1804年創業のミツカングループは、「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」という3つの“ 未来ビジョン宣言”を掲げている。「ZENB」は、この“未来ビジョン宣言”を実現するため、2019年に立ち上がったD2Cブランドだ。なぜ今、ミツカンがD2Cなのか。急成長を可能にした、顧客とつながり続けるためのダイレクトマーケティング戦略とは何か。ZENB JAPAN の集客・販売領域(広告・SEO・SNSなど)を担当する松永友貴氏が、「ZENB」ブランド急成長の裏側を解説する。
ミツカングループが立ち上げたD2Cブランド「ZENB」
「ZENB」ブランドは、10年後の未来を考え、人と社会と地球の健康に貢献するという考えのもと、2019年にミツカングループが立ち上げたブランドだ。
「ZENB」ブランドは、パスタとしても、ラーメンとしても食べられる、黄えんどう豆だけで作られた「ゼンブヌードル」という製品を筆頭に、お菓子のように食べられる「ゼンブスティック」、野菜をまるごと使用して製造した「ゼンブペースト」などの製品をD2C で展開している。足元では、2022年8月にヘルシーな朝食をコンセプトとした「ゼンブミール」を発売している。
「ZENB」ブランドの商品ラインアップ
なぜ今、ミツカンがD2Cなのか
ミツカングループは、“未来ビジョン宣言”として、次の3つを掲げている。
- 人と社会と地球の健康
- 新しいおいしさで変えていく社会
- 未来を支えるガバナンス
この“未来ビジョン宣言”を実現するために生まれたブランドが「ZENB」だ。「ZENB」では、「まるごとがおいしい」というコンセプトを非常に大事にしている。
野菜や植物の種や皮といった部分に含まれる栄養素は高いと言われているにもかかわらず、家庭では廃棄されてしまう。地球環境、食材ロス問題にも焦点をあて、それらを独自の技術でおいしく提供することで、野菜を「全部」食べることにつなげるというコンセプトだ。
「ZENB」は「まるごとがおいしい」というコンセプトを大切にしている
しかし、その価値を商品として販売するとなると、販売価格が高くなってしまう。「ゼンブヌードル」であれば一食あたり198円になり、一般的なスーパーなどで売られるパスタが一食あたり40~80円であることを考えると、店頭で手に取ってくれる顧客は限定的と考えられる。
一方で、値段に見合う付加価値を提供している自負はあり、その価値に納得してくれる顧客にとっては妥当な値段設定だと考えている。そこで、顧客に直接アプローチできるD2C(Direct to Consumer)をマーケティング戦略として選んだ。
「ゼンブヌードル」と一般的なパスタとの価格の違いは大きい
ビジネス方針にあった戦略、共創型コミュニケーション
ファンがファンを呼ぶ仕組み作り
「ZENB」の主力商品である「ゼンブヌードル」は、黄えんどう豆という豆を100%使って作られた麺で、グルテンフリーであり、食物繊維や植物性たんぱく質が取れることが特徴となっている。また、パスタやラーメン、焼きそばなど多様なメニューに活用できるのも特徴で、ホテルニューオータニに採用されるなど、味の面でも評価されている。
「ゼンブヌードル」の特徴
「ゼンブヌードル」の発売は2020年。「ゼンブヌードル」に合うパスタソースやラーメンスープ、焼きそばソースなどの関連商品を充実させたこともあり、翌年には100万食を突破した。2022年には細麺の販売も開始し、「ゼンブヌードル」の売り上げは700万食、「ZENB」ブランド商品で1000万食を突破した。
なぜ、このような急成長を実現できたのか。ビジネスを成長させていくためには、ビジネスの方針にあったダイレクトマーケティング戦略を中心に据えて考えていく必要がある。「ZENB」のビジネス方針は、顧客とつながり続けることだ。それを戦略として言い換えると、顧客の声を活用してファンがファンを呼ぶ仕組みを構築することであり、これを「共創型コミュニケーション」と呼んでいる。
顧客とつながり続けるための戦略として「共創型コミュニケーション」を掲げている
カギとなるファンの醸成にはUGCが必要
UGC(User Generated Content)とは、SNS やレビューなど、ユーザーによって制作・発信されるコンテンツを指す。メーカーなど、発信側企業のメッセージの信ぴょう性が下がり、相対的にSNS やレビューサイト、口コミなどを見て購買の意思決定をするユーザーが増えている。
めまぐるしく市況が変化するなかで、正しく広告を配信して成果を上げていくためには、ファンの醸成が鍵になる。そのため、「広告表現などを工夫するよりも、既存顧客の声を新規顧客に届けていく方が、より購買行動につながるはずである」と考えた。
生活者のUGCに対する信頼度は年々高まっている
急成長の舞台裏にあったUGCの徹底活用
成果が上がりにくいUGC、上がりやすいUGCの違いとは
UGC 活用の具体的な内容は、EC サイトの商品詳細ページに口コミを掲載するなど、非常にシンプルで当たり前のことである。しかし、重要なのは、シンプルなことを深く掘り下げてやり続けることだ。
実際に、現在段階を追って進めている検証では、検証開始当初よりCVR(コンバージョンレート)は約2倍改善し、コンバージョン件数は105倍まで増加している。
CVRは約2倍に改善、CV件数は105倍に増加
もちろん他のいろいろな要素もあるが、この「UGC を突き詰めて科学する」ということにより、実績がここまで上がってきている。非常にシンプルだが侮れないということは、この数字からも受け取れるのではないだろうか。(松永氏)
ZENB JAPAN ダイレクト戦略グループ主任 松永友貴氏
これまで実施してきたUGC を、CVRが「上がりにくいもの」と「上がりやすいもの」に分類した結果、それぞれの特徴が見えてきた。商品の特徴や機能的なポイント、使ってみた感想のみを紹介する「商品主語」のUGCは、LP(ランディングページ)に掲載したり購入動線の中に設置したりしても、結果的にあまり成果が上がらなかった。
一方で、食べ始めた経緯や自身のライフスタイルと共に商品を紹介する「体験主語」のUGCは、成果につながりやすかった。
成果が上がらなかったUGC(左)と高い成果を上げたUGC
また、成果が上がるUGC の中には、自身の体験やライフスタイルの変化に言及したものが多く見受けられた。結論としては、「商品主語」のUGCもCVRに寄与するときはあるが、「体験主語」のUGC の方がCVR の向上につながりやすいという傾向があった。
ZENB JAPAN では、「商品主語」を“UGC 1.0”、「体験主語」を“UGC 2.0”と分類している。UGCの活用で成果を上げるためには、“UGC 2.0”を生み出していくことが重要になる。
「商品主語」の“UGC 1.0”と「体験主語」の“UGC 2.0”
“UGC 2.0”を活用するポイント
一般的な使用感をレビューするだけのUGCでは、顧客の需要すべてに対応できない。顧客にもさまざまな層が存在していて、潜在層、既存客、リピート層、クロスで他の商品を購入する層などがいる。それぞれのケースで考えていることは違うはずで、それに対して一面的なUGCだと、特定の顧客層には刺さるかもしれないが、その他の層をカバーするのは難しい。
いかに多くの顧客層をカバーしていくか。それが“UGC 2.0”を活用するポイントだ。よって、“UGC 2.0”は、戦略的に自分たちが欲しい投稿や口コミをつくり出し、そしてそれを顧客層ごとに展開していくことが重要となる。
戦略的につくり出した“UGC2.0”をファネルごとに活用
“UGC 2.0”の活用により、D2C・通販事業はもっと成長させられるのではないか。重要なのは、それぞれに適材適所のUGC をあてていくことだ。(松永氏)
「ZENB」ブランドはどうやって急成長を遂げたのか
検証段階ごとの磨き込みによるバージョンアップ
「ZENB」ブランドは、4段階の検証を実施し、ステップ4では、CVR約2倍、コンバージョン件数105倍にまで成長してきた。ステップ1では媒体別に、UGCとの相性の検証を行った。UGCを「機能性」「おいしさ」「レシピ」「飽きなさ」の4カテゴリに分け、SNS広告やリスティング広告などの各広告に適用。最もCVRが上がる組み合わせを検証した。
4段階の検証を通じて急成長を遂げてきた
ステップ2では、口コミレビューの数を増やしていった。ステップ1の検証で生み出された「勝ちパターン」の口コミレビューを、2枠から4枠、8枠と徐々に拡充した。LPが長くなりすぎると離脱につながるので、最適な数を検証しつつ最大限枠数を増やした。
ステップ3では、テキストだけのレビューを実装した。Instagramなどの写真付き投稿による成果が頭打ちになったこともあり、アンケート結果を顧客の声として掲載することで、どんな人が購入しているのかをより明確にした。その結果、再びCVRが改善していった。
購入回数が多い顧客のレビューを掲載するとCVRが上がりやすかった
ステップ4では、これらをどのように配置するか検証した。まだ検証中だが、現時点で最も効果が出ているのは、LPの中で言及した内容に関連するレビューを、その真下に置くパターンだ。発信情報に、より厚みが増し、信ぴょう性を担保してくれる結果となり、CVR の向上につながった。
共創型コミュニケーションの実現が成長の原動力
ミツカングループが打ち出した“未来ビジョン宣言”を実現するために、「ZENB」ブランドが立ち上がった。その「ZENB」が世の中に価値を提供するには、D2C形式が最適だった。
「ZENB」では、顧客とつながり続けることを重要視している。それをダイレクトマーケティング戦略に置き換えると、顧客の声(UGC)を活用してファンがファンを呼ぶ仕組みを構築することであり、この「共創型コミュニケーション」を実現していきたい。
1つひとつは非常にシンプルなことかもしれないが、それを突き詰めてやっていくことにより、成果としてCVR約2倍、コンバージョン件数では105倍に行きつくことができた。(松永氏)
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オリジナル記事:ファンがファンを呼ぶ共創型コミュニケーション。「ZENB」ブランド急成長の裏側
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