コンテンツ戦略だけでは不十分、その理由は……(中編)
この記事は、前中後編の3回に分けてお届けしている。中編となる今回は、「企業の達成しようとしている方向性に沿った、本物でシームレスな体験の提供」について、Wear Your Labelという新興のファッションブランドを例に見ていこう。→まず前編を読む
シームレスで本物の体験を提供する
経営コンサルタントのジョセフ・パイン氏はTEDのプレゼン「消費者の望むこと」で、経済における価値がいかにして新たな段階に入ったかについて議論している。
この「経験経済」(Experience Economy、「体験経済」とも)では、私たちはモノやサービスを超えて記憶に残る出来事を生み出さなければならない。それが経験なのだ。これは新しい概念ではなく、経験を重視するマーケティング(経験価値マーケティング)を採用して大きな成功を収めている企業は多い。
ただし、パイン氏のプレゼンで最も重要な部分は、経験は本物の企業から生まれる必要があるという点だ。この「本物」という指標は、消費者の新たな購入基準となっている。言い換えると、誰から買うかや何を買うかは、その企業がどれほど本物であるかという点に大いに関係する。
この「本物」は、ごまかせるものではない――広告でも、ブランドのアイデンティティを構成するいかなる要素でも。消費者の63%は、競合企業からではなく、自分が本物だと思う企業から購入したいと考えている。要するに、企業は自らを本物だと宣言したら、本当に本物でなければいけないのだ。
「本物」とは、その発言や、特に行動によって信条が伝わることだ。つまり、本物の企業とは、属性データで消費者の要望がわかった気になっている企業などではなく、従業員すべてに至るまで信念を持って、あらゆるチャネルや媒体にわたり、金銭を超えた意義に全力を注ぐ企業だ。
洋服を通じて心の健康を目指すWear Your Labelの事例
Wear Your Labelを例に挙げよう。まだ若いブランドであるWear Your Labelは、洋服を、心の健康に関する会話を始めるきっかけにしようとしている。彼らの企業としての使命は、1着1着の洋服によって心の病気からの解放を目指そうというものだ。
Wear Your Labelは自らの意義や自らが本物であることに全力を傾けており、オンラインかオフラインかに関係なく、そのあらゆる活動においてこれは明らかだ。
Wear Your Labelは、包括的で心地よく、力になる体験を生み出している。洋服のタグにさえその目指すところがにじみ出ている。すべての服につけられているのは、洗濯表示ではなく、こんなセルフケアの注意書きだ。
Wear Your Labelのウェブサイトでは、服を見せるモデルを雇うのではなく、心の病気に関する自分自身の体験や、人生に及ぼした影響を話すことのできる勇気を持った人たちを「ロールモデル」として採用している。身長や体重に条件はなく、ただ自らの体験を人々に語るよう求めているのだ。
Wear Your Labelは、服の作成過程をブログですべて公開している。また同社に賛同する人々がコンテンツを書いているコミュニティもある。
オフラインでは、リアルであることにこだわっている。
ニューヨーク・コレクションに参加を依頼されたときは、単にスーパーモデルを連れてくるのではなく、公開オーディションを実施して、顧客のロールモデル3人にランウェイを歩かせた。
トロントで開催されたユースデイ2015では、仮店舗を設置したり、15人のボランティアが参加者たちにメッセージカードを配ったりしたほか、1回の購入につき1ドルを提携しているメンタルヘルス団体に寄付するなど、体験型の取り組みを実践した。
ソーシャルにおけるWear Your Labelのフィードは、気持ちのいいほど人間味にあふれている。Twitterでは「セルフプロモーション」と「つながり促進」の間でバランスを取っている。実在の人物がWear Your Labelの服を着てセルフケアのメッセージを毎日発信しており、あらゆるものに彼らの目的が反映されている。
Wear Your Labelはブランドとして好スタートを切っており、信頼を得て関係を構築することで、いずれ強力なコミュニティや収益性の高い顧客基盤へと発展していく数々のすばらしい取り組みを行っている。
実を言うと、こういったプレゼンスを生み出すのはマーケティングの観点から見てかなりシンプルなことだ。どのブランドにもできる。どのブランドでも、人々に自らの体験を語ってもらったり、感情に訴える動画をウェブサイトに掲載したりできる。どのブランドでも、気持ちのこもった助けになるツイートをソーシャルメディアに投稿することはできる。しかし、オンラインでのプレゼンスは本物を導く法則の一部でしかない。
最も説得力のあるな要素は、製品の質にある。つまり、次のようなことだ:
- 着方や洗濯方法はどうなっているか。
- どんなデバイスでも簡単にネット注文できるか。
- どこかしっくりこなかった場合、返品にどう対処するか。
- メール配信に関する意志を尊重しているか。
- 注文数が多くて出荷が遅れる場合、サイトに記載している5~10日間という猶予期間を守っているか。
- あるいは、この約束を守れない場合に、それを伝え損なっていないか。
これに徹底して取り組めば、ブランドはシームレスな体験を構築し、本物であることを証明し、信頼感とつながりを醸成できる。
どのブランドでも、顧客のロイヤルティと支持を得るには、やり続けなければならない。それはWear Your Labelでも同じだ。どんな場所でも、どんなものでも、あらゆるタッチポイントに顧客やコミュニティの信頼を得る機会は存在する。私は、Wear Your Labelが今後も順調に成長し、優れた企業になることを確信している。
マーケティング予算は、体験が行き詰まっている部分に投じよう
マーケティング予算をどこにより多く投じるべきかに悩んでいるマーケターや最高マーケティング責任者(CMO)は多い。予算は体験が行き詰まっている部分に投じよう。
「ファネル」はコントロールできないかもしれない。しかし、顧客やコミュニティのメンバーがライフサイクルのなかでブランドにかかわってくるすべての機会をとらえて、自分の行動をコントロールすることはできる。
自らの本物度合いや、顧客サービスの質、製品の改良にかける時間、顧客が家に持ち帰った製品から得られる価値は、コントロールできる。その過程でつまづいている箇所があるなら、そこに投資しよう。ブランドを通じて顧客にシームレスな体験をしてもらうことによって、ブランドと売上の両方で目標達成に近づくことができる。
実際、企業としての行動が、顧客との関係を結ぶ通路になる。提供している体験がいずれかの時点で断絶している場合は、顧客を完全に失ってしまったか、それまでに築かれていた信頼が壊れてしまっていることを意味し、顧客の購入決定やブランド支持の行動に悪影響を及ぼすだろう。
ブランドには強いプレッシャーがかかっている。企業が完璧でなければならないというわけではない。私たちはみんな人間であり、誤りも犯す。しかし、顧客とより深い関係を築くには、口に出したことは実行し、真摯に取り組んでいる姿勢を示さなければならない。
このような高度な信頼を構築するために進んで投資する企業は、それによって利益が得られるだけでなく、競合相手よりも長く存続するだろう。
この記事は前中後編の3回に分けてお届けしている。最終回となる次回は、テクノロジではなく「人間」をマーケティングの原動力とし、「より良い企業」を築くために考えるべき点を見ていく。→後編を読む
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