北の達人コーポレーションの木下勝寿社長が、売れるネット広告社主宰の「D2Cの会」に登壇し、一代で東証プライム上場を実現した木下氏が実践する「ファンダメンタルズ ×テクニカル マーケティング」の秘訣を解説した。今までにない成果を生み出す「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング」について、踏み込んだノウハウをお伝えする。
ファンダメンタルズマーケティングを可能にする「4段階セールスコピー」
前編において、クリエイティブ制作ではいきなり広告表現を考えるのではなく、まず「誰に」「何を」伝えるのかを確定させなければならないことをお伝えした。
北の達人コーポレーション 代表取締役社長の木下勝寿氏
すなわち、「誰に(どのようなターゲットに向けて)」「何を(どのようなUSPを)」伝えるのかが確定して、初めて「どのように」伝えるのかを考える段階に入っていくのだ。この時に有効なのが「4段階セールスコピー」である。
4段階分けの例【薄毛対策の育毛剤】
- 第1段階(大分類)
- まずは、薄毛対策をする消費者の選択肢を分類する(「サロンなどに通う」「自宅でケアする」など)。サロンに通うデメリットとして、「通うのが面倒くさい」「押し売りの可能性」があげられる。一方、自宅でケアするメリットには「自分のペースでできる」「いつでもやめられる」などがある。
- 第2段階(中分類)
- 上記のメリットを踏まえ、「自宅でケアする」を起点として中分類に入る。自宅でケアする場合の選択肢として「サプリメント」「育毛剤」がある。サプリメントの場合「成分が届いてほしいところに届くかわからない」というデメリットがあり、育毛剤の場合は「直接患部に届く」のがメリットだ。
- 第3段階(小分類)
- さらに、「育毛剤」を起点として選択肢を考えると、「サラサラしたテクスチャーのもの」、「ベトベトしたテクスチャーのもの」がある。サラサラした育毛剤は「浸透する前にポタポタ落ちてくる」可能性があるが、ベトベトした育毛剤は「患部に塗った後、長時間残りじっくり浸透する」というメリットがある。
ただし、ベトベトした育毛剤は「塗った後、髪型に影響を与えてしまう」というデメリットもある。自社がどのような商品を扱っているかによって、競合商品のデメリットと自社商品のメリットを考える必要がある。
- 第4段階(商品分類)
- 「ベトベトした育毛剤のほうがいい」という結論になった場合、自社商品をベトベトしたテクスチャーの他社の育毛剤と比較していく。
木下氏は4つの段階を経たセールスコピーを提唱している
上記の流れをコピーにすると、次のようなテキストに落とし込むことができる。
「4段階セールスコピー」の例【薄毛対策の育毛剤】
- 第1段(大分類)
- 【例】「薄毛対策は長期で取り組むものだから、通うのは大変ですよね。自宅で無理なく続けたいですよね」
- 第2段階(中分類)
- 【例】「自宅でケアするならサプリメントと育毛剤がありますが、成分がどこに届くかわからないサプリメントよりも患部に直接届く育毛剤がおすすめです」
- 第3段階(小分類)
- 【例】「育毛剤の液体はサラサラしたタイプとベトベトタイプがあります。サラサラタイプは浸透前にボタボタ落ちますが、ベトベトタイプはしっかり患部に届きますよ」
- 第4段階(商品分類)
- 【例】「ベトベトした液体タイプの育毛剤ならこれです!」。
競合の商品を1つひとつあげてつぶしていくのは大変だが、このようにグループでほかの選択肢をつぶしていくことによって、効果的にセールスコピーを作成することができる。
「2次クリエイティブ」を作れてこそマーケター
「ファンダメンタルズマーケティング」のクリエイティブを制作する際は、まずフィールド情報が必要となる。「フィールド情報」とは、ユーザー情報、商品情報(成分など)、競合情報(メソッド競合、プロダクト競合、他社のクリエイティブなど)などを指す。
「フィールド情報」をもとに「オリエン情報」を抽出し、クリエイティブに生かしていく
このフィールド情報をもとに「オリエン情報」が作られる。「オリエン情報」は、メーカーから代理店や制作会社に渡す情報、あるいは自社で商品企画をしている企業の場合は、クリエイティブチームに渡す情報だ。
たとえば、ユーザーにインタビューした生の情報が「フィールド情報」であり、インタビューした内容をまとめて紙や動画にした情報が「オリエン情報」となる。
フィールド情報の情報量が「1000」だとすると、オリエン情報は「100」まで絞られる。オリエン情報をもとに最初に作られるクリエイティブを「1次クリエイティブ」と呼ぶ。「誰に、何を、どう伝えるか」の部分である。ここでの情報量は「10」までそぎ落とされる。
クリエイティブが疲弊(ひへい)してきたときや、新しい媒体に広告を出す際に制作する。文章を多少変える程度なので、情報量は変わらない。
他社の類似商品を見て、他社を参考にしながらブラッシュアップする。
オリエン情報に戻って、再度ゼロから再構成する。
フィールド情報に戻って制作する。ゼロからユーザーインタビューをする、成分を1つひとつ確認するなど、商品の企画までさかのぼる。
北の達人コーポレーションでは、2次クリエイティブを作れる人が「マーケター」で、それ以外を「クリエイター」と定義しているそうだ。
広告を出稿しているとクリエイティブの疲弊が起きてくる。チューニングして延命しても「これ以上伸びない」という状態になったときに、「この商品はもうダメだ」と思うのか、2次クリエイティブを作るのかによって商品の寿命が変わってくる。
自動車で例えると、これまではビジュアル面を売りにしていましたが、実は「加速性も強み」だという場合、加速性を訴求するクリエイティブを作り直すことで、息を吹き返させるのがマーケターの仕事なのです。(木下氏)
正しいA/Bテストのあり方とは?
ここからはテクニカルマーケティングの領域に入っていく。まず、A/Bテストをする際は、「何」と「どう」のレイヤーを意識するべきだという。
フリースを例に考えてみよう。フリースの特徴が「軽さ」と「暖かさ」だとして、どちらをメインの訴求にするかをテストすることが「何」のレイヤーのA/Bテストになる。
具体的には次のようになる。
「着ていることを忘れさせる軽さ」VS「季節を勘違いしてしまうほどの暖かさ」
このテストの結果、「着ていることを忘れさせる軽さ」がよりクリックされた場合、軽さを訴求した方がよいということがわかるので、次に「どう」伝えていくのかのレイヤーに入っていく。
たとえば次のようなコピーが考えられる。
「着ていることを忘れさせる軽さ」VS「奇跡の200g、スマホ1 個分の軽さ」
ここで「奇跡の200g、スマホ1 個分の軽さ」VS「季節を勘違いしてしまうほどの暖かさ」としてしまうと、レイヤーのずれたA/Bテストになってしまうので、注意が必要だ。
比較レイヤーのずれたA/Bテストでは正しい検証ができないため、注意が必要だ
売上最大化と利益最大化は違う
D2Cビジネスは、すべて1円単位で数字を細かく計算できるビジネスである。
きっちり計算すれば確実に利益が出るので、利益を出すための計算式が大事になってきます。(木下氏)
木下氏が提唱する“利益を出すための計算式”
D2Cにおける利益は、顧客1人あたりの利益(LTV-CPO)× 顧客獲得数である。ここのバランスを最高値になるようにすることが重要だ。
仮にLTVが1万円で、CPOを6000円、7000円、8000円とすると、1人あたりの利益はそれぞれ4000円、3000円、2000円となる。
CPOが高ければ獲得件数は多くなるので、顧客獲得件数はそれぞれ1000件、1500件、1800件とする。LTVに顧客獲得件数を掛けると、売り上げはそれぞれ1000万円、1500万円、1800万円になる。
多くの人は、顧客1人あたりの利益が黒字であれば、売り上げを最大化すれば利益が最大化すると考える。ただ、全体利益でみるとそうではないケースがある。
木下氏は売り上げではなく利益の最大化を狙うことをすすめている
「全体利益」とは1人当たりの利益×獲得件数だ。CPOが7000円の場合、全体利益は3000円×1500件で450万円、CPOが8000円の場合、2000円×1800件で360万円となる。
売り上げが大きいのは後者だが、利益が大きいのは前者である。「売上最大化と利益最大化は違う」ということがわかるだろう。
広告運用をする際は、CPOを上げれば上げるほど獲得件数が増えていく。ただ、CPOを上げることによって利益の減少が起きるので、この計算をきっちりしていないと獲得件数は増えても利益が減るという事態になってしまう。
売り上げを下げても利益を最大化する方法とは?
北の達人コーポレーションでは、「売り上げ」よりも「利益」の最大化に注力している。それを下支えしているのが「売り上げ最小化、利益最大化の法則」である。
たとえば、年間LTV1万1000円、上限CPO1万円、年間目標利益1000円の案件があったとする。1000万円の広告費をかけて1000件の顧客を獲得した場合、CPOは1万円となる。年間売上は1100万円、年間利益は100万円、利益率は9%だ。
ここで、広告の内訳をキャンペーン単位、もしくは広告原稿単位で詳しく見ていこう。
広告Aは300万円、広告Bは100万円、広告Cは600万円で、計1000万円の広告費をかけていたとする。獲得件数はそれぞれ375件、125件、500件で合計1000件であった。CPOで見ると、それぞれ8000円、8000円、1万2000円となる。
広告全体の平均CPOは1万円だったが、CPO1万2000円の広告Cは上限CPOを超えており、1年で見ると赤字であることがわかる。
この広告Cを止めると、売り上げ550万円、利益150万円、利益率27%となり、売り上げは半減するが、利益は1.5倍、利益率は3倍になる。これが「売り上げ最小化、利益最大化の法則」が意味するところだ。
CPOの上限を超えている広告をあぶり出し、利益の最大化につなげていく
通販・D2Cビジネスは、広告さえ出せば売上は絶対に上がるが、どうやって利益を出していくかが重要になってくる。
北の達人コーポレーションでは、運用している広告に対し、デイリーでCPOを計算し、上限CPOを超えているキャンペーンを停止し、採算が合っている広告しか回らないような仕組みにしている。
ストップした広告は、CPO、CVR、CPCなどの数字を見て、広告原稿や出稿条件などをチューニングして再出稿。採算が取れている広告のみを残すようにしている。
近年は、広告出稿量が増加してCPOが高騰する中、採算の合わない広告を出している事業者が多い。1社1社がWebマーケティングのスキルを上げて、採算の合わないムダな広告を出さなくなると、事業者の利益が増える。
無駄な広告がなくなり、ユーザーにとってWebメディアが使いやすくなると、メディアの視聴時間が増えて広告枠が増える。メディアの売り上げも上がる。
無駄な広告をなくすことによって、広告主・ユーザー・メディアのハッピーなトライアングルが完成すると考えています。1社1社のスキルアップがデジタルメディアの世界を変えていくのです。(木下氏)
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オリジナル記事:北の達人の木下社長が語る「利益を生みだす一流のマーケッター」になる方法。Webマーケの成果を最大化するノウハウを解説 | 「D2Cの会」が解説、D2Cビジネス成功の秘訣
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