窓際のしずる感。コンテンツ写真の命は構図にあり
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の475
なにより大切なものは
今回は上手な写真のTIPS編。本稿における「上手な写真」とは、コンテンツ用として「使える写真」を指し、「つかえねー」な写真を下手とします。肝心なことは「テーマ」を設定すること(前回参照)。そのうえで、より良く、より簡単に撮影するためのTIPS(小技)を紹介します。
まず、写真は「構図」がすべてといっても過言ではありません。写真を切り取る「トリミング」も、より良い「構図」を得るためのアプローチであり、写真家ロバート・キャパの代表作「崩れ落ちる兵士」がメッセージ性を帯びたのも、画面に拡がる広大な空との対比があればこそです。なおこの写真は、ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんなどによる検証の結果、「銃で撃たれた瞬間」ではなく「訓練中に転んだ兵士」説が有力となっています。
被写体との角度、距離、配置、配色も含む「構図」とは「センス」の世界。これを先人の知恵を借り身につけます。
共有されるノウハウ
もっとも簡単な方法が、プロカメラマンの構図をリスペクトすること。「テーマ」に最も近い写真を、新聞、雑誌、Web媒体から抽出しそれを真似ます。『写真構図のルールブック』のような書籍があるように、歴代カメラマンの切磋琢磨によって蓄積、共有されているノウハウが「構図」であるともいえます。
厳密には構図も著作権の対象となることがあるので、「丸ごとのコピー」はオススメしませんが、学ぶの語源が真似るにあるように、敬意を込めた模倣は、技術習得の基本であり最短距離です。
かつて、プロカメラマンが用いる構図をナビゲートするアプリがあったようですが、現在は廃版になっているようで復活に期待します。
プロと素人の差
立ち位置を変えるだけで、プロっぽい構図の写真になる
とは、広告で仕事をしたプロカメラマンから教わった話です。素人は棒立ちでシャッターを切りますが、地面にしゃがみ込み、脚立の上に登るのがプロカメラマンだと語ります。地面からの撮影は、見上げる角度から奥行きや広がりを演出し、台に上れば全体を納めやすく、やはり立体感を得ることができます。プロはテーブルにおかれた料理の写真でさえ、脚立の上から「望遠レンズ」を使って撮影します。
「テーマ」を的確に表現する構図の1つが「アップ(接写)」です。被写体の「特徴」にフォーカスすれば、そのまま「テーマ」を表現していることになります。
カルビ、牛タンが盛り込まれた焼肉メニューがあったとします。牛タンに自信があるなら牛タンを中心とし、サシ(肉脂)のきめの細かさが他店の追随を許さないのならば、サシだけを撮影するということです。アップによって特徴を切り出すことで「サシが自慢ですよ、美味しいですよ」と一も二もなく伝える。言い換えれば、それ以外は伝えないという荒技ですが、高い広告効果が期待できます。
しずる感の出し方
食べ物の写真で欠かせないのが「しずる感」です。正統な「しずる感」の出し方は各種カメラ講座にあたってもらうとして、経験上、最も簡単な方法はライティングです。秋ナスの瑞々しさは黒光りと水滴で伝え、鮮魚の活きの良さはウロコの輝き目の光りで、炊きたてのご飯のツヤには「光」で表現します。しずる感とは、水滴か油による光の屈折や反射だからです。
照明機材のない室内での撮影では、絶対的に光量が不足します。最近のデジカメやスマホは、暗いところでも明るく撮影できますが、光が「こぼれる」ぐらいのほうが「しずる感」は演出しやすいため、電気スタンドがあれば「光源」とします。なお、懐中電灯はあまりにも一点に光が当たりすぎるので不向きです。
光の当たる角度を調整するレフ板の代わりに「コピー用紙」を使う方法もあります。肉眼では気づかないぐらいの光量の変化でも、デジカメは丁寧に拾ってくれ、被写体の表情を変えてくれます。
「コピー用紙」は「自撮り」でも使えます。フレーム枠外の顔の下に、コピー用紙を並べて撮影すると、肌の色が明るくなり、さわやかな印象を与えることができるのです。なお、ボール紙にアルミホイルを貼りレフ板にする方法は、反射光が強すぎためコントロールが難しく「労多くして功少なし」なのでオススメしません。
冷蔵庫で作るしずる感
日当たりが良いオフィスならば「窓際」の撮影を試してみるのもいいでしょう。晴天の日中は片側(窓側)からの光が強すぎるので、被写体を挟んだ反対側に、コピー用紙のレフ板を置いてバランスを取ります。その上で、より「光っている箇所の多い角度」でシャッターを切ると、なんちゃってしずる感の完成です。金属製品などで、陰影の強さを求める写真でも「窓際」は使えます。
しずる感を出すために「霧吹き」を使う手法もあります。しかし、吹き付ける加減が難しく、そこにも「センス」の壁が立ちはだかります。ナスやキュウリ、イチゴといった食品素材なら、撮影直前まで冷蔵庫に入れておくといいでしょう。室温との温度差から浮かぶ水滴が、自然なしずる感を生み出します。
屋外撮影など冷蔵庫のない環境なら、クーラーボックスやコンビニで買った「ロックアイス」で被写体を冷やしても同じ効果が得られます。
モバイルファーストの時代だから
食に限定すると、ラーメンや鍋料理などの場合は「湯気」も「上手な写真」のポイントとなります。写真レタッチソフト「Photoshop」で描き加えるほか、今なら各種「アプリ」で加工することもできます。撮影のときは、背景を暗い色にすると「生湯気」を簡単に撮ることができます。暗いテーブルや暗幕のようなカーテンは必要なく、「黒の色画用紙」で十分です。
前回の「テーマ」はもちろん、写真における構図の重要性は「モバイルファースト」になり、より増していると感じることが増えました。ノートパソコンでも13インチはあった「パソコン時代」なら、数多くの写真を掲載する「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」作戦が使えましたが、スマホの小さな画面ではそれが適わないからです。
レイアウトは画面幅に制約され、限りある紙面の新聞や雑誌並みの制約が課せられているように感じることもしばしば。これらも先祖返りというのでしょうか。今回紹介したTIPSは、アプリもスマホも存在しなかった、銀塩からデジカメへの移行期間に多用された現場のノウハウです。
今回のポイント
構図を真似る、そして学ぶ
しずる感は光の調整
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