コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の503
プロのクオリティは高い
Web制作の実務において、プロカメラマンへの発注は常に選択肢に入れておくべきでしょう。デジカメやスマホの性能が高まり、素人でもそれなりの品質の撮影ができるようにはなりましたが、プロのクオリティは別次元にあります。
彼らは写真に嘘をつかせる術を数多く持っています。ただし、プロに発注しても「失敗」することがあります。今回は、失敗例を踏まえた上で「プロに写真を発注する心得」について。
西日本の某焼肉屋が、ホームページに使う素材写真を地元のカメラマンに発注しました。「店内」「内装」「料理」「調理風景」など、撮影はほぼ1日がかりの大仕事です。
肉のプロフェッショナルの責任
実際の撮影現場では、皿の傾きを一度ずつ変えるといった細かな調整が繰り返されます。長時間の撮影に角の立っていたサーロインステーキ用の肉が溶け、肉汁が流れ出すことなど、よくあることです。
それだけ手間暇かけながらも写真はイマイチ。ピントも合い、バランスもとれていて、外光を活かした料理の写真は「キレイ」だったのですが「美味そう」ではなく、工夫のない店内写真には面白みがありません。
極めつけは、かたまり肉からステーキ肉を切り出したカット。肉には「筋」があり、その筋が構図の中心になっていました。撮影し直す予算もスケジュールもなく、足りない素材は店長のインスタグラムの写真から転用しました。
責任は発注者である焼肉屋にあります。一般的なカメラマンは、素材を美しく撮影する技術は持っていても、肉の目利きはできません。切った断面に筋を見つけたなら、そこを外して撮影させるのか、あるいは別の素材を用意するか、どう見せたいのかという判断は肉のプロである発注者側の責任だからです。
はじめての撮影依頼
私がはじめてプロカメラマンに発注したのは、会社員時代、奇しくも焼肉屋の案件でした。首都圏近郊の旧街道沿いにある、地主の息子が経営する黒毛和牛にこだわった焼肉屋です。
金に糸目はつけないから、立派なメニューとパンフレット、チラシを作ってほしい
という依頼がきます。見積もりに計上した「撮影費」も了解し、広告専門のカメラマンを招きました。
ひとくちにカメラマンといっても、それぞれに「得意」と「専門」があり、報道やスポーツ、結婚式や修学旅行などに特化したカメラマンがいるものです。Webなら広告を得意とするカメラマンに依頼すべきでしょう(もちろん、案件によります)。
「広告」のなかでも得意分野は分かれます。大雑把に分けても静物(商品撮影)、人物、風景があり、食品に「しずる感」を与える名人もいれば、モデルの笑顔を引き出す名人もいます。理想を言えば、それぞれに最適なカメラマンをチョイスすべきだということです。実績のあるカメラマンであれば、得意分野が示されています。ただし、「良い写真」はカメラマンの得手不得手だけでは決まりません。
カメラマンの分際
上司と部下と私の3人で撮影に立ち会っていると、機材の準備をしていたカメラマンが尋ねます。
デザイナーさんは誰ですか?
依頼主がどんな「写真」を欲しているかという問いで、撮影の「コンセプト」や「構図」の指示を求めていたのです。メニューやチラシといった「商品」を作るのは撮影の次にあるデザイン工程、その希望を知りたいということです。あくまでカメラマンは「写真」を撮るプロフェッショナルなのです。
焼肉屋の撮影に立ち会えば、撮影に使った肉のおこぼれにありつけるかもしれないという卑しい目論見と、プロに丸投げすれば「良い写真」を撮ってくれると甘く考えていた我々に「コンセプト」などありません。
上司は鳴ってもいない携帯電話を片手に席を外し、部下は私を見つめます。そして私が、「何をすればよいでしょうか」と揉み手レベルでへりくだる姿はコントでした。カメラマンは、日頃「家具」ばかりを撮影しており、飲食はあまり経験がないと断りながらも、こうアドバイスをくれました。
- ラフスケッチでもOK
- 文章でも可(最悪、口頭でも。この事例はこれで対応)
- 他の広告、写真集などから「サンプル」を提供する
- 事前にカメラマンと打ち合わせ(コンセプトの擦り合わせ)
「頼る」ことと「丸投げ」は違う
実に当たり前のことばかりですが、いまも大切にしている「心得」です。
前述の焼肉屋の店内写真にしても、高級志向やファミリー向けといった、店のコンセプトを伝えていれば、カメラマンのもっている経験や技術を駆使してくれたことでしょう。
人のことは言えませんが、プロに発注すれば「イイカンジ」に仕上げてくれると丸投げしたことが失敗の理由です。もちろん「コンセプト」はWeb制作に直結します。
私自身、「飲食店の広告ならこのカットは必要だろう」というカメラマンの経験の世話になりました。こうした経験に頼れるのも「プロ」に発注するメリットです。
仮にコンセプトが明確でなくても(中小の現場ではよくあること)、ある程度の方向性や希望を伝えることで、できうる限りの結果を出そうとプロなら取り組んでくれます。発注の仕方がわからなければ、正直に伝えるべきです。
「カメラマンにとって作品は、そのまま営業ツールだから」とは、丸投げを目論んだカメラマンから学んだ心得です。
また、「写真は嘘をつく」ことも教わります。とりわけ「広告写真」では重要で、さまざまなテクニックがあることも教わりました。しかし、丁寧に説明しないと語弊を生みかねないので、今回は別の事例から「さわり」だけ紹介しておきます。
見せたいモノを見せる
我が家では二頭の柴犬を飼っているのですが、ある日、犬を連れて出掛けていると、インスタグラムでつながっている「犬仲間」が声をかけてきました。連れている犬を見てこちらがわかったようです。
仲良く過ごす我が家の二頭の柴犬をみて溜息をつきます。先方も同じく芝犬を二頭飼っているのですが、すぐケンカをするそうです。インスタでは「仲良し」に見えていたと伝えると「仲良く見えることがコンセプトですから、その写真しかアップしていません」ときっぱり。
見せたい部分、伝えたい箇所だけ切り取ることで「写真に嘘」をつかせていたのです。その後よく見てみると、ワンコグッズを扱っているアカウントでした。
今回のポイント
カメラマンは写真の専門家
コンセプトや打ち合わせという基本が大切
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