2019年には店舗とECの連携に苦戦していたムラサキスポーツが、革新的なオムニチャネル戦略で業績を劇的に向上させた。EC売上は従前比で3倍に急増し、ECで購買した顧客の7割が実店舗に来店するというシームレスな購買体験も実現した。
ムラサキスポーツは何を実行したのだろうか? ムラサキスポーツ執行役員の佐藤はじめ氏が、ECプラットフォームの提供を通じてムラサキスポーツのECビジネスをサポートするW2の鴨下文哉氏と、成功の舞台裏を解説した。
店舗、EC、関連施設でLTVを高める「ムラサキスポーツ」
2023年に創業50周年を迎えたムラサキスポーツ。スポーツ用品販売事業をスタートした当初は野球やテニス、スキー用品を扱う総合スポーツ店だったが、30年ほど前からスノーボード、サーフィン、スケートボードといった、いわゆるアクションスポーツの商品を取り扱うようになった。
現在はムラサキスポーツの屋号で全国140店舗(別屋号でも10店舗)、EC事業は自社サイトのほかにモール店舗も運営している。物販だけでなくアクションスポーツのイベント企画・運営の受託事業、スクール事業、契約アスリートのマネジメント事業なども手がける。
ムラサキスポーツの企業コンセプトは「“遊びでつながる”をデザインする」。遊びで人と人をつなげることが結果的に顧客を広げ、顧客の創造につながる。また、仲間とのつながりがあるから、遊びが長続きして顧客のライフタイムバリュー(LTV)が高まると考えている。(佐藤氏)
ムラサキスポーツ 営業統括本部 執行役員 営業統括本部副本部長 マーケティングサービス部ジェネラルマネージャー 佐藤はじめ氏
佐藤氏はムラサキスポーツと所属契約をしていた元プロスノーボーダー。引退後、社員として入社し、営業職や店舗運営の統括、商品部やEC事業の責任者などを経て、現在は営業全般に携わりながらマーケティング業務の責任者を務めている。
オムニチャネル施策として店頭受け取りを開始
ムラサキスポーツが考えるオムニチャネルは、店舗とECの購買体験だけではなく、企画運営する各種イベントやスクール、さらにはスキー場、スケートボードパークといった遊び場やフィールドでの顧客体験も視野に入れる。そのため、顧客データとして、イベントやスクールへの参加履歴、提携施設の利用履歴なども保持しているという。
ムラサキスポーツはサーフボード、スノーボードといったギアを取り扱っているので、アフターメンテナンスなど、LTVを高めるフィールドでの体験イベントといったサービスを提供している。そのため、ECの購入客をどうやって店舗につなげていくかが課題だった。(佐藤氏)
課題解決に向け、まず開始したのが店頭受け取りサービス。スタート当時はなかなか浸透しなかったが、現在ではサーフボード注文者の7割、スノーボード注文者の3割が店頭での受け取りを選択するようになった。店舗で中古買取を行っているため、ECで注文した商品を店頭で受け取る際に、使用していたボードを中古買取で持ち込む顧客も多い。
中古買取の事業をスタートしたのはSDGsの観点もあるが、リユース商品にまったく抵抗感のないZ世代や、これからアクションスポーツを始めるお客さまに少しでも安価に商品を提供し、マーケットを拡大したいという思いがあったからだ。(佐藤氏)
オムニチャネルは来店客の新しい商品の購入につながっている。2023年6月、ムラサキスポーツはこうしたOMO施策をさらに充実させるため、自社ECサイトのリプレイスをW2に依頼。店舗スタッフにとっても使いやすい仕組みになったという。
スタッフを主役にする「自分ごと化」でEC事業が急成長
ムラサキスポーツがEC事業を始めたのは2010年。2019年まではグループの別会社で展開していた。当時はEC化率が3%程度と低く、施策や在庫も店舗と共有できていない状況だった。それがこの5年でEC化率は15%に急成長した。
佐藤氏が初めに着手したのは、社内の各部署を巻き込んで、EC事業への参画意識を持ってもらうこと。たとえば商品部のバイヤーに、ECに掲載する商品をすべて決定してもらい、その商品を仕入れたバイヤーに商品の説明コメントを書いてもらった。その結果、対面販売でなくてもバイヤーがどういった意図でこの商品をセレクトしているのかが顧客に伝わるようになった。
また、商品の着用画像はプロのモデルではなく、店舗スタッフが務めた。これにより店舗スタッフを巻き込み、ムラサキスポーツの店舗の雰囲気やムラサキスポーツらしさをECでも表現できるようになったという。店舗スタッフがスタイリング画像を店舗のSNSに投稿、接客にも使用することで、顧客とのつながりも生まれていった。
とにかくECに興味を持ってもらうため、「ECがここから生まれ変わり、どんどん進化する、楽しい場所なんだ」というメッセージを送り続け、EC事業にスポットライトを当ててきた。(佐藤氏)
現在ECチームで働いているスタッフの半数近くは、社内公募で集まったという。北海道から福岡まで、各地の優秀なスタッフから手があがったのは、EC事業に興味を持ってもらう取り組みを続けてきた結果ではないかと佐藤氏は分析する。
売り上げを作る組織作り
オムニチャネルやOMO施策を実施するにあたり、店舗スタッフとEC事業部のスタッフが対立関係になってしまうこともある。そこはどのように変えていったのか。佐藤氏は店舗スタッフやバイヤーが「売り上げを伸ばせるチャンス」「この仕組みを使ったら良さそう」という意識を持ち、積極的に取り組んでくれたと言う。
逆風のなかでも、トップとしてECの重要さをスタッフに伝えられたのが、成功要因の1つではないか。(鴨下氏)
W2 S&M本部 執行役員兼S&M本部 本部長 鴨下文哉氏
ムラサキスポーツでは2019年に大きな組織体制の変更を行い、EC事業は商品部のなかに組み込まれた。2024年6月にも体制変更があり、現在は実店舗運営を管轄する部署に移行している。ここ最近の顧客動向から、「ECと店舗をシームレスにつなげる」「顧客の利便性アップするサービス提供」を強化するために、「ECが店舗のもっと近くにあるべきだ」という社長の思いからの改革だった。
2019年に商品部のなかにあったEC事業を第1リテールサービス部に変更
組織改革して以来、確実に店舗スタッフのOMOに対する意識が変わってきているという。
「スノーボード」「サーフボード」「スケートボード」のビッグワードで検索上位を獲得
SEOの強化にも取り組んできた。具体的にはデジタルカタログとブログに注力し、商品に興味を持った顧客が情報収集をする段階で、一度はサイトに来てもらえるようにコンテンツを作り込んだ。
デジタルカタログと動画コンテンツを含む商品詳細ページを作成し、SEOを強化した
モノが好きな人にとってカタログデータは非常に魅力的。ムラサキスポーツのサイトではサーフボードのカタログデータは閲覧数が高い。カタログデータを横並びで表示させるスペック比較はW2が開発した。
商品一覧から「比較する」ボタンをクリックすると、選択した商品だけを比較できる
また、サーフボードは身長や体重などを入力すると、そのデータにマッチしたサーフボードのサイズを計算して、リコメンドする機能も搭載した。
さまざまな角度での商品選びを追求
カタログデータの充実や探しやすさの工夫だけでなく、契約アスリートのブログなどで、顧客が思わず読み込んでしまう情報や、購入の後押しになるような情報を充実させた。
開始当初はコンバージョンが伸びなかったが、SEO施策を続けることで「スノーボード」「サーフボード」「スケートボード」というムラサキスポーツが最も欲しいビッグワードでトップクラスの検索優位性を手に入れることができ、それが売り上げの拡大にもつながった。
SEO施策により、多くの検索ワードで上位を獲得している
ムラサキスポーツのECサイトは商品数が多いため、「ファッション」「スノーボード」「サーフィン」などカテゴリごとのトップページを設置。キーワードに応じてそのトップページが上位表示されるようにSEO対策を続けてきた。顧客の流入経路を見ると、カテゴリのトップページから入ってくるケースが最も多く、これも検索の優位性につながっていると考えている。
LTV最大化に向けた次なる挑戦
ムラサキスポーツのターゲットは10代〜30代の比較的若い層。少子高齢化が進み、ターゲット層が減少していくなかで、売り上げを伸ばすにはシェアを拡大し、顧客のLTVを高めることが重要だ。そのためには、顧客が利便性を享受できる環境を整えることが必要だと考えている。
店舗でもフィールドでも、どこにいてもECにアクセスさえすれば、すべてのサービスを受けられる。ECは商品を販売するだけではなく、つながりを作る装置として、これからも新しい取り組みにチャレンジしていきたい。(佐藤氏)
W2では今後のECにおける成長に欠かせないものとして「ユニファイドコマース(Unified Commerce)」を提唱している。「ユニファイドコマース」とはECサイトや実店舗で取得したデータを統合し、顧客それぞれに価値ある購入体験を提供するマーケティング手法を指す。
日本のEC事業をさらに盛り上げていくためには、OMOの実現や、顧客体験の最適化(ユニファイドコマース)をいかに浸透させるかが重要。顧客視点で購買体験の最大化を一緒に実現していきたい。(鴨下氏)
ムラサキスポーツが導入したECプラットフォームを展開するW2とは
W2は、OMO・オムニチャネルから、W2株式会社、一般用医薬品向け、食品通販向けなど幅広いEC事業に対応できるECプラットフォームを展開している。事業の成長に合わせ、ノンカスタマイズモデルからカスタマイズモデルへのシームレスなサービス切り替えもできる。800社以上が導入し、導入企業の平均売上成長率は導入前比354%という(2024年11月時点)。
商材に合わせたECサイト構築プラットフォームを提供している。事業の立ち上げから年商数百億円規模まで対応可能
ユニファイドコマースの実現をめざす
W2は、OMO、ユニファイドコマースの他、データビジネス、今後はジェネレーションAIといったすべてを組み合わせて、顧客視点に立ったエクスペリエンスの実現をめざす。ECの観点だけでなく、顧客の購買体験を最大化し、いかに「楽しさ」を作るかをテクノロジーで解決していくという。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ムラサキスポーツが語るEC売上3倍の秘訣。W2と成功させたオムニチャネル戦略とSEO強化施策
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