【全5回配信】デジタル戦略によって実現される、顧客経験価値の創造【3】事例(無印良品・IBM)から見るソーシャルメディアを活用したエクスペリエンスデザインの潮流

ソーシャルメディアを活用したエクスペリエンスデザインの潮流について説明します。
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価値共創とは

C.K.PrahaladとVenkat Ramaswamyは、2004年に発刊された『The Future of Competition』(日本語訳版『価値共創の未来へ-顧客と企業のCo-Creation』)において、「価値共創」の概念を提起しています。(以下参照)

“ここでの価値共創とは、個々の消費者と有意義な(その消費者にとって有意義な)交流をし、その交流をとおして価値を生み出していく営みなのだ。製品やサービスでなく、共創経験を基盤として、各人にユニークな価値をもたらす。”

“企業が何百万人もの消費者とのあいだで多彩な共創経験を生み出すための、枠組みが求められているのだ。この枠組みを経験環境と呼ぶことにする。”

“経験環境は、少なくとも以下の条件を満たさなくてはならない。

  • 消費者の必要に応じて、特定の状況のもとで特定の時間に、経験を共創する機会を提供できる。
  • 洗練度の高い積極的な人々から洗練度が低く受け身の人々まで、多種多様な消費者に対応する。
  • 積極的で賢明な人々を含めて、すべての消費者が常に共創を望んでいるわけではない、という点をこころがけておく。受け身で消費だけしているのが心地よい人々もいるのだ。
  • 新技術によって可能となる新しい機会に目を留め、その実現を目指す。
  • 消費者コミュニティの参加を歓迎する。
  • 消費者を理屈で動かすだけでなく、感情にも訴えかける。
  • 共創経験の技術面だけでなく、組織や人間関係も理解する。”

(日本語訳版『価値共創の未来へ-顧客と企業のCo-Creation』より)

価値共創のプラットフォームとしてのソーシャルメディア

ソーシャルメディアは、C.K.PrahaladとVenkat Ramaswamyが提起した「価値共創」実現にあたって必要とされる「経験環境」提供のためのプラットフォームと言うことができます。『The Future of Competition』が発刊された2004年当時、ソーシャルメディアは、ブログや顧客コミュニティ等に限定されていましたが、ソーシャルメディア全盛の現時点において実現しているデジタルな「経験環境」の本質を見事に予見していたと言うことができます。

前回までのコラムで解説したスターバックスコーヒー、ユニクロ、ルイヴィトン等のエクスペリエンスデザインの先進企業は、同時にソーシャルメディア活用の先進企業でもあります。ソーシャルメディアの活用方法とその目的は各社各様ですが、これらの企業に共通しているのは、顧客とのインタラクティブなコミュニケーションを通じての「共創経験」の創出を最大の目的にして、ソーシャルメディアを顧客とのコミュニケーション深化のための手段にとどまらず、顧客とともに新らしい価値を生み出していくための重要なツールとして位置づけていることです。そして、それが各社におけるエクスペリエンスデザインの大きな特徴となっています。

無印良品のソーシャルメディア活用とエクスペリエンスデザイン

無印良品は、国内358(直営店238、商品供給店舗121)、海外134のリアル店舗を展開しています(2011年2月末現在)。無印良品は、ユニクロ等とともに日本におけるソーシャルメディア活用のトップ企業の一つです。Facebookの公式ファンページのファン数は4.1万人、TwitterのMUJI.Netアカウントのフォロワーは10.5万人となっています(2011年5月5日現在)。無印良品は、Facebook公式ファンページのオープンにあたり、あらためて「双方向コミュニケーション」の必要性をアピールしています。(以下参照)

    “現在、国内コミュニティサイトの会員(無印良品メンバー)は延べ300万人を超え、様々なご意見をいただいていますが、双方向コミュニケーションとして開示される情報はごく一部に限られております。この度、世界に5億人強のユーザーを誇るソーシャルサイト・Facebookに公式ファンページをオープンすることで、世界中の人々と地球大での双方向コミュニケーションの拡大を図ります”

    (2010年10月1日付良品計画ニュースリリースより)

上記のニュースリリースでは、“現在、国内コミュニティサイトの会員(無印良品メンバー)は延べ300万人を超え、様々なご意見をいただいていますが、コミュニケーションとして開示される情報はごく一部に限られております。”と説明されていますが、無印良品は、ネットストアの運営をはじめ、ネット活用における先進企業の一つです。さらに無印良品は、くらしの良品研究所でのものづくりコミュニティを中心に他社に先がけてソーシャルメディアを活用した「価値共創」活動に取り組んできています。

Facebookは、従来のエクスペリエンスデザイン戦略に基づく共創活動を一段と発展ささせるための重要な役割を担っています。無印良品にとって、Facebookファンページは、文字通りグローバルレベルでの「価値共創」活動推進のプラットフォームであり、無印良品のエクスペリエンスデザイン戦略は、今後、Facebookファンページを中心に展開されていくものと考えられます。“地球大での双方向コミュニケーション”という言葉にその思いが込められています。

このように、無印良品は、顧客コミュニティ、YouTube、Twitter等のソーシャルメディアをエクスペリエンスデザインの重要ツールと位置づけ活用してきましたが、Facebookの活用により、グローバルレベルでの顧客との「価値共創」をさらに発展させようとしています。

IBMのソーシャルメディア活用とエクスペリエンスデザイン

IBMは、Smarter Planetキャンペーンの推進に多様なソーシャルメディアを活用しています。Smarter Planetキャンペーンは、リアルとデジタルを融合したコミュニケーションプログラムで、様々な分野でSmarter Planetを構築するにあたってIBMが提供できるテクノロジーやノウハウをアピールするものです。

Smarter Planetのポータルサイトでは、カラフルでユニークなデザインの20数個のアイコンによってSmarter Planet構築対象の分野別のサブサイトにリンクが張られています。そして、このポータルサイトを起点として様々なソーシャルメディアを活用したコンテンツが展開されています。

これらの印象的なアイコンを中心とするキャンペーンのビジュアルデザインを担当したデザイン会社Officeによると、一連のデザインワークにあたって、以下のようなチャレンジが行われました。

  1. まず、Officeのチームは、以下のような問いかけを行っています。
  2. ・どうやって人々の注意を引きつけ、そのことについてもっと知りたいと思わせるために何かを創造できるのか?

    ・どうやって明解なビジュアルコンセプトの本質を抽出すればいいのか?

    ・Smarter Planetという大きく複雑な課題をどうやってアプローチ可能なものとして表現すればいいのか。

  3. そして、Officeのチームは、大胆さと明解さ、それに加えて人々との感情的結びつきを創造するきらめきを持っていたIBMの過去のデザインのクリエイティブビジョンに触発され、それらをチームの推進原理としたということです。

上記は、外部のデザイン会社としてのデザインへの取り組みの考え方ですが、ここにSmarter PlanetキャンペーンにおけるIBMのエクスペリエンスデザインの考え方がよく表れています。

FacebookのPeople for a Smarter Planetのファンページは、21.5万人(2011年5月5日現在)のファンを擁しています。このファンページからWorld CommunityやCityOneゲーム(YouTubeでの紹介動画が10万回以上閲覧されています)へのリンクともに各国版のファンページへのリンクが張られています。TwitterのSmarter Planetアカウントは、1万人(2011年5月5日現在)にフォローされています。動画は、Smarter Planetの考え方を説明する動画に加えて業種別/ソリューション別の紹介動画まで幅広いジャンルから提供されています。また、iPhoneアプリの『Smarter Planet』は、 Smarter Planet関連の多彩な情報提供コンテンツとともに膨大な質量のインタラクティブなコンテンツを実装しており、モバイル版の共創ツールと位置づけることができます。

Smarter Planetの概要説明サイトによると、IBMは、Smarter Planetプロジェクトにおいて、ソーシャルメディアを以下のように位置づけています。
 

    “ソーシャルメディアによって、数えきれない顧客や一般市民から彼らが何を考え、何が好きで、何を経験したのかをリアルタイムで教えてくれる。こうして得たデータから実用的なインサイトを引き出し、Smarter Planetの構築に活かしていく。”

 
つまり、Smarter Planetプロジェクトでは、ソーシャルメディアは顧客インサイトを引き出すためのツールとしての役割をもっています。
 
また、IBMは、ソーシャル・コンピューティングのガイドラインを一般公開しています。このガイドラインの中で、IBMは、「オンライン・コラボレーション・プラットフォーム」という言葉を使っています。IBMは、ソーシャルメディアを含むソーシャル・コンピューティングのツールを「オンライン・コミュニケーション」を超えて「オンライン・コラボレーション」を実現するためのプラットフォームとして捉えていることが分かります。C.K.PrahaladとVenkat Ramaswamyの言葉を借りるならば、まさに「価値共創」のためのプラットフォームと言うことになります。このようにIBMは、ソーシャルメディアを顧客との「価値共創」の実現によって新たな価値を創出し、豊かなカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を提供していくための重要なツールとして活用しています。
 
今回の一連のコラムで紹介してきた、スターバックスコーヒーのMyStarbucksIdea.com、ユニクロのUNIQLOOKS、無印良品のものづくりコミュニティ等もすべて優れた「価値共創」のプラットフォームです。先進企業は、多様な顧客接点を通じての顧客とのインタラクションの中で、ソーシャルメディアを「価値共創」のプラットフォームとしてどう位置づけ活用していくかを考えていくことが、エクスペリエンスデザインにおける最重要テーマと認識し取り組んでいます。我々は、これらの企業の取り組みを参考としながら、優れた「経験環境」を構築し、顧客との新たな「価値共創」を実現していきたいものです。

 

■本コラムの元記事はこちら
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