企業サイトでの動画コンテンツ利用基本のキ | 第1回
企業サイトで動画を利用する方法をイチから解説するこのコーナー。まずは動画コンテンツの特性について紹介します。また、担当者がPC向けの動画コンテンツ制作の企画を立て、社内コンセンサスをとって実施に移すまでに必要な基本的プロセスを紹介します。
動画ならではの訴求力
いま、BtoCからBtoBの分野までさまざまな形で動画が利用されています。動画は写真や文字よりも“動くモノ”の特徴を伝えやすく、“インタビュー記事”であれば話す人の雰囲気や熱意も伝わりやすくなります。もちろん、動かないモノや形のないサービスでも効果的です。
たとえば、通信販売ではカタログよりも通販番組の方がより多くを表現できます。また、おすすめのポイントを繰り返し強調して印象づけることや、見ている人が抱く疑問を先回りして答えるといったことも人が登場するからできることです。
多くの場合、表現次第で動画はより多くの情報を訴求できます。紹介したい製品やサービスにおいて動画に向き不向きという要素はありません。
Webマーケティングにおいて、この動画を活用しない手はありません。この流れは今後もずっと続いていくでしょう。しかし、Web上の動画コンテンツが増えてきたことで、動画自体の意義や効果などを再度考えることが必要になってきています。それは、ただWeb上で動画を見られるようにすればいいという単純な話ではなく、動画コンテンツをどう使っていくかという“手段”をさらに考える必要がある、という段階にきているからだと言えるでしょう。
動画を活用する目的は
次に動画のビジネス面での効果について考えてみましょう。実際に動画コンテンツを制作する場合、作業フローは大きく次の6つに分けられます。
- 撮影の目的を決める
- 構成を考える
- 必要な予算スタッフを準備する
- 撮影
- 編集
- 公開
最も重要なのが、制作する動画コンテンツの目的を設定することです。ある車のプロモーションのために制作した動画があるとします。基本的にこの動画の目的は、より多くの人に見てもらいその製品の良さを知ってもらうことでしょう。すると、あとはこの動画を製品ページの目立つ場所に置いておけばいいと思うかもしれませんが、これはある意味とてももったいない動画の利用法だと言えます。
車のプロモーションであれば、動画の内容は製品の外観やエンジン性能、エコ性能、内装のデザイン、価格などいくつかの要素に分かれているでしょう。これを1本の動画として公開するのも悪くはないですが、それぞれの要素を1本の動画として別々に見ることができるようにしたらどうでしょうか。動画には内容を一覧しづらいという弱点がありますが、要素ごとに分けてあれば、消費者は必要な情報だけを短時間で見ることができます。もちろん興味のある要素が複数ある場合は、他の動画を見るでしょう。
これで車のプロモーションという目的は果たせたかもしれませんが、映像をバラバラにしたことでさらにもう1つの利点が生まれます。それは、各映像の視聴数を見ることで、消費者がこの車のどの部分に関心があるか把握できることです。こうした情報はその後のプロモーション施策やサイト制作に役立てることができます。このように動画をうまく利用することで、「見てもらう」だけではなく、マーケティング情報を得るという目的も加えることができます。
また、目的を多く持っておくことは、動画コンテンツ制作を社内に提案する際に理解を得やすいという利点もあります。新たにコンテンツを制作するとなると、必ずと言っていいほど費用対効果の話になるからです。コンテンツの目的を複数持っておけば、視聴数だけに目が行くこともなく、コンテンツを効率よく利用できることを社内にアピールできるわけです。次の施策につながる要素を持っておくことも大事です。
動画の演出効果
動画を制作する際は、どうしても見た目や出演者などに目が行きがちですが、前述のように大切なのはその目的に合致した内容です。動画を活用することによる演出効果は、大きくわけて3つあります。
1. インパクト
インパクト動画で話題になったものの1つに、UQ WiMAXのネコのCMがあります。「(UQ WiMAXに)入っている?」ということを印象付けるために、あえて細かな説明やメリット訴求をせずに、ビールの空き箱にネコがスライディングする映像のみで訴求していました。後半のサービス名の演出部分は高度なテクニックが必要ですが、ネコの動画部分だけであれば、手持ちのビデオカメラでも撮影できます(ただし、訴求したいものとの関連性が重要です)。
2. おもてなし
おもてなしでは、楽天市場で公開されている「がんばれ!日本の農家」などが参考になります。食の安全の観点から「顔の見える商品」ということが重視されている食品業界ですが、「がんばれ!日本の農家」では、農産物生産者がメッセージや栽培の様子を動画で伝えています。田んぼの風の音が多少入っていたりしますが、「自分たちの作ったものを真摯に伝えようとしているのだな」という雰囲気がとても臨場感があり、視聴していると安心して購入できそうだという気持ちになります。
3. 感情に訴える
より感情に訴えた例では、教育施設での動画活用などがとても参考になります。たとえば、茨城にある吉沼保育園での動画紹介は、日本太鼓演奏やクリスマス会などのイベントでの園児の姿をそのまま動画化しています。かるたとり大会で、やさしさが伝わる先生のかるたを読み上げる声をBGMに、園児たちの「はい!」というかるたをとった時の声は感情に訴えます。
これらの3つの動画は、プロのカメラマンが撮ったものと家庭用カメラで撮ったものがあり、画質や音質などはそれぞれですが、共通しているのは引きつける力があるということです。つまり構成やシナリオ次第であり、「どんなことをアピールしたいか」という部分をしっかりと認識し、どうすれば動画にしたときに効果的に伝わるのかを考えることが重要なのです。
高度な演出はプロに依頼
動画の目的にあわせて高度な演出や編集を必要とするなら、動画制作のプロに頼むのがいいでしょう(一口に動画制作のプロといっても、Webサイト上に載せる映像制作の経験があるかが重要です)。ただし、「伝えたい人の想いが伝わるか」という点については、自身がその商品(伝えたいもの)の「その道のプロ」として、伝えたいことを原稿にし、映像化していく必要があります。商品の使い方を説明するのであれば、プロのナレーターが説明するよりも、開発者本人やその商品にほれ込んで販売している担当者が、つっかえながらでも説明することで熱意が伝わることが多々あります。
ただ動画を作って公開すればいいということではないのは前述の通りですし、あくまでも動画はWebサイトに載せるためのものであり、動画以外のコンテンツとの親和性を意識しながら制作できるかどうかも重要です。また、編集作業ではマルチオーディオと呼ばれるBGMや効果音を付ける作業が重要になります。動画のなかでポイントになる箇所に効果音やBGMを入れることで、見ている人が飽きないような演出を音の面からも加えるのですが、プロとアマチュアでは差がでてきます。
予算を決める3つの要素
目的に合わせ、しっかりとした構成やシナリオができたら撮影となるわけですが、忘れてはならないのが動画制作にかかる予算です。動画制作に関わる予算には大きく次の3つの要素があります。
- 映像の長さ
- 撮影にかかる日数
- 編集の内容
簡単に説明すると、映像の長さは全体的なスタッフの工数、撮影日数は撮影に関わるスタッフの工数、編集内容は編集スタッフの工数に関わってきます。
要素 | 予算に影響する内容 |
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映像の長さ |
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撮影日数 |
|
編集内容 |
|
同じ1分間の映像を作るにしても、撮影に2日間かかる場合もあれば1日で済むこともありますし、合成や特殊効果を使用した映像を制作しようと思えば、編集作業にかかる時間も変化します。当然、プロに制作を依頼するのか、社内スタッフで制作するのかによっても上下します。一方で、上記の3つの要素がわかれば制作予算をより正確に見積もることができます。
対象デバイスは絞り込む
ここまで動画制作の考え方や予算、制作の工程について述べてきましたが、最後にPC以外のデバイスに向けての動画制作についても触れておきます。
PCやフィーチャーフォンに加え、今ではiPhoneやAndroid端末といったスマートフォンも視野に入れる必要が出てきました。これらは、デバイスごとの特性や機能の違いが多岐にわたるため、それぞれに合わせた映像演出や仕組みを個々に考える必要があります。PCとモバイルでは端末の画面サイズが違うため、モバイルでは映像をアップにした方がわかりやすかったり、文字を大きくした方が読みやすかったりします。通信環境についても、PCと比べモバイルは低速の場合が多いため、動画の長さや画素数への配慮も必要です。
しかし、それぞれに対応しようとすれば工数と予算は大きくなりますし、無理に対応しようとしても中途半端なコンテンツになってしまう場合があります。そうしないためには、想定している視聴者をしっかりと分析し、一番見せたい人に一番見せたい形でコンテンツを視聴してもらうことを第一に考え、どのデバイスに注力すべきかを事前に検討する必要があります。どのデバイスでも最良の形で視聴できるようにと欲張ると予算もかかるうえ、効果に結びつかないこともあるということです。
また、サイト上でクリックすればいつでも見られる、オンデマンドでの動画の配信方法には大きく分けて2つ、ダウンロードとストリーミング方式があります。デバイスにあわせて配信方法も選択する必要があるため、覚えておきましょう。
- ダウンロード
名前の示す通り、動画ファイルをユーザーのPCなどローカル端末にダウンロードしたうえで再生する方式です。Webサーバーがあれば実施可能ですが、ダウンロードが完了しないと動画が再生されないため、動画のようなサイズの大きいファイルでは再生までに時間がかかることがあります。また、ダウンロード配信では動画ファイルのコピーがユーザーのローカル端末に残りますので、ユーザーのハードディスク領域を圧迫する、権利関係での問題が生じる可能性があるといった点でケアが必要です。
- ストリーミング
動画ファイルのデータを受信しながら、順次動画再生できる方式です。ユーザーの待ち時間が短縮される、ユーザーのローカル端末に動画ファイルのデータが残らないのでデータコピーや転送の心配がない、ユーザーのハードディスク領域を圧迫しないというメリットがあげられます。導入に際しては、ストリーミング専用のサーバーの手配が必要となります。
このほか、ストリーミングに類似したものにプログレッシブダウンロードという方式があります。これは、ファイルをダウンロードしながら再生可能ですが、再生後、ハードディスクの一時フォルダにマルチメディアファイルがアクセス可能な状態で残ります。YouTube、ニコニコ動画などはプログレッシブダウンロード方式で行われています。
今回は動画制作に関わる基本的な要素を紹介しました。次回以降、具体的な撮影方法を説明していきます。
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