ビックカメラグループでデジタル家電などの販売・買取りを手がけるソフマップは、中古品の販売やゲーミング機器の提案など独自の施策でEC事業を拡大している。しかし、家電業界は価格やポイント還元率で比較されやすく、集客力やコンバージョン率の向上や改善は容易ではない。そこで着目したのが“決済”だった。2021年3月にソフマップが運営する3つのECサイトすべてに「Amazon Pay」を導入。Amazon Payが使えるということが価格以外の強い訴求ポイントとなり、比較サイトからの流入が増えているほか、新規会員登録率にも大きく貢献しているという。ソフマップの営業本部EC・法人営業部 係長の冨田健嗣氏に、Amazon Pay導入後の効果について聞いた。写真:吉田浩章
ソフマップの営業本EC・法人営業部 係長の冨田健嗣氏
「中古品の販売・買取り」や「リモート接客」などでEC事業が拡大
パソコン・ソフト・デジタル家電などの販売と買取りを行うソフマップは、総合サイト「ソフマップ・ドットコム」、中古専門サイト「リコレ!」、ゲーム・アニメ・ホビー専門EC「アキバ☆ソフマップ」という3つのECサイトを展開している。
ビックカメラグループのなかでも、特に“中古品の販売・買取り事業”と、グループ全体の修理などを手がける“サポートサービス”の役割を担う。
新品より安く商品が手に入る中古品への購買ニーズと、捨てるより買取りに出したい消費者意識の高まりから、リユース市場は年々拡大。ソフマップが運営する買取総合サービス「ラクウル」は、パソコンやデジタル機器のほか、楽器やゴルフ用品、ブランドバッグなどさまざまな製品が買取り対象となっていることから、幅広いお客さま層で利用が進んでいるという。
力を入れている買取総合サービス「ラクウル」
また、実店舗へ足を運びにくいコロナ禍において、「リモート接客」がEC売り上げの伸長に貢献。店舗経験もある専門販売員がリモート接客でご希望のお客様の購入をサポート。購入前の悩みや不安を解決することにより、Web上で購入まで完結するお客さまが増加した。
このほか、ソフマップは拡大するゲーミング市場に対応した施策にも力を入れている。東京・秋葉原の「ソフマップAKIBA パソコン・デジタル館」は、8フロア中3フロア(「ゲーミングパソコン」「ゲーミングデバイス」「eSports Studio AKIBA」)に、ゲーミングパソコンや周辺機器の売場を整備。ECサイトでもゲーミングに特化したページを増やしており、販売強化に取り組んでいる。
「ソフマップAKIBA パソコン・デジタル館」のゲーミング専用コーナー
ゲーミング専用コーナーにはさまざまなゲーミング用品が販売されている
また、2022年4月には秋葉原に新品・リユース・アウトレットのハード総合店舗「ソフマップAKIBA 駅前館」を新規オープンする予定。ECサイトも今後、新品だけでなく中古・アウトレット商品の露出に力を入れていく予定という。
集客とCVRを高めるため決済に着目。「Amazon Pay」の導入を決定
「中古品」「リモート接客」「ゲーミング」のように、独自施策でEC事業を拡大しているソフマップだが、集客とコンバージョン率を高める余地はまだあると考えていた。
多くのお客さまが来訪するセールや新製品の発売時期、目玉商品の予約期間以外の集客とコンバージョン率を引き上げるために着目したのが決済だった。
以前からもクレジットカード、代引き、銀行振込など多様な決済手段を用意していたが、利便性の高さや利用普及の広がりからID決済の導入を検討。アクティブユーザー数の多さや知名度・信頼性の高さのほか、“顧客属性の親和性”と“会員登録につながりやすい購入画面”という特徴から、Amazonが提供するID決済サービス「Amazon Pay」の導入を決めた。
Amazon Payを導入した「ソフマップ・ドットコム」のショッピングカート内。ショッピングカードのすぐ下で「Amazon Pay」の利用を案内しているため視認性が高い
「Amazon Pay」導入理由① Amazonとの顧客属性の親和性
「Amazon.co.jp」は家電・ゲーム・ホビー分野の人気も高いため、Amazonアカウントを持つお客さまとの親和性は高いと考えたほか、ソフマップのオンラインショップにおけるAmazonギフト券の使い道にも注目した。
Amazon Payは、Amazonアカウントに登録されたクレジットカードのほか、Amazonギフト券の残高を使った支払いも可能。たとえば、ゲームやフィギュアの現物をプレゼントするのではく、Amazonギフト券を贈り、プレゼントされた人がソフマップでAmazon Payを利用してゲームやフィギュアなどを購入するといったケースが増えると想定した。
2021年8月から、AmazonはAmazon Payの利用時にAmazonギフト券を使って支払った金額の0.5%分をAmazonギフト券で還元するプログラムを開始したため、利用がますます進むと期待している。
Amazon PayでのAmazonギフト券利用イメージ
「Amazon Pay」導入理由② 会員登録につながりやすい購入画面
お客さまがAmazon Payで決済をした後のサンクスページで、Amazonアカウントを利用して「ソフマップ会員登録」への案内を行っている。お客さまが同意すれば、Amazonアカウントを使い会員登録につなげることが可能。ゲスト購入で買い物を終わらすのではなく、手軽に会員登録できるという仕組みに効果を期待した。
Amazon Payを使った決済後のサンクスページ
10万以上のオンラインショップで導入された「Amazon Pay」
Amazon Payは、Amazonアカウントに登録された情報を利用することで、購入時の配送先や支払い情報を入力することなく、Amazon以外のオンラインショップで買い物ができるID決済サービスだ。Amazon Payを導入しているオンラインショップであれば、お客さまはAmazonアカウントのIDとパスワードを入力して、簡単な3ステップで購入が完了できる。
「それぞれのオンラインショップでクレジットカード情報を入力したくない」という消費者ニーズの高まりに加え、商品をカートに入れてから購入が完了するまでの手間が大幅に削減できることから、多くの導入企業で「カゴ落ち」の防止やコンバージョン率の改善に効果を発揮しているという。
Amazon Pay導入のメリット
Amazonアカウントに登録されたクレジットカード情報は、Amazonの堅固なセキュリティシステムで管理されているほか、Amazon Payで決済しても販売事業者にクレジットカード情報を共有しないため、お客さまと導入企業の双方にとって安全性の高い決済環境が担保されている。また、Amazon Payで購入した商品には、商品のコンディションや配送を保証する「Amazonマーケットプレイス保証」※が適用される。
※「Amazonマーケットプレイス保証」とは、Amazonにおいてお客さまに販売事業者の出品商品を安心して購入してもらうために、購入商品のコンディションや配送を保証するもので、一定の条件を満たす場合、配送料を含めた購入総額のうち、最大30万円まで保証を受けられる制度。「Amazon Pay」を利用した購入においても、同等の保証対象となる(ただし、一部の条件の場合は対象外となる)
Amazon Payの決済手数料は3.9%(デジタルコンテンツは4.5%)。お客さまの利便性・安心感からつながるコンバージョン率の改善や、販売する上での安全性の高さから、これまでに1万数千社以上、10万以上のオンラインショップで導入されている(2022年1月時点)。
Amazon Pay決済利用時は新規会員登録率が約3倍
2021年3月に、「ソフマップ・ドットコム」「リコレ!」「アキバ☆ソフマップ」の3つのオンラインショップにAmazon Payを導入したソフマップ。導入直後から注文数を伸ばしたことから、「お客さまにとって非常に使いやすい決済手段だということがわかった」(冨田氏)。これまでクレジットカードで決済をしていたお客さまや、銀行振込・代引きなどでゲスト注文していたお客さまがAmazon Payを利用する機会も増えているようだ。
購入の際に入力するフォームの内容が多いと、離脱につながりやすいのではないかと以前から懸念していた。Amazon Payの利用率が上がっているということは、それだけお客さまのストレスが軽減されている証拠であり、また買いに来てくれる可能性が高まると期待している。(冨田氏)
オンラインショップにゲストで来訪したお客さまの注文後の会員登録率を見ると、Amazon Pay決済利用時は約3倍も多い結果となり、新規顧客獲得に貢献していることがうかがえる。
3サイトに導入した為、コストについては多少高くなったというが、会員登録率の改善による今後のLTV(顧客生涯価値)向上を期待すると、コスト以上の効果があると見込まれる。
どこのオンラインショップもゲスト注文の売り上げは必ずあるはずだが、ゲスト注文だけが増えることは必ずしも喜べる状況ではない。可能であればゲスト注文は毎月一定の数値で留めておいて、会員数を増やしていきたいと各社が試行錯誤していると思う。会員に対してはメルマガの配信や会員向けのサービス、セールなど、売り上げとロイヤリティーの向上につながる施策が打ちやすくなるため、会員登録数が増加する面からしてもAmazon Payの導入価値は高い。(冨田氏)
「Amazon Payが使える」という文言が価格以上の訴求ポイントに、消費者からは管理しやすいとの声も
自社のプライベートブランド商品を取り扱うECに対し、メーカーから仕入れた商品が大半を占めるソフマップは、価格やポイント還元率などを軸に競合と比較されやすくなってしまう。
そのなかで、ウェブ広告や比較サイトの広告バナーに載せた「Amazon Pay利用可能」という文言は、価格以外の面で消費者に訴求するための1つの強みになっているという。外部の比較サイトでも広告バナーに「Amazon Payが使える」とわかるような要素を入れると、オンラインショップへの遷移率は明らかに高まっているという。
決済手段を増やすことは、当社が今までウェブ上でアプローチできていなかったお客さまを引き込むための大事な手立てになっていると思う。特に今は、スマートフォンで簡単に決済が完結できる手段が求められている。「決済にAmazon Payが使えますよ」という訴求を有効的に使い、売り上げ拡大につなげていきたい。(冨田氏)
家電業界はほとんどの企業を比較しても、価格による差は少なくなっている。そうした競争の中で消費者の購入の選択肢に入るためには、決済手段のように「どのようなサービスを提供しているか」がより重要になっているという。
このほか、ソフマップでAmazon Payを利用したお客さまからは、決済フローの利便性を評価する声のほか、「請求がAmazonでまとまるので、毎月の請求額が管理しやすくて便利」といった声も寄せられている。
1人の消費者が複数のオンラインショップで買い物をすることが当然に行われている今、Amazon Payを導入しているオンラインショップ間であれば、支払額の管理もしやすくなる点にもメリットを感じられているようだ。こうした声を受けて、冨田氏は「Amazon Payの導入によって、当社のサイトがお客さまの選択肢の1つに入る可能性が高まるのではないか」と、期待をますます寄せている。
Amazon.co.jpとAmazon Payで決済した情報を1つのアカウントで管理できる
サービス単体の手数料で左右せず、さまざまな施策と比較しながら費用と効果を見るべき
家電業界は、ほかの業界に比べて粗利が高いとは言えない。その家電業界にいながら、ソフマップはAmazon Payの決済手数料についてどう捉えているのだろうか。冨田氏は「決済手数料単体で見るのではなく、ほかの幅広い施策と比較するようにしている」と語る。
たとえば、モール出店、広告掲載、アフィリエイトなど、さまざまな施策に掛かる費用や得られる効果を比較しながら、決済手数料も見るようにしている。ソフマップは今、自社サイトでの購入機会を増やすためのSEO強化に取り組んでいるが、せっかくサイトに来ていただいたお客さまに最適な決済手段を提供できなければSEOを強化している意味も薄れてしまう。決済手段の導入はSEOを強化するための投資の一環であり、なかでもAmazon Payは手数料分の効果を十分に創出する手段になっている。(冨田氏)
Amazon Payを、中古品販売のさらなる強化に活用したい
フリマアプリの利用普及などを背景に、リユース市場が消費者の身近な存在になったなか、ソフマップにとって中古品の取り扱いは、プライベートブランド商品を持たずとも優位性が確立できる1つの大きな武器となっている。
今後、販売チャネルの拡大などによって中古品の取り扱いをさらに強化していく上で、コンバージョン率と売り上げの向上に高い効果を見せるAmazon Payの利用促進をより図っていきたい方針だ。
中古品の取り扱いでもAmazon Payの活用は差別化要因になると考える冨田氏
※ネッ担編集部では『記者ハンドブック』(共同通信社)に沿って「買い取り」「売り場」と表記していますが、インタビュー企業のPRルールにより、記事内では「買取り」「売場」としています。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:会員登録率が向上しているソフマップ。価格で比較されやすい家電業界で、価格以外の新規会員登録増加の有効な訴求方法とは?
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