消費者庁が「認知機能」を標ぼうする機能性表示食品の一斉監視を行った。景品表示法、健康増進法に基づき、115社の131商品に表示の改善を指導。総数は販売商品の約6割に上る。注目されるのは、今回の監視にあたり「事後チェック」の新たな監視スキームを構築していることだ。今後も同スキームを活用した監視が行われる可能性がある。
販売商品の約6割に表示改善を指導
ダイエットや便通改善、肌の保湿。制度導入で、企業が表示できる範囲は飛躍的に広がった。新たな市場として注目された1つが「認知機能」。そこに冷や水を浴びせる事態だ。
消費者庁は今年3月、「認知機能」を標ぼうする機能性表示食品で、認知症や物忘れの予防・改善が期待できるとの消費者の誤認を招く表示が氾濫している状況を問題視。
誤認が生じた場合、健増法の「勧告」の発動要件でもある「国民の健康に重大な影響を及ぼすおそれ(適切な診療機会を逸する)」があるとして、事後チェック指針に基づく一斉監視を行った。
景品表示法・健康増進法に基づく改善指導の方針
指導のパターンは2つ。1つは、物忘れや認知症の治療・予防など「医薬品的効果効能が得られるかのような表示」。より問題性が強く、健増法、景表法の両法に抵触するおそれがあるとして、3社の3商品に直接電話で表示の見直しを指導した。
もう1つは、「届出された機能性の範囲を逸脱した表示」。景表法が規制する優良性とまで即断できないものの、健増法に抵触するおそれがあるとして、メールと書面で112社の128商品に表示の改善を求めた。
消費者庁の表示改善に関する書面
「記憶力」など認知機能関連の表示を行う機能性表示食品は2月末時点で223件。約6割に上る商品が指導を受けたことになる。
消費者庁が「切り出し表示」などを問題視
「認知症は早めに対策すれば発症や悪化を防げる」、「アルツハイマー型モデルマウスが野生型マウスと同程度まで記憶障害が改善」。3社の表示を見ると、同業者でも「疾病の治療・予防と受け止められても仕方がない」(業界関係者)と眉をひそめる表示が並ぶ。112社の表示例とかい離もあり、むしろ指導で済んだのは幸運だ。
一方、112社には「もらい事故」「3社のついで。迷惑な話」と不満の声も聞かれる。とくに問題のある3社を取り上げ、従来の規制手法で景表法に基づき調査する選択肢もあるからだ。
理由の1つは、消費者庁が「切り出し表示」を問題視していたことがあるとみられる。事業者からも、「届出表示からの切り出しで説明不足となり、全体印象として表示の範囲を逸脱との指摘を受けた」、「『報告されている』との文言追加をしつこく言われた」との声が聞かれる。
18年の「『歩行能力の改善』問題」と同じだが、「切り出し表示」は訴求力を強くする。また、トクホとの相克もある。
たとえば、血圧関連。国の許可を得て、審査に時間も要するトクホは「血圧が高めの方に」。一方の機能性表示食品は「血圧を下げる機能があることが報告されています」、「血圧を低下させる機能が報告されており」とバリエーションが豊富。切り出せば「血圧を低下」「血圧を下げる」と、表示の強さでトクホと逆転現象が起こる。
制度の導入でトクホの魅力が失われるなか、消費者庁がこうした表示の蔓延を問題視しているとの情報も寄せられていた。一斉監視によりこれをけん制する意図があったのではないだろうか。
ヘルスケア表示指導室&食品表示対策室の規制タッグを結成
今回、消費者庁は「蔓延する問題表示」の是正に向け、「スピード感を重視した」(南雅晴表示対策課長)とする。
活用したのが、通年で行う「健康食品のインターネット監視事業」のスキームだ。通常は四半期単位で実施。ロボット型全文検索システムを用い、特定のキーワードで検索された商品を目視で監視する。
表示対策課の執行・指導ラインは、表示対策課長(公正取引委員会)配下に「ヘルスケア表示指導室」(厚生労働省)、「食品表示対策室」(農林水産省)という混成部隊。「ネット監視(健増法による指導)」は、ヘルスケア表示指導室が、「食品監視(景表法による執行・指導)」は、食品表示対策室が担う。役割の異なる両室を表対課長が取りまとめる布陣だ。
機能性表示食品の表示への対処を振り返ると、「葛の花事件」(17年)は景表法による措置命令、「歩行能力の改善問題」(18年)は薬機法の観点から厚労省の指摘を受け、消費者庁が届出表示の「撤回」を指導している。ただ、措置命令は違反認定に時間を要する。
また、今回は届出表示そのものではなく広告の問題で、「撤回」の必要性はない。表示の蔓延から個別の対処が難しいなか、効率的・効果的に是正を図る手法として、両室横断で指導を行う新たな規制タッグを結成したのだろう。
一斉監視は2月に実施。指導は3月、要請文書で4月8日までに改善を求めるなど早期是正を可能にしている。
健康食品なら「指導」ではなく「処分」の可能性もあった
各社の反応は「要請に従った形で修正」、「新規向け広告はオフラインも同様の認識で止める。販売は終了しないが今後は縮小」と概ね修正で対応する。
一方、指導には「全体の印象で逸脱しているとして具体的な修正箇所は不明確」、「指摘内容がよくわからず見直しの余地がないため削除する」、「具体的な逸脱例と正しい表現例を提示してもらいたい」と対応に苦慮する声もある。
消費者庁の対応にも「指導先が多く、担当者で対応が異なる。具体的助言を得たところもあれば、要領を得ないところもある」と差が生じている。
景表法などの法令上の問題となるおそれのある表示
機能性表示食品への広告規制に「また始まった」「一度届出を受理したものなのに」と、意欲を削がれる事業者もいる。ただ、制度は「事後チェック」がベース。一部に届出を逸脱した表示があったことも事実だ。
これが健食であればどうか。前出の公取OBは「3社は処分でもおかしくない。健食なら打たれていた」と指摘する。推測の域をでないが、制度に則り、その育成に関わる事業者であるため、“指導”で済んだとの見方もできる。
消費者庁の南雅晴表示対策課長に聞く、認知機能一斉監視の目的とは?
消費者庁表示対策課の南雅晴課長に、認知機能関連の機能性表示食品一斉監視の狙いを聞いた。
――2つのパターンの指導の違いは。
3社は直接電話し、景表法、健増法の観点から要請書面を送付した。112社はメールで健増法の観点のみ。添付の書面で要請した。書面の内容も異なる。
――過去に景表法で医薬品的効果を対象にした処分はあるか。
あると思う。薬機法により景表法が排除されることはない。
――今後の対応は。
行政指導であり対応は任意だがフォローは行う。現時点で3社はすべて改善、112社は3分の1ほどが改善している。基本的に国の制度に則って届出をしている事業者であり、応じてもらえると認識している。
――112社について、3社と同列に要請する必要はなかったのではないか。
3社のほうが重い。措置命令も重要な業務だが、処分取消訴訟の対象でもあり証拠固めには相応の時間を要する。今回は一罰百戒よりスピードと注意喚起を優先した政策判断になる。
――スピードを重視する際の判断基準は。
それは行政裁量の範囲。件数などではなく、問題表示の拡散など社会状況を見て判断している。
――届出の「切り出し表示」が問題ということではない。
ダメではない。「〇〇したことによって〇〇になってはいけない」というもの。それ自体が問題ではなく、結果として景表法や健増法に抵触してはいけない。広告手法を規制するものではない。
――認知機能以外で指摘を受けたとする事業者の情報に接している。
認知機能に限らず、問題に接した際に指導をしないということはない。
――機能性表示食品、トクホを除く健康食品で問題表示はなかったのか。
今回は機能性表示食品に特化して行ったが、健食に問題がないというわけではない。
今後も同様のスキームで機能性表示食品を取り上げる可能性「ある」
――健食のネット監視事業の枠組みで機能性表示食品に対する監視は初めてか。
認知機能に特化した意味では初めて。定期的に行うネット監視は「キーワード検索」。これまでも結果的に機能性表示食品やトクホが含まれていたことはある。今回は狙いをもって機能性表示食品に特化した。
――ネット監視を活用した理由は。
行政指導、注意喚起の手法自体は、これまでもコロナ関連で除菌商品等を取り上げた例もあり、目新しいものではない。今回は認知機能関連で問題表示が目立っていたので取り上げた。
――今後も同様のスキームで機能性表示食品を取り上げることはあるか。
ありえる。
――ネット監視は表示対策課配下の「ヘルスケア表示指導室」の所掌事務か。
そうなる。
――室長は。
田中(誠)さんです。その意味で今回は健増法による指導を担当する田中室長、景表法の執行・指導を担当する松風宏幸上席景品・表示調査官と岩井章広食品表示対策室長のコラボですね。
3社は事件的要素が強い内容、112社は田中さんが担当しているネット監視事業における継続監視のイメージになる。
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オリジナル記事:消費者庁が機能性表示食品への広告規制で115社に改善指導、担当課長に聞く一斉監視の目的と今後の対応 | 通販新聞ダイジェスト
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