顧客のニーズを“決めつけない”ハルメクの通販戦略とは? シニアの心をつかむ誌面作り+商品開発のポイント | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2023年5月23日(火) 07:30
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シニア女性から支持を得ている通販「ハルメク」。顧客のニーズを満たす商品開発、離脱を防ぐ施策、今後に向けた通販事業の戦略などを責任者が語る

ハルメクの通販がシニア女性から支持されている。グループのシンクタンクやVOCなどさまざまな顧客接点をフル活用することで、シニアの実態とニーズに即した誌面作りと商品開発を続けている。試作モニターや販売後の満足度調査など各段階で顧客の声を吸い上げるほか、検品を含めた品質管理を徹底している。「品質向上がお客さまの離脱を防止する一番の方法」と語る金山博通販本部長に、通販事業の戦略などを聞いた。

ハルメク 通販本部長 金山博氏ハルメク 通販本部長 金山博氏
顧客理解のカギは“決めつけない”マーケティング

――通販媒体を制作する上で大事にしていることは。

これはハルメクの「憲法」と言ってもいいと思うが、お客さまの実態とニーズを理解し、わかったふりをしない、思い込みで作らないということを徹底している。等身大のシニア女性に対する理解力が強みだと思う。

当社にはお客さまを理解するためのツールがたくさんあり、それらをふんだんに利用することで理解に努めている。シニア女性の実態とニーズはどんどん変わる。私は“決めないマーケティング”と言っているが、とにかく聞くことを重視し、理解して深堀りする。

読者理解を追求している(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)読者理解を追求している(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)
「売って終わり」ではない

――グループにはシンクタンクもある。

シンクタンクの「生きかた上手研究所」だけでなく、お客さまハガキやコールセンター、グループインタビューも実施して実態把握に努めている。コロナ禍のグループインタビューはオンラインで開催したが、オンライン会議の使い方もレクチャーした。

また、お客さまの自宅に訪問して取材をさせてもらうこともある。VOCの面では、商品やサービスに関するお客さまのご意見は文章化して1件ずつチェックし、すべてに答えを出すことでスタッフのマインドがそろってくる。お客さまに対するそうした姿勢が当社のDNAになっている。

――各段階で顧客の声を聞いている。

通販の商品開発や誌面作りの前に、お客さまに話を聞いて実態を理解してから企画を立てている。商品の発売前にも試作モニターを徹底して行う。コスメなどは100~200人規模で実施している。販売後も商品にハガキを入れて顧客満足度調査を実施し、ご意見を頂いたら品質改良する。売って終わりではないということを徹底している。

必要なのは、顧客の機微を感じ取る理解力

――たとえば、コスメに関してはどんな要望があるのか。

シニア女性は年齢を重ねてシワやシミができ、それを隠そうとして厚化粧になりがちだが、実際に話を聞くと「厚化粧は嫌い」だと言う。薄化粧が良くても、それではきれいにならず、どうすればいいかと悩んでいる。

若返りたいわけではなく、若く見られたいと思っている。「若返りたい」と「若く見られたい」のニュアンスの差を見誤ると、「私たちのことをわかってないわね」と嫌われてしまう。そうした機微を感じとることが大切で、一歩突っ込んだ理解力が必要だ。

ニーズを満たすにはシニア女性の機微を感じ取ることが大切になる(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)ニーズを満たすにはシニア女性の機微を感じ取ることが大切になる(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)
「使ってみたい」と思わせる商品開発とは

――品ぞろえの方向性や通販誌の特徴は。

大事にしているのは、品ぞろえで勝負するのではなく、提案する商品によってお客さまの暮らしがどう良くなるか、気持ちが前向きになるかなどを重視している。

当社は雑誌「ハルメク」に同梱して通販誌を届けている。通販を利用されない方には、このまま通販誌を送るか聞いているが、通販を利用していなくても「そのまま送って」と答える方がけっこういる。通販誌であっても読み物として楽しみにしている方が多い

――シニア層に商品を買ってもらうのに不可欠な要素は。

当社は一つのカテゴリーに編集と商品開発の担当者がそれぞれいて、常にコミュニケーションを取っている。お客さまが「使ってみたい」とか「試してみたい」という気持ちになるのは、背景を知った上での商品に対する納得性だと思う。

「なぜこの商品なのか」ということがマッチしていないといけない。商品開発と編集者のコミュニケーションの深さと一体感で生み出す「商品×情報」が当社通販事業の強みになっている。

品質管理の徹底で顧客の離脱を防ぐ

――顧客の定着化に向けた取り組みは。

商品やサービスの品質はお客さまの離脱を防止する一番の方法だ。当社は品質管理に関しては毎週1回、「クレームゼロ」という会議を行っている。

社長や全社の幹部が集まって、1週間で届いた商品やサービスに対するお叱りを1件ずつ協議する。どういう対応を取って、それが十分だったかを話し合う。この作業は各自のベクトルを合わせるのに役立つ。もちろん、会議の中身は幹部がそれぞれのスタッフと共有する。

――品質維持には検品作業も大事だ。

当社では生産工場と指定検品所とで2回検品をしているが、工場の検品で出てきた不良の情報を必ず指定検品所に伝えるようにしている。

そうすることで、この商品で起きやすい不良の部分が見えてくるので、通常の検品時よりも精度が上がる。そうした情報は当社にも共有してもらっている。

クレームというのは必ず起きるが、大事なのは同じ轍(てつ)を踏まないことだ。

顧客理解に基づく“ハルメク”流の販促 カテゴリーをまたいだ提案が可能

――通販媒体の発刊頻度は。

通販誌は年12回発刊している。新聞広告で新規獲得をする場合は、事前にトライアルをして成果が出れば本格展開という流れだが、通販誌の場合は頻度が高いので試し刷りをするのはなかなか難しく、外さないために何が大事かというと、やはり顧客理解ということになる。

――顧客理解に基づいたハルメクならではの企画などは。

たとえば、「冷え」に関する企画はどこでも実施していると思うが、冷えると免疫力が落ちて病気になりやすくなるのが一番怖い。当社ではお客さまに話を聞きながら、単なる「冷え対策」で終わらせずに、不調を改善するための室内運動を推奨したりする。

その際も「単純な運動は長続きしない」という意見があれば“ながら運動”の企画を立てたり、睡眠時に血液が体全体に回りやすくするための寝方を提案したりする。

当社の通販事業は7つのカテゴリーがあるので、一つの企画であってもカテゴリーをまたいで、かけ算にしていけるのが強みだと思う。

コスパよりも商品価値。顧客が求める"賢い消費"とは

――シニアはコスパを求めているのか。

シニア女性に話を聞くと「コスパが良い商品、お得感のある商品が欲しい」と言うが、実売になるとそうではない。安いもので失敗するよりも、良い商品を長く使うという“賢い消費”にシニア層は移っていると感じる。

――消費者の生活防衛意識は高い。

当社も今年1月に節約企画を展開したが、私は「値上げ=悪」という公式はやめたいと思っている。「価値=価格」だと信じているので、価値を磨き、お客さまのニーズにフィットするものを作って提案するという方向にシフトしている。価値づくりが大事だ。

値上げは徐々に実施しているが単純な値上げではなく、「価値=価格」の観点から既存商品を作り変え、機能性などを高めて再提案している。

――カタログでの打ち出し方に変化は。

カタログ誌面も価値提案の取り組みに合わせて、1月発売の2月号から、巻頭部分でハルメクが考える理想の暮らしとして「ものは少なく、暮らしは豊かに」というフレーズを掲げた。

むやみにものを増やさず、少ないもので豊かに暮らせるように、当社が商品を厳選し、もっともいいものだけを提案することを伝えている。世の中にぴったりなものがなければ当社で作るというスタンスだ。

アパレルはリアルな体型のサイズ感が好評

――PB商品が売り上げの7割を占める。

ファッションでは、たとえば、お客さま130人以上の体型を3D機器で計測し、作成した50代以上のリアルな体型のトルソーでサイズを決定している。

JIS規格に則ったサイズを基準にするのが一般的だが、当社ではシニア女性に合うサイズを設定している。そのトルソーで作ったコットンプルオーバーなどが定番服として人気だ。

また、約200人の計測結果からO体型とA体型の体型別ストレッチパンツを開発して好評を得ている。

リアルな体型に則した商品づくりをしている(画像は「ハルメク 通販サイト」から編集部がキャプチャ)リアルな体型に則した商品づくりをしている(画像は「ハルメク 通販サイト」から編集部がキャプチャ)

――コスメやファッションなどのPB比率が高い。

昔着ていた服やつけていたコスメが似合わなくなったり、しっくりこなくなったりするのは、体型の変化や顔色の変化が影響している。いまの体型や顔の色味に合ったおしゃれを提案すれば似合うはずで、若い頃との変化をしっかり計測し分析することで、シニア女性に合った商品を開発している。

今後は、「ものは少なく、暮らしは豊かに」を体現できるように、商品の販売だけでなく、サービスも開発していきたい。

カタログ×Webを掛け合わせた新規開拓 同梱とマス出稿の2本軸

――新規顧客を開拓する方法は。

大きくは二つあって、一つは「ハルメク」の雑誌に通販カタログを同梱して雑誌読者に届けている。もう一つは、新聞広告などのマスメディアを活用している。

お客さまの数はビジネスの根幹なので、新規は大事だ。雑誌の定期購読者数が伸びているので通販カタログの配布数も増えている。

――顧客層の違いなどは。

雑誌の読者で通販を利用される方は「ハルメク」に対する信頼が高く、当社が選ぶものなら試してみたいという理由で購入されることが多い。

新聞広告から来訪するお客さまはまず商品に興味があるので、一度購入して頂けると、次の商品でF2転換しやすいという面もある。

「ハルメク」の読者は、F1が雑誌だとすると、通販商品の購入というF2転換にはもうワンステップ必要になる。

現状は、これまでに新規のお客さまがどんな商品を買ったのか、なぜ買ったのかを分析して作った方式に沿って段階的におすすめしている。新規用の別冊カタログを届けたりもしている。

――新聞広告などで獲得した新規顧客に対しては。

商品軸でF1からF2に転換する公式があるので、そういう商品を掲載した別冊を作ってリピーターに引き上げる取り組みを実施している。

QRコードからの誘導も。Webを閲覧する顧客は増加傾向

――Web強化は。

商品によってはカタログ誌面にQRコードを掲載してWebに誘導している。当社のお客さまがQRコードを使いこなせるか議論になり、最初の頃は冊子を作って(QRコードの)使い方を教えたので、いまはWebも見ているお客さまが増えた

カタログで展開している商品だけでなく、Web上では別デザインの服や大きいサイズを掲載したり、誌面では紹介し切れないコーディネートを提案できたりと、視覚的な情報も増やせる。

どういう内容を伝えればQRコードから遷移してチェックしてもらえるかを試している。

Webの閲覧数も増加している(画像は「ハルメク 通販サイト」トップページから編集部がキャプチャ)Webの閲覧数も増加している(画像は「ハルメク 通販サイト」トップページから編集部がキャプチャ)
「Webとのかけ算」。紙代の値上がりにはDX化で対抗

――紙代が値上がりしている。

紙のコストアップは非常に大きな負担なので、さまざまな対応をしている。雑誌からカタログという新規の大きな入り口の部分をDX化し、デジタルに大胆に切り替えていく計画がある。サブスク型のオンラインメディア「ハルメク365」を運営していて、その中のコンテンツから通販サイトに送客する仕組みを積極的に広げようとしている。

オンラインメディア「ハルメク365」(画像は「ハルメク365」から編集部がキャプチャ)オンラインメディア「ハルメク365」(画像は「ハルメク365」から編集部がキャプチャ)

カタログの優位性は間違いなくあるので、紙媒体がなくなることはないが、Webとのかけ算で考える必要がある。

お客さまの選択肢を増やすことも大事だし、お客さまがWebを選択したとしても適時、カタログを届けて誌面を楽しめるようなことも想定している。

さまざまな観点から顧客のニーズに応える(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)さまざまな観点から顧客のニーズに応える(画像はハルメクHDのIR資料から編集部がキャプチャ)

――そのほかのコストアップ対策は。

雑誌の新規読者に同梱する通販カタログ「ハルメク おしゃれ」と「ハルメク 健康と暮らし」を1冊にした合体版を昨年の夏からテストで届け始め、今年1月から本格化している。

合体版は、新規購入者をターゲットにした商品を選別して掲載することで購入率を高める狙いもある。

事業強化の筆頭は「インナー」「靴」

――2024年3月期に優先的に取り組むことは。

お客さまの数の拡大をめざす。販売チャネルとしてカタログと新聞広告、実店舗もあるが、その縦割りを崩して横の連携を強化する。

また、お客さまの幅広いニーズに応えるためには、自社ですべて取り組むのではなくシニア女性のためのプラットフォームとして機能し、他社との連携やコラボ商品などを拡大していきたい。

――特に強化するカテゴリーは。

7つあるカテゴリーのうち、まずはインナーと靴を優先的に伸ばす

インナーは元々強く、靴は理学療法士の理論をもとに当社が開発した特徴的な靴を展開しているので、これを広めていきたい。靴は実店舗でも提案しているが、「履けばわかる」ではダメで、通販でも商品の良さが伝わって、通販で購入したお客さまに満足してもらうところにチャレンジする。

また、会社としては決まっていないが、個人的な思いとして海外のアクティブシニアのニーズを拾って次の成長に向けた準備をしたい。1年以上前からマーケティング調査を行っている。

事業拡大をめざす以上、市場を広げるという意識は忘れてはいけないと思っていて、その準備は進める。

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