漆器販売の三好漆器では今年1月、仮想モール「楽天市場」の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2023」において、「キッチン用品・食器・調理器具ジャンル賞」を受賞した。同社は海南市の地場産業「紀州漆器」のメーカーから漆器を仕入れて販売。なかでも「曲げわっぱ」が人気商品だ。ECの世界で成功できた理由はどこにあるのか。
卸売りからECに進出
三好佑紀社長が、家業である同社に入社したのは2003年のこと。就職氷河期ということもあって勤め先探しが難しく、三好社長によれば「やむなく働きはじめた」のだという。当時の同社は漆器の製造卸業を営んでおり、地元の問屋に漆器を卸売りしていた。
ちょうど海外製の安い漆器が出回りはじめ、伝統的な漆器は、どんどん小売り店に並ばなくなってきた頃だ。三好社長は「受注がなくて暇な時期が続いたこともあり、『この先うちはどうなってしまうのだろう』という恐怖心があった」と振り返る。
そこでECへの参入を決意した。「ネット競売は経験があったので、とりあえず出店してみようか」(三好社長)と、楽天市場に店を開いたのが2006年のこと。まずは、自社の余剰在庫を販売することからスタートした。家族経営だったこともあり、EC事業は三好社長1人でスタート。小売りは初めてだったこともあり、顧客対応など慣れないことも多く、売れるようになるまでは数年かかったという。
楽天市場に出店している「みよし漆器本舗」
「曲げわっぱの弁当箱」がヒット
まず、取り組んだのは商材の拡大だ。漆器が地場産業ということもあり、メーカーや小売りがたくさんあったので、商品の仕入れには困らなかった。これまでとは逆に、問屋から商品を仕入れるようになった。そんななかで販売を始めたのが、「曲げわっぱの弁当箱」だ。
曲げわっぱの弁当箱の一例(画像は「みよし漆器本舗」から編集部がキャプチャ)
曲げわっぱとは、スギやヒノキなどの薄い木の板を、筒状に丸めて継ぎ目をサクラの皮で縫い接着したもの。秋田県の曲げわっぱが有名だが、紀州漆器の名産品ではない。
「当初曲げわっぱは商品ラインナップの一つに過ぎなかったが、曲げわっぱのファンが低価格で販売する当社で買ってくれた」(同)。当時は曲げわっぱの弁当箱を扱う競合が楽天市場内に少なかったことや、同社がメーカーと問屋に近く、仕入れ面で有利だったために低価格で販売できたことが人気につながったようだ。
現在は、曲げわっぱだけで200種類ほど販売している。購入しているのは、30~40代の女性が中心、商品写真、特に「弁当の中身を詰めたときにどんな見栄えになるか」や、商品のサイズをわかりやすく示すことにこだわっている。
ECでは弁当の中身を詰めたときのイメージを掲載(画像は「みよし漆器本舗」から編集部がキャプチャ)
サイズをわかりやすく表記している(画像は「みよし漆器本舗」から編集部がキャプチャ)
また、非常に軽いため、通勤通学時の負担軽減になるほか、見た目のかわいらしさ、さらには周囲の湿度が高いときは水分を吸収し、湿度が低くなったら水分を放出する「調湿作用」があるため、冷えても米飯の味が落ちにくい点などが、曲げわっぱ弁当箱のメリットだ。「曲げわっぱを扱いはじめた当初は、こうした特徴は全く意識していなかった」というが、もちろん現在は曲げわっぱの強みを商品ページでアピールしている。
「ネーションズ」参加で自社技術向上
曲げわっぱを主力商品として売り上げを伸ばしてきた三好漆器。ただ、SOYを意識できるようになってきたのは、楽天市場有名店舗が講師となり、他の出店店舗にネット販売に関するノウハウを伝授する企画「ネーションズ」に参加してから。
効率化・仕組み化・組織づくりを学んだという。仕入れから撮影、Webサイト制作、情報発信、店舗運営、顧客対応、ロジスティクスを和歌山県の本社で対応ができるワンストップ体制を構築した。さらにはコロナ禍が追い風となり、「外食から弁当に切り替える」需要を取り込んだことで急成長を遂げた。
内製ならではスピード感に強み
「曲げわっぱ」を軸に、コロナ禍も追い風として成長を遂げた三好漆器。ただ、コロナ禍直前となる2019年頃は売り上げがやや伸び悩んでいた。三好佑紀社長は「消費税率が10%に上がった影響や、社屋移転で受注を停止していた時期があったことも大きいが、ずっと自分1人で行っていたページ制作などの業務を外注したものの、かえって効率が悪くなっていた点も大きかった」と振り返る。
そこで、ページ制作などの内製化を推進。あわせて社員も増やした。コロナ禍ということもあり、受注量が増大したことでマンパワーが足りなくなっていたためだ。「内製の良いところはスピード感。入荷した商品をすぐにページ作成し、販売できるのが大きい。外注していたときは、発注からページ完成まで1か月かかることもざらだった」(三好社長)。
こうして作成したページや写真の見栄えの良さが購買につながっているほか、翌日配達サービス「あす楽」に対応している点も大きいようだ。丁寧な梱包や顧客対応もあわせて、顧客のリピート購入につながっている。
「SOY」でジャンル賞受賞
今年1月には、「楽天市場」の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2023」において、「キッチン用品・食器・調理器具ジャンル賞」を初めて受賞した。
三好社長は「まだまだ扱いきれていない商品がたくさんあったので、商品アイテム数を増やしたことと、楽天市場が実施するキャンペーンに注力したことが大きい」と受賞の要因を分析する。
これまでは、「楽天スーパーセール」や「お買い物マラソン」といったセール期間中、楽天カード利用者のポイント付与率が上がる「毎月5と0のつく日」を中心に販促を展開していたが、2023年は毎月1日の「ワンダフルデー(全ショップポイント3倍)」にも注力。「月初に山を作ると、その月の売り上げが見通しやすい」(三好社長)ためだ。
実店舗で店頭受取サービスも展開
一昨年には和歌山市に実店舗として「漆器のある暮らし」を出店。三好社長は「消費者の安心感は非常に高まったのではないか」とうなずく。店舗レビューでも、和歌山県下の顧客から「今度は実店舗に行ってみたい」といった投稿が散見されるようになった。
また、楽天市場店で注文した商品の店頭受け取りサービスも実施しており、利用する顧客もあるという。三好社長は「チャンスがあれば店舗数も拡大していきたい」と意欲を示す。
和歌山県で出店している実店舗
売上高目標は10億円
同社の2024年2月期売上高は約7億円。三好社長は「まずは10億円を超えていきたい」とする。同社は比較的手頃な価格の漆器を販売しているが、今後はやや高めの漆器の取り扱いも検討していく。また、大手仮想モールにおいて流れの強まる「365日出荷」への対応も課題となる。
生産も内製化
さらには「地場産業にもっと貢献していきたい」(同)。海南市の漆器産業は、後継者不足などにより廃業するメーカーが少なくなく、年々生産能力が低下しているのが実情という。そこで、後継者に悩むメーカーを買収し、ノウハウと設備を入手。内製化することで、欠品も減らしていく狙いもある。三好社長は「メーカーにシフトすることで、和歌山の漆器産業を盛り上げていきたい」と野望を語る。
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オリジナル記事:「曲げわっぱ」の弁当箱がヒットに。卸売業からのEC参入で事業拡大に成功した漆器店【「楽天SOY受賞店」の事例】 | 通販新聞ダイジェスト
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