影響し合い、ユーザーに巻き込まれる企業 | マキコミの技術 #1
今回は、第1章 “時代は「クチコミ」から「マキコミ」へ” のなかから、“影響し合い、ユーザーに巻き込まれる企業” の内容をお届けします。
「囲い込み」から、ネットのオープンさに逆らわない戦略へ
広くつながり、リアルタイムにコミュニケーションし、深い影響力を及ぼせるソーシャルメディアの力が企業にも認知され、マーケティングのありかたも変わってきています。
ひと昔前のネットマーケティングは、あまり印象のよくない言いかたですが「囲い込み」が主流でした。ユーザー登録をしてもらい、情報を知ることから購入まで、すべての行動をサイト内で完結させて外には逃がさない、という形です。
ネットマーケティングに限らず、お客さんの囲い込みはよく行なわれてきました。同じ商品を使い続けリピーターになってもらうことはビジネスの基本でもあるわけですし、それ自体は悪いことではありませんが、あからさまに囲い込もうとするとお客さんから敬遠されてしまうのは、ご承知のとおりです。
ブログの登場は、こうした囲い込みが当たり前という状況を大きく変えました。ブログには、他の記事を引用し(同時にリンクも張り、トラックバックによって引用元からのリンクも得て)コメントを書くというスタイルが基本フォーマットとして存在しました。リンクは引用元へのリスペクトの意味もあり、読者にとっても簡単に「裏取り」が可能になるため便利です。読者を他のブログに積極的に誘導するための「ブログロール」という、他のブログの更新情報を表示する機能なども登場し、ユーザーはあちこちのサイトを回遊するスタイルになじんでいきました。
ブログ的なスタイルの普及を受けてIT系のニュースサイトもトラックバックの導入を始めました。記者の書いた記事に対してブロガーが意見し、読者は双方を読み比べられる、という環境が整い出したのは、二〇〇四年の中ごろからです。
現在ではIT系に限らず、多くのメディアサイトやオンラインショップで、ソーシャルブックマークやツイッター、ミクシィ、フェイスブックなど、さまざまなソーシャルメディアとつながるためのボタンを目にします。企業がいかにソーシャルメディアの中に入り込み、そこからのトラフィックを獲得するか、という部分で工夫を凝らすようになっているのです。
こうした状況は、明らかに「囲い込み」から変化してきています。オープンなネットの原理に逆らうことなく、話題を提供して自由に語ってもらい、サイト外からも興味を持ってアクセスしてもらうという、クチコミの発生を促しているわけです。
ウェブサービスを提供する企業では、自社のサービスを基盤とし、パートナー企業やユーザーコミュニティと協力することで利用機会を増やしていこうとする「プラットフォーム戦略」が取られています。ミクシィは二〇一〇年九月一〇日に「ミクシィ新プラットフォーム」として、外部からミクシィの機能を利用できる新機能と、多くのパートナー企業との連携を発表しました。
また、第四章でも詳しく紹介するエバーノートは、二〇一〇年九月二九日の記者発表で自社プラットフォームには二〇〇〇のデベロッパー(個人・法人合わせて)がおり、二〇〇の連携プロダクトがすでに生まれていると発表しました。
こうした戦略は、先述したクチコミを意識したウェブメディアの考えとも共通します。自社だけですべてを提供しようとするのではなく、自社の強みを提供し、皆に自社を「巻き込んで」使ってもらおう、という考えかたです。
こちらも第四章で詳しく紹介しますが、六本木にある豚肉料理店「豚組 しゃぶ庵」のケースも、一種のプラットフォーム化だと言えなくもありません。豚組オーナーの中村仁さんはツイッターで次々と寄せられるリクエスト——店内に無線LANが欲しい、プロジェクターが欲しい、といったものに柔軟に応えていったことで、いつのまにか「IT系イベントを開催するなら豚組」と定番の店になっています。
大事な「巻き込む技術」、もっと大事な「巻き込まれる技術」
最近ある程度の規模の企業では、新しい企画について話すときに「他の部署も巻き込んで!」という言葉がよく使われているようです。
変化の激しい今の時代に、現行の組織が新しい取り組みに柔軟に対応できないケースも少なくありません。例えばマーケティング、広報、宣伝、ウェブ企画など部署が細かく分かれている企業でソーシャルメディアを利用しようとする場合、どの部署が主幹となるのか、簡単には判断できません。スピード感を持ってプロジェクトを動かすには、熱意のある誰かが積極的に他を巻き込んいく必要があるでしょう。ツイッターなどは個人レベルで利用が可能なので、一人でゲリラ的にツイートを開始し、ユーザーを巻き込んで既成事実を作ってしまった、という話も聞いたことがあります。
こうした中で、周囲を「巻き込む技術」の重要性を感じている人は多いでしょう。一方で、周囲にうまく「巻き込まれる技術」も、無視できません。特に、ソーシャルメディアでさまざまな人と付き合うことを考えれば、「巻き込まれる技術」のほうが必要になる場面が多く、より重要度が高いと考えられます。
本書の執筆にあたり、いくつかの企業に取材を行なっていますが、どこの企業でも口々に語られるのは「(お客さんやブロガーに)巻き込まれた」ということです。自分たちが予測しなかった方向に事態が動いていくのを、必死に追いかけ、ついていったというのです。
企業の視点で考えると、マーケティング=仕掛けること=「巻き込む」こと、という印象が強いでしょう。しかし本書では、それと同じくらい「巻き込まれること」を大事だと考え、巻き込み、巻き込まれることによる「コミ」ュニケーションという意味も加えて、キーワード「マキコミ」としています。
「巻き込まれ」ることは「指名買い」されること
ユーザーから巻き込まれ続けるということは、自社が関心を持たれ続け、期待をされているということでもあります。期待に応えることが信頼を生み、ユーザーが商品やサービスを手にすることも増えるでしょう。言い換えれば、巻き込まれるということは、ユーザーから「指名買い」をされている状態だとも言えます。
企業としては、ぜひとも目指したいところでしょう。いかにして企業がユーザーに巻き込まれ、それに対応していったか、いくべきかは、第二章以降で詳しく紹介します。[コグレマサト]
(イベントは終了しました)マキコミセミナー3/28開催
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この記事は、書籍『マキコミの技術』の内容の一部を、Web担の読者向けにオンラインで特別に公開しているものです。
ブログ、ツイッターの達人が説く
ネットマーケティング
2007年3月に「クチコミの技術(日経BP)」を出版し、ブログやツイッターの達人としてソーシャルメディアの最前線で活躍を続ける2人の著者が説く、ソーシャルメディア・マーケティングの指南書。
ツイッターの流行などによってネットとリアル(現実社会)が近づいた現在、ネット上でのコミュニケーションが、リアルでの行動にもダイレクトに影響を及ぼすようになっています。そうした時代に、企業とユーザーが「巻き込み」「巻き込まれ」てよい関係を築くための技術について、著者の経験を元に解説。
「マーケティング」「ブランディング」の枠に留まらない、ネット活動の総合的な指南書です。
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