EC事業者が販売する商品のレビューの有無は、消費者のコンバージョン率に大きな影響を及ぼすようになっています。米国のオンライン家電量販店Newegg Commerce(ニューエッグ コマース)はこのほど、ECサイト上の商品レビューを要約する生成AIツールを導入、売上アップに寄与しているそうです。Newegg Commerceが始めたAIによるレビューの要約は、EC市場最大手であるAmazonのAI生成レビュー機能導入にも影響を与えているようです。
記事のポイント- レビューを要約する新たなAIツールの目的は、消費者が商品を選ぶ時間を節約すること
- Newegg.comの顧客のうち20%はレビューを読んでおり、彼らはレビューを読まない顧客よりも40%多くサイト内で買い物をしている
AIによる「レビューの要約」とは?
Newegg Commerceは2023年8月から、生成AIがECサイト上の商品レビューを要約する新機能の提供をスタートしました。Newegg Commerceのブランド・ウェブサイト・エクスペリエンス担当ディレクターを務めるアンドリュー・チョイ氏は、「消費者がほしい商品にWeb上でたどり着くまでの時間を節約すること」が目的だと説明します。
Newegg CommerceのECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
導入したAIツールは、まず、商品の特徴を示すテキストをいくつか生成。AIがレビューを要約して生成したテキストは、それが一目でわかるように商品画像の下部に「Review Bytes」として記載します。
たとえば、ヘッドフォンの商品を紹介する際であれば、「バッテリーの寿命」や「音質」など、これまでの購入者が投稿した商品レビューに頻出するポジティブなキーワードが生成AIによって強調されます。
AI生成レビューツールを活用したNewegg CommerceのECサイト。AIが生成したことは「Review Bytes」と掲載して明示している
レビューを閲覧する顧客の購入金額は40%増
Newegg Commerceは商品ページの上部で、その商品のカスタマーレビューの特徴をAI生成ツールがいくつかのセンテンスに言い換えた“要約レビュー”を掲載。この要約レビューは、「Summary AI」と名付けています。
「Summary AI」では、レビューから抜粋した各商品の「長所」と「短所」をリストアップしています。長所は通常、商品画像の下にある「Review Bytes」のセクションに表示されたものと同じワードが使われます。
商品詳細ページの上部には、商品のレビューを生成AIがとりまとめた「Summary AI」を掲載
これについてチョイ氏は、「探している商品について、よりスピーディーに特徴をつかみたいと考えている多くのお客さまにとって、このツールは役に立つと感じています」と話します。
お客さまの20%がレビューをチェックし、レビューを読むお客さまは読まないお客さまよりも40%ほど顧客単価が高くなっています。そのため、Newegg CommerceにとってはWebサイトのレビューセクションを強化することが重要な施策となります。ゆくゆくは、お客さまが自身のニーズに合う商品を簡単に見つけられるようにしたいと考えています。(チョイ氏)
AIが生成したレビューの仕組みとは
Newegg CommerceがAI生成レビュー機能を自社開発するのに要した期間は約2か月でした。現在取り扱っている商品のうち、レビューが掲載されている商品の約20%にAI要約レビューが掲載されています。
AI要約レビューは、Newegg CommerceのECサイトをPCから利用する人を対象に提供しています。PCからのサイト利用者が、売り上げと利用顧客の大半を占めているからです。(チョイ氏)
Newegg Commerceの自社ECサイトと、市場で販売している商品は、累計2020万SKU。しかし、これらのSKUすべてが生成AIに“現在アクティブな商品”と見なされるわけではありません。
Newegg Commerceでは、まだ未公開のテキストレビューが一定の数に達すると、AIが自動的にその商品の要約レビューを作成。このとき、AIによる商品要約レビューの対象となるには、ある一定のレビュー数(100件未満)が必要です。要約レビューは、すでにNewegg Commerceで公開されているレビューから生成されます。AI要約レビューは生成後、即座にサイト上で公開されます。公開前の手動のチェックはしていません。
チョイ氏によると、消費者はAIが要約したレビューに対してフィードバックを投稿したり、サムズアップしてポジティブな感情を表現したり、反対にサムズダウンしてネガティブな感情を表現したりできます。また、AIが生成した商品レビューに対して、注意を促すようなフィードバックがあった場合、Newegg Commerceは必要に応じてAI生成のレビューを調整することも可能です。
人手による見直しの提案も。AIの課題は最適化に時間がかかること
ソチャ氏は、AIによって生成されたコンテンツが消費者向けに自動公開される前に、小売事業者が人間の手を加えることを提案しています。
生成AIは、これまでにインプットされた知見を踏まえて、消費者に対して過去の事例に似た提案をしたり、新たな商品の検討を提案したりすることができますが、それでもアウトプットの一部を検証するチームが必要です。どれだけ優秀な機械学習や人工知能でも、インプットされたもの以上の成果を出すことはできません。学習したデータを応用し、最適化するには多くの時間がかかるものだからです。(ソチャ氏)
ソチャ氏は人間による、生成AIが作成したテキストのチェックを提唱している
ソチャ氏は続けて、「自信を持って新たなテクノロジーを採用し、事業におけるAIの活用をテストしている小売事業者には拍手を送りたいです。しかし、IT分野を中心とした調査・助言を行う米国事業者Gartnerは、AI生成の運用に対しては慎重にアプローチし、運用において弱点が見られた場合には迅速に適応できるように準備しておくことを推奨しています」と話します。
Newegg Commerceは、クリック数、閲覧数、この機能を利用した後の消費者の行動に基づいて、この新ツールの効果を測定する予定です。Newegg Commerceがこのツールの運用を始めてから2週間、すでに多くの消費者がECサイト上でこの新機能を利用しており、その結果は上々となっているそうです。
Newegg Commerceは通常、新しい機能はデスクトップで最初にローンチされます。モバイルサイトとアプリの開発作業はサイトが“重くなる”ためです。Newegg Commerceは現在のところ、生成AIによるレビュー機能をモバイルでのショッピングでも運用開始するかどうかは明らかにしていません。
レビューがコンバージョン率アップにつながる理由
カスタマーレビューは、どのECサイトにとっても重要な要素です。米国のEC専門誌『Digita Commerce360』と調査会社のBizrate Insightsが実施した、1060人のオンライン通販利用者を対象に、コンバージョン率に冠する調査(2023年1月、オンライン通販利用者1060人が対象)によると、オンライン通販利用者の39%が、商品レビューの質と量が、注文をするかどうかを決める際の重要な要素になると回答しています。
2023年4月に調査会社のGartnerが2023年4月に米国の成人2025人を対象に行った調査でも、消費者の51%が、新しいブランドを見極める際や、新たな購入を検討する際に、ユーザーレビューに注目していることが判明しています。
「レビューは家電製品カテゴリーにおいて特に重要です」とチョイ氏は指摘しています。消費者は自分が探し求める商品のために、多くのお金と時間を費やしているそうですのです。
『Digital Commerce360』の調査データによると、「北米EC事業 トップ1000社データベース 2023年版」の全体の平均注文額の中央値がは179ドルであるのに対し、家電を取り扱うNewegg Commerceの平均注文額は511ドルとなっており、大きく上回っています。Newegg Commerceは北米EC事業トップ1000社のうち第58位にランクインしています。
AmazonもAI生成レビューの機能を実装
Newegg Commerceのディレクター・アナリストを務めるカッシ・ソチャ氏は、「生成AIによるレビューの要約は、AIを活用したテクノロジーの素晴らしい応用例と言えます」と話しています。
近年は昔よりも、消費者のニーズに合う商品の数が増え、そのうちのどれを選ぶかという選択肢が広がりました。そのため、商品についた評価やレビューは、数年前よりもさらに消費者にとって重要なものとなっています。消費者は何が自分にとって最良の商品かを判断するために、レビューに頼るようになりました。
商品のレビューを充実させている小売事業者は、消費者がより早いペースで商品に関連する情報を受け取り、よりスピーディーに購入を決めるため、コンバージョンのアップにつながることに気がつくでしょう。(ソチャ氏)
Newegg CommerceがAI生成レビュー機能を発表した後、AmazonもAI生成レビュー機能を公表発表しました。AmazonのAI生成商品レビューは、同社のモバイル経由で購入する消費者の一部が利用可能になっています。商品詳細ページのレビュー欄の上部に、数センテンスで顧客のレビューも要約しています。
Amazonもレビューで生成AIを活用
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:Amazonも始めた生成AIのレビュー活用。買い物体験の向上につなげる米国の家電EC大手の導入事例 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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