企業ホームページ運営の心得

ゆるキャラ最前線2013、「くまモン」を全国区にしたプロの戦略

いま「ゆるキャラ」はゆるくありません。プロの戦略によって成り立っています
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の299

くまモンはゆるくない

「ゆるキャラ」を私が知ったのは20世紀も終わりに近づいたある午後のラジオ番組です。レギュラーゲストだった、イラストレーターのみうらじゅんさんの語りだけでわかる「ゆるさ」に、営業車のハンドルを握りながら何度も失笑したものです。

次回300回を数える本稿がまだ2桁だったころ、「キャラ立ちぬ。マンガ文化の恩恵をうけるなり」と題し、ゆるキャラを含めて、キャラクター利用について触れました。当時は「せんとくん」。あれから時が過ぎ、いま「ゆるキャラ」はゆるくありません。しっかりとした描線にプロの仕事がありありと見え、熊本県の「くまモン」のブレイクは素人の仕事ではありません。

ところが、またあちらこちらから「我が社もゆるキャラを」という声を聞くようになりました。こうした雑事はWeb担当者に回されることも少なくないでしょう。そこで、今回はWeb担当者向けの「ゆるキャラ最前線2013」。

定義は有名無実

まずは、ゆるキャラの提唱者である、みうらじゅんさんによるゆるキャラの定義を。

  1. 郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性があること
  2. 立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること
  3. 愛すべき、ゆるさ、を持ち合わせている事

しかし、最近のゆるキャラはこの2番に該当しないものが多く、くまモンや愛媛県今治市のゆるキャラ「バリィさん」も軽快に動き、千葉県船橋市の「ふなっしー」は、十六茶のCM発表会で無意味に切れのある動きを見せ、メインの新垣結衣さんを引かせていたほどです。

つまり、もはや「ゆるキャラ」はみうら氏の定める所に非ず。企業も参戦しているどころか、立派な「キャラクター」となっており、背景は「ゆるい」どころか「シビア」です。

ちなみにウィキペディアでは定義に「着ぐるみ」を加えていますが、先のラジオ番組では前提条件でした。そして地方自治体や公共団体など、日頃お堅い仕事をしている人たちが必死に考えたのであろう、「素人感」がツボだと力説していたことを思い出します。

KANSAI戦略

ゆるキャラの「くまモン」が生まれた背景は新幹線です。2011年の九州新幹線の開通に合わせて、熊本県への観光誘致を目指すために2008年から動き出した、県を挙げてのプロジェクト「KANSAI戦略」がその始まりです。そのための準備は2006年から始まっており、新幹線の開通によって関西圏から、日帰り観光が可能になることをビジネスチャンスと捉えてのことです。

直接のきっかけは、2011年に同県天草市出身の小山薫堂さんがアドバイザーに就任してから。小山薫堂さんといえば、数々のヒット番組の放送作家ですが、世間に広く名前が知られたのはアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」脚本家としてではないでしょうか。彼の人脈から、アートディレクターの水野学さんへと話しがつながり、「くまモン」が誕生します。

キャラビジネスの正体

デビュー当時のくまモンは痩せていました。丸みを帯びたフォルムになったのは誕生から半年後で、熊本県の美味いものを食べすぎてという理由です。始めから二段階の設定をしていたのか、それともいまいちな評判から「マイナーチェンジ」をしたのか、その真実はわかりませんし、それを追うのは野暮というものです。

ただ、どちらにしても「プロ」の仕事です。設定ならば、あらかじめ話題を提供するための「ストーリー」を組み込んでいたということであり、状況に即座に応じてのマイナーチェンジは素人に決断できるものではありません。

その他にも大阪に出張したくまモンが1万枚の名刺を配るなど、いくつもの仕掛けを用意していました。それはつまり、みうらじゅんさんが定義した「ゆるキャラ」ではなく「ゆるキャラブームを利用したプロのマーケティング」だということです。

ゆるくても市場は激戦区

しかし、ないものねだりは経営者の習性です。どうしても「ゆるキャラ」に取り組めとWeb担当者に指令が下るかもしれません。ただし「くまモン」級の成功を夢見ている経営者や上司がいれば、こう言ってください。

まず、小山薫堂を連れてきてくれ

以前に紹介したように、各社独自のキャラクターを採用することは賛成です。ただ、すでに「ゆるキャラ」という市場は激戦区で、プロフェッショナルなPR戦略やマスコミ業界との人脈が勝敗を決する舞台となっています。

また、小山薫堂さんのような著名人を呼ぶのも一筋縄ではいきません。先の熊本県の新幹線事業で委員長を担っていた石原靖也さんは、ブログで舞台裏を告白しています。県庁サイドは小山薫堂さんの高名を知らず、難色を示していたというのです。ところが「おくりびと」のアカデミー受賞で手のひらを返したといいます。

つまり、社長や上司の理解の範囲内の「著名人」しか呼べないのです。たとえKEIさん(初音ミクのキャラクターデザイナー)を口説けても「ミク、誰それ?」となる可能性が十分にあります。

キャラクターの命は

予算もなければ、理解もしない……そして口答えも許されない。それでも「ゆるキャラ」を始めろという無茶ブリは、昨今のブームからすればありがちな話。そんな時のためのアドバイスを1つ、「キャラクターは設定が命」です。身長体重、生年月日、趣味嗜好を詰め込みます。こうした「制約」がキャラを動かします。

12年以上前からお伽噺の「桃太郎」をモチーフにしたキャラを使用しています。桃太郎は女の子にして「桃子」、猿と犬は「着ぐるみ」で擬人化して「エロメガネ」に「いじられキャラ」とそれぞれ設定しました。すると自ずと役割が決まります。一例を挙げれば、クリスマスなどの季節イベントは「桃子」にコスプレをさせ、それぞれにリアクションさせれば「バナー(イメージカット)」の完成。

設定は配役だけではなく、「設定」が一貫性を生み出し、一貫性が説得力となるのです。ゆるキャラが本当にゆるキャラだった時代。この設定は見事なまでにずさんでした。ちなみに「雉」は自律雉型ロボット「KZ-777」です。これは「人型」にすると作画が面倒、もとい画面がうるさくなるので雉のフォルムのままとしています。

ところで「くまモン」の顔って、漫画家の高橋留美子さんの描く意地悪な脇役キャラクターに見えるのは私だけでしょうか。

今回のポイント

ゆるキャラは激戦区

キャラはゆるくても、設定はシビアに

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