企業による環境に配慮したビジネスが加速化しています。米国のアパレル事業者Toad and Co.は、再利用可能な配達バッグを利用した商品の配送、リサイクルできる紙製の包装袋へ切り替えなどで、包装材の削減に取り組んでいます。Toad and Co.はそのことを消費者に啓発し、環境に配慮した配達バックの利用を促す仕組みなどを確立。コスト面でも採算ベースに乗せています。
記事のポイント- Toad and Co.は、使い捨てのプラスチック製包装袋を廃止し、紙製の包装袋に全面的に切り替える
- Toad and Co.の顧客のうち約15%が、再利用可能な配達バッグで商品を発送することを選択している
- Toad and Co.は、再利用可能な配達バッグを活用した配送方法を定期的に消費者に訴求している
プラスチック製の包装袋は“必要悪”?
プラスチック製の包装袋が好きな人はいないでしょう。一方、使い捨てのプラスチック製包装は、Eコマースでアパレル商品を販売する事業者が、取り扱う衣服の品質を保つために重要な役割を果たしています。
このプラスチック製の包装袋を廃止したいと考えたのがToad and Co.。売り上げの約50%はオンライン経由、残りの半分は小売店への卸売というEC企業です。
プラスチック製の包装袋は全世界的に悪影響を与えています。誰もがそのことを認識していますが、一方で、必要悪とみなされています。
Toad and Co. マーケティングディレクター スティーブ・マッキャン氏
ほぼすべてのアパレル商品の包装に使用されているプラスチック製包装袋。これを廃止しようすると、代替品を探さなくてはなりません。
アパレル商品は、倉庫のなかをベルトコンベアで運ばれ、ピッキング、梱包、出荷、船やトラックで運ばれて、店舗や消費者の玄関先まで届けられるという過程をたどります。
雨、雪、みぞれに遭遇するかもしれません。そのため、外気から衣服を保護する必要があります。また、どこかの時点で商品が破損すれば、廃棄する必要が出てくる可能性があります。
アパレル商品の消費サイクルと、プラスチック製の包装袋の消費サイクルを比較すると、衣服の消費サイクルの方がはるかに悪いのです。(マッキャン氏)
プラスチック製の包装袋の全廃をめざすToad and Co.
2014年にオンライン販売を開始したToad and Co.は当初、プラスチック製の包装袋を1種類のみ使用していました。それを、サイズ展開を5種類に増やし、サステナブルな仕様に最適化しました。一方、Toad and Co.は最終的な目標として、2024年までにプラスチック製の包装袋を完全になくすことを掲げています。
Toad and Co.で採用している梱包袋(画像はToad and Co.のサイトから編集部がキャプチャ)
そのプラスチック製の包装袋をより持続可能なものに変えるための最初の試みは、プラスチック製の包装袋の標準的な幅を縮小し、包装袋に入れるアパレル製品の大きさに最適化することでした。
さらに、どの商品も入るような大きなプラスチック製の包装袋を1つ使うのではなく、異なるサイズのプラスチック製の包装袋を用意し、それぞれの買い物袋がアパレル商品の大きさに合うようにすることで、必要とされるプラスチック量を削減。また、買い物袋のプラスチックの厚みを薄くすることで、使用するプラスチックの量をさらに少なくしました。
また、Toad and Co.はプラスチック製の包装袋の、空気穴の位置を変更しました。マッキャン氏はこう言います。
空気穴の位置を袋の下部から上部に移したことで、消費者が飼い犬を散歩するとき、この袋がフンを拾うために再利用できることを訴求したのです。(マッキャン氏)
包装袋を犬のフン入れに活用できるようにした(画像はToad and Co.のサイトから編集部がキャプチャ)
このような努力を重ねつつ、Toad and Co.はプラスチック製の包装袋の全廃に取り組む姿勢を示しています。
堆肥にできる包装袋、課題は「回収場所まで持って行ってくれるか」
アパレル商品を扱う小売事業者の一部では、プラスチック製の包装袋に替わるパッケージを使用しています。その1つが、植物由来の材料で作られた、堆肥にすることができるプラスチック製の包装袋(コンポスト化可能包装材の袋)です。
しかし、この包装袋は評価が分かれます。堆肥化が可能な素材は、使い捨てのプラスチック製包装袋よりも環境の面から優れている側面がありますが、消費者がこの包装袋を適切な回収場所まで届けるのが難しいのです。
消費者は、この特定の素材を扱う回収場所に袋を投函(とうかん)しなければなりません。この包装袋に知見がある複数のベンダー、アナリスト、小売事業者によると、消費者がこの素材を通常通りの方法で捨ててしまった場合、埋立地では他の種類のゴミよりも多くのメタンを排出する可能性があるとのことです。
また、消費者がこの袋を通常のリサイクルボックスに入れると、通常のリサイクル工程を詰まらせたり、ほかの商品を汚染しリサイクルされるべきモノすべてを廃棄しなければならないといった可能性があります。
紙製の包装袋への切り替え
こうした課題を踏まえ、Toad and Co.はパッケージングのベンダー事業者であるVelaと協業し、紙製の包装袋の試験販売を2020年に開始しました。
森林資源の保護や管理を行っている国際NGOのFSCForest Stewardship Councilが認証した紙を使用、他の紙類と一緒にリサイクルできます。そのため、堆肥にすることが可能な包装袋よりも、実際にリサイクルされる可能性が高くなるそうです。
いくつかの商品の包装で、新しい包装袋を試験的に使用した後、アパレル商品を保護するのに十分な頑丈さと、従来の包装袋と同等の品質を確認、全商品への展開を開始しました。各工場で一定の最低発注量に達した時点で、紙製の包装袋への切り替えを行う予定です。
2023年第2四半期(2023年4-6月期)現在、商品の約82%に代替包装袋を使用しており、2024年春には100%使用できるようになります。(マッキャン氏)
「顧客からは、包装袋の素材の変更について反応はなかったが、卸売業者からは好意的な反応があった」とマッキャン氏は話しています。ブランドが店舗に商品を発送する際も、個々の顧客の自宅に配送するときと同じように、1着ずつ包装袋に入れます。店員はその袋を開け、服を店頭に吊るすのです。
彼らは、こうした包装袋が非常に多くの廃棄物になることを知っているはずです。(マッキャン氏)
看板広告から作った、再利用可能な配達バッグを採用
二酸化炭素の排出量を減らすため、Toad and Co.は消費者に再利用可能なパッケージで商品を発送するオプションを提供しています。再利用可能なパッケージを展開しているLimeLoopと協業し、Toad and Co.は頑丈なビニールでできた配達バッグ(宅配袋)をレンタル提供しています。
配達バッグの配送用ラベル入れに印刷した返送用ラベルを入れて、米国郵便公社に投函すれば、Toad and Co.の倉庫に送られる(画像はToad and Co.のサイトから編集部がキャプチャ)
このバッグは、外側に再生ポリエステル、主に大型の看板広告からできたポリエステル素材を使用。テープの代わりにジッパーで開閉、内側は再生コットンでできています。
LimeLoopのMサイズのバッグと、Mサイズの段ボール箱で発送した場合と比較すると、配達にLimeLoopのバッグを使用した場合、二酸化炭素排出量を92%、水の使用量を99%削減できるそうです(LimeLoop調べ)。
同様に「LimeLoopのSサイズのバッグ1つと、郵便受けに入るサイズのプラスチック製包装袋を比較すると、二酸化炭素排出量を42%、水の使用量を9%削減することができる」とLimeLoopは説明します。
配達バッグの配送用ラベル入れに印刷した返送用ラベルを入れて、米国郵便公社に投函すれば、Toad and Co.の倉庫に送られる
Toad and Co.は、2018年にLimeLoopの配達バッグを試験的に導入しました。このとき、Toad and Co.は、LimeLoopの初期のクライアント企業の1社でした。LimeLoopの配達バッグを利用した取り組みは次の通りです。
- Toad and Co.のECサイトで商品を購入する消費者は、通常配送、LimeLoopの配達バッグを利用する通常配送、翌日配送、翌々日配送――の4つの配送オプションから配送方法を選択できる
- LimeLoopの配達バッグを選択した場合、商品は再利用可能な袋に入れて配送され、さらに袋の返却方法が記載されている
- 消費者は、注文した商品をすべて受け取るか、または返品するかを決めたら、Toad and Co.のサイトにアクセスして、無料の返品用ラベルを印刷
- 返品用ラベルを配達バッグの前部分に備え付けられているポケットに入れて、郵便局のポストに投函する
Toad and Co.が活用している再利用可能な配達バッグの大きさ
配達バッグの利用進む
「LimeLoopの配達バッグを配送手段に選択した消費者のうち20%が、LimeLoopの配達バッグによる配送を繰り返し選択している。これは確かな数値である」とマッキャン氏。詳細は明らかにしませんでしたが、Toad and Co.の新規顧客の数を考えると、上々の数値と言えるそうです。
LimeLoopの配達バッグ以外の注文では、消費者が袋をリサイクルしやすいように、水性のインクを使用した100%再生紙の袋で商品を発送しています。
「プラスチック製の包装袋を薄くしたり、サイズ展開を増やしたりするのとは違い、LimeLoopが手掛けるサステナブルなパッケージは、消費者から非常に注目されており、Toad and Co.は多くの好意的な反応を得ている」とマッキャン氏は言います。
窓の外を見てみれば、誰もが納得することです。Amazonから送られてくる箱の数が多すぎて、リサイクルボックスに入りきらないほどです。
消費者は、それが問題であることを理解していますが、誰もそれについて解決しようとしているようには見えません。消費者はオンラインショッピングの利便性を支持するあまり、それを変えようとはしないのです。
ですから、ECブランドが自ら、他社とは違う方法でパッケージ量の削減や環境配慮に向けた問題に対処している場合、消費者はその方法を気に入り、利用するのだと思います。(マッキャン氏)
Toad and Co.のECサイトを利用する顧客の約20%が再利用可能な配達バッグを活用した配送方法を繰り返し選んでいる
「返品ラベルの印刷は、消費者がサービスを利用する際の障壁になっている」とマッキャン氏は言います。返品ラベルをパッケージに同梱するためのシステムの連携や、消費者が何点も返品する場合の仕組みについては、まだ検討中だそうです。
LimeLoopによると、ほとんどの顧客企業は返品ラベルをパッケージに同梱しているそうです。LimeLoopのクライアントは45社で、その大多数が年商500万ドル以下の中小企業です。
配達バッグを返却してもらうための施策とは
マッキャン氏は「Toad and Co.が商品を発送してから配達バッグが戻ってくるまで約2週間かかっているが、このスピードをもっと速くしようと努力している」と説明。新しい配達バッグを使用するよりも、既存の配達バッグを再利用できれば、それに越したことはありません。
Toad and Co.が1か月に2回、LimeLoopの配達バッグを使うことができれば、従来と比較してコスト面で採算が合う計算になります。詳しい数字は明らかにしていませんが、「それ以外の場合、この配送方法はより高価になる」とマッキャン氏は言います。
LimeLoopは小売事業者に配達バッグ1つあたり、毎月約1ドルでレンタルしており、少なくとも200回は使用できるそうです。2023年現在、Toad and Co.は「それぞれの配達バッグを月に2回以上使用する」という指標を達成しています。
「私たちのKPIは、配達バッグの使用頻度と回数だ」とマッキャン氏は言います。Toad and Co.がLimeLoopの配達バッグを使い始めた当初は、配達バッグを自分のものだと思い込んでいる消費者がいて、返品してもらうのに苦労したそうです。
パイロット版で配達バッグの運用を試したとき、一番の学びになったことは、配達バッグの返品について消費者とコミュニケーションをとることでした。(マッキャン氏)
調査の結果、消費者は、荷物が届いてから開封するまでに数日かかり、その後、商品を試着して、返品せずに手元に残すものを決めるのに数日かかることがわかりました。
その後、返品用ラベルを印刷する必要があるのですが、人によっては、印刷のために外出しなければならない場合もあります。そして、印刷したあと、配達バッグをやっと投函します。このように、配達バッグの返却までには、多くの時間がかかります。
Toad and Co.は、この過程を持続可能な選択肢とするためには、配達バッグの返却をできるだけ速やかに行う必要があることを伝え、その重要性をメールで啓発する必要があることを学びました。
配達バッグの回転率アップ。消費者とのコミュニケーションが奏功
「配達バッグを試験的に導入してからの5年間で、消費者とのコミュニケーションに関する業界標準は変化した」とマッキャン氏は話しています。以前は、週に3回以上メールを送ることをちゅうちょしていましたが、今では毎日連絡することにもためらいがないそうです。
また、どの消費者がまだ配達バッグを返却していないかをシステムで把握しているため、LimeLoop経由でリマインドメールを自動的に送信することも可能です。
LimeLoopによると、顧客企業のなかには、LimeLoopの配達バッグを使用するために、消費者に配達バッグ返品の保証金として数ドルを請求し、配達バッグが郵送で戻ってきた時点で返金するところもあるそうです。
「このやり方は配達バッグの回転率向上に役立つので、多くの顧客企業がこのシステムを活用している 」とLimeLoopの広報担当者は話しています。
デジタルコンサルティング会社OSF Digitalのデジタル戦略担当エグゼクティブマネージングディレクターであるバーナンディ・ウー氏は「LimeLoopは、規模を拡大して社会に大きな影響を与えることができる、持続可能な商品包装のイニシアチブを顧客企業に提供している。注目すべきベンダーである」と述べています。
新システム確立までのプロセスとは
マッキャン氏は「LimeLoopをすべてのシステムに統合するのに数か月かかった」と言います。Toad and Co.は、立ち上げ当初にシステムを統合し、その後、ShopifyのEコマースサイトへの移行、在庫システムを移行する間、数か月のプログラム利用休止を経て、2022年に再度、統合作業を行いました。
消費者がLimeLoopを選択すると、在庫システムはどの注文でLimeLoopが選択されているかを把握する必要がありますが、これは注文時のプラットフォームや出荷・返品ベンダーにとっても同じです。これらはすべてECのシステムに組み込まなければいけません。
また、実際にこの配送オプションを選ぶ消費がどれくらいいるのか、そしてそれがLimeLoopの配達バッグを必要とする数にどう影響するのかを知る必要がありました。
当初、Toad and Co.は400枚の配達バッグを用意していましたが、頻繁に数が足りなくなることがありました。そしてときには、配達バッグが消費者から戻ってくるまで、LimeLoopの配達バッグを利用した配送オプションを提供することができなかったのです。
2022年には、さらに多くの配達バッグを購入し、現在では合計2800枚になり、数が足りなくなることはなくなりました。
システムは複雑に見えますが、Toad and Co.は、この配送方法と消費者の反応に満足しています。「Eメールやソーシャルメディアを通じて、この配送方法について消費者に伝えると、いつも多くのフィードバックが寄せられる」とマッキャン氏は言います。
より多くの消費者にこの配達バッグを利用する配送方法を選んでもらいたいと考えている一方で、あくまでも選択肢の一つにとどめておくつもりだそうです。
私たちがこの選択肢を奨励し、啓発することで、消費者が環境のためにより良い判断ができるように手助けしたいです。(マッキャン氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:包装資材の大幅削減に成功した米国アパレルブランドの施策とは? 環境配慮型ビジネスを進める取り組みを解説 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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