携し、●●の市場に商品を打ち出すことで、3年後に売上を2倍にする」など、1~3が根拠となっている、つまり、客観的に見て一貫性があることが望ましいでしょう。
3. 補助事業計画の有効性
補助事業計画において、具体的で実現可能性が高いか、経営計画の今後の方針・目標と整合性がとれているか、創意工夫があるか、ITを活用しているかを審査します。
この補助金は、2つ計画を記載する様式ですが、「<経営計画>」は会社全体の中長期計画を、「<補助事業計画>」はそれを達成するための今回申請する補助金の使い道となる販促施策のプランを記載すると、申請書がすっきりとまとまります。
様式2の「補助事業画」に関する記入欄(画像は
公募要領からキャプチャ)
「1.補助事業で行う事業名」は計画(施策)のタイトルは、「2.販路開拓等(生産性向上)の取組内容」に具体的な計画を記載します。
計画は、新商品の販促やキャンペーンの企画書をイメージしながら書いてみましょう。5W3Hの観点で具体的に、かつ専門用語を使わずに記載していきます。背景と目的、ターゲット、取り組みの内容、実施期間、体制、プロモーション方法、予算、成果測定方法などの項目が考えられるでしょう。また、ITの活用も審査基準に含まれます。
EC事業者の皆さまであれば、販売促進施策を実施するときに、告知のためにSNSを使う、効果測定のためにGoogleフォームを使いアンケートを行う、GoogleアナリティクスでPV数を見るなど、日常的にITを利用しているでしょう。申請する費用でなくても、関連するITの施策や業務は記載しておくことが重要です。
また、「4.補助事業の効果」欄には、「販路開拓等の取組や業務効率化の取組を通じて、どのように生産性向上につながるのかを必ず説明してください。」と丁寧な記載があります。ここで指している「生産性向上」は業務効率化に限りません。
「利益の向上」と読み替えると理解しやすいでしょう。つまり、「(業務効率化による)コスト削減」や「(販路開拓等による)売上増加」を数値で示します。目標を「客数」×「客単価」で分解する、KPIを使った計画を立てるなどは、EC事業者の得意とするところです。因果関係を示した上で、具体的に数値で記載するのがポイントです。
4. 積算の透明・適切性
様式3「補助事業計画書2【経費明細表・資金調達方法】」が、補助事業計画との整合性があるか、費用の計算が正しいかを審査します。補助事業計画で触れていなかった費用を入れ込むのは控えましょう。
様式3の「補助事業計画書2【経費明細表・資金調達方法】」に関する記入欄(画像は
公募要領からキャプチャ)
加点・減点
審査の観点とは別に、要件に当てはまっていれば、一律に加点する項目、減点する項目があります。たとえば、「パワーアップ型加点」の「地域資源型」は、地域資源等を活用し、良いモノ・サービスを高く提供し、付加価値向上を図るため、地域外への販売や新規事業の立ち上げを行う計画に加点を行うものです。
たとえば、事業所がある地域の資源を活用した商品を、広くネット販売する計画であれば、加点が認められる可能性があります。また、郵送で提出すると減点がなされます。この加点、減点の項目は、募集回によって変わる可能性が高く、毎回、公募要領を確認するのが望ましいでしょう。
様式2の「補助事業画」にある「経営計画書兼補助事業計画書
」の「2.パワーアップ型加点」に関する記入欄(画像は
公募要領からキャプチャ)
留意点
EC業務と相性が良い小規模事業者持続化補助金ですが、留意点もあります。
1. 商工会・商工会議所で発行する書類があるため早めに
自社で計画を策定し、申請書を書いたからといって、すぐに提出できるわけではありません。計画を策定した後、商工会・商工会議所で確認を行い「事業支援計画書(様式4)」を発行してもらう必要があります。原則、締め切りの1週間前に設定されています。商工会・商工会議所の会員である必要はなく、すべての事業者が必要となる書類です。商工会・商工会議所によっては、会員でなくても計画についてアドバイスを受けられる場合もあります。申請を決めたら、早めに問い合わせてみましょう。
2. 使った後で振り込まれるため自己資金は必要
補助金は、お金を使った後で振り込まれるため、一旦は、自社で資金調達をしなければなりません。仮に手元にお金がない場合、金融機関によっては、「つなぎ融資」を受けられるケースがあります。「つなぎ融資」とは、補助金が採択されてからお金が振り込まれるまでの間、短期的な融資を受け、振り込まれた補助金で返済するものです。経理担当者から、日頃付き合いのある金融機関に問い合わせてもらいましょう。
3. 補助対象期間のみが補助対象
募集回ごとに補助対象期間が定められており、これ以外の期間にかかった費用は対象外となります。たとえば、採択後に制作したパンフレットのうち期間内に配りきれなかった分や、採択後にネット広告の配信を始め、期間が過ぎて配信してしまった分などが考えられます。通例、補助期間は数ヶ月であるため、この規模感で計画を立てましょう。
まとめ
ネット担当者の業務と相性のよい小規模事業者持続化補助金。予算上、これまで諦めていた販促企画も、検討しやすくなるのではないでしょうか。現在、ウェブサイト関連費は1/4の制限がありますが、これを逆手に取り、オムニチャネルや新商品開発にもチャレンジし、ネット担当者としての経験値を高める機会としてはいかがでしょうか。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:自分で申請できる! EC担当者が知るべき小規模事業者持続化補助金とは?
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