カウンターワークスがマーケティング・宣伝・広報担当者に対して実施した「ポップアップストアに関する実態調査」では、2025年に強化したいマーケティング施策として3位にランクインした「ポップアップストア」。D2Cブランドや国内メーカーのポップアップストア出店用途として増加している「セールスプロモーション」に着目し、メリットや出店費用、費用対効果などを解説していきます。
ポップアップストアでセールスプロモーションを実施する目的
2024年9月にカウンターワークスが登録出店者を対象にした「リアル店舗の出店実態調査2024」において、ポップアップストアの出店理由の1位は「売り上げの向上」。次いで「ブランド認知向上」「新規顧客の獲得」でした。
「ポップアップストア=商品販売」のイメージから、必ずしも出店場所での即時購買を求めないセールスプロモーション形式でのポップアップ出店も増加しているのです。
ポップアップストアでセールスプロモーションを実施する場合、限定感と希少性を組み込んだ体験型店舗を展開するのが一般的。次の3点の実現をめざすことが求められます。
- 話題性の創出:期間限定出店で注目を集め、SNSなどで拡散を狙う
- プレファレンスの向上:実店舗体験を通じて、ブランドの魅力を直接伝達し、ファンになってもらう
- 商品テストマーケティング:新商品を体験した来店者の属性や購買行動を分析し、今後のマーケティングに活用
それぞれ解説しますので、詳しく見ていきましょう。
1. 話題性の創出
ポップアップストアは、「期間限定」であることが特徴です。ただ、最近ではポップアップストアという手法の認知度が高くなったこともあり、ただ実施するだけでは話題性の創出には結びつかないケースも見かけます。
今後のポップアップストアは、「期間における限定性」だけでなく、あらゆる角度で限定性を演出する必要があります。
たとえば、インフルエンサーやアンバサダーを招いたオープニングパーティーや来店DAYなどのイベントの組み込み。メディアの注目を集める手法や話題、あるいは、SNSで思わず投稿したくなる店舗デザインや限定商品を準備し、来店者の体験談がSNSに投稿・拡散されることをめざす――こんな話題性の創出に取り組むといったことが求められます。
2. プレファレンスの向上
実店舗体験における最大のメリットは、商品を直接見て、触れ、感じることで、ブランドの品質や世界観を深く理解してもらえることにあります。
たとえば、日本酒ブランドを立ち上げてブランド認知を図っていく場合、日本酒というジャンルは知っているけれども自社ブランドをまだ知らないお客さまに対して、日本酒を飲みたくなる空間やタイミングで試飲体験をしてもらうイベントを企画。ブランド認知とプレファレンス向上の2つを同時に達成することを狙っていきます。
3. 商品テストマーケティング
D2Cというモデルが一般化してきているなか、ブランドの新たなモデルや新商品の反響を確かめる手法として、ポップアップストア形式でのセールスプロモーションは有効です。
来店者の反応を直接観察し、特典付きのアンケート回答を募ることによりリアルタイムでフィードバックを得ることができます。また、異なる商品の展示方法やプロモーション方法を試し、最も効果的なアプローチを見出すことができるA/Bテストのようなマーケティングを実施することも有りでしょう。
最近では、海外の飲食店ブランドやアパレルメーカーが、特定のエリアにてポップアップストアを実施した後、常設展を本格展開する流れが増えてきています。
初出店におすすめのスペースタイプ
セールスプロモーションのポップアップストア初出店においては、以下のスペースタイプが適しています。
ホテル
ホテルの貸しスペースといえば、バンケットいわゆる宴会場におけるイベントがイメージしやすいですが、実はロビーや朝食会場、ホテル内のイベントスペースでポップアップストアのイベントを誘致をしているケースが増えています。
ホテル内にポップアップストアを出店する最大のメリットは、可処分時間の長いお客さま向けに商品・サービスの体験、説明をする機会を創出できる点です。
通行量の多いスペース、たとえば駅構内の移動通路内や路上でのセールスプロモーションにおいては、すでにブランド認知のある日用品や飲料(路上でエナジードリンクをサンプリング)であれば、効果が望ます。一方で、ブランド認知をこれから高めていきたい、一目見ただけではどんな商品かサービスかわかりにくい場合、立ち止まってくれる人だけでもごく少数のケースが圧倒的です。。
しかし、ホテルはチェックイン後、食事・お風呂の時間以外はテレビ鑑賞以外に可処分時間を消化する手段がありません。
たとえば、オーダーメイドシューズの試着会、宅食関連のサブスクリプションサービスの試食・試飲+会員登録クーポンの配布などのセールスプロモーションは、その場で売上回収は見込めないものの、プロモーション対象者内のプレファレンスが向上し、購買タイミングとなった際に第一想起されやすくなることが期待できるのです。
ホテルでのポップアップストアの実施イメージ
ショップインショップ
ショップインショップ形式の出店は、特定のイベントスペースではなく、アパレルショップやカフェの入口付近の一角で商品サンプリングや体験コーナーを設置します。
通行量の観点では多くの流入は望めませんが、ターゲットの属性がはっきりしている、ある特定の体験をするシーンで活用してもらいたい商品やサービスである場合には、セールスプロモーション後の見込み顧客化する確率が高い出店スペースと言えます。
3D技術を使った木型(靴型)から左右別で個人専用に作るフルオーダーメイドシューズを製作している「crossDs japan」は、通りの多いスペースに出店しても、一見さんでは購入に結び付かない課題にぶつかりました。
そこで、通行量重視から想定顧客層である小さな子ども連れの母親をターゲットに、子ども服セレクトショップ内のショップインショップ形式で出店したところ、開催1ヶ月前に開始した予約受付が2週間ほどで満枠となりました。
映画館のロビー
映画館のロビーでも、実はセールスプロモーションが実施できます。映画館ロビーに滞留している映画鑑賞を目的に来場した人々は、上映前後の時間帯において可処分時間を持て余しているケースがあります。
また、映画は対象の鑑賞者層や曜日別のシニア割引や学生割引といった制度もあるため、自社商品やサービスに合った顧客層がいるタイミングを狙ってセールスプロモーションイベントを実施できるメリットもあります。
出店費用はどのくらい? 費用対効果は?
セールスプロモーションに最適なスペースタイプをご紹介しましたが、気になる出店費用はいくらくらい掛かるのでしょうか?タイプ別にいくつかピックアップしてみます。
ホテル
出店効果
ホテルは出張による宿泊、旅行、ライブ参加のため等、立地によって宿泊理由が異なります。
出店したいホテルの宿泊客の属性を予めショップカウンターのページや問い合わせで確認したうえで、サンプリングや商品体験をベースとしたセールスプロモーションイベントを開催することで、チェックイン後の可処分時間を持て余した宿泊客と接触する時間を確保して、商品・サービスを体験してもらう、アンケート記入してもらう等の出店効果が望めます。
ショップインショップ
出店効果
ショップインショップで出店するカフェやアパレルショップの商品を購入したお客さまを中心に声がけすることで、ついで買いに近い感覚で商品・サービスの体験・アンケート記入・アプリダウンロードなどを促すことができます。
出店させてもらう先の店舗とのコラボで、購入した商品と特定のハッシュタグ投稿でノベルティグッズをプレゼントといった企画も開催すると、来店客によるUGCを活用することも可能です。
映画館
出店効果
映画館は商業施設内に併設されているケースが多いため、通行客も平日と休日で異なります。
平日はシニア層、休日はファミリー層やカップルを対象としたセールスプロモーションイベントを企画しましょう。
マンガ由来の映画上映時に電子マンガアプリや中古本買取・購入サービスのPR、アニメ映画の聖地を巡るツアープランのPR等、上映映画の来観者属性にあったセールスプロモーションイベントであれば、出店費用に対してエンゲージメントの高い顧客獲得につながり、出店効果も期待できます。
出店までに必要な準備
開催スペースを決めるまで
セールスプロモーションイベントの開催で、出店検討しているスペースにどのような属性の対象がいるか確認することが重要です。
ホテル、ショップインショップ、映画館はすべて本業の横でイベントを開催する形式のため、出店する区画や禁止行為は事前にしっかりと確認しましょう。
特に、BGMやイベント開催中のインスタライブなどは事前にスペースオーナーとコミュニケーションをしたた上で実施許可を得ましょう。それをしないと、ルール違反で即刻利用禁止となるケースもありますので、ご注意ください。
開催に必要な書類
セールスプロモーションイベントの場合、販売を伴わないイベントとなるため、必要な書類自体は多くありません。セレクトされたコーヒーが週替わりで届くサブスクリプションサービスをPRする目的での試食・試飲を伴うイベントの場合は、営業許可証が必要である場合があります。
- 本人確認書類
- 法人の場合
- 登記簿謄本・営業許可書・印鑑証明書等の公的書類の写し
- 個人の場合
- 優先順位の高い順に、以下いずれか1点の写し
- 開業届・マイナンバーカード・免許証・健康保険証等の写し
- イベント実施履歴
- 営業許可証
オリオンビール社の事例
事例のポイント
- キャッチ―なイベント名=ハッシュタグを準備し、UGC拡大
- 大型連休中に遠い場所の臨場感を近場で味わえる企画設定を実現した空間を準備
- 無料体験ながら商品のプレファレンス向上を自然に達成できるイベント設計
2024年のGW期間に開催されたオリオンビール社による「宮古島のビーチ」を再現した新感覚イマーシブ型イベント「秒で沖縄に行けるバー by Orion」。
オリオンビール社が実施した新感覚イマーシブ型イベント
沖縄に行きたいけれど行けない、映える写真が撮りたい、といった都内近郊のユーザーをターゲットに、イマーシブ(没入感のある)な沖縄空間を体験してもらうことを目的に企画したイベント。
旅行シーズンであるGWだけど旅行に行けていない × 旅行といえば「沖縄」という認知 × 沖縄のビールといえば「オリオンビール」という自然な流れで、イベント企画やコンセプトで設計しています。
初めてオリオンビールを体験する、沖縄で飲んだことはあるけどその後は飲んでいなかったなど、「オリオンビール」への認知度の差があっても、「#秒で沖縄」のハッシュタグを添えたSNSへの投稿およびプレファレンス向上につながるセールスプロモーションの好事例です。
まとめ
本記事では、セールスプロモーションイベントのポップアップストア展開における解説をしました。
セールスプロモーション形式のポップアップストアが新たなマーケティングチャネルとして台頭しています。
即時購買にこだわらず、商品体験とブランド理解の深化を重視し、ホテルや映画館など、通行量の多さが最大のメリットであった従来の商業施設や駅ナカ以外での展開で、可処分時間の長い顧客との接点創出や、ターゲット層に特化した効果的なブランド体験を提供できます。
顧客LTVを意識した第一印象を決めるマーケティング手法として、ポップアップストアの出店に着目し、効果的な出店を通した事業成長の最大化に取り組んでいきましょう。