「ChatGPT」などのAI(人工知能)が注目を集めています。EC事業者はAIとどのように向き合えば良いのでしょうか? 「AIがECにどのような影響を与えるのか」「必要な対策」などについて、GMOペパボの栗林健太郎(取締役CTO CTO室室長 ペパボ4推進室室長)に聞きました。
AI(人工知能)がECに与える影響、活用メリットとは?
GMOペパボ EC事業部 ECグループ プリンシパルディレクター 花田靖治(以下、花田):ECでもどんどんAIが活用されていくと感じているのですが、どのような影響があると思いますか?
GMOペパボ 取締役CTO(Chief Technical Officer)CTO室室長 ペパボ4推進室室長 栗林健太郎(以下、栗林):EC事業者さんにとって、もっとも身近なAIは「レコメンドエンジン(AIレコメンド)」でしょう。レコメンドエンジンは検索エンジンと同じような仕組みで、たくさんの選択肢のなかから条件に合わせて絞り込み、ユーザーにマッチしたものを提示します。検索と少し違うのは、キーワードを入力しなくても「この商品はいかがですか?」とお勧めを画面に表示できることです。
レコメンドエンジンの導入で、ユーザーは商品が探しやすくなり、ショップにとっては売り上げアップにつながる可能性が高まります。
GMOペパボ 取締役CTO(Chief Technical Officer)CTO室室長 ペパボ4推進室室長の栗林健太郎
花田:なるほど。「ChatGPT」とレコメンドエンジンの違いは何ですか?
栗林:「ChatGPT」のすごさは、0から1を作り出せることです。
ECサイトにレコメンドエンジンを導入するにしても、商品やサービスがなければそもそもお勧めできないので、自分たちであらかじめ情報を用意しておく必要があります。一方「ChatGPT」などの生成AIは、何もないところから情報を生み出すことができます。文章を自由に作成できますし、「こういうイラストがほしい」と入力すれば、要望にマッチするイラストを生成します。いわばバックエンドの仕事まで行ってくれるのが「ChatGPT」です。
AI導入のメリットは「業務効率化」「新たな施策に注力できる」こと
花田:AIをEC事業に導入・活用するメリットはどのようなところに出てくると思いますか?
栗林:商売においてなにより重要なのは、新たなニーズを創り出すことでしょう。
既存の需要にマッチする商品やサービスを提供することも大事ですが、「あなたのために何でも揃えます」「パーソナライズしたものを提供します」と言われ続ければ、消費者もだんだん飽きてきます。ですので「こんなに良いモノがありますよ」と新しい価値を提供して、購買意欲をかき立てる必要があります。
AIの導入で業務効率化を図れれば時間的な余裕ができるので、クリエイティブな仕事にもっと力を注げるようになります。あるいはまったく新しい仕事ができるようになるかもしれません。これはAI導入の大きなメリットです。
花田:栗林さんは「ChatGPT」をどのように活用していますか?
栗林:プログラミングのコードを作る時などに利用しています。
「ChatGPT」に自分の要望に合わせて「こういうことができるコードを書いてください」と伝えます。それで生成されたコードをさらに対話的にブラッシュアップしてある程度できてきたら、本格的にコードベースに組み込むという感じで使っています。エンジニアなどは、こういう使い方をしている人が多いと思いますよ。
GMOペパボ EC事業部 ECグループ プリンシパルディレクターの花田靖治
花田:今後さらに精度が上がってそのまま使えるものを生成できるようになったら、デザインやコードを書けない人にとってメリットが大きそうですね
栗林:それはあると思います。ただ、現状でもノーコードやローコードのツール、Webデザインツールがたくさんありますので、それを利用するといった選択肢もあります。私たちが提供している「ロリポップ!レンタルサーバー」にもサイト作りをサポートする機能があり、簡単に好みのテイストのホームページを作ることができるので、現時点ではそういったサービスを利用した方が良いかもしれません。
「ロリポップ!レンタルサーバー」のホームページ制作代行サービス(画像は「ロリポップ!レンタルサーバー」のサイトから編集部がキャプチャ)
AI時代に必要な対策とは?
花田:SEOのように、AI対策のようなことも今後必要になってきますか?
栗林:検索とAIは根本的な仕組みが異なるので、一般論として「AI対策のためにわかりやすい文章を書いた方が良い」という話はあっても、SEOのようなテクニック的な対策を講じる余地はないのかなと考えています。
その代わり、プラグイン(機能を拡張するためのソフトウェア)については意識してもいいかもしれません。
2023年3月、OpenAIは「ChatGPT Plugins(プラグイン)」という外部情報を取り入れられるサービスをリリースしました。現状の「ChatGPT」は基本的に2021年までの情報しか提供できず、「今の首相は誰ですか?」と聞いても答えられません。「ChatGPT」の弱みは最新情報をキャッチアップできていないことなので、それを補うためにプラグインを用意したというわけです。
「ChatGPT」がプラグイン対応になったことで、最新のビジネス情報、トラベル、レストラン、英語学習などの情報を取得できるようになりました。たとえば、旅行計画を立てたい時に「ChatGPT」で「Expedia」のプラグインを有効にすれば、航空券やホテルの情報を得ることもできます。
将来的に「ChatGPT」がプラットフォームのような形になるとしたら、AIが学習しやすいコンテンツを作るよりも、「ChatGPT」と連携しやすい情報設計にする方が重要です。ユーザーは自然言語で問いかけるので、人間の感情に配慮した直感的な切り口で情報提示できるようにするなど、AI時代に即したサイト作りが必要だと思います。
OpenAIがリリースした「ChatGPT Plugins」(画像はOpenAIのサイトから編集部がキャプチャ)
花田:一次情報を絶対に取られたくない場合、プラグインのアクセスをブロックするなどの対策は必要ですか?
栗林:一般的にはインターネットと同じように、情報はオープンにしておいた方がお得といえますね。とはいえ、大量の情報に埋もれてしまうこともあるので、文章力に長けている人、プレゼンテーション力が高い人などは、今後は有料会員だけに情報提供するようになるかもしれません。
花田:今もそうしている人はいますね。自分の体験に基づくものなので、AIに開示されるよりは、対価をいただいて自分のことを気に入ってくれているファンだけに提供したいと。
栗林:AIの発展で、そうした囲い込み戦略がますます重視されていきそうですね。ただ、AIも優れたコンテンツを生成できるので、オリジナリティやクリエイティビティが抜群に高いとか、卓越したブランド力やカリスマ性があるとか、並ぶ者がいないほど実績豊富で実行力や巻き込み力があるなどでないと難しいのかなと思います。
重要なのは「人の心をつかめるかどうか」
花田:AIに学習させれば似たようなものが出来上がるということは、ECのデザインや設計などで差別化を図りたいなら、AIを超えるアイデアを出してレベルアップしていくしか方法はないのでしょうか。
栗林:デザインなどのレベルアップには限界があると思います。その理由は、AIはものすごい勢いで成長しますし、使う人の裾野はどんどん広がり、初心者でも格好良いネットショップを持てるようになるからです。
ただ、それにはデメリットもあります。すべてが一定レベルを超えた素晴らしいサイトばかりだと、かえって差異が生じにくく、没個性化につながる恐れもあるんですよね。プラットフォーム事業者としては、皆さんに良いWebサイトを持ってほしいので便利な制作ツールなどを提供するのですが、そこはジレンマを感じる部分でもあります。
大切なことは見た目のレベルが高いか低いかではなくて、人の心をつかめるかどうかなんだと思います。AIができる分野は徹底的にレベルが上がるので、ショップオーナーさんはそれ以外のことにフォーカスして、自分なりの個性や切り口で打ち出すことを重視すべきだと考えています。
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次回は、「『ChatGPT』を活用したどんな新しい機能が誕生するか?」などについて解説します!
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECビジネスでAI(人工知能)はどんな役割を持つようになる? 対策は必要? 活用メリットは? 気になる疑問を聞いてみた | EC×AIの未来
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