Withコロナ時代に「BtoBマーケティングDX」はどうあるべきか? 押山裕之氏のビジョン【電通デジタルコラム】
株式会社電通デジタル
ビジネスデザイン事業部
プランニングマネージャー押山裕之
※所属・役職は記事公開当時のものです。
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、BtoBマーケティングにも深刻な影響を及ぼしました。
セミナー、展示会、訪問説明、商談といった従来のオフラインチャネルが使えなくなり、顧客の検討プロセスが急速にオンラインにシフトしつつあります。
BtoB企業がこれらの変化に対応して、持続的な成長を維持するためには、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が必要です。本稿では、BtoBマーケティングのDXとは何か、どのように進めれば良いのか、その考え方と方法を解説します。
BtoBマーケティングへのコロナの影響
コロナにより企業業績が悪化
緊急事態宣言が発令された2020年4月から5月にかけて、多くの企業の業績が悪化しました。2020年6月10日時点で、上場企業のうち756社が下方修正し、その減少額の合計は約5兆円[1]。これはかなり厳しい数字です。
産業別に見ると、BtoB企業が多く含まれる製造業は、1社あたりの減少額が95.3億円(下方修正をした企業の平均値)。BtoB企業もコロナの影響を大きく受けており、厳しい状態であることを見て取ることができます。
顧客の検討プロセスはオンライン化が進行
コロナはBtoBの営業・マーケティングのプロセスに変化を及ぼしました。顧客企業においてリモートワーク化が進んだことにより、展示会、セミナー、訪問営業、商談といったオフラインチャネルのアプローチが使えなくなりました。従来のBtoBの営業・マーケティングプロセスにおける、主要なコミュニケーションチャネルが断絶してしまったというわけです。
オフラインチャネルが使えなくなったことにより、顧客の検討プロセスはオンライン化が進み、検討フェーズが長期化するようになりました。コロナ以前からすでに、顧客主体の情報収集が進んでいる傾向はありましたが、その変化が一気に加速してきたという印象です。
新規リードと商談数が減少
一方、企業側において、マーケティングでは、新規リード獲得が減少。営業では商談数/商談化率の低下が目立ってきています。特に営業の現場では、対面での説明ができないので商談ができない、商談ができないので受注ができない、というサイクルになっており、従来の営業スタイルがプロセス全体のボトルネックになってしまっています。
BtoB企業がこれらの変化に対応して、持続的な成長を維持できるかどうか。その答えはデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の中にあると、私は見ています。
BtoBマーケティングのDXとは
DXはもともと、「進化し続けるITが人々の生活を豊かにする」として、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念です[2]。それ以降、いろいろな人や企業がそれぞれにDXを定義しています。大ざっぱに言えば、「データやテクノロジーを使って、新しいビジネスを実現すること」と捉えていいと思います。
DXを促す2つの脅威
現在、多くのBtoB企業は2つの脅威に直面しています。1つは「ディスラプター(市場破壊者)の脅威」、もう1つは「産業の転換/崩壊」です。
何も手を打たなければ、いわゆるプラットフォーマーを中心としたディスラプターによってビジネスルールが変えられて、突然、不利な立場に置かれてしまうだけではなく、産業が崩壊し、市場からの撤退に追い込まれてしまう可能性もあります。
DXに必要な2つの要素
では、企業のDXを実現するには何が必要なのか。1つは「ビジネスの変革」です。攻守で言えば「攻め」にあたります。サービス開発、顧客体験設計、プロセス構築を行うことで、新たな収益方法を作り出します。
もう1つは「デジタル化」です。ITの導入、RPA、データ活用によって、アジリティの高い、スピーディーな、効率化・改善を行います。こちらは主に「守り」の手段です。この2つがそろって初めてDXを実現することができます。
BtoBのDX事例(大手タイヤメーカー)
BtoBでビジネスを変革するようなDXを実現できた事例を1つ紹介します。ある大手タイヤメーカーのサブスクリプション(以下、サブスク)・サービスです。
この企業は、アジアのタイヤメーカーが日本市場に参入したことで、厳しい価格競争に直面していました(ディスラプターの脅威)。また、自動車需要の減少に伴い、今後タイヤの需要も減少することが予測されていました(産業の転換/崩壊)。
こうした状況からこの企業は、タイヤ単体の販売というビジネスモデルは限界と判断。運送会社やバス事業者向けに、タイヤの供給とメンテナンスをパッケージ化したサブスク・サービスを始めました(ビジネスの変革)。一方で、IoTによって車両ごとの利用状況/使用履歴をリアルタイムに取得する仕組みを作り、顧客の生産性向上や、自社サービス部門の強化に役立てています(デジタル化)。
結果として、この企業は、新たな市場を発掘できたと同時に、サービスレベルが向上し、安定収益を上げられるようになりました。利用企業側も、コストの平準化や、本業への集中、安全管理といったメリットを享受でき、当時、サブスク継続率が100%ということで業界でもニュースになりました。まさにBtoBでもDXが有効であることを示した良い事例だと思います。
DXに必要な3つの変革
BtoBマーケティングのDXを実現するには、3つの変革を目指す必要があります。1つ目は「データの変革」、2つ目は「プロセスの変革」、3つ目は「人材の変革」です。
①データの変革
多くの企業は現在すでに、多くのマーケティングデータを使用しています。取引先のデータ、リードのデータ、取引結果、訪問履歴、Webアクセス、問い合わせ/クレームなど、これらは「マーケティング基本データ」と呼ばれます。
社内に散在していることも多いこれらのマーケティング基本データを集約・一元化して、使える状態に整備する、いわば「量の向上」が、データの変革の第1段階です。
第2段階は「マーケティング高度化データ」の整備です。企業属性データ、個人別嗜好、IoTやサービスの利用データ、組織データ、行動分析データ、名刺・SFAデータなど。マーケティングを高度化するデータを基本データに加えたり、連携したり、加工したりすることで、マーケティングにフィットしたデータを作る、つまり「質の向上」が目的になります。
第3段階は、「データ活用の民主化」です。すべてのデータを企業と人に紐付けて統合し、社内の誰でも使えるような環境を作ります。
以上、マーケティング基本データの整備、マーケティング高度化データの整備、データ活用の民主化が「データの変革」です。
②プロセスの変革
2つ目はプロセスの変革です。マーケティングと営業のプロセスの中で、
テックタッチ(デジタル接点)
ロータッチ(電話やメールでの対応、ワークショップなど、集団単位での人接点)
ハイタッチ(個別の人接点)
というプロセスのすべてがオンライン化することによって、データが自動的に取得できて、統合できるようになります。
統合されたデータをもとにして、マーケティングは企画・施策を実行し、営業は仮説を立てて、商談を実行するというプロセスに変化していきます。
その反面、情報のオンライン化は、顧客企業が別のサービスに乗り換える離脱(リプレイス)の敷居を下げるというリスクをもたらします。このリスクへの対処としては、ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)にもとづいて、カスタマーサクセスを充実させることが有効と考えられています。
ABMは、広く網を張る従来のマーケティングと異なり、まずターゲットとする重点顧客を決めます。その顧客に関して収集したデータを分析し、ニーズ別にシナリオを作って、アプローチをするという手法です。
営業、マーケティング、カスタマーサクセスがそれぞれの役割にとらわれず、データ収集、蓄積、アプローチを共同してやっていくことで、共通のKPIを設定することができます。結果として、高いエンゲージメントを実現することができるようになります。
③人材の変革
人材の変革は、もっとも重要なポイントです。私の持論ですが、「営業を理解しているマーケ」や「マーケを理解している営業」が最強の人材だと考えています。実際、そのようなメンバーは、会社の中でもレアリティが非常に高く、いわゆる「できるマーケ」「できる営業」と呼ばれています。DXを実現するためには、マーケティングと営業のスキルを統合して、DXの土台となる精鋭、「強い個」を評価し、育成していくことが必須です。
ここまでBtoBのDXを実現させるために必要な「データの変革」「プロセスの変革」「人材の変革」について説明してきました。この3つに共通して言えることは、「データ」と「統合」により、新しいアプローチを開発し顧客とより強固な関係を結ぶためのマーケティング改革、これこそが、BtoBマーケティングのDXを実現させるために必要だということです。
BtoBマーケティングDXを実現するために
DXは一日にしてならず。経験やリソースがない中で、いきなり変革をしようというのはリスクでしかありません。DX実現にあたっては、「ビジネスの変革」と「デジタル化」を着実に進めていくことが必要です。
そのためにはまず、データ・プロセス・人材の変革を行って、DX Ready(=DX準備完了)の状態を作ることを目指してください。そのうえで、ロードマップを描いて、ステップ・バイ・ステップで進めてください。
そうすることで、BtoBマーケティングのDXが確実に実現され、経済産業省が唱える「2025年の崖」[注1]を飛び越えて、ビジネスの成功へつながっていくと、私は信じています。
電通デジタルでは、コロナ禍に対応し、DXを推進したい企業を支援する「BtoBマーケティングDX支援ソリューション」の提供を開始しました。このソリューションには、以下のような支援プランが含まれています。
Web広告の設計・運用
Webサイトやウェビナーへの集客を行うWeb広告の設計や運用を含めたノウハウを提供します。
ウェビナーの導入支援パッケージ
ウェビナーツールの導入や運用プロセス構築を支援します。
リモートクリエーティブ制作ソリューション
スピーディーに動画を制作するソリューションです。たとえば、チラシや営業資料などを素材にして、すばやく動画のクリエーティブを制作します。
MA導入支援パッケージ
効率的かつ効果的なプロセスを支えるマーケティングオートメーション(MA)の導入支援パッケージです。ツールの選定・導入、シナリオ策定、PDCAの定着支援を行います。
UX設計とユーザー調査
MA導入にあたって必要なUX設計(ペルソナ作成、カスタマージャーニー設計)ならびユーザー調査(定性、定量)等を行います。
グロースハックパッケージ
USERGRAMやAmplitudeという行動分析ツールの導入、そしてそれらを使ったグロースハックを行うための環境づくりを支援します。
その他にも、CRMデータの統合支援から、BtoBマーケティングのDX人材育成支援、ABMの導入支援、それに必要なカスタマーサクセスチームの立ち上げ支援を提供しています。
DX全体を一貫して支援することもできますし、個々の支援プランのご提案も可能です。興味のある部分があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
脚注
注釈
出典
「電通デジタル トピックス」掲載のオリジナル版はこちらWithコロナの成長戦略「BtoBマーケティングDX」の考え方2020/10/15
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