値引きはお客様への背信行為。Web屋のための値引き交渉ノウハウ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八十伍
消えた300万円
不動産業界では100万円単位の値引きは当たり前で、3,980万円だった物件が1週間のうちに3,880万円となり、その翌週には3,680万円ということも珍しくありません。私も含めた周囲では、値引きなしに不動産を買った人はいません。「いまなら300万円値下げします」と耳元で囁き「落とす」ために、一般的な不動産価格にはあらかじめ「値引き分」が含まれているのです。これを「ズルイ」とはいいません。値引きしなければそれは「利益」になりますが、値引きは「利益」を削ることと同じだからです。
営利企業は「利益」のために商売を行っており、Web制作会社も営利企業です。つまり「値引き」を避ければ「利益」はでるということです。反対に取引先からみれば「値引き」は自社の「利益」です。お客の多くは海千山千の強者達。値引きの要求も十人十色。脅迫、泣き落とし、理詰めなど、百花繚乱の値引きも他人ごとなら笑い話も多いのですが……。
今回は「値引き」に対処する実戦ノウハウを紹介します。
価格掲載の是非
値引きの前提となる「価格」について触れておきます。Web制作業で時に「料金不明瞭」なホームページを見かけることがあります。案件により料金は変動するモノですが、目安となる価格は明示しなければなりません。サイト構築費の参考価格が50万円と100万円では「客層」が異なるからです。年間のWeb予算が10数万円しかない零細企業が、100万円単位の案件を取り扱う制作会社に見積もりを依頼するのは両者にとって時間の無駄です。掲載した価格でお客を「ふるい」にかけるということです。
価格を明示しない、あるいは安い価格を提示して、客の興味を集めてから口説き落とそうという戦術もあります。「ローボールテクニック」と呼ばれる営業テクニックで、「仏壇屋」の得意技です。チラシや店頭に破格値の仏壇を並べ、商品の説明をしながらお客を奥の高額商品のゾーンに引きずり込み興味を持たせます。豊富な商品知識と途切れない会話、そして相手の年収を推定する技術が必要な高等テクニックで、ド素人のWeb担当者に真似できるモノではありません。「明朗会計」で「ふるい」にかけるほうが結果として効率的になるのです。
不得手な分野に手を出さないことも重要な営業戦術の1つです。また、目の前の受注や実績を優先するあまり、無理な値切りに応じてしまうWeb制作会社もあるようですが、それはお客様への背信行為であることに気づいているでしょうか。
値引きできない理由は?
ここから「値引き」の実例です。プレゼン案が承認され、見積もりを出すと「高い」といわれました。よくあることですが、こうしたときには次のように答えます。
よくいわれます
Web制作は相場があってない世界で、高い安いの根拠は主観です。それを「高い」と指摘するなら、彼の主観に乗ることにするのです。「イエス・バット式」というもので、相手の主張を認めることで「敵意」を削ぎ、こちらの主張に耳を傾けさせる話術です。高いと認めたうえで、高い理由を1つひとつ述べていくと理解してくれるお客は少なくありません。Webという未知への不安がお客に「高い」といわせていることがあるからです。
一方、説明を尽くしても、高いという自説を曲げないものもおります。こうした人間を私は「客」とは認めません。取引とは「お互い様」だからです。
値決めしたのは日本人
こう書くと「高飛車」と非難する人がいますが、冷静に考えてください。我々、一般的な日本人は悪徳業者でもない限り「ぼったくり価格」をつけることはありません。自社の利益と、お客が「得したな」と思う狭間で折り合いをつけ値付けしているのです。それを頭ごなしに「高い」というのは無礼すぎます。
自説を曲げないタイプの社長は「押し」が強く高圧的です。迫力に負けて値引きしそうになった時は、2つのことを思いだします。1つは「定価を払ってくれたお客さん」です。我々の主張に納得し、定価を支払ってくれたお客さんを裏切らないために席を立つことも辞さないのです。そして次に心のなかで思うのです。
その勢いで殴ってくれないかな
商取引の場に威圧という「言葉の暴力」をもちこむ人間には「覚悟」を決めて接するのがもっとも効果的です。経験則ですが、威圧する人間は「堂々」としている人間が苦手です。
条件闘争とは打ち合わせのこと
先方の「予算」から「高い」というなら「値引き」に応じるのもありです。100万円は出せないが、50万円なら用意できるという場合です。ページ数を減らす、安価なシステムに変更するといった条件変更で折り合いをつけます。なぜなら「ホームページ」をきっかけに業績を伸ばせば、次には100万円の案件がとれる可能性があるからです。さらに、値引きの条件として「納期」と「保守」を絡めると、「WIN=WIN」の関係を実現しやすくなります。
通常3か月ほどで納品するものなら6か月とし、「空き時間(と、伝えるのが苦手ならアイドルタイム)」を利用して構築することを提案するのです。24時間365日業務が詰まっている「デスマーチ」な会社でもない限り、作業量には波があるものですから、「隙間時間(またはニッチタイム)」を活用することでのコストダウンを提案するのです。
金に細かい会社は永遠に細かい
次に「保守」は第182回と第184回で触れたことにつながります。一度に100万円は用意できなくても、初期制作費として50万円、その後に月々5万円なら支払える会社だとすれば、50万円の6か月仕上げで請け負い、その後1年間の保守契約を結ぶという方法もあります。
初期費用を50万円、毎月の保守費用を5万円として12か月の契約を結ぶとすると、合計は110万円。結果的に10万円多く売り上げが見込めるということです。ここでお客が損をするかといえばさにあらず。Webへの初期投資を小さく抑えると同時に、Webの売り上げ成長にあわせた無理のない支払いと、プロの手による適時のサポートが受けられるというメリットがあるのです。保守のメリットの詳細については上記でも触れたバックナンバーをご覧ください。
単純な値引きはすべきではないと考えます。先ほども述べたように「定価」で買ったお客様への背信行為だからです。また、冒頭に述べた通り、値引きと利益はおなじもので、正反対からの呼び名に過ぎません。つまり、過剰な値引き要求はこう述べているのと同じです。
お前の血肉をすすってやる
……営業の現場にいるとこうした妖怪じみた連中にたくさん出会います。
今回のポイント
値引きと利益は裏表。
値引きだけを求める客には断る勇気も必要。
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
「定価を払ってくれ
「定価を払ってくれたお客さん」を思い出すという箇所には胸が痛みました。
その通り、その方々に失礼ですよね。今後に繋げられそうです。