千趣会は前期(2022年12月期)、システムリプレイス後のトラブルから売り上げを大幅に落として赤字転落した。今期は、基幹ビジネスである通販事業のデジタルシフトを加速し、目減りした会員基盤の早期回復を図るとともに、CRM施策を組織面も含めて強化する方針だ。「これまで以上にお客さま起点で取り組んでいく」と語る梶原健司社長に、前期の総括と今期の戦略などについて聞いた。
千趣会 梶原健司社長
赤字転落の要因は?
システムトラブル+物価高騰による“買い控え”が悪影響
――社長に就任して5年目になる。
最初の3年は構造改革の実行に力を注ぎ、途中からコロナ禍に入ったこともあってブライダル事業を売却し、主力の通販事業を中心とした立て直しを図ってきた。通販事業は2020年12月期、21年12月期と2年連続で黒字となり、攻めのフェーズに入ったところで、基幹システムのリプレイス後にトラブルに見舞われた。
リプレイスのトラブルが業績に影響(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
――業績への影響も大きかった。
事態の収束に向けて数か月間、販促活動をストップしたことで、売り上げを大きく落とした。昨年後半は販促を復活させ、お客さまの信頼を取り戻すために必死に取り組んだが、販促でセッション数が増えるとサイトがスローダウンするなど、完全に元の状態に戻るのに時間がかかった。
――需要面は。
物価上昇に伴う生活防衛意識の高まりも逆風となった。当社のメインターゲットは女性なので、財布のひもは堅かったと思う。また、11月は非常に暑く、気候変動の影響を受けた。コロナは収束に向かい、消費者の外出機会は増えたが、洋服やバッグ、シューズといったファッション需要はそこまで回復しなかった。
スピード感のあるリカバリーが急務?
――厳しい1年となった。
システムトラブル後のリカバリー策も含め、もっとお客さま起点で取り組まなければいけないということが本当によくわかった1年だった。激しい事業環境の変化に順応するには、カタログビジネスを長いタームで変革するのではなく、物作りや提案の仕方、マーケティングのあり方も含めて、スピードを上げて取り組まなければいけないと感じた。
クロスメディアやEC強化に手応え。回復基調に
――業績の回復具合は。
すでにシステムに関しては通常稼働しているし、テレビCMとSNSとを連動させたクロスメディアやECを中心に販促を強化した結果、「ベルメゾン」(編注:千趣会の通販ブランド)の売り上げは22年12月単月では前年同月並みに戻った。
12月度は前年並みの業績に回復した(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
――デジタルシフトにも着手していた。
通販事業のデジタルシフトを加速させる目的で、昨年4月にセンシュカイメイクコーを設立した。新会社は、独立系経営戦略コンサルティングファームのコーポレイトディレクション(CDI)さんに20%出資してもらい、データを活用したマーケティングなどを行っている。
ECチャネルでは外部販促を強化し、オープン市場での新規開拓に取り組んでいて、前年に比べると集客効果が表れている。
オープンマーケットでは特徴や信頼の強化がカギ
――集客面の課題については。
自然検索から「ベルメゾンネット」への流入は課題が残っている。これまではSEO対策を実施することで、「ベッド」とか「テーブル」などをウェブ検索すると「ベルメゾン」の商品が上位に表示されていた。ところが、システムトラブルの期間が長かったことで、大手検索サイトのアルゴリズムに推奨されなくなってしまい、今でも自然検索の流入は苦戦している。
「ベルメゾンネット」のトップページ(画像は「ベルメゾンネット」から編集部がキャプチャ)
――購入率にも影響しそうだ。
自然検索は目的があってサイトに訪れるため購入率が高くなる。外部販促はある種、ここがECシフトの肝だと思うが、ランディングしてもらったときに、「あれ、思っていたようなサイトじゃないな」という風になりがちだ。目的がはっきりした来訪者に対するシナリオとは異なるアプローチが必要で、目標の購入率まで高めるためにチューニングをしている。
――コロナ禍で競合が増えている。
実店舗からの参入組も含めてECのプレイヤーは非常に増えた。
当社はこれまでマスビジネスを展開して売り上げを伸ばしてきた。マスと言ってもカタログを届けているお客さまであるクローズドマーケットに対してオリジナル商品を開発し、グループ会社のロジスティクスやコールセンターを活用し当社の作法で商品を届けたり、コミュニケーションを取ったりしてきた。
――オープン市場での戦い方は。
ECを中心としたオープンマーケットで戦うには、当社の作法とは異なる戦略が必要だ。当社の社名は「こけし千体趣味蒐集の会」が由来で、この社名はいまの時代にも通じる部分が多い。
「千」は多様性を、「趣」も人それぞれの価値観が反映される言葉だし、「会」は価値観を共有する人たちの集まりということで、オープンマーケットに出ていくにしても、単なるマスではなく、価値観を共有できる集合体に対してリーチしていくことが大事だ。
顧客アンケートを取ると、「ベルメゾン」は信頼できるけれど、オシャレ度やクオリティー、イメージなどがすべて平均的な会社として見られている。「ベルメゾン」をもっと信頼でき、特徴のあるブランドにしていかなければ、オープン市場のライバルに勝てないという危機感がある。
会員数減少の巻き返しへ。まずは“顧客定着”
――会員数の回復も急務だ。
前期の通販事業は購入会員数が約200万人となり、前年から48万人程度減った。通常、会員数が減る場合、ロイヤル顧客は落ちずに年間購入金額の低い層が減るというのが一般的だが、システムトラブルによってお客さまの会員ステージに関係なく、全体的に縮小してしまった。
――巻き返し策は。
今期は貴重なお客さまを手放さないように、もう一度、徹底的に顧客のファン化シナリオを実践して早期に会員規模を復活させたい。
その一環としてカスタマーエンゲージメント本部という組織を4月に立ち上げる。売り手側の発想でマーケティングはあるが、お客さまの立場に立って関係を強めていくような部門はなかったので、新組織としてCRM施策を担っていく。
千趣会が発表している業績回復シナリオ(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
――CRMで重視することは。
まずはファン化のシナリオで離脱を防ぎ、ロイヤル顧客の定着化に力を注ぐ。プロモーション的な部分もあるが、イベントなどお客さまと触れ合う機会を増やし、当社の価値観や思想を理解してもらい、「この会社と長く付き合いたい」と思ってもらうことに全力を尽くす。会員プログラムも含めて強化する。
今期は“カタログからデジタルへ”
子会社がECのノウハウを蓄積
――今期は通販事業を含めた黒字化を掲げている。
黒字化に向けたポイントになると思うが、レギュラー会員と新規会員の層は年々、カタログのレスポンスが落ちている。カタログを欲するお客さまとそうでないお客さまがいるので、昨年はカタログ配布でテストを繰り返した。今期は接点作りをカタログからSNSを中心としたデジタルプロモーションに移す。
新規会員とレギュラー会員の方々にはデジタル上の接点から購入してもらい、2回目、3回目の購入につなげていく。その際、LINEなどを活用してリーチするシナリオ作りを強化している。
デジタル化に向けて大きくかじを切る(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
――利用者の生活スタイルに合わせることが大事になりそうだ。
当社は妊娠・出産期から子育て中のお客さまが多く、そういったお客さまはゆっくりカタログを見るというよりは、空き時間にスマホで素早く閲覧する割合が高いので、タイムリーさも含めて当該層にフックする商品をどのように訴求するか、ランディングページのあり方と併せて顧客起点で変えていく。
――通販サイトの見せ方は。
「ベルメゾンネット」では商品詳細ページの画像にカタログ用の写真を流用している部分もあるが、それではオープンマーケットでは戦えない。カタログは情緒的な部分を大事にしているので、1枚の写真でフックさせるECの作法を見習って、商品詳細ページのリッチ化には昨年から取り組んでいる。
――カタログとは言葉の選び方も変わってくる。
子会社のセンシュカイメイクコーがECマーケティングのノウハウを蓄積し、商品ごとにECで的確にヒットするような表現、コピーに変えている。集客力が増してオープンの場で戦えるようになってきていると思う。
プロモーションはメイン商品に集中。費用対効果を見ながら
――そのほか、黒字化への取り組みは。
徐々に商品型数を絞り込んでいく。従来から思いのこもった、差別化された商品を軸に売り上げが立っているし、オリジナル商品が支持されているので、原価率の精査も含めて品ぞろえを見直す。
併せて、これまで以上にお客さまの価値観やライフスタイルを理解することで、愛着を持って長く使って頂ける商品の開発を強化する。
昨年はシステムトラブルによって事前に発注していた商品が在庫として積み上がり、バーゲン販売を増やさざるを得なかったことを踏まえ、発注のあり方も調整したい。
――販促費のかけ方も変わってくる。
型数を絞りながら、「ベルメゾン」のメインとなる商品にプロモーションを集中させる。センシュカイメイクコーが中心となって、ROASやCPAなどを考慮しながら効果的にECのプロモーションを実施する。
カタログ部数は削減へ
――カタログの配布部数は。
今年の春号から減らすが、特に新規獲得面で苦戦しているお盆明け後の秋号での削減を計画している。
――「ベルメゾン」で強化する商品群は。
妊娠・出産、子育て領域の商品カテゴリーは間違いなく強化していく。提携して今年で30年を迎えるウォルト・ディズニー・ジャパンさんとの取り組みもそうだ。当社が国内でディズニーキャラクターのオリジナル商品を作れるという形で提携している。
親会社のウォルト・ディズニー・カンパニーさんは今年生誕100年なので、イベントも含めて打ち出しを強めていく予定だ。
外部ECや海外展開を強化
――そのほかは。
「花笑むとき」というカタログを軸に展開しているシニア領域にも力を注いでいきたいし、フェムテックについても女性に寄り添ってきた会社として、1人ひとりが輝けるようにサポートしたい。外部の知見を頂き、提携なども含めて世の中に貢献し、社会課題を解決していきたい。
――販売面は。
「ベルメゾン」という通販事業全体のブランディングは実施しているが、もっと商品ごとのブランディングを見直して、当社のECやカタログだけではなく、外部ECモールなどでの展開や海外市場に出ていくことも考えている。
現在、中国市場は上海の子会社が「タオバオ」(編注:中国のECモール)で商品を販売しているが、強い商品群、ブランドができれば、東南アジアなども候補にECチャネルで攻めていきたい。
「千趣会×●●」。異なる2社の組み合わせで新価値創造
――JR東日本との協業については。
「ディズニー ファンタジー ショップバイ ベルメゾン」をJR東京駅構内で展開し好評だが、「ディズニー ファンタジー ショップ」以外でも大きな塊として出店したい。両社の取り組みはリアル店舗とECチャネルで訴求できる強みがある。
買取サービスに手応え
――オークネットとの商品買取サービスを本格化した。
「キマワリ」(編注:オークネットとの共創事業として展開している宅配買取サービス。「ベルメゾン」の会員が対象)については、サービスをご利用頂いたお客さまの継続率が飛躍的に改善するといったトライアルの結果を受けて、昨年11月に本格始動した。
いまはファッション商材を対象にしているが、今後は買取対象商品の拡大など取り組みを加速する。
オークネットなど他社との共創を推進(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
――サステナビリティへの関心が高いユーザーが多い。
その通りだ。「キマワリ」利用者の高い買い物継続率だけでなく、「ベルメゾン」での購入頻度や購入単価が上がるという効果もあって、ロイヤリティに結びついていると感じる。この取り組みは思っていた以上に効果が出そうだ。
――独自の共創モデルの確立をめざしている。
JR東日本さんとの提携や「キマワリ」、JFLAホールディングスさんとのワインやグルメをはじめとしたEC事業も含めて、異なる2社の組み合わせによっていろいろな可能性を見出すことができると思っている。
顧客資産やビジネスアセット、フルフィルメントを活用して、理念が合う取引先と協業をさせて頂きながら、社会貢献につながる事業を展開していきたい。
2025年度を最終年度とした中期経営計画でも他社との共創に言及している(画像は千趣会の2022年度通期IR資料から編集部がキャプチャ)
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オリジナル記事:赤字に転落した千趣会、梶原社長が語るV字回復に向けた2023年度の戦略とは | 通販新聞ダイジェスト
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