企業ホームページ運営の心得

前金で真剣かつ円滑に。仕事は請求書の発行からはじめる

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の九十弐

BtoCのむずかしさ

商売用ホームページの利点の1つは、それまで代理店や元請けから仕事を貰っていた企業が、ホームページを通じて「お客様」と直接取引ができ、中間マージンと搾取がなくなるメリットが双方に生まれることです。しかし、良いことばかりではありません。ある工務店の社長が溜息混じりに呟きました。「支払いが……」。リフォームが完成し、支払いの段階でごねる客がいるといいます。

支払いをごねるケースはBtoBでも珍しくありませんが、総じて金額が大きく、取り損なっては死活問題となるため、本腰を入れて「集金」をしますが、個人宅のリフォームの場合は数万円から数十万円で集金対策をするのは効率が悪いというのです。そこでこうアドバイスしました。「前金でいただきましょう」と。

前金により仕事が円滑に進むことがあります。本稿読者に多い「IT業界」ならば特に。

ビジネスモデルの扇の要

ホームページのセミナーや解説書などでは「カードを使えるように」や「支払い方法は多く」と指南しているものが目立ちますが、「通販」以外のビジネスモデルではさして重要でないことは殆ど語られません。通販は「ネット」以前からカタログショッピングがあり「選べる支払い方法」は「差別化」の1つで、さらに「ネット決済」ともなれば、振り込み票を持って銀行や郵便局に足を運ぶ手間が省け魅力です。一方、通販以外のビジネスモデル……特に、ネットで完結しない商売ならどうでしょうか。

ビジネスモデルを考える上で「どう集金するか」は重要です。選べる支払い方法とは「集金しやすさ」の改善ということに意味がありますが一番に来るものではありません。それは「払わない、払えない客」がおり、後述しますが「集金リスク」を前金がゼロにします。また「入金チャネル」を多くすると人件費も含めた事務処理費用の負担も重くなります。

当社は前受け制です

そこで前金を提案します。経費とリスクを圧縮してサイトの充実に力をいれることが狙いですが、「客が納得しない」と難色を示す経営者は少なくありません。そこで1つのクイズを出します。

「ラブホテル、映画館、食券のラーメン屋。これらに共通することは?」

すべて「前金」です。他にも鉄道にバス、家賃など例を挙げればキリがありません。駄作でも映画館は金を返してくれませんし、ラーメン店は後払いと食券の前払いが混在します。公共料金を除けば代金授受のシステムに絶対的な決まりはないのです。

どちらを選択するかです。そして「集金コスト」から前金を薦めます。語感が嫌だという場合は「前受け」として。

集金コストという概念

お支払い方法に「当店は前受け制です」と入れてください。どうしても後払いという客は、これを見て去っていきますが気にすることはありません。その理由の前に「集金コスト」の実例を紹介します。

会社員時代、十数万円の支払いを滞納しているクライアントへの集金を命じられました。毎日通っていれば支払う気になるというのが会社の考えです。個人で経営するカフェ・バーで「お釣り」として用意してあった100円玉から10枚を集金した日もあります。片道30分、渋々支払うので30分は滞在します。月給だけで単純計算した私の時給が1,420円でしたから、往復+滞在時間で2,130円かけて1,000円では赤字を積み上げていくだけでした。1か月ほどで「夜逃げ」しました。訪問日数を20日として4万2,600円投じ、集金できたのは3万円弱。

「集金コスト」は馬鹿にならないのです。ちなみに、私が「夜逃げ王」と呼ばれるようになるのはまだ先の話です。

世の中にはタヌキが多い

すべては計画の甘さでした。滞った支払いとは「広告代」で、広告で客が増え、その儲けから代金を支払おうという目論見で、仕入れや設備投資なども「儲けの中から支払う」という「事業計画」が首を絞めました。これは極端な例ですが、後払いを望む人の中には注文後に資金の算段をし、さらに「タチ」の悪いケースでは、「納品後」の値下げ交渉を楽しみに待ちかまえている強者もいます。前金は「払わない、払えない客」を遠ざけるメリットもあるのです。

商品やサービスへの不安から「後払い」を希望する人もいます。これを解消するのは簡単です。「返金保証」をつけてあげます。契約が履行されなかったとき、仕上がりやサービスに不満があった場合にお返しすると約束すればよいのです。1つ注意が必要なことは、「追加料金」はできるだけ発生しないようにしてください。名作でも上映後に追加料金を取らない映画のように。

IT業界の皆さんへ

納品後に難癖をつけ返金を迫られたらという心配もあるでしょうがご安心ください。金払いの悪い人は、一時でも手元から金が離れるのを嫌うので先払いを避けたがります。そしてこれは悪用してほしくない心理ですが、大抵の人は支払ったお金に「所有感」はなく、不満に対して改善をしろという要求をしても「金を返せ」とは言わないものです。

ここからは特にIT業界の皆さんへのアドバイスです。後払い契約では、支払いが発生するまで客が手を抜くことがあります。資料の提出期限を守らず、打ち合わせのドタキャンは日常で、職務遂行上の原稿の「督促」に逆ギレすることも。前金で受けとり、契約書にこう記します。

「お客様のご事情による延期での返金は致しません」

契約時の十分な説明を尽くすと同時に、こちらに都合の良い条文を盛り込んだ上で「返金保証」をすることでバランスをとります。そしてこちらも重要です。

「金を払った方が真剣になる」

無料は無料です。無料で過度な期待をするのは素人の妄想で、商売人は投下したコストから得られるリターンを絶えず計算しています。つまり「身銭」をきることで、サイトへの取り組みが真剣になるのです。そして前金を受け入れる計画性もサイトの成功確率を押し上げます。

♪今回のポイント

集金コストは馬鹿にならない。

仕事に自信があるなら前金が便利。

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