データ活用人材の育て方 | ゴルフダイジェスト・オンラインのCMOが実践してきたこと
デジタルマーケティングに欠かせないデータ活用。しかし、データ活用を推進していくための人材確保や育成、組織作りに悩んでいる人も多いだろう。
そういった人を対象に「GDOに学ぶデータ活用の舞台裏 マーケターに寄り添うエンジニアの育て方」と題したセミナーが2024年3月11日、東京・四ツ谷で開催された。
本セミナーは、フルファネルマーケティングへのデータ活用を推進する「UNCOVER TRUTH」が主催。ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)のCMO/CIOである志賀智之氏を迎え、UNCOVER TRUTHのCOOである小畑陽一氏、DX-Acceleratorチームの三原恵理夏氏の3名で進められた。
「システムサイド」と「ビジネスサイド」をつなぐ人材が必要
志賀氏が2018年にCMO/CIOに就任以降、GDOの会員数は150%成長。データ活用と顧客中心のマーケティング設計を徹底し、数々の施策を行うことで、サービスクロス利用者を140%まで増加させている。そんな志賀氏から裏話が聞けるとあって、満席の会場では、多くの人がメモをとるなど話に聞きいっていた。
最初に小畑氏は、「ファーストパーティデータの重要性が高まる中、データ活用における課題も増加している。今回は、次の2つの観点から志賀氏に話を伺っていきたい」と語った。
- 企業における理想的なデータ活用フロー
- データ活用に必要な組織体制と人材
企業でのデータ活用は「データ収集 → データ分析・可視化 → 顧客理解 → 施策実行からまたデータ収集へ」というようにサイクルを回していくことが理想とされる。三原氏は、それを実行するために必要なデータ活用フェーズが次の4つだと解説した。
- フェーズ1: データソースからデータレイクへの接続
- フェーズ2: データレイクからデータ活用基盤への接続
- フェーズ3: データ活用基盤内でデータを整備し、用途別にデータマートを作成
- フェーズ4: 分析や施策などデータ活用フィールドに接続し活用
そして、上図では各フェーズは1、2、3、4と流れていくが、データ活用を成功するうえで重要なのが「どんな目的で行うのか」であり、実はアウトプットから考えることが大切になる。ビジネスサイドのマーケターがどのような目的で何をやりたいのかに基づいて、エンジニアサイドがシステムを構築することが理想だ。
しかし、実際には、ビジネスサイドとエンジニアサイドが円滑にデータ活用を進めている企業は少ないという。そこで、「システムサイドとビジネスサイドをつなぐ人材が必要だ」と三原氏。
データ活用を内製で進めるなら、マーケ部門の中にアナリティクスエンジニアがいたほうがいいですね。マーケターのふわっとしたやりたいことを要件定義できる、コンサルタントの位置づけにもなってくれるような人です。
システム部にたくさんエンジニアがいたとしても、要件をシステムに落とすことに時間がかかってしまいますから(志賀氏)
目的のために、一番重要なところから始める
先述のようにデータ活用においては、「目的が何か」「データ活用フローの中でアウトプットから逆算すること」が重要になる。
できれば、すぐにでも目的に沿った全ての指標を把握できるアウトプットが欲しいところだが、まずは必要なところから始めること、指標は単純化してスコープを広げ過ぎないことが大切だと志賀氏はいう。
データ活用にはお金がかかりますから、一番重要なところからスモールスタートするといいと思います。『最初に見なくてはいけないところはどこだっけ?』というところから始めて、少しずつ広げていけば、エンジニアも対応しやすくなります(志賀氏)
CMOである志賀氏は、俯瞰して全体のファネルをみなくてはいけないが、それでも、少しずつみるところを広げていったという。
まずは現在の顧客数はどのくらいで、毎年の顧客獲得数はいくつで、既存の顧客はどれだけいて、どのくらい稼働しているのかから始めて、次に既存顧客はどのチャネルをどのくらい活用しているのかなどをみていくというように、1年ほどかけてマーケティングで見るべき指標のダッシュボードを作り上げていきました。
もちろんレイヤーによってダッシュボードは異なりますが、CMOは中長期的な目線で事業予算にコミットしなくてはなりません。顧客基盤は大きくしなくてはいけませんが、そのためにどのくらい投資すべきかを考えます。その投資の根拠となるデータをみる必要があるんです(志賀氏)
システムリプレースで人材を育てる
さて、属人化の問題はどこの企業でも頭の痛い課題だろう。担当者しか業務内容を理解できていない属人化が進むと、その担当者が退職すると業務が立ち行かなくなってしまう。
当初は業務内容のすべてをドキュメントにしていても、そのうちにドキュメント化が形骸化していき、いつの間にか誰もがわかる状態ではなくなってしまうんです。
苦肉の策ではありますが、GDOでは5年に1回ほどシステムリプレースを行っています。リプレースすると、データモデルを理解しないといけなくなりますから、人が育ちます。また、リプレースをやろうとすると断捨離することになりますから、システムがスマートになります(志賀氏)
データ活用人材のキャリアパス(可能性)
本セミナーの最後の話題は、データ活用人材のキャリアパスについてだ。志賀氏は「事業会社にキャリアパスがないと辞めてしまう原因にもなる」と課題点を指摘し、それを受ける形で小畑氏は「多くの企業がまだ準備ができていない状態だ」と現状を説明した。では、GDOではどのようなキャリアパスがあるのだろうか?
たとえば志賀氏は、GDOに入社後、IT戦略室長となり、情報活用推進部部長を経て、お客さま体験デザイン本部(現UXD本部)を設立して本部長となり、2018年に執行役員CMO/CIOになった。システム系からマーケター寄りのキャリアを歩んでいる。この志賀氏の立場になるには、どうすれば良いのだろうか?
GDOのおもしろい取り組みとして、“人”に予算を付けることをしています。たとえば、エンジニアに予算を渡すから「データ活用」するためのシステムを考えてみて、といった形です。すると、開発する視点に加えて、マーケティングの視点も養えて、結果的にデータを扱えるマーケターに育ちます。自分に付いた予算のために真剣に取り組むと、外的要因もみえてくるようになって、先を読むことができるようになります。
実際に、この予算を付けるという方法で、セールスフォースを担当していたエンジニアがMA(マーケティングオートメーション)のエンジニアになって、いつの間にかマーケターになり、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進人材になった例があります(志賀氏)
企業でデータ活用を進める際、課題はたくさんあるだろう。資金不足や取得できるデータの欠如、技術的な面での課題もあるだろうが、組織体制や人材不足も大きな課題だ。もしかしたら、一番の課題だという企業も多いのではないだろうか。今回は、必要な人材の配置や人を育てるという視点から「理想的なデータ活用フロー」を考えた、興味深いセミナーだった。ぜひ、参考にしてほしい。
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