Androidは視覚障害者にどこまで使えるのか?

らくらくスマートフォンをはじめとするAndroidは視覚障害者に使えるものなのか?
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先月、NTTドコモから発表された「らくらくスマートフォン」。これまで視覚障害者の間で愛用されてきたらくらくホンも、ついにスマートフォンになりました。今回は、6月22日に行われた「ユニバーサロンスマートフォンセミナー」の中から、興味深いトピックをご紹介します。
おもに視覚障害者へ向けて書いたものですが、スマホアプリを開発されている方をはじめ、多くの方に読んでいただきたいので、こちらへ投稿させていただきました。

Androidの音声読み上げプラグイン「TalkBack」

Androidには、視覚障害者へのアクセシビリティ機能として、「TalkBack」「SoundBack」「KickBack」という無料プラグインが提供されています。この中でTalkBackは音声読み上げ機能を提供するプラグインです。Android端末のホーム画面から「設定」→「ユーザー補助」→「TalkBack」と進んで、プラグインを入手します。しかしデフォルトの設定では、日本語対応のTTSを持っていないため日本語を読むことはできません。そこで、これからご紹介する日本語対応の読み上げソフトをインストールします。

音声合成ソフト「N2TTS」

6月22日に開催された「ユニバーサロンスマートフォンセミナー」。最初のプレゼンは株式会社KDDI研究所が昨年9月にリリースした音声合成ソフト「N2TTS」についてでした。

音声合成技術とは波形から音声を作る技術のことです。よく音声認識技術と音声合成技術が混同されがちですがまったくの別物です。音声認識はいわばインプット(入力)、音声合成はアウトプット(出力)のための技術といってよいでしょう。初音ミクで有名になったVOCALOID(ボーカロイド)はヤマハが開発した音声合成技術です。プレゼンの中で、90年代に最高品質とされた音声合成エンジンのデモを聞かせていただきました。私の感触としては、何を言っているかは注意すれば聞き取れるかな、という感じで、決して聞き取りやすい音声ではありませんでした。そこから20年、現在のN2エンジンの音声はとてもクリアで会場から「おー」と声が上がっていました。

N2TTSは日本語対応の音声合成ソフトです。Google Playから無料でダウンロードして使うことができます。N2TTSの特徴は以下の3つです。
•ファイルサイズが小さい。
•男性音と女性音から好きな音声を選べる。
•Android端末のみで動作する。N2TTSを利用する際、携帯電話回線などを使用しない。

N2TTSをインストールして設定を行うと、先ほどご紹介したTalkBackの日本語音声エンジンとしてN2TTSを使うことができるようになります。また、N2TTSはほかのアプリから呼び出して使うこともできます。 KDDI研究所のウェブサイトではN2TTSを使って、メールの着信やTwitterでのフォロワーのつぶやきなどを読み上げてくれる音声読み上げアプリ「ささやくヤーツ」が紹介されていました。

N2TTS製品概要(KDDI研究所)
http://www.kddilabs.jp/products/audio/n2tts/product.html

N2TTSダウンロード(Google Play)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.kddilabs.n2tts&feature=...

Android端末での読み上げをサポートする「ドキュメントトーカ」

3番目のプレゼンは、クリエートシステム開発株式会社が開発している「ドキュメントトーカ」の紹介でした。

最初に紹介したTalkBackですが、視覚障害者が使うには以下のような問題がありました。

  • 古いバージョンのTalkBackは、視覚障害者がタッチパネルを操作して利用するにはハードルが高く、キーボードがないと実質使えない。
  • •ホームスクリーンがTalkbackに対応していない端末もある。
  • 「戻る」「ホーム」「最近使用したアプリ」のボタンが「Talkback」に対応していない端末もある。
  • リストの件数読み上げに誤りがある。
  • 1/5, 2/5, 3/5 など分数の読み上げが日付になってしまう。

ドキュメントトーカは、これらのようなTalkBackの使いにくい部分を改良することをコンセプトにした音声読み上げアプリです。Google Playからお試し版を無料でダウンロードでき、製品版も990円で購入できます。

プレゼン中のデモでは、Galaxy NEXUSとHTC Jの2台の端末を使って、ドキュメントトーカでブラウザを起動してYahoo!を読み上げていました。ドキュメントトーカでは、音量調整ボタンを上下の矢印キーのように操作していきます。たとえば音量下げボタンを3回押すと、読み上げ範囲が狭くなっていくので、これを使って自分が読みたい範囲を決めて読み上げます。ウェブサイトの見出しは「ヘディング1~」のように読み上げるので、大見出しなのか中見出しなのか判断できます。リンクも操作できます。

また、ドキュメントトーカを用いたソフトキーボード「ドキュメントトーカIME」も無料で利用できます。これを使うと文字入力が可能になります。ユーザー補助機能の「Talkback」を使用してキーボードのキーを読み上げます。また、漢字変換の候補文字列は詳細読みされますので、正しい漢字仮名混じり文を書くことができます。デモでは、「か」と入力すると「彼、彼女、必ず」などの変換候補が表示され、それぞれの漢字を詳細読みしていました。

ドキュメントトーカ お試し版
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.createsystem.DTalker...

ドキュメントトーカ 製品版(990円)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.createsystem&feature....

ドキュメントトーカ ボイスナビ
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.createsystem.dtalker.....

ドキュメントトーカ製品概要(クリエートシステム開発株式会社)
http://www.createsystem.co.jp/dtalkerAndroidSDK.html

らくらくスマートフォン

最後は、NTTドコモさんの「らくらくスマートフォン」について。これまで10年以上にわたって人気を博してきたらくらくホン。昨年7月には累計販売台数が2000万台を突破しています。そのらくらくホンのコンセプトを受け継いだらくらくスマートフォン、どんなものなのか興味深いところです。

プレゼンでは音声読み上げのデモと「しゃべってコンシェル」の概要説明などがありました。

らくらくスマートフォンでは、これまでのらくらくホンのコンセプトである「親切、簡単、見やすい、安心」を受け継いで、簡単に安心して誰でも使えるスマートフォンを目指して開発されました。たとえば、「スマートフォンってなんかちょっとコワイ」「Google Playの設定が大変」という声を反映して、らくらくスマートフォンではGoogle Playからアプリをダウンロードして使うことはできません。また、GmailやGoogle Mapsなども利用できません。スマートフォンの最大の利点ともいえる「拡張性」と「自由度の高さ」を犠牲にして、それでもサービス全体の管理やサポートを自社で徹底しようというNTTドコモの戦略がうかがえます。このあたりは一長一短あると思います。弱視の私としてはGoogle Mapsが使えないのはかなりイタイです。

セミナー終了後に実機を触らせていただきました。ホーム画面からメールを起動して本文の入力をしてみました。画面を触っていくと「あ、か、さ、た、な」のように読み上げられるので、入力したい行の文字をタップすると、「あ、い、う、え、お」のように順番に文字が変化していきます。入力したい文字が選択されたら画面を強めに押し込みます。すると文字が入力され、ぶるっと端末が振動して、文字を入力できたことを知らせてくれます。どのくらいの力で押し込めば入力できるのか、操作に慣れるまでは少し時間が必要ですが、十分使えると感じました。「やまぐちさん」と入力して「変換」ボタンを押すと、漢字変換の候補が表示され、指でたどっていくと、それぞれの候補文字列が詳細に読まれます。こちらもなれれば正しい漢字で文章を書けると思いました。

弱視の私としては、iPhoneやiPadにある「黒地に白」のように色反転する機能がなかったのはとても残念。あれさえあれば買うのにな。
•らくらくスマートフォン(NTTドコモ)

iPhoneやiPadを便利にする名刺サイズのBluetoothキーボード「RIVO(リボ)」

セミナーでは、Androidに関する話題だけではなく、iPhoneやiPadで便利に使えるものも紹介されていました。株式会社日本テレソフトが、今年5月に販売開始した名刺サイズのキーボード「RIVO(リボ)」です。プレゼンでは実演付きで紹介されていました。このキーボード、かなりのスグレモノです。

電話のキー配列(左上が1)の数字キーとその他のキーからなるこのキーボード、大きさは名刺サイズで、片手で簡単に操作できます。

iPhoneやiPadをVoiceOverで使っているとき、平らなスクリーンを触って読みたい場所を探すのは、僕たち視覚障害者にはかなり大変ですよね。そこでこのキーボードを使うと通話、メールやカレンダーの読み上げなどをキー操作で行うことができます。実際に触って試してみましたが、これはかなり便利に使えました。例えばiPhoneのホーム画面では、数字キーの2,4,6,8のキーがそれぞれ左、右、上、下への移動キーになっていて、これらのキーで起動したいアプリを選び、5のキーを押すと使いたいアプリが起動します。

文字入力はローマ字入力ができるので、メールを書いたり、Teitterへのつぶやきも可能です(ただし、VoiceOverの機能を拡張するものではないので、漢字の変換候補を読み上げてはくれません)。現状ではローマ字入力のみの対応ですが、従来の携帯電話のように「3を3回押したら「す」、7を1回押したら「ま」、6を5回押したら「ほ」」のような入力方法にも対応できれば、使い慣れた入力方法をそのまま使えてよいのではないかと思います。さらにiTunesの再生や早送り・巻き戻し、音量調節などもできるので満員電車の中でリモコンとしても使えそうです。

このキーボードは片手で操作できるので手が不自由な方も使えるのではないかと感じて質問してみたところ、すでにそのような利用を想定しており、実際に手が不自由な方に試してもらっているとのことでした。

現在はiPhoneやiPadなどのiOSデバイスのみの対応ですが、今後はAndroidにも対応したいとのことでした。これからがとっても楽しみです。
•RIVO(リボ)(株式会社日本テレソフト)

自分たちの道具は自分たちで創る

ここまでご紹介してきたように、Androidでの音声読み上げ環境が少しずつ整備されてきています。ここからは僕たちユーザーの出番です。今回ご紹介した製品をどんどん使って、たくさんのフィードバックをしましょう。そのフィードバックこそが端末やアプリの性能向上、使い勝手の向上につながります。スマートフォンやタブレットはこれからも増えていきます。新しい可能性を秘めた道具を自分たちで使いやすくしていき、視覚障害者の生活そのものが、より楽しくなることを期待しています。

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