企業ホームページ運営の心得

コンプガチャの本当の問題点とWeb担当者が得る学び

ソーシャルメディア業界の取り組みには、Web担当者として学ぶべきところがあります。
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の265

社会問題にはなりましたが

アイテム新商法「違法」コンプガチャ中止要請へ

「こどもの日」の読売新聞の1面を飾った見出しです。ソーシャルゲームは基本的に無料ですが、多くのゲームは円滑に進めるために有料のアイテムを購入しなければなりません。そしてゲームに熱中するあまり大金を投じてしまうことが以前から問題視されていました。

※5月25日、ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会がコンプガチャ禁止項目などを盛り込んだ「コンプリートガチャガイドライン」を発表した。

有料アイテムのなかでも、「コンプガチャ」は指定されたアイテムを全部揃える(コンプリートする)とゲームを有利に進めることができる希少性の高いアイテム(レアカード)が入手でき、それ欲しさに「はまる」人が続出していたのです。消費者庁はこれを景品表示法上の「問題」があるとし、ソーシャルゲーム各社が自主規制など対応を検討中です

違法かどうかを脇に置けば、ソーシャルゲーム各社は非常に「Web」を理解し活用していました。その取り組みは、そのままWeb担当者への教訓となります。

舞台裏からすべてが見える

サイトを成功させる要件は大きくわけて2つです。SEOやリスティング広告に代表される「集客」と、来訪した客に目的の行動をとらせる「誘導」です。その「誘導」の精度を高める作業が「アクセス(ログ)解析」です。アクセスデータを取得できるWebサイトでは、到着したページや閲覧したページなどがすべてサーバーに記録されています。こうした記録を「ログ」と呼び、それをチェックするのが「アクセス解析」です。

金を払うタイミングがわかる

とは、某ソーシャルゲームの幹部の非公式な場での発言です。彼らはユーザーの利用履歴から、イベントを仕掛けるタイミングの調整により、金を払わせるノウハウを持っていると胸を張っていました。ゲームのなかで課金を重ねるきっかけになる「イベント」を見つけ、その「イベント」に向かうように「条件分岐」させれば購入確率を高めることができます。また反対にゲームを中断する「離脱」が多い「イベント」があれば、それを差し替えることで引き留めることができます。

店内ストーキング

名著『なぜこの店で買ってしまうのか』では、来店した客を店内でストーキングして顧客行動を調査します。すると入り口で買い物カゴを持たなかった客が、買い物を途中で放棄してしまうケースを発見しました。買い物カゴは不要と思っていたが、あれもこれもと手を伸ばして持ちきれなくなり、買い物そのものを止めて帰ってしまうのではないかと仮説を立てます。そこで店内のなかほどに買い物カゴを用意すると、買い物を放棄する客が減ったといいます。

こうした「顧客行動」を正確に把握できるのがWebの強みです。そしてログから仮説を立てて対策を取ります。ソーシャルゲームが社会問題化したことは「アクセス解析」の重要性を逆説的に証明しています。

自己模倣ではなく

さらにソーシャルゲームは「水平展開」についても教えてくれます。先の幹部の言葉には続きがあります。

金を使うタイミングはどのゲームでも同じ。つまりパッケージを変えるだけで“儲かるゲーム”が作れる

とのこと。ソーシャルゲーム開発会社の代表が、某経済番組の取材で語った言葉が裏付けます。

我々のノウハウによりコンテンツメーカーは既存のキャラクターを提供するだけで稼げる(筆者要約)

ゲームクリエイターの「矜持」についてここでは触れませんが、1つの儲かるフォーマットを見つけたら、関連商品や類似商品といった「水平展開」で稼ぐことができるということです。

問題点は何か

Webビジネスにおいて学ぶところの多い「ソーシャルゲーム」の問題点は、皮肉なことにそれが「Web」だから生まれました。一言でいえば「有限と無限」の違いです。

今回、当局が問題視した「コンプガチャ」を規制しても問題の根本解決にはなりません。他にも「レアカード」がネットオークションにて高値で取引されており、ここからパチンコなどのギャンブルと同列に見る声もありますが、レアカードの取引だけなら「遊戯王」や「ヴァンガード」などの「トレーディングカード(トレカ)」でも行われています(ソーシャルゲームの多くは現金によるトレードを規約で禁止しています)。

こうしたアイテムの売買を規制することは「財産権」の侵害へとつながるので現実的ではないでしょう。しかし、ネットのレアカードと、リアルのレアカードの違いがまさしく問題の本質なのです。

リアルのトレカにおける「レアカード」はゲーム性を維持するために、生産数量(印刷枚数)は限定されますが、少なくとも実物が存在しており、必ず誰かがゲットすることになります。ところがソーシャルゲームのレアカードは抽選により提供される「デジタル情報」です。概念としては存在しても、確率論上、永遠に市場に出回らない可能性も存在するのです。

自主規制の限界

つまり、絶対に手に入らないものをちらつかせて販売している(かもしれない)という、Web以外では存在しない問題があるのです。また、本稿執筆時点(2012年5月23日)で、レアカードの出現確率などについてソーシャルゲーム各社は発表していません。すると仮に5枚集めなければならない条件で、残り1枚になった瞬間、

出現確率が下げられる

といった、「マラソンでゴールしようとしたらゴールテープが移動する」ような仕掛けの存在を否定しきれないのは、「ゲームバランス」という言葉の存在です。ドラゴンクエストなどのRPGで開始早々すべての敵を倒せる「究極のつるぎ」を入手できれば冒険の旅は「虐殺日記」に様変わりします。しかし、それではユーザーが熱中しないので、適度に目的を阻害する要素や「不公平」が仕込まれているものなのです。簡単に「コンプリート」できないように「演出」することで客は「ガチャ」に夢中になる……という可能性に、先の幹部の言葉が重なります。

いま、ソーシャルゲーム各社は「自主規制」により、安心して利用できる環境を整備しようと動いています。これにWeb担当者の1人として注目しています。それはユーザーの選択を「自己責任」で片付けてきた業界のターニングポイントになるかもしれないからです。その上で「健全性」にお墨付きが与えられれば、あらたなる「Webのビジネスのお手本」となるのではないでしょうか。

今回のポイント

社会問題になるほど効果がある

アクセス解析の重要性の再確認

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