コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の伍十伍
一般人の常識が商売では非常識
昭和の頃「謙遜」は美徳とされておりました。昨年復活したルー大柴さんのような「我を我を」という芸風は眉をひそめられたものです。時は平成へと移り美徳もパラダイムシフトしたかのようですが、今でも謙遜傾向は生き残っています。
しかし、商売の世界においては「謙遜」が足枷となることがあります。圧倒的な才能でもなければ、コツコツと仕事をしているだけでは誰も声をかけてくれません。シンデレラストーリーはレアだから話題になります。
だから、謙遜を時に捨てます。大胆にも「スター」を目指すのです。無名でも「スター」になることができれば、これは商売用ホームページにとても役立ちます。
正直すぎる中小企業
中小や零細企業の担当者にはよく「大企業は大嘘つき、中小企業は馬鹿正直」と話します。大嘘つきとすると語弊がありますが、大企業が広告の中で日常的に嘘をついていることを指摘し、一方の中小企業については自社の長所さえも控えめに見積もる謙虚さを指摘します。そして嘘をつけとは薦めませんが「演出」をしなさいとアドバイスします。
その「演出」の1つが「スター」を作ることです。スターを作ることでコンテンツに説得力を与えるのです。
「総務部の電話応対ナンバーワンレディがオススメする携帯コスメグッズランキング」
「沖縄県の読谷支店店長、島袋徹さんが推奨の焼き肉はこれ!」
と、誰それ? という突っ込みは無視して一方的に宣言するのがポイントです。
そもそも怪しい著名人の定義
電話受付の女性や、読谷支店の島袋さんで効果があるのかという疑問にお答えします。
あります。電話受付の勤める会社が「コスメ」屋さんだったり、島袋さんが焼き肉屋さんであれば必ずあります。業者や関係者に胸を張って薦められると、余程のことがない限りそんなものかなぁと受け入れるのが「素人」だからです。また個人名を公開することで安心感も与えることができます。
職業欄に「スター」と書いたという伝説を持つ錦野旦さんはともかく、スターや著名人の定義は絶対ではありません。
ベストセラーを持つIT界の著名人でもITに縁遠い人に尋ねると認知度はゼロです。情報起業系のカリスマコンサルタントなど知らない人が多数派ですし、AKB48を秋葉原で尋ねるのと、巣鴨地蔵通り商店街で調査するのとでは結果は異なります。
もともと非常にあやふやなものだということです。つまり電話応対ナンバーワンでも読谷支店の島袋さんだって立派な(小さな声で「極局所的」とつけますが)著名人、つまり「スター」といえるのです。
無理矢理の笑顔で客を選別
某ショッピングモールでは「店長やスタッフの笑顔の写真で客を安心させる」という必勝法がありました。ネット通販黎明期は「ネットの向こう側に人がいる」と感じさせることによる効果が高かったことと、「スター」としての役割によります。それではすべての商売に有効かというと、農業漁業などでの「生産者」をスターにするのは比較的容易ですが、ファッション系の商材の場合は「店長の見た目」が商品価値に含まれることには注意が必要です。
そして「いきなり顔がでるサイト」を嫌う人もいます。こういった客に「スター」は通じません。豊富な商品知識があるので解説もオススメもいらなかったり、自分の価値観でしか評価しない人だったりするからです。しかし、これは仕方がありません。前号でも触れたように「客は選ぶもの」ですから、スターを望んでいる客を相手にするという割り切りは必要です。
どこかで働く社長の宣伝
「スターを作る」とは素人へ売る方法といっても過言ではありません。自分の価値観を持っている人を改宗させるのではなく、真っ白な素人を染め上げていくということです。地方イベントのローカルヒーローのような、自社サイト限定のスターという位置づけです。
実はIT業界では「スター」は多く使われいる手法で「社長ブログ」がそれです。塀の上を疾走していた創業者のあのブログも渋谷の労働日記も自身をスターとする広告戦術で、経営者が広告塔になるという点では会長自らCMに出演したピップエレキバンと同じです。
スターを作るのはHTMLのホームページでも構いません。ブログが利用されるのは更新のしやすさもありますが、ネット滞在時間の長いネットの住民への淡い期待で、コメントにトラックバック、彼らのブログで紹介してくれれば……上手くいけば渋谷の社長も夢ではないと夢見るからです。しかし「●●で働く社長のブログ」というネーミングの粗製濫造ぶりは、まるで昨年末の「おっぱぴー」のようなアイデアのなさで苦笑を隠せません。
信者を集めるスターの作り方
とある九州ラーメン店では客が「マジック」と称して店長の湯切りを絶賛していました。スープカレーの店では常連が声高に「週に一回以上食べないと落ち着かない」と店主を持ち上げます。下町の洋食店は客が感想を書き込むノートで「庶民の味を続けてください」と懇願します。これらは何の「根拠」もない私見ですが、本人達が喜んでいるのならそれでOKです。店やサイト限定のスターはアリなのです。
最後にちょっと「スターの世界」のカラクリを紹介します。
著名作家が「オススメ」していた足立区のラーメン店は1年と持たずに不人気で閉店しました。テレビで活躍する学者が必読と「大絶賛」していたコンサルタントをしている友達の本は、何故か学者自身が選んだ「今年の10冊」から漏れていました。著名人ほど悪口は言いません。お互い様という助け合いの精神です。そうして有名店が製造され、著名人がデビューしていくこともあります。もっとも「作家のラーメン評」や「学者絶賛のコンサル本」という時点でおかしな話なのですが。
畑違いの「絶賛」から較べれば「おらが店のスター」は何ひとつ矛盾しない立派な(局所的)スーパースターです。「君こそスターだ!」を商売用ホームページでは実現できます。
♪今回のポイント
スターや著名人は自己申告でOK。
鶏口牛後的な価値観を活かせるのもネットの特性。
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