Web広告研究会セミナーレポート

マーケターはもっと現場を体験すべき、デジタルだけではわからない経験価値マーケティングに必要なこと

ニューバランスとサンリオが登壇、ブランド体験提供の取り組みを発表した
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

体験や経験はマーケティングにどのような効果をもたらすのか。第一部の経験価値マーケティングに取り組むニューバランスとサンリオの2社の事例紹介を受け、モデレーターにインフォバーンの田中氏を迎え、各社が実践する経験価値マーケティングに対する考え方や手法についてディスカッションした。

株式会社インフォバーン
執行役員
アカウントプランニング部門及び
DIGIDAY事業 担当
田中 準也 氏
株式会社ニューバランス
マーケティング部
ブランドマーケティング マネージャー
山崎 祐仁 氏
株式会社サンリオ
メディア部
ジェネラルマネージャー
田口 歩 氏
株式会社サンリオ
メディア部
鈴木 理恵 氏

マーケター自らが体験することの重要性

パネルディスカッションの冒頭、モデレーターの田中氏は「マーケター自らが汗をかいて体験すべき」と事前打ち合わせで山崎氏が話していたことを明かし、山崎氏に問いかける。

山崎氏は、マーケターには自ら体験して、体験にもとづいて語ることが求められるとし、次の5つの要素が必要だと述べる。

  • 課題を発見する力
  • 課題解決に向けた探究心
  • 課題解決のためのチーム実行力
  • 好奇心高く新たな技術をキャッチする力
  • 楽しむこと

課題を他所に丸投げするのではなく、マーケター自身が課題の本質を知ることが重要であると話す山崎氏は、自身もシューフィッター(靴合わせの専門資格)を取得している。高校生のサッカー大会など、現場で実際にユーザーと触れ合い、コミュニケーションを取り、一緒に体験を共有することを心がけているという。また、自ら東京マラソンなどのフルマラソンにも参加して、商品をリアルに体験することを重視していると説明した。

「ピューロランドやサンリオショップにどれだけ行っているのか?」と、社長と顔を合わせるたびに聞かれるという田口氏も、現場に足を運び、ユーザーがどのような体験をしているかを見て共有することは重要だと話す。

たとえば、実際にピューロランドに行くと、毎回違う人たちが違う楽しみ方をしていることに気づくという。また、鈴木氏はピューロランドのWebサイトを作るうえで、自分自身が経験したからこそわかることがあり、経験をもとにWeb上の館内案内などをわかりやすく改善できたと話した。

リアルなユーザーに触れてカスタマージャーニーを描く

続いてディスカッションの話題は、カスタマージャーニー作成のプロセスに移る。

山崎氏は、マーケティング部と代理店などのパートナーが年に2回ミーティングを行い、春夏または秋冬の商品に対するマーケティングの施策を考えていると話す。ペルソナは、ニューバランスのターゲットである「25歳から34歳くらいの都会に住んでいて感度の高い男女」もしくは「14歳から19歳くらいの部活生」を想定して描いているという。

しかし、ミーティングの主なメンバーは30~40代でターゲットとの接点がないため、以前は、想像のペルソナをもとにカスタマージャーニーを描くことに疑問を感じていたという。

そうしたなか、第一部で説明したG2G(Ground to Ground)マーケティングを意識しはじめてから状況が変化したという。現場に商品を持っていくことで、ユーザーの意見を直接の声やアンケートを通じて、リアルに知ることができるようになったからだ。これらの活動が実を結びつつあり、継続していくことで、ターゲットユーザーのリアルな情報を知り、絆を築けるようになってきたと山崎氏は説明した。

親子三世代にわたるカスタマージャーニー

サンリオには様々なキャラクターがおり、それぞれのユーザーの年齢層も幅広く、好きになったきっかけも商品購買の理由も多種多様である。膨大なペルソナとシナリオを元に単一のカスタマージャーニーを作る意味は小さく、田口氏は短期的なカスタマージャーニーやシナリオにはこだわっていないと話す。

ただし、最初にキャラクターを認知するブランド体験は非常に重視しており、未就学児から小学校低学年までの原体験に始まり、年齢を重ねるごとに繰り返されるサンリオブランドとの接触とそこでのコミュニケーションに注目しているという。

サンリオには三世代キャラクターという言葉がある。1974年に誕生したハローキティに触れた子供が母親世代になれば、子供にハローキティを勧める可能性が高く、祖母世代になれば、安心感を持って孫にキャラクターを勧めるケースが多くなるというものだ。

そのため、三世代にわたり、サンリオのキャラクターに触れては離れることを繰り返しながら、ブランドと長く付き合ってもらうというのが大枠のカスタマージャーニーだという。

しかし、三世代にわたり常に顧客とコミュニケーションし続けるのは不可能であるため、「いつ戻ってきても、すぐにサンリオの世界に入り込めるようにエントリーポイントを考え、戻って来てくれるきっかけを設計することが重要だ」と田口氏は話す。

ただし、数多くのキャラクターを持つサンリオでは、すでに商品を生産していないキャラクター商品もある。それらのキャラクターのファンが戻って来やすいように、毎年行うキャラクター大賞でスポットライトを当てたり、公式Twitterアカウントを立ち上げたりするなど、商品がなくてもファンが戻ってこられるキッカケを作ることが課題だという。

営業との連携と今後の体験設計

田中氏は、マーケティングセクションと営業や店頭との連携について両者に質問する。

山崎氏は、短期的な成果を求める営業と中長期的な成果を考えるマーケティングでは重要視している部分が異なるため、双方が積極的に口を出すことが重要だと説明する。

たとえば、第一部で説明した店頭イベントはマーケティング部門が主導しているが、営業も店頭スタッフやバイヤーをアテンドするだけでなく、同様のセッションを受けているという。営業スタッフもリアルな体験をすることで、アテンドできない店頭やバイヤーのもとへ行って説明できるようにしており、マーケティングが考えていることを営業に伝えていたと山崎氏は説明する。

また山崎氏は、リードタイムの長いスポーツ用品の世界では、早い段階から新商品のコンセプトや特徴を説明できなければ売り場の棚を確保できないため、営業・マーチャンダイザー・マーケティングが一緒のチームとなって店頭と向き合うことが重要だと話す。

外資系はマーケティングが強いが、日本企業であるサンリオでは営業のほうが強いと話す田口氏は、現場の販売戦略にもとづいて作られたプロモーションに合わせて、ネットの企画提案をしていると説明する。

サンリオでは、毎週新商品を80~100SKUくらい投入しているといい、年間で約5,000SKUを超える新商品が登場している。市場にはその9倍のライセンス商品が流通しており、商品の入れ替わりも激しいという。そのため、現場ではキャラクターやシーズン特集、周年プロモーションに力を入れていると田口氏は説明する。

また、ライセンス収入が多く、企業の販促プロモーションにキャラクターが起用されている同社では、単に使ってもらうだけでなく、何かしらの手伝いができないか模索しているところだという。

デジタルとリアルの融合で体験を生み出す

今後の体験設計の取り組みについて、山崎氏は、ポケモンGOを例に取り、ARなどの施策で心を揺り動かせるモノを作れないか考えていると話す。また、リアルな体験を映像化して分析するなど、リアルとデジタルのつなぎ込みにも注目しているという。

田口氏は今後、VRやARの波が訪れることは避けられず、ピューロランドで楽しんだ体験を自宅で再現し、また行きたくなるような仕組みを作りたいと話す。多種多様なキャラクターはデジタルコンテンツとの相性も良いため、バーチャルな体験の場を提供していくことを今後の課題として考えているという。

また、キャラクターのぬいぐるみに音声やその他の感覚を組み合わせてリアルな体験を届けたり、チャットボットやAIを活用してキャラクターの公式Twitterアカウントを増やしたりするなど、キャラクターと新しい技術を組み合わせたエンゲージメントの可能性を探究していきたいと田口氏は話す。

メールコミュニケーションを担当する鈴木氏は、メルマガのサンリオ通信に登録しているコアなファン以外との接点を広げていきたいと話す。「サンリオショップで買い物はしないが、100円ショップではサンリオグッズを買うという人はいると思う」と話し、デジタルならではの手法を使い、既存のコアなファン以外の人とコミュニケーションできるようなコンテンツを積極的に展開していきたいと述べた。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「マーケターはもっと現場を体験すべき、デジタルだけではわからない経験価値マーケティングに必要なこと」2016年7月26日開催 月例セミナー 第2部(2016/10/03)

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