CMO(最高マーケティング責任者)の果たすべき役割は? 日本企業のデジタル変革に必要なポイントは?
CMO(最高マーケティング責任者)という役職は、なぜ求められるようになったのか? 日本企業でデジタルを活用したマーケティングを推進していくために解決すべき課題は? 組織をどう変えていくべきなのか? ATS Tokyoのセッションからポイントをお届けする。
日本のプログラマティック・マーケティングの最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2017」が2017年秋に都内で開催された。
「ATS」は「Ad Trading Summit(広告取引サミット)」の略で、ロンドン、シンガポール、トロント、マイアミといった世界の主要都市でExchangeWireが開催しているセミナーイベント。
ATS Tokyoはその東京版で、今回が4回目の開催。代理店、シニア・マーケター、広告運用のスペシャリストなどのほか、アドエクスチェンジ、アドネットワーク、メディアレップ、アドサーバー、アドテクベンダー、パブリシャー、データ・ソリューション・プロバイダとデータ・プラットフォームなどを対象としている。
議論の主要なテーマとして、今回次のようなものが扱われた:
- 広告取引の透明性
- クロスデバイス
- プログラマティックビデオ
- データドリブンな企業の組織作り
- など
このなかから本記事では、「企業におけるCIO及びCMOの役割」をテーマとしたパネルディスカッションから、ポイントをお届けする。
企業におけるCIO及びCMOの役割とは
企業がテクノロジーやデータがマーケティングを本格的に活用するための正しい体制とは
セッションには、データビジネスの第一線に立つキーパーソンが登壇し、ExchangeWire.comのキアラン・オーケインCEOによる進行のもと議論を展開した。登壇者は次の3名:
- 布施一樹氏(Datorama Japan株式会社の代表取締役)
- 堀内健后氏(トレジャーデータ株式会社のマーケティング担当ディレクター)
- 廣末佳子氏(日本アイ・ビー・エム株式会社におけるマーケティング & コミュニケーション パフォーマンス・マーケティング アナリティクス & デジタルプラットフォームの担当部長)
ビジネスで活用するデータの拡大と複雑化にともない、企業はデータを効率的に管理・活用するための組織改変を迫られている。こうした変化に対応するために検討されているのが、次の2つの役職だ。
- CIO ―― 主に欧米企業において先例が見られる情報システム部門の最高情報責任者
- CMO ―― 最高マーケティング責任者
このCIO/CMOにまつわるさまざまな課題が、本議論の主なテーマとなった。
本当に消費者を理解したマーケティング活動にはデータとテクノロジーの活用が必須
日本アイ・ビー・エムの廣末氏は、昨今のマーケティング状況について次のように話す。
一般的に「プッシュ型」「プロダクトアウト型」などと表現される形態から、本当の意味での消費者理解を目的としたモデルへとマーケティング活動は転換しつつある。
その変化を進めるには、データとテクノロジーの活用が必須だ。しかし、豊富なデータを扱う環境においては、次のような課題があるという。
- データを収集するプラットフォームの特性を理解する必要がある
- データ活用に際してどのようなリスクがあるのかを、あらかじめ把握しなければならない
さらにマーケティングの最適化を定常的に進めるには、ペイドメディアに対する効果分析を、従来のスタイルから変えていく必要があるという。具体的には、次のようなことだ。
- 従来の効果分析: キャンペーン実施後に効果を把握
- 必要な効果分析: キャンペーンを実施しているその最中に効果把握し、施策に反映
これらの業務の責任を負うのが、CIOやCMOの役割だということだ。
その責任を果たすためにCIO/CMOは、さまざまなデータを統合的に把握できるダッシュボードを整備し、常に情報を確認することで、マーケティング戦略が計画どおり適切に実施されているかを確認する必要がある。
また、計画どおり進んでいない場合に軌道修正を行うための権限と予算をもっていなければいけない。
ただし、廣末氏が語るCIO/CMOを中心とした組織体制は、いまだ構想段階に過ぎないというのが現状でもある。
日本企業にはデジタルに精通した役員が足りない
Datoramaの布施氏は、日本企業のマネジメント層におけるデジタルの理解について、次のように現状を話す。
日本企業においては、実務レベルでデジタル戦略に精通した責任者が取締役に名を連ねていること自体が、非常に稀だ。
トレジャーデータの堀内氏も日本企業の状況として、自社サイトを通じたデータ収集やモバイルアプリの運営を適切に行っていない企業が多いと指摘する。そうした段階の組織でCIO/CMOという役職が本当に機能するのかという点については懐疑的だということだ。
こうした状況を変革するためには何が必要なのだろうか。
布施氏は「企業のトップによるリーダーシップが必要になる」としたうえで、「CEOを始めとする要職とCIO/CMOの関係をつなぐ役割を、データ事業者が果たし得る」とも述べた。
難しいのはデータ戦略の全体像を描くこと、これは外には任せられない
廣末氏は別の観点から、次のように指摘する。
「どの事業者と提携するか」といった具体策よりも、「どのようなデータを収集するべきなのか」といった俯瞰的な青写真を描くことが難しい。
これに対して布施氏も次のように述べる。
青写真を描くという企業の根幹となる作業は、データ事業者に依頼するのではなく、自社で行う必要がある。
さらに堀内氏は、広告部門とマーケティング部門がそれぞれ「蛸壷化」していることの弊害を指摘したうえで、関連ソリューションが乱立している現状においては、CIO/CMOの重要性が確実に増していくと述べた。
加えて各登壇者は、CIOとCMOの架け橋となる次のような役割の新設も提案する。
- 最高マーケティングテクノロジー責任者(CMTO)
- 最高デジタル責任者(CDO)
「デジタルマーケティング」を小手先の施策ではなく企業活動の根幹に位置づけ、今後もさらに発展させていくには、企業は抜本的な組織改編を進める必要がありそうだ。
その道筋に正しい地図はなく、易しい道のりではない。しかし日本でも、企業が「組織のデジタル対応」を進める動きが始まっている。
ATS Tokyoは次回2018年秋の開催を予定している。
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