コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の伍十四
新年あけましておめでとうございます。本年も「心得」にお付き合いいただければ幸いです。なお以前紹介したミックの連載記事にて「商売用ホームページとは」という、究極のテーマに取り組んでいますので、こちらもご一読を。
営業戦略の基本とは
2008年第1号は、心も新たに商売の基本である「客を選ぶ」について取り上げます。
このコラムは「ド素人のウェブ担当者」を想定読者として始まりました。そこで最新技術や専門用語の羅列は避けて、街角情報や実戦エピソードを中心に紹介しています。コンサルタントや熟練のエンジニアが喜ぶネタの方が「格好いい」のですが全部は選べません。
想定読者を「客」に置き換えます。「心得」が専門用語を避けて実戦例を紹介しているように、客を選ぶことで方針が定まり営業戦略が決まります。
ITトレンドの大人の舞台裏
2年ちょっと前からメルマガの衰退が叫ばれ、ブログ旋風が吹いたのには大人の事情も絡んでいます。
ブログの設置により「制作業者」は仕事が増えますが、無料メルマガでは報われません。だからといって自社メルマガ配信システムを設置しても「メールアドレスが増えない」と不信を誘発します。訪問者が少ないサイトでメールアドレスを集めるのは至難の業です。
その点、ブログはアクセス数が増えなくても「エントリー(記事=コンテンツ)」に責任を求めることができますし、何より「トレンド」です。
「更新が手軽にできる」「SEOにもなる」「トレンド」。手軽にウェブの恩恵を得たいという客を選んだのですから、「ブログは続けるのが難しい」とわざわざ教える必要はありません。
ITコンサルの営業術
大企業を客にしたいなら「ポイントは絶対儲かる金の卵」のような記事を書いてはいけません。未来のお客様のご機嫌を損ねてはならないからです。著名ITコンサルタントがあるインタビューで「依頼が来るような記事を書いていた」と告白していました。また別の方の原稿にはあだち充作品の「パンチ」のように、自分が主催するネット企画が頻繁に登場します。
誤解しないでいただきたいのですが阿漕な商売をしているという指摘ではありません。「客を選んでいる」ということです。大企業の裏事情を紹介して担当者を怒らせることは避け、誰が客になるかを逆算して書き、自分の原稿を読む層が「利用者」と重なるなら意図的に登場させるのは至極真っ当な営業活動です。
はてさて、あなたのサイトは客を選んでいますか。
安い価格でしか来ない客を選んでいる
発信する内容に踏み込んでケアするブログ業者や、日々の活動から得た情報を丁寧に発信している方もいます。それも内容の大切さを理解する客を選び、丁寧な情報を望んでいる雑誌やサイトを選び寄稿しているということです。
客を選ぶ大切さをある居酒屋を例に紹介します。
赤字が続いているというので帳簿を見ると、客単価の低さが致命傷とわかりました。価格設定が相場と比較しても異常に安いのです。
値上げを提案すると「客が来なくなる」と不安を口にします。そこでこう説明しました。
「安い価格でしか来ない客を選んでいるから赤字。商売はボランティアじゃないからお金を払えない人は客じゃない」
良い「客離れ」もある
店主はハッとして「そういえば給料日の後は他の店に行っている」お金がある時は他の店に行き、金がなくなると近隣より安いこの店に集まるというのです。これでは赤字も当然です。
実際に値上げしたところ「客離れ」はわずかで、店の「ファン」は変わらず通い、中には「安すぎた」と応援してくれるお客さんまでいました。
安さだけで店を選ぶ客は概して「自分だけ得すれば良い」という考えで、共存共栄という思想はありません。ビール1杯で粘り、顔見知りを見つけてはおこぼれを頂戴するといったケチな客が離れ、「普通の客」が残ったことで赤字基調から脱出することができました。
価格も客を選ぶ1つの基準で、そのままメリットにつながります。
eggとピチレモンの違い
10代と40代、ビジネスシーンか趣味か、パソコン経由か携帯端末からでも異なり、女性男性、既婚未婚で好みはわかれます。女性でもティーンとミセスではデザインも話題も違いますし、ティーンに限定してもギャル系の「egg」と小中学生がターゲットの「ピチレモン」では方向性が異なります。
何度か触れたように、オジサン達の「動画信仰」もオジサン達がターゲットであれば積極活用したいですが、Flash多用を好む若年層の意見を丹念に精査すると「文字を読むのが面倒」という違う理由からで似て非なるものでした。
属性によるセグメント化の他にも、趣味嗜好からも客層は異なります。だからこそ客を選ぶことで商売用の成功確率を上げることができるのです。
それではどうやって客を選ぶのか? となると「ド素人」向けから踏み込まなければならず字数も足りないので別の機会に。
店と客はイコールの関係
客選びを実際に始めてみると大変な作業だとわかります。ついあれもこれもと客層を広げてしまうからです。そんな時は「雑誌」や「書籍」を参考にするといいでしょう。「Web担当者の現場のノウハウ」の読者に「失敗しない断乳」の記事は必要ありませんし、育児雑誌の「たまひよ」に「失敗しないSEO」の特集を掲載しても読者が離れていくだけです。
雑誌や書籍は「出版企画」の時点で客を選んでおり「egg」と「ピチレモン」の違いもこれから生まれます。
客を選ぶというとおこがましく聞こえるかも知れませんが、店と客は対等だということを忘れてはなりません。10万円の商品ならそれ以上の価値があると感じて購入するのですから、10万円以上の「差額分」は感謝されてしかるべきということです。そして「お買い上げありがとうございます」という感謝でイーブンということです。さらにいえば嫌な客には「おめぇに喰わせるタンメンはねぇ」と追い返したっていいのです。
このコラムは「ド素人」がお客様。そして私のお客さんとして大企業はいらないので書けることが沢山あります。
♪今回のポイント
客選びは出版企画が参考になる。
良い意味での客離れを起こして経営体質の改善。
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