コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の297
アベノミクスの成果
衆院解散の表明から2か月もたたずに日経平均株価は約25%も上昇しました。政権が再交代し景気回復への期待が高まっています。そしてこの景気回復は本物と見ています。それはエコノミストの理屈や、テレビを賑わす、橋下徹大阪市長の評するところの「バカコメンテーター」の戯れ言ではありません。市中から、
ガテン系の職人が消えている
からです。
ハガキ職人やアイコラ職人ではなく、土木、建築、電気などの建物設備など、肉体を駆使する「ガテン系」の職人が不足しており、これは景気回復や拡大の局面では多々見る光景です。そして、彼らによる即効性の高い「経済波及効果」への期待もあります。そしてWeb業界にも影響を及ぼしますが、企業の広報や営業のためではありません。
世間話としてのガテン情報
こうした情報は大手の報道には載らず、もちろんヤフーニュースでも取り上げられません。しかし職人の不足は、昨年から深刻になっていました。最大の理由として思い浮かぶのは、東日本大震災からの「復興」ですが、関東においては少し事情が異なります。
震災直後に資材不足で中断していたタワーマンションの建設や、都市部の再開発にともなう建て替え事業が再開したことに加え、販売不振に喘いでいた新興の戸建て住宅の建売業者が、従来の利益構造を度外視した大量生産大量販売をはじめたのが要因です。空き地を見つけるとすぐに家を建てるので、建築に関わる人手が不足しているのです。
もちろん被災地も人手が足りません。そこから、被災地周辺では家を建てる職人が集まらずに、見つけても高値をふっかけられ、ツテを頼りに関東の業者に発注した施主もいます。いま建築業界では「職人の奪い合い」が起こっています。
Webに求められる役割
もうお気づきでしょうか。職人不足のいま、Webに求められる役割とは「求人」です。老舗のリクルート、求人広告のアイデム、新興のリブセンス(ジョブセンス)だけではなく、中小あわせ求人サイトは数多あります。しかし、「ガテン系」は弱いのです。そこから自社サイトでの積極的な「採用活動」が進むという見立てで、今回は「求人コンテンツ」の超基本を紹介します。
ガテン系の求人の難しさは、かのバブル経済はもちろん、就職困難と喧伝された就職氷河期でも変わらず、むしろ年々悪化しています。かつてはきつくても稼げる仕事でしたが、バブル崩壊以降、作業員の単価は抑えられ、多少の経験者でも日給1万円ほどです。そして、現場までの移動時間を含めた時間拘束で割れば時給は1,000円ほどとなり、都心のスターバックスコーヒーのアルバイトと差はありません。
夏は猛暑、厳寒の冬でも埃と汗にまみれながら建材を担ぐ仕事と、エアコンの効いた仕事場ならどちらが好まれるかは明らかです。
求人のSEO
つまり、他業種と条件比較される求人サイトでガテン系は不利な条件と見られます。そこで自社サイトです。建築業界に興味があり、かつ「地元」での就職を探している金の卵を狙います。
基本過ぎるので技術的なことは触れませんが、「業種」と「地域名(地元)」でSEOを仕掛けます。業種は型枠大工、表具、塗装、鳶(とび)、電気工事など具体名で仕掛けます。幅広い職人を求めるなら、それぞれの職種で社員募集のコンテンツを作ります。手間はかかりますが、職種で探すのは経験者か興味のある人材です。電話応対や面接といた手間暇を考えれば、絞り込むことがよい採用活動へとつながります。
「ベテラン」と呼ばれるキャリアを持ちながら就職活動をしている職人は、良くも悪くも「クセ」があり、それを嫌う経営者は少なくありません。そこから「若い人」が欲しいのなら「平均年齢」を入れます。
来たれ! ヤングマン!
若手の採用対策として有効なのが、社員の平均年齢の掲載です。若者になればなるほど同世代の多い職場で働きたいと思います。この「平均」が採用コンテンツの工夫のしどころです。
社長が50代で、現場の作業員が20~30代ならば、社長を除外した「現場スタッフ平均」とすると「若さ」を演出できます。数字は職場の実情に合わせて調整します。現場スタッフか、それとも全社員か、Web担当者なら訴求内容に合わせて、ある程度は数字を操れることを覚えておくといいでしょう。
そして、ガテン系の求人で一番の障害となるのが「給与」です。能力の高い職人なら多少高い給与を払ってもほしいものです。ところが能力の有無は雇ってみないとわかりません。そこで「18~30万円」と給与に幅を与えるのですが、どこの会社でもやることであり、差別化できません。
そこで「給与例」です。
23才、経験3年、入社1年目月給例 30万円
と、実在のエース社員の事例を添えます。実際に支払っているなら、月収100万円としても問題ありません。
毒にも薬にもなる
実は、上記で紹介した「若手対策」から以下は、「ブラック企業」の求人でよく見かける手法です。もともと若者でも能力を高く評価する給与システムを意味し、同時に年功序列の賃金体系との対比というニュアンスを含んだ求人広告のテクニックだったのです。それが残業を強制し、厳しいノルマで社員を縛り付けるブラック企業が悪用しています。
皮肉な話ですが、退社の多い職場がこの方法を採用しているということは、それだけ効果が認められるということです。さらに採用成績を高めるには入社後のビジョンを示すなどありますが、それはまた機会があれば。
ガテン系の採用が増えれば、即効的な経済波及効果を期待できます。ガテン系は日々の暮らしにお金を投じるからです。下着に作業着、それにタオルは必需品で毎日洗濯し、洗剤と柔軟剤を消費します。身体を使う仕事から消費カロリーも激しく、朝も早いことから「弁当男子」を見つけることは困難となり、必然的に外食産業が潤います。
IT系の高給取りは、趣味や嗜好品に大枚をはたくことはあるでしょうが、街角経済の波及効果の速度からみればガテン系に軍配が上がります。足立区の街角で仕事をしている私にとっては、「ガンバレガテン系、目指せ! 景気回復」です。
今回のポイント
これから熱いガテン業界
採用コンテンツはブラック企業を見習う
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