ネットの情報収集は視野を広く、ネット流行語大賞のカラクリを解く“横の比較”
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百九十六
ワンピース祭りの衝撃
週刊少年ジャンプで連載中の冒険海賊漫画「ワンピース」の2010年11月に発売された第60巻の初版が340万部と報じられました。一冊420円で、仮に10%の印税契約とするならば1億4,280万円。出版不況が続くなか、景気の良い話です。発売日の翌朝、近所のセブンイレブンに足を運ぶと、店内は「ワンピース祭り」でした。レジの周辺に最新コミックがディスプレイされ、レジの目の前の2の棚は、通常の商品が撤去されワンピースグッズがところ狭しと並べられます。まるでワンピースのキャラクターがセブンイレブンをジャックしているようです。その人気は知っていましたが、想像を超えた盛り上がりに驚きました。
しかし、これをもってワンピース人気を語るのは早計です。ネットを使っていると最新情報から、マニアなネタ、辞書を引かずとも難読漢字を調べることができ「万能感」を覚えます。それが転じて、ネットで得た情報を盲目的に信じると「視野狭窄(視野が狭くなる)」が起こります。これを避ける方法が「横の比較」です。
水嶋ヒロのヒットの構図
300万部突破という報道にある数字自体は冷静に見ていました。一般的なコミックは「再販制度」という、売れなくても返品(返本)できる制度があることから、「売れそうな本」には過剰な注文が入る傾向があるのです。
最近では俳優の水嶋ヒロさんのデビュー作が、あらすじも未発表の段階で初版40万部となった理由はその話題性です。加えて「漫画喫茶」や「コミックレンタル」といった「業者買い」が、人気作品の初動に大きく影響するのは、20世紀の終わり、ミリオンセーラーが頻発した「CD」にレンタル業者の影が見え隠れしたことと同じです。話題の作品の数字は「上ぶれ」するものなのです。
セブンイレブンのワンピース祭りに少し嬉しくなったことを告白します。出版不況が叫ばれ、大好きな漫画も例に漏れず「ヤングサンデー」「コミックバンチ」と漫画雑誌の休刊が続いているなかでのグッドニュースだったからです。そしてファミリーマート、ローソンへと足を伸ばしたのは「横の比較」。そこでは人気作品に相応しく書棚の目立つ位置に置かれていましたが、普通の「新刊発売」に過ぎませんでした。
田山幸憲プロの薫陶
事務所に戻り「ネットで検索」すると「セブンイレブンフェア」としてワンピースとタイアップしていたことを知ります。店頭面積当たりの売り上げにシビアなコンビニが特設棚を設置していること、事前に報じられた初版部数、そして漫画業界のグッドニュースに浮き足立ち、「売れている」という前提で現象を捉える視野狭窄に陥っていたのです。「横の比較」がなければ、勘違いしたままだったかも知れません。
「横の比較」とは、パチプロ(パチンコで生計を立てている人)故 田山幸憲さんの教えで、パチンコは盤面に打たれた「クギ」が勝率に直結し、横(隣)の台と比較して、より良い「クギ」の台を探せというものです。他のコンビニと比較することで「売れている」という視野狭窄に気がついたのは、この教えのお陰です。ちなみに「縦の比較」とは前日、前週といった「時系列」を指します。
そんな流行語大賞で大丈夫か
2010年の「ネット流行語大賞」に選ばれたのは「そんな装備で大丈夫か」です。「本当に流行っている?」という野暮な問いかけはしませんが、私が気になったのは「なう」が入賞どころか、ノミネートもされていない点です。ご存じ「なう」はツイッターを発祥とする「ネット語」で、ツイッターの広まりと共に広く使われた言葉です。そこで同様の「流行語大賞」から「横の比較」をします。
流行語大賞の本家といえば「ユーキャン新語・流行語大賞」ですが、こちらでは「なう」がランキング入りしております。また、女子中高生の「ケータイ流行語大賞2010」では「なう(なうい)」として「大賞」です。ネット語の「なう」が「流行語」でないと判断したのは「ネット流行語大賞」だけだったのです。
自称ジャーナリストのバイアス
ここで各流行語大賞のエントリー方法を見てみましょう。「本家」は辞書「現代用語の基礎知識」の読者モニターの応募からノミネートされ、「ケータイ流行語大賞」は女子中高生がターゲットの携帯サイト「@peps!」「Chip!!」にアクセスしている女子中高生500人の投票で選出されています。そして今年の「ネット流行語」は、産経新聞をはじめとする9社が協力し、ネット上でアンケート投票を行いましたが、当初は2ちゃんねる会員の投票によって決定していたことや、ネット住民からアンケートを募るという選考方法から、2ちゃんねる会員の共感を得る用語がノミネートされやすい傾向があるといえます。
ここで1つの仮説が浮かんできます。
2ちゃんねる(利用者だけ)が「なう」を使わないだけ。あるいは、ネット流行語=2ちゃんねる用語
いささか強引な議論であることは認めます。しかしネット流行語から「なう」が漏れている不自然さに、Web担当者が気がついていないとしたら、ネットに(あるいは2ちゃんねるに)傾倒し、「視野狭窄」に陥っている可能性が高いのでご注意を。
裏がとれないジャーナリズム
最後に「横の比較」ができない情報は慎重に扱う必要があります。経験がない分野ではより一層の注意が必要です。たとえば、ある事件の記事について朝日新聞と読売新聞、ついでに週刊ポストあたりを横に並べて比較すれば、それぞれ重なる部分は事実である可能性が高いと言えるでしょう。マスコミ不信を否定しませんが、彼らも嘘だけを書いているわけではありません。問題はブログやツイッターなど「個人発信」の情報です。
著名なジャーナリストによる「個人発信」はツイッターなどで人気です。しかし、それが「思いこみ」「勘違い」「妄想」である可能性を排除しきれないのは、テレビに出演し、ツイッターで絶大な人気を博しているジャーナリストが取材もせずに思いこみを断定的に「ツイート」しているのを見たことがあるからです。
漫画、ネット、ジャーナリスト。特に「好き」と思う対象に視野狭窄は起こりやすいので、「横の比較」でひと呼吸、間(ま)をあけ、一度冷静に俯瞰してみてください。但し、「恋愛も」という野暮は申しませんが。
今回のポイント
視野狭窄を「横の比較」で回避する。
1つの情報だけで判断すると誤ることがある。
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