街場のWeb活用論。本当の便利は利用者が知る
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の298
唸った友の言葉
次は○○
昨年の今頃なら上場を控えたFacebookか、タブレット端末。一昨年ならデジタルサイネージや電子書籍、その前がTwitter。グルーポンの上陸に「フラッシュマーケティング」が喧伝されたこともありました。「セカンドライフ」や「Web 2.0」は遙か彼方の記憶です。
Web業界に予言は絶えません。次々と生まれる新しいネットサービスや技術にワクワクする心は持ちますが、盲目的に礼賛できないのは軽佻浮薄(けいちょうふはく)な「煽り」を20年近く見続けてきた経験からです。
先日、ある会社のWeb活用事例に唸りました。Web業界の人間ではなく電気工事の会社におけるWeb活用事例です。なるほど、こういうWeb活用こそ礼賛されるべきでしょう。私が中小企業、そして地元足立区にコダワリ続けるのは、こうした「現場」の手伝いをしたいからだったと再認識しました。
というわけで今回は「街場のWeb活用事例」です。
iPhoneの凄さ
電気工事全般を請け負う「株式会社ワイズ電気」は、もうすぐ30年のつきあいとなる友人が経営する会社です。社会人となって一時疎遠になりましたが、私が2001年、彼がその翌年に独立してから、折に触れ情報交換をしています。同じ社長という立場から、腹蔵なく話しができる数少ない友人です。ただ、酒席をともにすることはあまりなく、この10年で3~4回です。それは飲めば必ず深酒となり、昨年暮れも「軽く」の約束が、朝の3時の帰宅となったようにです。
その「軽く」の飲み会の前、最近の業界動向などの情報交換をしていると、彼は愛機「iPhone」を持ち出し「ネットって凄いね」と切り出します。ネットで商売している私が「そうだよ」と答えないのは、謙遜という言葉を理解し、ネットの凄さをそもそも知っているからです。そこで「どうして」と尋ねます。
カレンダーの脅威
彼はMacとWindowsの違いも怪しい人間で、数年前に「iPhone」を持ったときも、ガラケーでは画面が小さく現場の写真などが見にくいという程度のものでした。そしてガラケーが「Vodafone」だったことが「iPhone」を選んだ最大の理由です。この時「凄い」とつぶやいたのは私です。20年以上の歴史を重ねたアップルファンにとって垂涎の的だった「iPhone」を、たったそれだけの理由で手にする時代になったという事実にふるえたのです。
彼の語る凄いとは「グーグルカレンダー」です。グーグルカレンダーとは、検索エンジン最王手のグーグルが提供するネット上のカレンダーサービスで、そこにはスケジュールを時間単位で書き込め、書き込みごとに共有することができます。
彼の会社では、グーグルカレンダー上に業務用カレンダーを用意し、現場の情報を書き込み、社員全員で共有しているのです。ただの「予定表」ではなく、現場に到着した時間、作業状況などを社員が書き込むことにより、リアルタイムの人員配置が把握でき、転じてそのまま作業日報にもなるといいます。
図面の管理も自在に
先週のコラムで紹介したように、建築業界は空前の好景気に包まれています。電気工事の仕事も、次から次へと舞いこみます。打ち合わせの席で、即座に工期の見積もりを立てられるのは、グーグルカレンダーで各現場の進捗状況と、その先のスケジュールを把握できるからです。以前のように紙で書いた予定表や、パソコンのエクセルで作った工程表では、出先で即答することはできません。
次に彼の口から意外な名前を耳にします。「Dropbox(ドロップボックス)」です。オンラインストレージサービスの定番といっても過言ではありません。
日本工学院専門学校の電気工事科で教鞭を執り、電気工事の世界では多少名の知られた彼ですが、電気で動くコンピュータについては、怪しげなネットセキュリティ装置の訪問販売を、うっかり信じてしまいそうになるほどの知識しか持ち合わせていません。
しかし、ドロップボックスに図面や現場の写真を上げ、社内で共有しているといいます。もちろん、現場には大判印刷した図面も持っていきますが、ちょっとした資料として閲覧するときに重宝するといいます。
ネット礼賛との違い
クラウドというのでしょうか、それともグループウェアと呼ぶべきでしょうか。無料のサービスをつなぎ合わせて、同等の機能を実現しているのです。そして連絡はいま「LINE」を使っています。一斉に情報を送るのに重宝しており、メーリングリストなどと違い「未読、既読」を確認できるのは管理者にとって助かる機能です。それでは無料通話もLINEかと訪ねると眉根を寄せて否定します。
通話品質が悪いから
なるほど消費者は不便を甘受しません。これがネット礼賛の激しいWeb業界人との違いです。通話だけは電話回線を利用するといいますが、残念なことに彼の使用する回線は「iPhone」を選んだ理由でもあるあの会社。電話で打ち合わせしていると、たびたび、無断で切断されるといいます。
いま、注目のネットとは
グーグルカレンダーを、ドロップボックスを、そしてLINEを駆使する彼が、いま活用を目論んでいるのは「ホームページ」。ホームページについては何度も提案していましたが、日常に追われ日本人らしく先送りしていたのです。
昨年、私のクライアントが、電気屋を探していたので彼の会社を紹介しました。お客は私の管理するホームページを彼の前で絶賛してくれます。多分にお世辞も含まれますが、私が管理してから注文が入るようになったのは事実で、それを自慢するのです。これに触発され、いま「ホームページ」に取り組み始めたのです。
Web業界がどれだけ煽っても、業界以外にはそよ風も吹きません。私が冷静すぎる視点でWeb業界を見るのはいつも街場に立っているからです。しかし、それでもグーグルカレンダーやドロップボックスといった、Web業界においては当たり前に過ぎるサービスを、果たしてお客に適切に提案できていたのかと自省しました。
私が定義するWeb担当者とは、単なるホームページの制作業者ではありません。ホームページを筆頭にWebのポテンシャルを、戦力にする方法全般を提案できるものを指します。
今回のポイント
現場は便利にアジャストする
Web活用の全般がWeb担当者の使命……と考える
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