エアークローゼットは、月額定額でプロのスタイリストがユーザー1人ひとりに合った洋服を選んでくれるサブスク型ファッションレンタルサービス「エアークローゼット」が好評で、ファッションレンタルのパイオニアとして市場をけん引している。
2022年7月29日には東証グロース市場に新規上場。成長スピードを加速していく。同社の天沼聰社長兼CEOに事業環境や展望などを聞いた。
エアークローゼット 天沼聰社長兼CEO
上場は創業当時から視野。「資金調達と信頼獲得のため」
――2022年7月、東証グロース市場に上場した。
「エアークローゼット」のような消費者向けサービスを拡大するには、しっかり資金調達を行うことと、消費者や業界の信頼・信用を獲得することが不可欠だ。創業時から、コストコントロールが設定した水準に達したら上場しようと考えていた。
「エアークローゼット」トップページ(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
コロナの影響が長引いたり、世界情勢も不安定だったりして株式市場は低調で、当社事業の状況にかかわらず、外的要因で企業価値が下がってしまうことは悩んだ。
ただ、上場の目的である信頼・信用の獲得という面を大事にしているし、資金調達についても当社のサービスはものすごく多額な資金がないと回らない状況ではなかったので、当初から定めていた上場ラインをクリアしたタイミングを逃さずに、歩を進めることになった。
ファッション・アパレル業界は回復傾向
――ファッション・アパレル業界やサブスク市場の現状をどう見ているか。
ファッション・アパレル業界はようやく実店舗も含めて全体が回復基調にある。一方、原価上昇の影響でファッション商材の値上げが始まっている。コロナも完全になくなったわけではなく、観光業界などが戻ることでファッション市場の回復が強まることを期待したい。
ファッションサブスク市場については、ファッション・アパレル業界の動きと大きな違いはなく、春や秋といった季節、シーズンの変わり目に新規ユーザーの登録が増える傾向にある。
エアクロの人気は“自分に合う服探しをアウトソーシングできる”から
――消費者から「エアクロ」が支持されている理由は。
レンタルの経済合理性もあると思うが、一番はパーソナルスタイリングの部分だと思う。お客さまの声を聞くと、「洋服を探す時間がなかったけれど、最近はファッションを楽しめるようになった」「自分の生活リズムを変えることなく、マンネリ化したファッションから解放された」といった声が多く、服探しをアウトソーシングしている感覚だと思う。
エアークローゼットは今後さらなるパーソナライズ需要の高まりを指摘している(画像はエアークローゼットのIR資料から編集部がキャプチャ)
――百貨店もファッションサブスクに参入したが、引き続き「エアクロ」が市場をけん引している。
ファッションサブスク、ファッションレンタルを市場として認めて頂き、「エアークローゼット」が話題に上る機会も増えた。コロナ禍もあって、多くのブランドさんが新しいユーザーとの出会い方や試着してもらう方法を、自社ECを含めて模索していて、ファッションレンタルに関心を持つブランドさんが増えている。
当社のファッションサブスクの仕組みを外部提供するプラットフォーム事業に対する問い合わせも増えている。
ファッションレンタル市場の高まりを受け、エアークローゼットは創業以来堅調に売り上げを伸ばしている(画像はエアークローゼットのIR資料から編集部がキャプチャ)
――以前と比べてアパレル企業の宣伝方法も変わった。
従来であればファッション誌などに広告を掲載することで認知を高めるというのが一般的な業界だったが、スマホの普及やSNS時代にあっては、消費者一人ひとりが細分化された情報に触れることが多くなったり、生き方としての多様性が尊重されたりする流れなども、マーケティング手法に影響が出ていると感じる。
“出会い”を作ることができればファンになってもらえる可能性のあるブランドさんが多い中で、「エアークローゼット」は試着以上の体験を提供できている。
――スタイリストが単一ブランドの洋服でコーディネートを組むサービスも始めた。
2022年1月から、コーディネート提案するブランドを利用者が指名できる「ブランドセレクト」というオプションを始めていて、足もとでは14ブランドが参加している。このオプションを使うお客さまは参加ブランドのファンだと思っていたが、実際には9割の方がそのブランドを定期的に購入している人ではなかった。
「ブランドセクション」は新たな顧客接点としてブランドから喜ばれている(画像は「エアークローゼット」から編集部がキャプチャ)
数年前に一度買ったことがあるとか、店舗で見たことはあるが買ったことはないなど、ブランドは知っていても試したことがない、頻繁に購入していない人が多く、参加ブランドさんには喜んでもらっている。
ブランドセレクトオプションは、ブランドさんからもオプション料金を頂いている。それは、ブランドごとにスタイリングを組むために品ぞろえのバリエーションを増やす必要があり、仕入れの幅を広げることになるからだ。
事業の底上げでサービス力アップ
倉庫管理システムを内製化
――「エアクロ」のビジネスは服の仕入れや、倉庫まわり、クリーニング・メンテナンス工程、スタイリストの確保・教育などが重要になるが、課題感や優先的に強化が必要な部分は。
創業以来、それらのバランスをとりながらサービス力を高めてきた。お客さまの総定数に対してそれぞれのキャパシティに不足がないようにしてきた。洋服の仕入れについては各ブランドさんとしっかり話をしているので、数量やバリエーションの確保に問題はない。
倉庫やメンテナンスの能力も長い目で見ると拡充する必要はあるが、当面は問題なく稼働できる。創業時から物流の企画チームを立ち上げて業務フローのノウハウを蓄積してきた。
倉庫管理システムを内製化したことは大きく、仮に倉庫移転があってもデータの管理方法などにも問題はない。
コロナ禍で辞職に追い込まれた販売員の受け皿にも
――スタイリストについては。
スタイリストの人数も少しずつ増やしていて、応募状況や教育のスピードも常にチェックしている。
コロナの影響でアパレル店舗が閉じ、販売員を辞めざるを得なくなった人に当社の教育を受けてもらい、パーソナルスタイリストとして再度、ファッションの世界で活躍できる受け皿としても機能したい。
学生の求人も減っていると思うが、ファッション業界を志す人の未来をサポートできる存在になっていきたい。
エアクロを「知っている」から「使う」に変わる過程を重視
――事業としては基盤づくりのフェーズからユーザー数を増やすフェーズにある。
その通りだ。従来から取り組んでいるレディース向けのファッションレンタルはポテンシャルが高く、引き続きその領域を伸ばしていく。
認知度調査を行っても、昨年夏にテレビCMを放映する前の「エアークローゼット」の認知率は4%くらいで、大半の人が当社のサービスを知らない。
まずは知ってもらい、使ってもらわないとわかりにくいサービスなので、使ってもらうまでのプロセスを重視していく。
――会員獲得に向けては。
無料会員は有料会員への入り口としてもちろん重視している。無料会員については、当社のレンタルの基準は外れたけれど、まだまだ着用できる洋服を安価で販売する「エコセール」を利用できるメリットもある。
クーポン施策などで会員獲得に向けた取り組みを継続的に実施している(画像は「エアークローゼット」から編集部がキャプチャ)
一方で、毎月の新規有料会員登録数の10%前後が一度退会されたお客さまというデータもあるので、そうしたお客さまにも洋服の新着情報などを案内している。
事業成長のための新たなステップは?
メンズ分野にサービス拡大
――事業成長に向けた次の一手は。
成長スピードを速めるために、メンズなどほかのセグメントにレンタルサービスを広げていく。また、プラットフォーム事業についても外部にレンタルサービスの仕組みを提供することで、ファッションレンタルの市場そのものが広がると考えている。
エアークローゼットが掲げる中長期成長戦略。事業領域拡大による成長を見込む(画像はエアークローゼットのIR資料から編集部がキャプチャ)
――新規セグメントの優先順位は。
メンズやシニア、キッズ、マタニティなどさまざまな候補があるが、現状ではメンズを考えている。品目数が多くて探すのが難しく、パーソナルスタイリングが効いてくる領域としてメンズのカジュアル、オフィスカジュアルはこれまで培ってきたノウハウを発揮しやすい。並行して、プラットフォーム事業にも力を注ぐ。
アジア、市場をターゲットにした海外展開も視野にあるが、それはもう少し先になる。
ブランドにとって、顧客との新しい出会いを作る
――アパレル・ファッション業界への貢献については。
お客さま1人ひとりにフィットするブランドに出会ってもらい、そのファンを増やすことが、業界にとっても新しいお客さまとの出会い方として価値があると思う。
もう1つはパーソナルスタイリングだ。ファッションが好きな人にとっても新しい発見が多いサービスなので、お客さまの興味・関心が広がることは、リアルの場でも試着の幅が広がることになる。
これまで時間とコストをかけてきた物流を含めた当社のプラットフォームを外部提供することで、ブランドさんの新規事業や会社の成長にも貢献したい。
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オリジナル記事:サブスク型ファッションECのエアークローゼット社長が語るファッションECの事業環境+今後の成長戦略 | 通販新聞ダイジェスト
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