[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

花王「エマール」のインフルエンサー施策に生成AIをどう活用したか? 意識した4つのポイント

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。最終回となる今回は、生成AIを“インフルエンサー施策立案”に活用した事例を通して得た学びと、この連載で得た学びについて紹介します。

辻本光貴(花王)[執筆], 渡辺 淳子[編集]

7:05

こんにちは。花王株式会社の辻本です。

今回の記事が最終回です。本稿では、生成AIを“インフルエンサー施策立案”に活用した事例を通して得た学びと、この連載で得た学びについて書きたいと思います。前者ではおもに、人と生成AIの力を借りて、答えのない問題に取り組む際に必要なことと、マーケターのAI活用の注意点について記しています。

花王の辻本光貴氏

エマールでAIを活用してインフルエンサー施策を実行

昨年末、私が担当していたエマールで、界隈を狙ったインフルエンサー施策を実行し、「Aさん、Bさん、Cさんの全員がエマールを紹介しているから、エマールは良いに違いない」という状況を作り出そうと考えました。

この状況を作るには、まずはインフルエンサーのネットワークを把握する必要があります。そのため、どの人が界隈で発言力があり、その人の周りにはどんな人がいるのか、普段どのような投稿をしているのか、といったことを調査しました。「Aさん、Bさん、Cさんが言っていた」という状況を作るには、Aさん、Bさん、Cさんの投稿のリーチ力、閲覧者の重複が不可欠だからです。

ただし、この情報を一発で入手するのは難しいです。材料となる情報を集め、分析を行い、自分の目で投稿内容をみて判断するところまでしないと実現できません。そこで生成AIの力を借りて、分析に必要な情報を集めました。

正解を直接導きたい人は、もしかしたら、「〇〇の界隈で、相互フォローしているインフルエンサーを紹介して」と聞くかもしれません。でもこれだけでは、生成AIから良い回答は得られません。各SNSによって相互フォローの情報を拾える場合と拾えない場合があるからです。それでは私が求めるインフルエンサーのネットワーク図を描けません。

生成AIを活用したインフルエンサー企画立案で実行した4つのポイント

そこで私は、次の4点を意識して、生成AIを活用したインフルエンサー企画を立案しました。

  1. できないことを理解して、できることから推察する
    X、Instagram、TikTokなどの複数SNSアカウントをもつインフルエンサーが多いならば、まずは相互フォローの情報が拾えるSNSから情報を集め、ネットワーク図を描いた上でほかのSNSに転用することにしました。

  2. AIで正しく抽出するためには、何をすると求める回答にたどり着けるかを考える
    界隈は#タグ(ハッシュタグ)を使って、興味関心のある人たちとコミュニティを形成しています。よって、狙いたい界隈の#タグを抽出できれば、相互フォローのネットワークを作る材料になります。そこで、生成AIに自分が狙いたい界隈について学習させて、その界隈で使われる#タグをリストアップしてもらいました。

  3. 集合知で精度を上げる
    分析に長けた社内のデータサイエンティストや、インフルエンサーのデータベースをもつ会社と連携し、精度良く具現化しました。その際、AIで抽出した#タグをリスト化するところまでは自分で行い、データサイエンティストには#タグをもとにネットワーク図の生成を依頼。でき上がったネットワーク図をもとに、社外にキャスティングしてもらいました。

  4. 一次情報を必ず確認する
    出てきたキャスティング候補のなかで、誰を最終的に採用するのか、当初狙いたいと考えていた界隈と合うのかなどを、自分の目で候補者のSNSアカウントや日々の投稿を見て確かめました。

以上の4点は、人と生成AIの力を借りて、答えのない問題に取り組む際に必要です。環境によって生成AIにできることは変わりますし、正しく指示を出して情報を確認しないと望む答えにたどりつかないからです。また、生成AIとの壁打ちだけでは足りず、リアルな個人の得意を掛け合わせることで大きな取り組みへと成長させられるからです。

マーケターのAI活用の注意点_わかった気にならずに自分の目で確認する

生成AIの登場と進化によって、納得解を導き出すのが簡単になりました。この納得解とは、最適解かどうかはわからないけど、自分のなかで腹落ちする解答のことです。時と場合によって人は、生成AIが出す納得解を最適解だと思い込む場合もあります。つまり、わかった気になってしまうのです。

私はいま、生成AIを活用するにあたり、「自分はわかった気になっていないか」注意して取り組んでいます。

ビジネスの現場でも、そのような場面はありませんか。「わかった気になるな」という自戒は、顧客理解という観点からしても、マーケターがもつべき精神です。先ほどの界隈を狙ったエマールの施策も、どの界隈を狙うかはAIが導いたのではなく、日常生活での会話などをヒントに、自分の目で確認した上で「この界隈には刺さるはずだ」と仮説を立てました。

AIに壁打ちする前に、リアルな人間を自分で見つめる、それが良い顧客理解につながります。そして出てきた分析によって出てきたネットワークやキャスティングするインフルエンサーについても、わかった気にならずに自分の目で確認しなければいけません。

インプットが良くてもアウトプットが違うことは、ときたま発生します。AIを疑っているのではなく、自分の責任で精度の高い仕事をやり切るために必要なことです。今回はインフルエンサーによるコミュニケーション施策の話を事例にあげていますが、これは商品やサービス開発も一緒です。

本連載の執筆陣を生成AIで分析!?

最終回なので、「Half Empty? Half Full?」という、本連載にも触れてみましょう。

この連載はマーケターが交代で、それぞれの持ち味を活かして書いています。私自身、書き手であり読み手でもあります。そのときに意識したことは、コピーできるものはコピーしようというマインドです。この人はどう考えるか想像しながら日々の業務に取り組んでいます。正直私は、がむしゃらに働いていた20代に比べ、30代になり、自分の勝ちパターンが固まってきて、思考の幅が狭まる感覚に陥りました。

でもそのときに、ほかのマーケターをコピーします。完全にその人に成り切ることはできませんが、自分の得意不得意を考えたときに、ほかのマーケターの思考法を勉強するという観点で、本連載は貴重でした。自分の能力をHalf Emptyと考え、自分の色水だけではなく、ほかの人の色水を調合し、綺麗な色水でコップをいっぱいにしたいという気持ちです。

では、この記事の読者に、ほかの記事もぜひ読んで回遊してほしいという気持ちも込めて、生成AIで実験をしましょう。

勝手ながら、私はあえて本連載で執筆している6名の方を、生成AIの分析にかけてみました。ちなみに下記のようなステップで指示を出しました。これもいきなり答えを求めるのではなく、学習をさせています。

  1. Web担当者Forumで書いていたコラム記事をすべて列挙してもらう
  2. 列挙したコラム記事の内容をすべて要約してもらう
  3. 要約をもとに、その人がどのような特徴や思考回路をもつマーケターか定義してもらう
  4. 1〜3を6名分実施
  5. 定義した5名を分類・比較する

結果を抜粋すると下記の通りです。

  • 明坂さん:「文脈設計 × 体験重視」の戦略型マーケター
  • 村石さん:「コンテンツ戦略 × 再現性」の設計型マーケター
  • 瀬川さん:「BtoB構造設計 × 組織実装」の仕組み化マーケター
  • 田口さん:「解析 × 意味解釈」のデータ読解型マーケター
  • 加藤さん:「N1体験 × 共感」の生活者洞察型マーケター
  • 辻本:「パーパス実装 × 組織進化」の理念実践型マーケター

執筆者の皆さん、どうですか? ちなみに各人の強みと弱みもあがっています。思い切って、私のものを公開しましょう。

生成AIが分析した辻本の強み・弱み

この結果に、私は思わず「わかった気になるな」と生成AIにツッコミを入れたくなりました。おそらくほかの皆さんも、ご自身の生成AIに表示されている強みと弱みをご覧になったらツッコむのではないでしょうか。ご存知の通り、今回は本連載の記事だけで判断しているので、マーケターとしての特徴をすべて言い表しているわけではありませんし、記事では語られていないこともたくさんあるでしょう。

だから出力をみて、わかったような気になってはいけません。生成AIで顧客理解って難しいですね。でも、この抽出結果でほかの記事も読む人が出たならば、良い情報提供かもしれません。もしほかのマーケターの方々に興味をもたれたら、ぜひ彼らをコピーするつもりで読んでみてください!

「わかった気になるな」と自戒しながらAI活用し、個人やAIの得意不得意を意識して、組織の力を結集できるマーケターになります! ゆくゆくは経営にも携わりたいです。

最後になりましたが、このブログに携わった皆様、記事掲載を快諾してくれた上司の皆様、そして記事が出るたびに「読んだよ!」と反応をくれた皆様や、私の記事に興味をもってご覧になった読者の皆様に感謝を示し、締めくくります。

皆さま、6年間ありがとうございました!

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