アップルの後払い決済「Apple Pay Later」(Apple Payで後払い)はシェアを伸ばす? BNPL導入効果や市況感まとめ | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2023年5月11日(木) 08:00
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決済手段の1つとして、後払い決済サービスを消費者に提供する事業者が増えています。Appleの後払い決済サービスは小売事業者の売上拡大につながるかもしれません。理由を解説します

AppleがBNPL(後払い決済)サービス「Apple Pay Later」を導入することは、小売事業者にとって売り上げを伸ばすチャンスにつながる――と、業界専門家は口をそろえます。ただ、分割払いの場合には利息の支払いが発生するなど、消費者へ透明性を担保することが重要になります。記事では、BNPLサービスの市況、「Apple Pay Later」(Apple Payで後払い)の特徴を解説します。

記事のポイント
  • 『Digital Commerce 360』発行「北米EC事業 トップ1000社データベース 2023年版」にランクインしている小売事業者のうち、40%が「Apple Pay」を導入。消費者に決済手段の1つとして提供している
  • トップ1000社のうち、半数(54%)が何らかの方法で後払い決済サービスを消費者に提供している
  • 17億4000万人以上のiPhoneユーザーを抱えるApple(2023年現在)が提供するBNPLサービスは、消費者の信頼を得やすい
オンライン決済での後払い利用は増加傾向

Appleは2023年3月、BNPL(後払い決済)サービス「Apple Pay Later」の提供を開始しました。EC業界の専門家は「Appleの新サービスは小売事業者にとって、売り上げを伸ばすチャンスである一方、(後払い決済を提供するならば)消費者に対して透明性を担保することが重要」だと説明します。

「Apple Pay Later」のイメージ(画像は編集部がAppleのサイトからキャプチャ)「Apple Pay Later」について(画像は編集部がAppleのサイトからキャプチャ)

米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』のトップ1000社データベースにランクインしている小売事業者の40%は、すでに「Apple Pay」を提供しています。また、半数(54%)が何らかの後払い決済サービスを実装しています。後払い決済の導入割合は、2022年の45.8%、2020年の28.2%から大きく増えています

インフレが続くなか、消費者はより後払い決済サービスの利用に目を向けているようです。Adobe Analyticsの分析データによると、2022年に後払い決済を使ったオンライン購入の割合は前年比14%増、その額は同27%増となりました。

また、AdobeのDigital Price Index(デジタル物価指数。Adobe Analyticsを利用して、消費者による小売サイトへの1兆回の訪問と、18の商品カテゴリーにおける1億以上のSKUを分析してまとめている)によると、経済の不安定性が増した2023年1-2月における後払い決済の受注シェアは、前年比10%増だったのに対し、売り上げは前年比19%減でした。

消費者が後払い決済を少額の買い物に利用していることを示している。(Adobe)

Appleによってさらなる拡大が見込まれる後払い決済市場

高級オンラインマーケットプレイス「Orchard Mile」を運営するOrchard Mileのジャック・ベナルデテCEOは、「Apple Pay」でのチェックアウトは「とても簡単」だと言います。

ベナルデテCEOは、決済に占める「Apple Pay」の利用率は明らかにしていませんが、「ECサイトでBNPLを利用するお客さまは15%未満です」と説明。その数字は前年比で1〜2ポイントほど増えているそうです。

米国の消費者の商習慣を読み違えていなければ、後払い決済の利用は今後増え続け、Appleは大成功するでしょう。(Orchard Mile・ベナルデテCEO)

顧客のロイヤルティ向上につながる側面も

消費者金融サービス会社Bankrate.comの上級業界アナリスト、テッド・ロスマン氏は「Appleの後払い決済分野への参入、それに続く貯蓄口座(編注:Apple・Card〈Appleのクレジットカード〉のユーザーに年率4.15%の金利を提供する高利回りの貯蓄預金口座)の開設は、顧客ロイヤルティを向上させるための取り組みの1つだ」と言います。

「Apple Pay」「Apple Pay Later」を利用したり、クレジットを利用する権利を得たりするためには、Appleのデバイスが必要です。Appleの貯蓄口座を手に入れるには、Apple Cardが欠かせません。

また、AppleのP2P(編注:端末同士で直接データファイルを共有することができる通信技術やソフトウェア)決済サービスも特筆に値します。ここでのAppleの狙いは、世界中に数多く存在する、熱心なAppleファンに訴求することです。(Bankrate.com・ロスマン氏)

P2PのイメージP2Pのイメージ

「HubSpot」(編注:インバウンドマーケティングのプラットフォーム)のデータレポートおよび分析ソフトウェアベンダーであるDemandSageによると、2023年時点で全世界のiPhoneユーザーは17億4000万人を超えるといいます。

ロスマン氏は「Apple Pay Later」について、Appleと多くのAppleデバイスユーザーにとっては大きなインパクトと言える一方で、小売事業者へのインパクトはそれほど大きくなるとは考えていません。

後払い決済サービス昨今、急速に成長している決済手段であり、売り上げを増加させることが期待されています。私は、「Apple Pay Later」は小売店全体の売り上げを変えるゲームチェンジャーになるというよりは、成長分野であるBNPL市場での事業拡大、Affirm、Afterpay、Klarnaといった後払い決済サービスの競合他社に対する脅威になると見ています。(Bankrate.com・ロスマン氏)

後払い決済サービスの導入はセキュリティに注意

後払い決済は、消費者にとって新しい支払い方法のオプションです。しかし、詐欺・チャージバック防止ソフトウェアベンダーであるClearSale社の市場戦略責任者であるマルセロ・クエイロズ氏は「小売事業者はセキュリティ上の問題を考慮する必要がある」と言います。

BNPLアカウントの作成には、ユーザーの限られた情報しか必要ありません。銀行口座のような強固に保護されたアカウントと比較して、サイバー犯罪者がこれらのアカウントを乗っ取ることは容易です。

もし詐欺師がアカウント作成時にアカウント情報を盗んだら、他人のデータを使って事前に承認された融資枠を受け取ることができ、実際の所有者は全く気が付かない可能性があります。(ClearSale・クエイロズ氏)

アカウントが設定されると、小売事業者はその消費者が本物の認証情報を使っており、信頼できると判断します。そうなると、小売事業者は注文を断ることが少なくなり、結果的に潜在的な問題を引き起こしやすい――とクエイロズ氏は説明します。

クエイロズ氏は、Eコマースの不正防止ソリューションを提供しているClearSale社が発表したレポート「Eコマースに関する消費者意識の現状」(2021年版)を元に、次のようにコメントしています。

5か国で実施した調査では、40%の消費者が「注文が誤って拒否された場合、二度とその小売事業者のサイトには戻らない」と回答しています。(ClearSale・クエイロズ氏)

後払い決済サービスの利用は拡大と予想、小売事業者は導入の検討を

AppleのBNPLサービスについて、顧客体験ソフトウェアベンダーであるUberallのジェニファー・スティーブンソン氏(シニアプロダクトディレクター)は次のように指摘しています。

すでにiPhoneやiPadを利用している顧客は、「Apple Pay Later」もすぐに利用するようになるかもしれません。これは「Apple Pay」が迅速かつ強力に導入された時と似ています。(Uberall・スティーブンソン氏)

スティーブンソン氏はさらに「消費者は便利なものを求めるものだから」と付け加えました。同氏は同時に、小売事業者は消費者に対して、分割払いの場合に利息の支払いが発生する可能性があることを明確に伝えるべきだと提唱しています。

企業は、信頼できる著名なブランドが提供する後払い決済サービスを採用すべきです。その点、Appleは明らかに世界最大の企業の1つ。小売事業者は、Appleの後払い決済サービスの導入を検討することにためらう必要はないでしょう。(Uberall・スティーブンソン氏)

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この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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