デジタル技術の取り込みが遅れがちだった中小企業において、法人間の仕入や資材販売などをインターネット上で行うBtoB-ECの普及が進んでいる。このBtoB-ECは、生産性や業務効率の向上だけでなく、「インボイス制度」「電子帳簿保存法」といった新制度にも関わりがある。
Daiの鵜飼智史 取締役COOが「ネットショップ担当者フォーラム2023夏 BtoB-EC Days」で、BtoB-ECのメリット、インボイス制度や電帳法への対応について解説した。
なぜ今、BtoB-ECへの注目が高まっているのか?
BtoBの受発注業務をEC化するクラウドサービス「Bカート」を提供するDaiでCOOを務め、国内のBtoB-EC事情に精通している鵜飼氏によると、ECの存在感の高まりはBtoCの世界だけでなく、コロナ禍を経た今はBtoBの世界にも及んでいるという。
「Bカート」のサービス提供を開始したのが2012年。当初はお客さまからの反響は大きくはなかったが、2017年頃から伸び始めた。そして2020年からのコロナ禍で、BtoBでもデジタル化の気運が一気に高まった。(鵜飼氏)
Dai 取締役COOの鵜飼智史氏
そもそもBtoBはBtoCに比べて市場規模が圧倒的に大きく、EC化率も極めて高い。経済産業省の発表によると、2022年のBtoB-EC市場規模は約420兆円で、BtoB-ECの18.5倍にもなる数字だ。またEC化率はBtoBが37.5%に対しBtoCは9.13%で、4.1倍という大きな開きがある。
BtoBとBtoCの市場規模とEC化率
こうした状況が生まれるのは、大手メーカー間の専用のシステムがカウントされるのが一因であり、ここ数年で顕著になった傾向ではない。一方で、「Bカート」のような中小企業向けのBtoB-ECプラットフォームサービスが伸びている事実もある。
中小口取引のデジタル化に大きなメリット
鵜飼氏は、中小口のBtoB取引におけるEC転換がここ数年で一気に進展した可能性を指摘する。小売店が地域商社や中小規模の卸店から商品を仕入れるというような中小口取引の一連のフローでは、関連企業が多くても流通額自体は少なく、積極的に取引をデジタル化しようという企業は多くなかった。
しかし、コロナ禍の行動制限や人手不足などを受け、こうした中小規模の卸売業者などが、EC導入をはじめとするデジタル化に動き、中小口取引のEC転換が一気に進展したのではないかと鵜飼氏は分析する。
中小口のBtoB取引におけるEC化が急速に進展している
以下の図は、BtoBの各工程における具体的な業務の一例である。上段が従来の業務、中段がEC導入後の業務を示す。
BtoB-ECの業務プロセス
従来はテレアポや飛び込み営業で見込み客を獲得し、対面で商談、そして電話やFAXでの注文受付。その後、倉庫からの出荷手配はExcelで管理するというのが中小企業ではごく当たり前の業務プロセスだった。
しかし、EC化後は従来の営業方法以外にもWeb広告で見込み客を獲得することも可能となる。また、顧客が自らWebサイトやアプリなどを操作して発注してくれるので、FAXの書き間違いや電話の聞き間違いなどによる受注ミスも減る。だが、メリットはそれだけに留まらないと鵜飼氏は強調する。
BtoB-ECサイトの導入によって、受注業務の多くがデジタル化され、取引先からの注文そのものをデータとして処理できるようになる。そうすることにより、在庫管理システムの導入も視野に入れることができ、受注にまつわる社内業務の更なる効率化が見込めるようになる。また、コロナ禍以後は、顧客接点をデジタル化しておくことの意義がさらに大きくなっており、社内外問わずさまざまな面で好影響をもたらすと言えるであろう。
もちろん「すべての工程を今すぐデジタル化すべきだ」とまでは言わないが、アナログな手段しか持っていないのは、今後より大きな問題につながるのではないか。(鵜飼氏)
では、企業がBtoB-ECサイトを運営することで、具体的にどのような効果が期待できるのか。鵜飼氏は2つの例をあげ、事例ベースで解説した。
BtoB-ECの導入効果
①売上アップ
ある産業用品の取扱業者は、対面型の取引をメインにしていた。「Bカート」でBtoB-ECサイトを導入したところ、年間75件ほど取引していた相手との取引件数が、年間960件(12.8倍)にまで伸長した。
「本当に受注できているかの確認、在庫や納期の確認など、アナログな受発注にありがちな買い手側の手間が、Web化したことで軽減された影響ではないか」と鵜飼氏は分析する。
また、別の日用品取扱業者では、ECを利用しない従来型の取引の顧客よりも、ECで受発注する顧客の方が購入頻度、購入金額ともに高い傾向が確認された。
所定の注文用紙を事前に渡しておき、注文時はFAXで送信してもらうような体制だと、その注文用紙に記載されていない新製品や、期間限定割引などの施策がそもそも買い手に届かない。しかし、BtoB-ECであれば、季節に応じた商品のレコメンドや、新製品・限定割引等のバナー告知も簡単に行うことができる。結果として、買い手はより多くの情報をもとに購入の判断ができるようになり、注文金額も増えるというわけだ。
②業務効率化
自転車パーツの卸売を行う企業では、ひっきりなしに在庫確認の電話がかかってくる状況だった。担当者は電話の度に在庫確認用のシステムを開き、電話口で顧客に回答していたという。
しかし、BtoB-ECサイトの導入にあたり、「Bカート」と在庫管理システムとを連携させた。また、在庫実数を公開するのではなく、「○」「△」「×」というように目安を表記するに留めた。その結果、買い手はBtoB-ECサイトの商品ページを見るだけで在庫を確認できるようになり、電話による問い合わせが95%削減された。
中小企業を悩ませるインボイス制度、そして電帳法とは?
中小企業や個人事業主にとって「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」(電帳法)への対応は、共通する難題と言って良いだろう。どちらも請求に関わる要素であり、対応を怠れば取引の停滞や中止につながりかねない。
請求業務に関する法改正
インボイス制度は2023年10月1日に本格スタートした。仕入れ先や顧客とやりとりする請求書や領収書類に、消費税納税事業者であることを証明する登録番号の記載、異なる消費税率ごとに税額を計算しての明記など、いくつかの要件が増えた。
これらの諸条件を満たした「適格請求書(インボイス)」でなければ、買い手側は消費税額の仕入控除ができない。これに対応するためのシステム改修、取引先への通知、日々の記帳内容の増加など、現場担当者への負担は増すばかりである。
適格請求書における税計算では、購入明細1行ごとの端数処理を行ってはならず、1請求ごとあるいは1取引ごとのどちらかのみとされている。非常に細かい部分だけに、導入済みの会計ソフトがきちんとその要件を満たしているか、厳密に確認する必要が出てくるだろう。
インボイス制度では端数処理の方法などが細かく規定されている
電帳法はすでに施行されており、2024年1月には宥恕(ゆうじょ)措置(電子取引で授受した取引情報の電子保存が義務化されたことに関連する経過措置)が終了となる。つまり、2024年1月以後は電子化された取引データ(領収書など)を紙に印刷して保存する行為が認められなくなるということだ。
受け取った電子データは電子データのまま保存しておかなければならず、すべての帳票を紙ベースで取引をしている小規模事業者や個人事業主への影響が大きいことは容易に想像できる。
しかし、紙の帳票からPDFなど電子帳票への移行は、電帳法への対応はさることながら、帳票の用紙代やそれを送付するための切手代、帳票を受け取った側の保存場所も含め、さまざまなコスト削減効果が期待できる。小規模事業者へのハードルは高いが、それでも電子帳票は普及していくだろうというのが鵜飼氏の見立てだ。
電帳法は書類保存のハードルが高いがコスト削減効果が大きい
新制度はどちらも非常に複雑であるため、おそらく現場の担当者の理解はまだまだ追いついていないのではないか。また、社内だけで完結する話でもないことから、取引先とも確認し合わなければならないうえ、運用に不安を覚えている人も多いだろう。(鵜飼氏)
取引のデジタル化がインボイス対応を円滑化に
「Bカート」では、公式の決済サービス「Bカート掛け払い powered by Money Forward Kessai」(以下、Bカート掛け払い)をリリースすることで、インボイス制度や電帳法へのシステム対応を進めたい顧客へのサポートの拡充を図っている。
「Bカート掛け払い」は、大枠としては企業間取引における請求代行サービスである。「Bカート」を用いて運用しているBtoB-ECサイトで取引があると、代金のやりとりは購入者(取引先)と「Bカート掛け払い」の間で実施される。インボイス制度に対応した請求書の発行、銀行口座への振込確認や未入金回収なども「Bカート掛け払い」が実施する。
その後、BtoB-ECサイトを開設している売り手側へ「Bカート掛け払い」より入金を行う※1。つまり、請求書の作成や入金確認といった請求にまつわる業務をまるごとアウトソーシングできるということだ。
また、発行される請求書を紙媒体にするか電子媒体にするか、買い手側で指定することができるうえ、電子媒体での請求書発行であれば、売り手・買い手双方の請求書の保存も「Bカート掛け払い」で行える(7年間)。インボイス制度や電帳法への対応をそれぞれ個別に行うのではなく、BtoB-ECサイト運用の流れのなかで進められるのが「Bカート掛け払い」の大きなメリットと言えるだろう。
※1:決済手数料を指し引いた金額の入金を行う。手数料率は契約内容に応じて異なる
「Bカート掛け払い」のサービス概要
鵜飼氏は「Bカート」について、「BtoB取引に必要な機能がそろっており、大企業からスタートアップまで幅広い企業が利用している」と言う。
2023年現在で1500社が導入しており、これまでの開発期間を経て、BtoB取引で必要な機能はほぼすべてフォローできているのではないかと自信を見せる。それでも不足する機能については、「Bカートアプリストア」を設け、有償で機能を追加できる体制も整えている。
「Bカート」の主要機能
月々の利用料は月額9800円(税別)から(初期費用別途。商品数や取引先件数によって上位プランが必要)。1社ごとに細かくスクラッチ開発するのではなく、多くの企業にとって必要な機能のみ搭載しているため、極論を言えば申し込み後即日利用も可能という。
最近では、「社命でとにかく来月までにECを始めなければならない」といったお問い合わせをいただくこともあるが、それでも「Bカート」なら十分対応できる。そういった点も評価していただけているのではないか。(鵜飼氏)
政府が展開する「IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)」において、「Bカート」を用いたBtoB-ECサイト構築が申請されるケースも非常に多いという。また30日間の無料トライアルや、導入支援を行う企業へのパートナー制度も用意している。
補助金でBtoB-ECサイトを構築する例も多い
鵜飼氏は最後に「当社は“はたらくを変える”をミッションにしており、それだけに日々チャレンジが続く。ぜひ我々と一緒に、日々の働き方を変えていくことに挑戦していきましょう」と呼び掛け、講演を締めくくった。
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オリジナル記事:法人向け取引をBtoB-EC化するとどう変わるのか? 「インボイス制度」「電子帳簿保存法」にも対応したWeb受注システムのメリットとは
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