老舗通販「ディノス」とスタートアップ「KANADEMONO」に共通する課題とは? ECプラットフォーム「Shopify」と語る | ネットショップ担当者フォーラム

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創業50年超の「ディノス」と創業間もない「KANADEMONO(カナデモノ)」。両社に携わる石川森生氏が、顧客との関わり方、マーケティングのあり方を語る
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創業1971年のDINOS CORPORATIONが手がける通販ブランド「ディノス」と、6年前に創業しオーダー家具をネットで販売するD2Cブランド「KANADEMONO」。DINOS CORPORATIONのCECO(Chief e-Commerce Officer)を務めながら数多くのEC事業に携わり成果を出してきた石川森生氏は、「KANADEMONO」を運営するbydesignの取締役社長も務めている。松本好司氏はbydesignでマーケティングチームとコンテンツチームの両方を管理しているゼネラルマネージャーという立場だ。

老舗通販とスタートアップ企業、まったくフェーズは異なるが、共通する課題は「パーソナルかつ長期的な顧客体験」を築き上げることだという。Shopify Japanの伊田聡輔氏をモデレーターに語り合った。

D2Cを半世紀続ける「ディノス」

「ディノス」に関してはD2Cという言葉が存在する前から、本質的にはD2Cと言われる形態でビジネスを行っている。現在では何かしら独自のサービスや商品がないと選ばれ続けることはない。選ばれるためのコミュニケーションやサービス設計こそがD2Cの本質だと考えている。そういう意味では「ディノス」がやってきたことはD2Cそのもの。(石川氏)

情報の量や質、伝える手段などは時代と共に変化する。テレビショッピングから出発し、カタログ、DMといった媒体を通じてコミュニケーションも取る「ディノス」だが、当然デジタルでのコミュニケーションも重視している。

dinos(ディノス) 
DINOS CORPORATIONが運営するECサイト「dinos(ディノス)

一方で、インターネットでは他社の情報も取得しやすく、すぐに比較検討されてしまうため、独自性が出しにくいという欠点もある。差別化や優位性を出せるという意味では、以前からノウハウが蓄えられている紙やテレビによるコミュニケーションも堅持していかなくてはいけないという。

これまでのようにカタログ数百万部を一斉に送付するというやり方だけでは、多様化するニーズに追い付けない。我々が得意としているアナログのコミュニケーションを今の時代にどう最適化していくか、デジタルを活用して体験をいかにリッチにしていくかといった方向性に振っていきたい。(石川氏)

DINOS CORPORATION CECO、bydesign 取締役社長 石川森生氏
DINOS CORPORATION CECO、bydesign 取締役社長 石川森生氏
カタログ通販は「オワコン」か?

現在も「ディノス」の集客、認知、リテンションの喚起といったメイン媒体はネットではなくテレビや紙のカタログだ。

世の中のイメージとして「カタログ通販ってオワコンだよね」と思っている人は多いし、実際カタログを見ながら家で買い物をする習慣はそんなにないと思われているが、実はその習慣が好きな方は今もたくさんいらっしゃる。(石川氏)

「ディノス」のカタログ
「ディノス」が発行しているカタログの一例

「『ディノス』のカタログを見る時間がエンタメとして楽しい」という昔ながらの顧客層に対しては、「ディノス」のMDが厳選した商品をきちんと伝える紙やテレビのコンテンツを引き続き守る必要がある。しかし、それには膨大なコストがかかる。一般的な事業者なら、CPA(Cost Per Acquisition)が安いネットのチャネルに顧客を誘導することを目標にするはずだ。

もちろんCPAの議論はするが、CPA自体はすごく断片的なKPIでしかない。安いコストで会員を獲得できたらゴールかというとそうではない。その後ろにつながるLTV(Life Time Value)まで含めて評価をしなければ意味がない。(石川氏)

たとえば「初回無料」にすればCPAを抑えつつ顧客を獲得できるが、そこで獲得した顧客が継続してそのサービスを利用しなければ事業全体としては効果が高いとは言えない。もちろん「ディノス」も長期間利用してもらうための施策を打っているが、効果が高いのはカタログやハガキのDMだという。

WebでCPC(Cost Per Click)を抑えながら顧客を獲得し、それだけではLTVが伸ないことがわかっているので、そこに我々なりの接客やCRMを噛ませていく。そのなかにカタログやハガキも混ぜることで全体のLTVが押し上げられ、CPA効率が良くなるという戦略をとっている。(石川氏)

「KANADEMONO」の課題はチームビルディング

一方、2016年に創業した「KANADEMONO」が感じる課題やチャレンジはどのようなものだろうか。

「KANADEMONO」はテーブルや棚のサイズオーダーが無料という独自性で急速に成長してきた。スタート時は少数精鋭で駆け抜けてきたが、サービスが大きくなるにつれてメンバーも増え、組織的な見直しが必要なフェーズに入ってきているという。

KANADEMONO(カナデモノ)
bydesignが運営するECサイト「KANADEMONO(カナデモノ)

これまでは走れるメンバーが走ることで事業が成り立ってきたが、それぞれが持っているスキルセットもポテンシャルも暗黙知になっているものがほとんどのため、それを言語化、形式化してチームに浸透させ、チームを広げていくというチームビルディングのようなところが次の課題。(松本氏)

逆に「ディノス」はそういったチームビルディング的なフェーズははるか昔に越えており、それよりはこれまで築いてきた運用フローをどう崩して進化させるかということに執心しているという。「フェーズは全然違うのに、悩んでいるところが実は似ているというおもしろい状態」と石川氏。

このような変化のなか、マーケティング部門を取り仕切る立場である松本氏の仕事内容も変わっていったのだろうか。松本氏は「社内の組織作りも広い意味でマーケティングに含まれる」と主張する。

一般的にマーケティングの仕事と言われている施策を打ったり広告を打ったり数値を分析したりといったことはもちろん大事だが、実は組織をどう運営していくかということも大事。ここも含めてのマーケティング。(松本氏)

bydesignマーケティング・コンテンツチームゼネラルマネージャー 松本好司氏
bydesignマーケティング・コンテンツチームゼネラルマネージャー 松本好司氏
顧客との良好な関係を築くために必要なこと

ここからは顧客との良好な関係を築くために必要な3つのポイントについて語る。

①「顧客へのアプローチは点ではなく面で」

マーケティングの現場では、「この広告からトランザクションが何%発生した」というように、施策の結果を単発的な「点」で捉えがちだが、「お客さまの生涯で何年付き合ってくれるのか」というように、「面」で捉えるのが重要だと石川氏は語る。

「ディノス」が得意とするハガキやカタログによるコミュニケーションは、競合が進出しにくく、ある意味ブルーオーシャンだという。デジタルのチャネルも押さえつつ、アナログの有力なチャネルも持っているという利点を活かし、両面から顧客にアプローチしている。

②「初期にはタッチポイントを増やすことが大事」

多種多様な商品を扱う「ディノス」に対し、「KANADEMONO」はネット専業のオーダー家具販売が主業だ。顧客獲得やブランディングはどのように行なっているのだろうか。松本氏はタッチポイントの「量」を大事にしていると言う。

もちろん長期的な関係性やブランディングという意味では質も大事だが、接点がなくなってしまったら元も子もない。配信の量を担保することでタッチポイントを持ち続けることを意識している。

配信するのはサイトのコンテンツや広告、メルマガなどはもちろん、InstagramやTwitter、PinterestといったSNSも含まれる。ECサイト内だけですべてをやり切ると言うよりは、それぞれのタッチポイントに意味を持たせて、その場所でやるべきことをきちんと発信していくのが関係性を続ける重要なポイントだと考えている。(松本氏)

半世紀の歴史を持ち多くの顧客を獲得している「ディノス」は、紙媒体を活用して顧客に定期的なプッシュ・コミュニケーションが行えるだけのビジネス資産を有している。だが、「KANADEMONO」はまだ既存顧客とのコミュニケーションから継続的な利益回収ができるほどの顧客リストを保有しているわけではないので、SNSなども含め発信量は増やす必要があるが、無闇に増やしても効率は上がらない

「もしかしたらそこには世界観の存在が必要条件かもしれませんね」と石川氏は語る。「量は出すが、あからさまに売りに行くという感じではなく、ブランドの世界観がわかるコンテンツをきちんと置いておき、それが好きな方たちに来てもらうという感覚に近い」と石川氏は解説する。

マーケティングでは「コンテンツを売りに行く」とか「当てに行く」といった表現があるが、そうではなく、ふと気が向いたときに自分に好みにぴったりな家具が見つかるように「置いておく」という戦略だ。

③「紙とディスプレイの違いを理解し相互に補完させる」

石川氏は紙とネットが果たす役割について、「脳科学では、同じ情報でも紙を見たときとディスプレイを見たときでは脳の受け取り方が違う」と語る。紙は反射光という暗闇では見えない光、ディスプレイは透過光という自らが発している光に分類されるが、人間の脳は反射光の方がキャッチしやすいという実験結果が出ているという。

大昔は電気などなかったので人間は暗闇で情報をキャッチすることが苦手だったが、今でもその傾向はあるようだ。このことから、今の若い世代も紙に忌避感は持っていないのではないかと考えた。お客さまが意思決定する際、デジタルだけではなく紙でアプローチできるのは、実は我々の強みと考える。そういう意味でデジタルと紙の役割や機能はまったく違うため、紙がなくなることはまずない。(石川氏)

驚異的なShopifyの開発スピード

「KANADEMONO」が利用するECプラットフォーム「Shopify」は、EC事業者の成長に必要な機能をワンストップで提供するプラットフォームだ。亀田製菓、Francfranc、Ankerなどが導入しており、導入企業の売上規模は世界で100万米ドルから5億米ドルまでさまざまだ。

「Shopify」のサービス概要
「Shopify」のサービス概要

「Shopify」について、Shopify Japan シニア セールスリードの伊田聡輔氏は「Shopifyは決して自社ECサイトだけを作るためだけのツールではない。SNSを含めいろいろなチャネルで事業主が届けたい情報を届けられるプラットフォームでありたいと思っている」と話す。

Shopify Japan シニア セールスリード 伊田聡輔氏
Shopify Japan シニア セールスリード 伊田聡輔氏

「Shopifyが創業当初から発信しているヘッドレスコマースという概念に共感している」と語るのは石川氏。「ディノス」はインターネット以前からビジネスを行なっているため、データベースがインターネットに最適化されておらず、EC側で新しいことをやろうとすると基幹システムを改造する必要が出てくるのだという。

一方で、ヘッドとなるチャネルはどんどん増えていくため、基幹システムの柔軟性がないということが足かせになってしまっている。

「Shopify」はコマースのパッケージではなくデータベースそのものだと思っている。今後はいろいろなヘッドに対してAPIで柔軟にデータベースをつなぎ込んでくれる、そういう方向性のソリューションを期待したい。(石川氏)

基幹システムを作り変えるとなると大変だが、「Shopify」側にデータを渡しておけば、ありとあらゆるチャネルで顧客とのリレーションが構築できるソリューションだと考えると可能性が広がりそうだ。

また、「Shopify」の開発スピードについて、石川氏は「スクラッチで作っている我々からすると本当に驚異的。機能拡張プラットフォームとしても素晴らしい」と絶賛。

最近だと脱酸素やカーボンニュートラルの動きが世界的に出てきているが、そういうトピックに素早く対応しようと探してみると、すでに「Shopify」に関連アプリが実装されていた。このあたりのスピード感は引き続き担保してもらえるとありがたい。(松本氏)

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オリジナル記事:老舗通販「ディノス」とスタートアップ「KANADEMONO」に共通する課題とは? ECプラットフォーム「Shopify」と語る
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