使用済みクリアホルダーから生まれた商品「Matakul(マタクル)」。製品化まで約2年費やした商品に込められたストーリーをアスクルが語る | ネットショップ担当者フォーラム

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使用済みクリアホルダーから製造したアスクルの新PB商品「Matakul(マタクル)」。環境省の実証事業への参加からスタートしたプロジェクトだが、商品化に至るまでの経緯や重要なポイントとは何だろうか

アスクルの新PB(プライベートブランド)商品シリーズ「Matakul(マタクル)」。アスクルの資源循環プロジェクトの一環で誕生した商品で、その原料は企業などから回収した使用済みクリアホルダーだ。発売された商品はクリアホルダー、ペン立てなど計4種類。決して目新しい商品ではないが、商品化に至るまでには資源の回収スキーム構築や共同開発メーカーのたゆまぬ努力など多くのストーリーがあった。商品開発の背景やプロジェクト内容をアスクルに取材した。

3社のメーカーと共同開発した新PBシリーズ「Matakul」とは

アスクルの資源循環プロジェクトから生まれた新PB商品シリーズ「Matakul(マタクル)」。これまでアスクルではオリジナル商品を多数販売している。

商品ラインナップはクリアホルダー、ジェットストリームボールペン、ペン立て、小物入れの計4種類。ボールペンは軸部分のみだが、これらの商品はすべて企業などから回収した使用済みクリアホルダーから作った再生ペレットを使用している。

リヒトラブと共同開発した「クリアホルダーからつくったクリアホルダー」は、使用済みの製品を一度資源にし、同じ商品として生まれ変わる「水平リサイクル」で製造している。一般的なA4サイズで、再生材料ならではの黒点や多少の凹凸を個性として残し、商品化した。

アスクル Matakul マタクル クリアホルダーから作ったクリアホルダー リヒトラブと共同開発「クリアホルダーからつくったクリアホルダー」。リヒトラブは「使用済みクリアホルダーが新たなクリアホルダーに生まれ変わるという仕組みの一環を担うことは、ファイルメーカーの1つである弊社にとっても重要であると考え、この構想に賛同した」とコメントを寄せた

「クリアホルダーからつくったジェットストリームボールペン」は三菱鉛筆との共同開発商品。ボールペンの軸に、使用済みクリアホルダーから作った再生ペレットを使用しており、一切の着色をしていないため少し黄みがかっているという特徴を持つ。

アスクル Matakul マタクル クリアホルダーからつくったジェットストリームボールペン 三菱鉛筆と共同開発「クリアホルダーからつくったジェットストリームボールペン」。三菱鉛筆は「率直に新たな取組にチャレンジするチャンスと思い、実現の可能性を含めて社内で検討した。メーカーでもサステナブルな取り組みをスタートしており、トライすべき事案と話が進んだ」とコメントを寄せる

「クリアホルダーからつくったブリックスペン立て、小物入れ」はライクイットと共同開発を行った。使用済みの色付きクリアホルダー、柄入りのクリアホルダーを再生し、原材料として100%使用。色味を安定させるため着色料を少量使用してはいるが、再生樹脂特有の色味を活かしアースカラーとした。

アスクル Matakul マタクル クリアホルダーからつくったブリックスペン立て、小物入れ ライクイットと共同開発「クリアホルダーからつくったブリックスペン立て、小物入れ」。「プラスチックの資源循環を総合的に推進することを経営ビジョンとし、再生プラスチックやバイオマス素材を活用したモノづくりを推進していることから、再生プラスチックを活用するだけでなく、回収、再生、再製品化という資源リサイクルの仕組みに関わることが必要と感じていたところ、アスクルさまからお話をいただき、取り組みに至った」とライクイットはコメント
製品化には3つのコンセプトを設定

使用済みクリアホルダーから生まれた再生ペレットを使った商品を製品化する上で、アスクルには3つの譲れないコンセプトがあった。1つ目は「使い捨てでないこと」。製品化にはアスクルだけでなく、共同開発したメーカーや、使用済みクリアホルダー回収に参加した企業、分別事業者など多くの人々が携わっている。

アスクルの四夷麻子氏(コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション サステナビリティ(社会・ガバナンス)部長)は「折角皆さまのおかげで成り立っているのに、商品が使い終わってすぐに廃棄されてしまうことは避けたい」と話す。

2つ目は「単一素材であること」。再資源化するにあたり、さまざまな素材が混じってしまうと質の良い再生材にはならないためだ。

3つ目は「回収スキームがあること」。今回のプロジェクトでは、回収スキームをしっかりと構築することで、より多くの企業が気軽に参加することにもつながっている

環境省の実証事業への参加が製品化の始まり

資源循環プロジェクトは、環境省の実証事業「環境省令和2年度脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」に参加したことから始まる。

参加前から、アスクルでは「企業で使用しているプラスチック製品は数多くあるが、リサイクルが進んでいないのではないか」「使用済みプラスチック製品を回収するスキームがないため、ほとんどが産業廃棄物で廃棄されているのではないか」と想定していた。

一方で、単一素材で作られており、薄くて集めやすいクリアホルダーほど資源回収やリサイクルに向いている製品はないと考えていたという。

また、アスクルは国内におけるクリアホルダーの販売シェアが非常に高く、販売者としての責任という観点からも、クリアホルダーの回収・リサイクルを実現したいと考えていた。

環境への取り組みについて検討していたところ、環境省の実証事業の公募があり、本プロジェクト実施に至ったのだ。

2020年11月から2022年3月までの約1年半にわたって実施した実証事業では、大きく2つの目標を設定した。1つ目は「使用済みクリアホルダーの回収スキームの構築」、2つ目は「回収したプラスチックを原料とした製品を開発・製造すること」だ。

アスクル Matakul 使用済みクリアホルダーの回収スキーム使用済みクリアホルダーの回収スキーム

使用済みクリアホルダーは、回収に参加した企業が共同事業者である白井エコセンターに宅配便で郵送、もしくは直接持ち込む。白井エコセンターで分別・選別を行った後、別の共同事業者である亜星プラスチックリサイクルセンターに運搬し、商品の原材料となる再生ペレットを製造する。その後、再生ペレットから商品を製造、アスクルで販売という流れだ。

アスクル Matakul クリアホルダーの分別・選別のようす 共同事業者の白井エコセンター白井エコセンターでの、クリアホルダーの分別・選別のようす。値札などのラベルが残っていた場合は、手作業でラベル部分だけ切り落としている
アスクル Matakul クリアホルダーからペレットを製造 共同事業者の亜星プラスチックリサイクルセンター亜星プラスチックリサイクルセンターでは分別・選別したクリアホルダーから再生ペレットを製造する
アスクル Matakul 回収した使用済みクリアホルダーから製造した再生ペレット回収した使用済みクリアホルダーから製造した再生ペレット。右が無色のクリアホルダーから製造したペレット、左が色つき・柄つきのクリアホルダーから製造したペレット
企業が参加しやすい回収スキームを構築

1つ目の目標である回収スキームの構築でアスクルが重視した点は、「企業が参加しやすい」ことだ。参加企業は社内で準備したダンボール内に不要になったクリアホルダーを収集し、各企業の都合の良いタイミングで白井エコセンターに配送または持ち込むという方法を採用した。日本全国どこからでも参加でき、回収量やタイミングを設けないことで、実証実験へのハードルを下げた

アスクル Matakul 呼びかけステッカー アスクル資源環境プラットフォームで配布回収用ダンボールに貼り付ける呼びかけステッカー。Webサイト「アスクル資源循環プラットフォーム」で配布している

この結果、2021年1月~2023年1月の期間で984社が参加し、累計94トンの使用済みクリアホルダーを回収、リサイクル率99%を実現した。

また、事業内の1つの目標としてCO2の削減が含まれており、実証事業期間内で使用済みプラスチックのリサイクル材を使用したプラスチック製品の製造で、原料40トンに対して204トンのCO2削減効果が得られたという。

オフィスなどで使用できるプラスチック製品が製造できるかを検証

2つ目の目標のポイントは「オフィスや事業所で使用できるプラスチック製品を製造できるか」ということ。

現状、使用済みプラスチック製品を原料としたプラスチック製品は、倉庫で使われるパレットや公園のベンチなどが多く、オフィスなどで使用できる製品に生まれ変わることはほとんどない状態だからだ。

また、共同事業者と話し合いを進めるなかで、「クリアホルダーを原料にクリアホルダーを製造する水平リサイクルが、製品リサイクルとしてわかりやすい」と言う提案が出た。この方法ならクリアホルダーを回収して製造するという循環を永続的に作り出せるというメリットがあった

メーカーの理解・協力がなければ成り立たなかった

商品の開発について、四夷氏は「メーカーさんのご理解とご協力があってこその製品化」だと話す。

使用済みクリアホルダーから製造した再生ペレットを使用した商品作りは、メーカーとしても初めての試みだったという。各メーカーの既存の商品製造ラインを使用して新PB商品を製造することになったが、新しい材料がゆえに何が起こるかわからないというリスクを抱えていた

そのため、アスクルは再生ペレットに対して第三者の品質検査を実施し、物性表を作成。品質に問題がないことをメーカーに示し、少しずつ理解を得られるよう努めてきた。

その結果、数あるメーカーのなかから資源循環の意義に理解・賛同した3社が製品開発・製造に協力することとなった。

各メーカーが試作を何度も重ね、商品として販売できるか、品質の低下を招かないかなどの検証を繰り返し、製品化に結びついたのだ。

従来の製造ラインをご活用されたのですが、そこで何かあったら通常の製品の生産にも影響を与えてしまうので、慎重に何度も試作を重ねてご対応いただきました。

再生ペレットを使用した場合、どのような仕上がりになるか予測しにくいこともあり、バージン材90%に再生ペレットを10%混ぜるなど、各メーカーさんがさまざまな配合で商品作りを検討して下さいました。

こうしたご協力の下、最終的に「100%再生ペレットでも商品が製造できる」となり、今回の商品が生まれました。(四夷氏)

アスクル Matakul 使用済みクリアホルダーからうまれた商品につけるマーク使用済みクリアホルダーから生まれた商品にはマークを付けている
「何かしたい」という企業の考えが参加に結びついた

今回の実証実験に対して、アスクルからの呼びかけは数十社にしか行っておらず、多くの参加企業が自ら資源循環プラットフォームのサイトを見つけ、申し込みをした企業だという。

企業さんとしては「環境のために何かしたいけれども、何をしたらいいかわからない」というもやもやとした考えがあったのではないでしょうか。そこに参加しやすい簡単な仕組みがあったので、結果として多くの企業さんにご参加いただけました。(アスクル コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション サステナビリティ(環境) 立花丈美氏)

クリアホルダーの回収に参加した企業には、回収した量やリサイクル率などの実績報告を行っている。参加企業はこうした数値を統合報告書として自社サイトに掲載し、取り組み例として紹介できるメリットもある

アスクル Matakul あらたの活動報告使用済みクリアホルダー回収に参加した、あらたの活動報告(画像は「アスクル資源循環プラットフォーム」のサイトからキャプチャ)

参加企業の規模や業種はさまざまで、なかには個人で参加しているケースもある。

バリューチェーンのなかの一員として協力することが重要

実証実験が終了した現在も、使用済みクリアホルダーの回収に参加する企業は多い。こうした状況について立花氏は「きちんと実績を報告することが、企業のモチベーションにつながっている点もあると思う」と話す。

これまでは、自分たちが出した物がどうなっているか知らなかったと思います。今回のプロジェクトでは、自分たちが出した物がどれくらいの重量でどんな風に分別されて、最終的にどのように製品化されるのか、というトレーサビリティをポイントにしている。そういった点も企業さんが引き続き回収に参加することのモチベーションになっているのではないでしょうか。(立花氏)

アスクル Matakul 使用済みクリアホルダーの回収の参加方法 アスクル資源循環プラットフォーム使用済みクリアホルダー回収の参加方法(画像は「アスクル資源循環プラットフォーム」のサイトからキャプチャ)
クリアホルダー以外の資源回収スキーム構築などをめざす

クリアホルダーの回収方法は郵送または持ち込みのみだが、公平性という観点からアスクル商品配送時にクリアホルダーを回収すると言った方法は実施しない予定だ。

その理由について四夷氏は、「アスクルだけでなく、参加企業さん、メーカーさん、提供事業者さんそれぞれがきちんと責任をもって取り組むことが大切」だと話す。

このプロジェクトに参加して下さっている企業さんは、送料や届ける手間を自身が負担してまで資源循環を実行したいと考えている人たちだと思います。「ゴミとして渡した後のことは知らない」という考えでは、99%のリサイクルというのは実現できません。

参加企業さんがある程度のルールに則ってお届けまでしてもらう、という仕組みを「嫌だな」と思わずにやっていただくことで成り立つプロジェクトだと考えています。(四夷氏)

また、立花氏も「バリューチェーンのなかの一員として、消費者の方も意識を持って協力していただくことが重要」だと話す。

今後の施策については、メーカーと話し合いながら、クリアホルダー以外の資源を回収できるスキームづくりをめざしていく。また、商品の展開についてはさまざまなニーズを鑑みつつ、使用済みクリアホルダーで実施できる再資源化を進めて行くという。

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オリジナル記事:使用済みクリアホルダーから生まれた商品「Matakul(マタクル)」。製品化まで約2年費やした商品に込められたストーリーをアスクルが語る
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