もっとデプス・インタビューについて詳しくなれる10の秘訣、ユーザーニーズを把握して課題解決へ導く
デプス・インタビューという、ユーザー理解のための調査手法をプロのように使いこなす10の秘訣を紹介します。前回紹介した、デプス・インタビューの実践における9個のポイントと一緒に読んで、ユーザーの本音を聞き出して、マーケティングにおける課題解決の糸口を見つけてください。
記事後半では、主に言語情報(バーバル)を取り扱うデプス・インタビューなどの質問技法とは別に、非言語情報(ノン・バーバル)を取り扱う技法として「観察法」についても紹介します。
デプス・インタビュー10の秘訣
ユーザー(被験者)の本音を引き出すには、前回も紹介したように、漫然と準備した質問を順に投げかけるだけでは引き出せません。
ですので、半構造的インタビューを行う質問者は、さまざまな面接技法や心理学的な知見などを学び、長い時間をかけて臨床で経験を積むことが求められますが、熟練者ではない読者の皆さんでもすぐに試せるように、多様なメソッドのエッセンスを抽出し、デプス・インタビュー10の秘訣として惜しみなく紹介します。
秘訣①「何を知るための調査か?」を明確にする
何のための調査なのか、「知る目的」を明確にすることがもっとも重要です。これは、第一回の連載記事でもしつこく提言しました。インタビューの現場は被験者にリラックスしてもらって、和やかなムードで行うことはもちろん大切です(後述②)。
しかし、ビジネスの現場において実施するデプス・インタビューは単なるおしゃべりではありません。脱線や回り道は大歓迎ですが、最終的に「何を目的にしてユーザーを理解しようと考えているか?」について意志的でなければ、収集した発話や行動から適切な「意味(meanings)や心の声(think & feel)」を抽出できません。
プロジェクトの目的によって、探索するフィールドは異なります。たとえば、
- 既存製品の改善要素を発見するためのプロジェクトなのか?
- まったく新しい製品やサービスを着想するための「未来のニーズ」を探索するためのプロジェクトなのか?
- すでにあるWebサイトの使用体験に革新をもたらすヒントを得るためのプロジェクトなのか?
質問フローを設計する際には、「何を目的としているか?」を明確にして、半構造的な質問の領域を考えましょう。
秘訣②信頼関係(ラポール)と雰囲気(ムード)を大切にする
次に重要なのは、被験者との信頼関係と雰囲気作りです。いくら良い質問を用意して、たくさんの回答を得られたとしても、インタビューの現場にお互いの信頼関係ができていなければ、その多くは「つくられた答えや意識的に加工された発話」になりがちです。
相手がインタビューをする自分に十分、心を開いてくれて、構えることなく、安心して向き合ってくれる状態があってはじめて、被験者はリラックスして本音を話してくれます。
臨床心理学の世界ではこのような信頼関係のことを「ラポール(rapport)」と呼びます。
- この人になら普段他人には話してこなかったことを話してもいいかなぁ
- この人には、なんでも話を聞いて欲しいと思えるなぁ
という関係があってこそ、ユーザーの本音(真実の95%)に近づいていくことができます。インタビューを開始した時点から、何を置いてもラポールを築くことに集中してみてください。
たとえば、被験者の自宅を訪問してインタビューする場合は、お宅に入って目にした趣味のものやお子さんのお写真など、その人が好きであろうモノやコトについて話すことで相手の緊張をほぐすようにしましょう。また、自身との共通点を探して話題に出し、相手の共感を得るなど、いろいろと行ってみましょう。
あとはちょっと高等テクニックにはなりますが、自身の失敗談を話すことで笑ってもらい緊張感をほぐすこともオススメです。
ラポールが形成されたと感じるのに時間を必要とする場合もありますが、その場合も決して焦ってはいけません。インタビューのなかで「十分ラポールが築けていないな」と感じたら迷わず、インタビューを中断して、被験者が主体的に関わりたいと思える話題を探してみてください。
ラポールが築けているかどうかの明確な判断基準を示すことは難しいですが、被験者が話している表情や口調、声のトーンの変化でわかることが多いので、被験者の言葉だけでなく、身体的な変化や様子にも注目してみてください。
秘訣③共感と理解の気持ちを持つ
②のラポールを築くためには、インタビュアーのあなた自身が被験者に対して「共感」と「理解」の気持ちをもつ必要があります。
被験者の発話に対して、相槌などを上手に使って、相手のすべてを受け容れる姿勢を持ち、言葉と表情の両方で伝えるようにしましょう。
- そうですね!
- わかります!
- わたしもそういう経験あります!
相槌を打つ場合にも、被験者が相槌を打ったり会話するのと同じペースや表情、声のトーンで行ったりするだけでも、相手は「自分に共感してくれている」と感じ心理的緊張感を解いて好意的に接してくれることも多いです。
これは、臨床心理学における「ミラーリング効果」と呼ばれるもので、被験者との同調性を高める効果があります。ミラーリングとは文字通り「映し鏡」のことで、相手の発言や仕草をまねることです。
人間は好感を持っている人の仕草や発言を無意識のうちにまねてしまう、と考えられているのと同時に、自身と同様の仕草や発言をする人に無意識に好感を持つ、ともいわれています。
そういった1つ1つの「共感と理解」の姿勢が、「この人には何でも話していいんだ」という信頼関係を生みだしていくのです。インタビューのときは、相手をよく観察し、同じ場を共有する仲間である、という空気を醸成することを心がけましょう。
一部の例外を除いては、デプス・インタビューの現場では、「でも」「しかし」などの否定的な言葉は禁句です。否定的なムードは、「相手に否定されたらどうしよう……」という心理的な障壁を作り出し、無意識に当たり障りのない発言しかできない空気を醸しだしてしまいます。
秘訣④被験者を誘導しない
熟練していないインタビュアーは、ついつい「自身がこうあって欲しい」と思う答えに被験者を誘導しがちです。
「仮説を検証・確認する」目的の調査であれば、答えに導くこともあるかもしれません。一方、「何がわからないか、わからないことを知る」ことが目的の調査であれば、一切の誘導を排して、インタビュアーは被験者自身が話したいことを、話してもらえる環境をつくる役割に徹して、被験者が本当に考えていることや感じていることを引き出すことに集中しましょう。
秘訣⑤生活者はニーズを語るプロではない
我々リサーチャーやマーケターはついつい「ユーザーは適切な質問をしさえすれば、明快な言葉で答えてくれる」と思いがちですがこれは、前回説明しましたが、大きな誤解でしたよね。
ユーザーは決して理路整然とした思考プロセスで、自身のニーズや未充足のニーズについて、常に考えているわけではありません。
つまり、生活者は「アタマで考えている以上にココロで感じている」のです。
リサーチャーである私たちは、ユーザーが言葉で語ってくれる表層的なニーズだけにとらわれず、ユーザーが「ココロで感じている」ことに耳を傾け共感と感情移入を行うことで、「ユーザーが本当は語りたかったけど言葉にできなかったこと」に目を向けていきましょう。
秘訣⑥被験者に弟子入りしよう
インタビューを行うときの前提として、調査のための部屋や会議室などの「つくられた環境」でなく、自宅やオフィス・工場などの「調査したいテーマについて被験者が実際にそのテーマに関係する体験を行う現場(=フィールド)」に赴いて実施する調査を推奨しています。
そういった「現場」で調査を行う大きなメリットの1つは、調査したいテーマと被験者が普段関わっているリアルな状態と状況を知ることができることです。
たとえば、キッチンの製品開発について調査する場合ならば、リビングのテーブルに座って行うのではなく、被験者に実際にキッチンに立ってもらい、料理や炊事仕事を普段行うのと同じような手順で再現してもらいながら、インタビューを行います。
そしてリサーチャーは、
- なぜ、今そういう順序で作業したのですか?
- なぜ、その棚の扉は常に開けているのですか?
といったように敬意をもって被験者に質問し、被験者はそれに答え、説明を加えてもらいながら進めていくと、被験者自身に新たな発見が生まれてきます。
被験者が普段特に意識して考えることなく、習慣的に行っている行動のなかにこそ、そうする意味や理由があるので、それを明らかにしていくのです。
例えるなら、被験者が師匠となり、リサーチャーが弟子のような役回りを演じることで、弟子に知識を説明し伝えようとする関係をつくることによって、通常は無意識に埋もれている「なぜ?」を明らかにしていくことができます。
このアプローチを「師匠と弟子モデル」と呼び、デプス・インタビューのみならず、上位概念であるコンテクスチュアル・インクワイアリ(文脈的調査)をもっとも特徴づける手法であり、現場で調査を行うときの重要なコツといえます(コンテクスチュアル・インクワイアリについては後述します)。
秘訣⑦生活者はうそをつく
被験者に限らずヒトはうそをつく意識がなくても、「本当に自分がしたいこと、自分がしていること」ではなく「人からそう見られたい、そうありたい自分のこと」を語りがちです。
たとえば、普段から地球環境を強く意識しているわけではないけれど、まわりの人たちから社会貢献意識の高い人間だと思われたいので、ついつい次のようなことを言ってしまった経験、皆さんはありませんか?
- 私は製品を選ぶときは、値段よりもエコに配慮した製品かどうかの方を優先しますね。
でも実際には、値段で選んでしまっているとか。また、これは僕が実際に経験したことなのですが、
- なによりもシンプルな暮らしが好きですね。いつも家の中はスッキリした状態にしておきたいからムダなものは一切買いません。
と語る被験者のお宅に訪問して奥の部屋を覗いたら、使われた形跡のない100均で買ったと思しき生活雑貨が雑然と部屋の隅に散らかっていた、なんてケースに出くわしたこともあります。
リサーチャーは、被験者の話すことがすべて正しいことだと鵜呑みにせず、同じ質問を時間を置いて繰り返し質問したり、「なぜそうするようになったのか?」というように行動や思考のキッカケとなった事象を探ったりして、真意を探る努力をしましょう。
秘訣⑧「なぜ?」を繰り返して質問を掘り下げる
「なぜ?」を繰り返すことで問題の本質を追求しましょう。たとえば、最初に発話された内容について「なぜ?」を追求する場合は次のように進めるといいでしょう。
最初に発話された内容のトリガーになった事象を聞く
→なぜ○○と考えるようになったのですか?トリガーになった「出来事」が記憶にとどまった理由を聞く
→なぜその出来事が印象に残っているのでしょうか?自身にとってその「出来事」はどんな意味か聞く
→なぜ他の出来事よりも鮮明に印象づけられたのですか?
→他にも同じような出来事はありますか?その「出来事」を重要視する価値観を聞く
→どんなことがあなたにとって重要なのですか?
※ここまで深堀すると、なぜ(Why)だけでなく、どんな(How)を聞く
などのように「なぜ?」を繰り返すことで具体的で表層的な事象の裏や奥にある、抽象的で本質的な意味や価値にアプローチできます。
ただ一点注意すべきは、「なぜ?」を繰り返し続けることが重要ではなく、①で示したように、理解すべきテーマにおいて必要十分なレベルまで「掘り下げる」ことが重要です。
被験者は人間ですので、なぜを繰り返して深層心理を掘り下げていくと最後には人間にとっての根源的欲求、つまり「生存したい」などの欲求に帰結してしまいがちです。
秘訣⑨質問では「過去~現在~未来」を聞く
⑧の「なぜ?」を繰り返すことが理解の「深さ」を深めるタテのアプローチだとすると、これは理解の「幅」を拡げるヨコのアプローチです。
被験者はたいていの場合「今(現在)」を語りがちです。「今」行っていること、「今」考えていることなどです。物事には必ず、「キッカケとなった出来事」と「それによって期待すること」がセットで存在します。
たとえば、「【現在】生鮮食品は必ず生産地をラベルでチェックします」という被験者がいるとしましょう。
- 【過去】その被験者はいつから、どういうキッカケでそういう行動をとるようになったのでしょうか?
- 【未来】そういう行動をとることで、どうなりたい(なりたくない)と思っているのでしょうか?
現在の行動や考えのキッカケを知ることは「過去」にアプローチすることで、現在の行動から得たい結果を知ることは「未来」にアプローチすることだといえます。
- いつから、なぜ、そうするようになったのですか?
- それによって起こるいいことはなんですか?
といった質問を重ねていくことで、被験者が過去・現在・未来を行き来して、記憶の奥にしまっていた過去の経験や、未来に期待することに思いを巡らせるきっかけを提供するお手伝いをしましょう。そうすることで、被験者の「メンタル・モデル」を理解する一歩となります(「メンタル・モデル」については今後のコラムで改めて説明をする予定です)。
秘訣⑩ユーザーの行動を「ただ単に、見る」
デプス・インタビュー10の秘訣の最後は、「見ること」です。
ここまで読んだ方は、被験者が必ずしも本当にいいたいことを、明確な言葉で語ることができるとは限らないことを理解していると思います。
会議室や調査専用の部屋などに、多くの被験者を一斉に集めてインタビューするやり方ではなく、「現場」に足を運んでマンツーマンでインタビューを行うやり方を重視する最大の理由は、現場には言葉で語られることがない非言語情報の景色が色彩豊かに広がっているからです。
⑦で述べたようにシンプルを語りながらムダなものを買ってしまう被験者の例など、まさに現場で見ることなしには知ることができない事実です。
このように、「被験者が語る言葉 = 言語情報」と「現場 = 非言語情報」の両方を解釈していくことこそ、ユーザーの隠された本音に近づいていく最短ルートであると思います。実際に、被験者のご自宅やオフィスに足を運んで紹介した10の秘訣を実践されたら、「ただ見ること」の重要性に気づくでしょう。
この「ただ見ること」を体系化したものが「観察法」(Observational Research)という技法です。
観察法とは?
観察法とは、文字通り調査対象者の行動や状況を観察して一次データを収集する調査方法のことです。たとえば、店頭の陳列棚に並べられた商品に対して、消費者の反応や店内での行動パターンを見てその行動を記録して、その行動の特徴や法則を解明します。
この観察法のルーツは人類学にあるといわれています。
たとえば、民俗学者が、文化や行動様式が解明されていない部族と生活を共にすることで、一定の行動パターンや特徴から、部族の生活習慣や文化様式を、見出すことを人類学ではエスノグラフィ(Ethnography=民族学的)手法といいます。この手法をビジネス向けに応用(=Modified)したものが「観察法」です。
観察法で最も重要なことは、「ただ単に、見ること」です。実は、この「ただ単に見る」ことが意外と難しいものなのです。
たとえば、子どものころには、目にするものすべてが新鮮で驚きと疑問にあふれていたのに、経験を重ねて大人になるにつれて、そういったことを感じにくくなっていきます。
その例として、あなたが新入社員として会社に入社した一年目のことを覚えていますか?
僕は、先輩から教わることがすぐに理解できずに叱られたことや目の前で上司とお客様との間で交わされる会話のほとんどが、外国語のようで理解できず、誰もいない夜のオフィスで泣きながら調べたことを今でもよく覚えています(笑)。
しかし2、3年と経つにつれて仕事や業界の習慣にも慣れてきて、そういったことは少なくなってきますよね?
人は経験が多くなってくるにつれて、理解できることが多くなる反面、経験が少なかった頃には敏感に感じられたことや目に留まった新たな発見が少なくなってきます(下図「経験と発見の相関性」参照)。
本来、目には情報として入ってきているのに、経験によって得られた「理解」が無意識に脳内で補完・説明をすることによって、わざわざ意識して見なくてもよいものとして、無意識に見えなくなってしまうのです。
つまり、「ただ単に、見ること」は意識して行わない限り、自然にはできるというものではありません。
特に、自分にとって経験と馴染みのある世界や環境ならば尚更です。ですから、観察を行うにあたって「ただ単に、見ること」を強く意識する必要があります。そこで、この「ただ単に、見ること」を助けるために、観察する視点や記録する指針の基準を次のように設けるといいでしょう。
- 誰が?
- どこで?
- 何をしている?
- 状況は?
- 他に誰かいる?
- 彼ら、彼女らはどういう関係?
観察によって得られた一次データは、観察の現場では意味解釈を行わず、現場メモなどのテキストや写真、ビデオによる画像・映像として記録し、調査終了後、情報のデータ化などを経て、ようやく分析やパターン発見を行います。
観察者が観察対象者に与える影響を考える
ここまでは、観察者の視点で話を進めてきましたが、観察者が見るということは、観察対象者にとっては、観察者に「見られている」という状況です。この「見られている」ことによる影響をどの程度考慮すべきか? という点について少しだけ触れておきましょう。
調査を行うとき、対象者やコミュニティの一員として入り込んで関与し合うことで、理解を得る必要がある場合には、いわゆる「参与観察」(参加型観察)という形式で調査を行います。
一方、観察者の存在が意識されることで、対象者の行動に影響を及ぼすことを排除したい場合には、観察者の存在を公表せず、観察しているとわかる行動や機材の存在を隠したり、公表したりするにせよ、目立った観察行動を抑えることでバイアスを最小限に抑える方法をとります。この形式を「フライ・オン・ザ・ウォール(壁のハエ)観察法」と呼びます。
つまり、対象となる調査の目的に応じて配慮が必要です。
僕のコラムでは、観察法の初歩的なことについて触れましたが、専門的に研究・体系化されている研究者や実践家の方がたくさんいらっしゃいますので、興味をもった方はぜひいろいろな文献で学んでみてください。
2回に渡って紹介した、デプス・インタビューとこの記事内で紹介した観察法を必要に応じて組み合わせることで、言語情報と非言語情報の両方から、ユーザーの文化・環境的背景や文脈を含めて理解する大きな助けになるでしょう。
これらのさまざまな手法を包括して「コンテクスチュアル・インクワイアリ(文脈的調査)」と呼びます。
皆さんも、日々のユーザー理解活動のなかで少しずつでも実践することをオススメいたします。ぜひ、やってみましょう!
次回は、「ユーザー自身が説明できない行動や思考を可視化する手法」について紹介します。
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デブスに見えた
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