マキコミの技術

ブログブーム初期からコツコツと続く日産自動車の取り組み | マキコミの技術 #3

ブログブームの初期からソーシャルメディアに取り組む日産自動車のインタビュー
マキコミの技術

ブログ、ツイッターの達人が説くネットマーケティング
達人としてソーシャルメディアの最前線で活躍を続けるコグレマサト氏といしたにまさき氏が説く、ソーシャルメディア・マーケティングの指南書。

※この記事は、書籍 『マキコミの技術』 の内容の一部を、Web担の読者向けに特別に公開しているものです。
今回は、第2章 “コツコツ「継続」がソーシャルメディア上の土台” のなかから、日産自動車のネットマーケティングに関するインタビューを行った “[インタビュー] ブログブーム初期からコツコツと続く日産自動車の取り組み” の内容を一部抜粋してお届けします。日産といえば、日本でブログブームが始まったばかりで企業利用について慎重な意見も多かった2004年9月に、さっそうと当時の新ラインナップ「ティーダ」のブログをスタートさせ、話題をさらった企業です。

ツイッターも期間限定で開始。「東ドイツ」のミスがターニングポイントに

小川正太郎氏
グローバルコミュニケーション・CSR本部
ソーシャルメディア
広報担当
小川正太郎氏

――ツイッターも二〇〇九年の東京モーターショーで始められましたが、こちらも期間限定でしたね。

:ツイッターに関しては、どのようなものか体感するために、日産野球部のアカウントでテストをしていました。その中で、担当者がそれなりの人数必要なこと、ライブ感も大事なことなどがわかってきました。また、やめどきが難しいことにも気付きました。

:やるならば集中的にネタを投下できる時期がいいなと考えていたのがちょうど東京モーターショーの少し前で、モーターショーならばイベントで最初から期間が設定されているし、お祭りのようにできるからちょうどいいことに気付いて、三週間前ぐらいから、よしやってみようと準備し始めました。

――実際にやってみて、どうでしたか?

:刻一刻と変化する状況の中で、リアルタイムに発表していいことと悪いことを判断するのに苦労しました。しかも運用を始めてみて気付いたのですが、モーターショーという展示会の場は普段と違い、「今」の話と同時に「未来」の話もしている場なんです。だから、今と未来が交錯する中で、発表していい情報の判断をすることになり、困難を極めました。

:本当は言ってはいけないことを言ってしまったのではないかという不安で眠れない日もあったと、当時の担当者から聞いたことがあります。

――しかし、一つのツイートで空気が変わりましたね。「ドジっ子」キャラとして認定されたような形になって……。

:「東ドイツ」ですね(笑)。なぜか「東棟ブース」を「東ドイツブース」とミスしてしまったのですが、これが皆さんに受け入れられたんですよ。このおかげで、情報を正しく伝えるだけじゃなくて、ミスも含めて、現場の空気を伝えるというやりかたでいいのだと理解することができました。

日産公式アカウント(当時は@NISSAN_TMS)の「東ドイツ」ツイート
日産公式アカウント(当時は@NISSAN_TMS)の「東ドイツ」ツイート
http://twitter.com/NISSAN/

小川:展示会の際に、カルロス・ゴーン社長のスピーチをツイッターでテキスト中継しました。通訳が入ることもあって、全部は伝えきれなかったのですが、フォロワーの皆さんには、なかなか好評でした。しかし、きちんと中継できなかった反省から、別の機会では事前にスピーチ原稿を入手して、ツイッターに同じものを貼り付けていきました。そうしたら、今度はつまらないと(笑)。ソーシャルメディアって、そういうものですね。

マーケティングと広報が連携して、会社の総合力で勝負

柳信秀氏
マーケティング本部
販売促進部
インターネットチーム
柳信秀氏

:モーターショーではその後、マーケティングと広報が連動すると、すごく運用が楽になることに現場で気付きました。広報は日々メディア対応をしているので、言っていいことと悪いことの判断が的確にできます。これを理解してからは、毎朝のブリーフィングでお互いに情報交換をするようにしました(注:ここまでのティーダブログやツイッターは、すべてマーケティング単独での施策)。

小川:当時、国内のマーケティングと広報は、ウェブの分野ではそれほど連携していませんでした。しかし、これがきっかけとなって広報の勉強会でマーケティングの担当者がソーシャルメディアについて話したりして、ソーシャルメディアでは会社全体の総合力が試されるなと、改めて認識することになりました。

――そうして東京モーターショーの閉幕とともに休止した日産アカウントが、「むくり」のツイートで復活しました。

:モーターショー以降、ツイッターの運用についてマーケティングで検討を続けていたとき、広報からツイッター続けましょうよという提案をもらいました。

小川:私自身はモーターショーの広報を行なっていましたが、モーターショー会場で初めて「日産さん、ツイッターやっているんですね」と言われ、えっ!? と思って担当に話を聞いたのです。そうしたら、単なる情報発信だけでなく、お客様とリアルタイムのコミュニケーションを進めていて、その中で、ネタ不足や投稿の可否判断に悩んでいることを知りました。そこで全面的にバックアップすることにしました。

実は、アメリカ人のグローバル広報トップからは、ずっと広報もソーシャルメディアに対応しなさいと言われていました。ただ、ソーシャルメディアのイメージがつかめていなかったのです。ところが、モーターショーでマーケティングがツイッターをやっている現場に出会って「こういうことなんだ」と一気にイメージできたんです。だから、広報からマーケティングに話をもちかけたというわけです。

そこで「フーガ」の記者会見を皮切りにツイッターを再開しました。このときはマーケティングと広報で運用を行ない、複数の視点で運用することで、冷静な判断ができたと思います。現在、日産の公式アカウントは広報がメインで運用しています。

電気自動車の普及に向けて、あらゆるソーシャルメディアを活用

南勲氏
マーケティング本部
販売促進部
インターネットチーム
南勲氏

――現在は「日産EV」アカウントも登場していますね。

:これは日産が発売する電気自動車(EV)「リーフ」に合わせて運用しているアカウントです。ここでも広報とマーケティングは連携しています。

ツイッターは、ブログにするまでもないことも流せるのが、大きな利点です。例えば「電気自動車が初めてナンバーを付けて走ります」といったことですね。箱根でリーフがドライブしている最中にツイートすることもツイッターのリアルタイム性があってこそ、やる価値があることです。

もちろん、ここでも複数人で運用しています。一人でやっていると、お客様からのコメントでお腹が痛くなるときがありますからね(笑)。メールへの複数人での対応は二〇〇二年から続けているので、その運用ノウハウはあったと思います。

――現在、ソーシャルメディアを利用してもっとも推しているのはリーフですね。

:リーフは二〇一〇年一二月から販売を開始しますが、日産が全社をあげて取り組むプロジェクトとして、リーフだけではなく電気自動車全体のご理解をいただく活動を続けています。

電気自動車では正しい情報を伝えて、お客様の間に「賛成の連鎖」という空気を作るミッションがあります。ソーシャルメディアにマーケティングの種をまいて、それに応えていき、すべての情報を蓄積、つまりストックすることを想定しています。そのためブログツイッターだけでなく、ユーチューブフェイスブックフリッカータンブラーも利用しています。

特にツイッターでは、お客様に質問を投げかけて、いただいた答えをそのまま電気自動車のサイトでストックしていくことを意識しています。これは電気自動車の普及に向けた記録として残していくという、社会的な意味もあります。

また、こういった動きの後押しとして、従来型のメールマーケティングやバナー広告も引き続き実施しています。

リーフブログのサイドバーには、ツイッター、フリッカー、ユーチューブ、タンブラーのメニューが並ぶ
リーフブログのサイドバーには、ツイッター、フリッカー、ユーチューブ、タンブラーのメニューが並ぶ
http://blog.nissan.co.jp/EV/

――リーフの試乗会ではトラブルが発生しましたが、みごとに対応されましたね。

:リーフの一般向け試乗会で、大きなものではなかったのですが、事故が発生してしまいました。

この事実をソーシャルメディアの中でどう伝えるか? ということについては、部内でも議論がありました。

内容が内容だけに、できるだけ詳細に誤解のないように伝えたいわけですが、特にツイッターでは一四〇文字という制限があります。複数のツイートに分けて伝えればいいのでは? という意見もあったのですが、分けると一部だけを読まれ文脈を誤解されてしまう可能性があります。

結局、一四〇文字以内に要約して、ツイッターで情報を流しました。動画が流れたユーチューブのコメント欄ではご批判もいただきましたが、ツイッターでいただいた反応は、好意的な反応がほとんどでした。これはある意味、これまでの活動の積み重ねのおかげかなと思っています。

マスとネットの両方の取り組みで相乗効果を生む

――よくマスメディアとネットメディアを対立するものとして見る向きもありますが、日産では両方で展開しています。

小川:両方が対立するということはなく、むしろ仲よくできています。電気自動車の番組があれば、ツイッターで「テレビをいっしょに見ましょう」と呼びかけたり、ツイートしながら番組を見るということもありました。

――テレビではPerfumeのCMを行なっていましたが、あの効果は?

:Perfumeの「乗ってカンガルー」CMですね。あの影響で、ツイッターのフォロワーが急増しました。しかも日産公式アカウントだけではなく、EVアカウントも同様でした。

世の中の消費動向から車は離れつつあるので、世間にブランドを近づけるという意味で、マスでのマーケティング活動は、依然として大事です。そして、それが今ではネットにも影響が出ているということです。現在、リーフの認知は急速に高まっているのですが、これも広報を含めたマスとネットの両方の取り組みがあってのことです。

余談ですが、EVアカウントで「リーフに乗って窓を開けてひとこと! なにを叫びたいですか?」と問いかけたところ、リプライが「皆さんお元気ですか?」で埋まってしまった(一九八八年の「セフィーロ」のテレビCMで流れた、井上陽水氏の台詞)のは、CMの影響力を改めて味わうことになりましたね(笑)。

[いしたにまさき]

(イベントは終了しました)マキコミセミナー3/28開催

『マキコミの技術』の筆者2人が登壇するセミナー「ソーシャルメディア時代に見直すブログ術 &一歩踏み出すマキコミ術」が3月28日(月)にお茶の水で開催されます(参加無料)。

詳しい情報&申し込み → http://fansfans.jp/campaigns/detail/303

マキコミの技術
  • マキコミの技術
  • コグレマサト・いしたにまさき 著
  • ISBNコード:
    978-4-8443-2958-9
  • 定価:本体1,500円+税
  • 電子書籍版:1,050円(税込)
  • インプレス

この記事は、書籍『マキコミの技術』の内容の一部を、Web担の読者向けにオンラインで特別に公開しているものです。

ブログ、ツイッターの達人が説く
ネットマーケティング

2007年3月に「クチコミの技術(日経BP)」を出版し、ブログやツイッターの達人としてソーシャルメディアの最前線で活躍を続ける2人の著者が説く、ソーシャルメディア・マーケティングの指南書。

ツイッターの流行などによってネットとリアル(現実社会)が近づいた現在、ネット上でのコミュニケーションが、リアルでの行動にもダイレクトに影響を及ぼすようになっています。そうした時代に、企業とユーザーが「巻き込み」「巻き込まれ」てよい関係を築くための技術について、著者の経験を元に解説。

「マーケティング」「ブランディング」の枠に留まらない、ネット活動の総合的な指南書です。

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