コストを抑えつつ、本質的な顧客接点が作れる手法として人気を集めつつある「アーンドメディア(ユーザーや消費者などの第三者の情報発信)」。しかし、Micoworksの八重樫健氏は、「メディアの顧客プールを効率的に拡大し、データを活用したコミュニケーションやマーケティングを実現できているのはごく一部」と語る。
アーンドメディアにおいて1人ひとりの顧客を捉え、売り上げにつなげるための最適な顧客接点を作るには何を意識するべきなのか。「ネットショップ担当者フォーラム 2022 秋」のセッションにて、BtoCマーケティングを行っている企業に向けて解説した。
Micoworks株式会社 取締役 COO 八重樫 健氏
ペイド広告依存から、顧客との関係づくりによるマーケティングへ
BtoB企業ではTHE MODELやMAツールの普及もあり、急速に顧客育成の取り組みが進んでいる。同じようにBtoC企業でも、今後3rd Partyデータの規制もあり、ペイド広告から「未顧客との関係性作り」へのシフトが進むだろう。その際、消費者の可処分時間の多くを占めるSNSを最大活用することで、顧客とのコミュニケーションの強化、マーケティングROIの改善が期待できる。(八重樫氏)
冒頭でこう語った八重樫氏は、BtoCマーケティングを取り巻く環境変化と変革の必要性、そしてSNSを活用した新たなコミュニケーションに対する可能性を強調した。
消費者のニーズと接点は急速に多様化しており、既存の画一的な施策だけでは顧客を捉えることが難しくなっている。そうした状況下では、データから顧客の状況を捉え、施策を企画・実行することが重要だ。
しかし、個人情報の取り扱いが厳格化し、プラットフォーマーの規制も加速するなかで、これまでメインだった3rd Partyデータの利用が困難になりつつある。そうなれば必然的に自社と顧客が直接つながることで得られる「1st Partyデータ」が重視され、収集するための仕組みづくりが重要となるのは間違いない。
消費者のニーズと接点の多様化
そもそも3rd Partyデータは、第三者が集めたWeb上のデータであり、必ずしも自社の顧客と重なっているとは限らない。自社の顧客および潜在顧客を知るには、自社で収集した1st Partyデータが“本質的に”有効なのは必然といえる。しかしながら、1st Partyデータは、データ量を確保するのは難しく、活用法として打ち手が限られるため、模索しながら拡充していくことが求められる。
データを取り巻く環境変化
また、BtoCマーケティングの接点は、リクルートの情報誌のような紙から、GoogleやYahoo!のようなWeb検索、さらにはLINEやInstagramやTikTokなどのSNSというように、紙からWeb、さらにはSNSへと大きく変化し、増えることはあっても減っていない。つまりは多様化しているわけだが、なかでも重要性が高まっているのが、個人の可処分時間を多く占めるSNSの活用だ。
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の調査によると、スマートフォンの利用目的としてはSNSがもっとも多く、60%の生活者がほぼ毎日、70%以上の生活者が週3日以上利用しているという。
顧客との関係を作る「顧客育成」において、BtoB企業ではMAツールの活用が進み、メールや電話が顧客との接点となっている。BtoCでも同じように顧客育成やフォローのソリューションが必要であり、手法としてSNSを接点とした施策設計が非常に重要だ。
自社のブランドやサービスを選んでもらう確率を上げるためには、消費者が普段接している接点を活用し、入口を多く作ることが重要です。その1つとしてSNSを活用する必要がある。(八重樫氏)
BtoC企業においても顧客育成を実現する仕組みが重要
顧客やファンの醸成に強いアーンドメディア
それでは現在のBtoCマーケティングの動線設計について、どのようなことに留意するべきなのか。八重樫氏はまず、「トリプルメディア」について解説した。
- ペイドメディア:有料で広告を出稿するメディア
- オウンドメディア:自社で運営するWebメディア
- アーンドメディア:ユーザーや消費者などの第三者の情報発信
トリプルメディア
ペイドメディアは基本的には不特定多数へ広く広告するためのもので、認知されることが得意なメディア。オウンドメディアは既存顧客に訴求してブランディングやロイヤル化を図るもの。そして、顧客やファンの醸成および未顧客の引き上げを目的とするなら、アーンドメディアが最も強みを発揮するものと考えている。(八重樫氏)
マーケティングにおけるアーンドメディアの重要性
しかしながら、一般的なBtoCマーケティングではペイドメディアに多くの予算を割き、アーンドメディアへの投資はまだ小さい。だからこそ可能性があるとも言える。
LINE公式アカウントを顧客導線に組み込んだ設計を考える
アーンドメディアにもさまざまなメディアがあり、広い認知が得意な媒体もあれば、より獲得に近い部分を得意とするものもある。なかでも八重樫氏が注目しているのが、「LINE公式アカウント」だ。八重樫氏によると、LINEは企業からの情報入手の手法として利用されているだけでなく、その後の購入につながった経験という点でもメルマガに次いで多い。顧客の導線上にLINE公式アカウントをハブとして上手く組み入れていくことが顧客コミュニケーションのカギになるというわけだ。
LINEはもっとも購入につながりやすい消費者との接点
では、具体的にどのような形でSNSを活用し、BtoCコミュニケーションを設計するのか。
多くのBtoC企業では、見込み顧客へのリーチとして、ペイドメディアを中心としたコミュニケーション設計が行われている。テレビCMやYouTube、チラシなどを用いて認知させ、興味を持って検索した人や比較検討している人に対して、リスティング、SEO、アフィリエイト、リターゲティングなどを活用して育成する。顧客となった人にはアプリやメルマガ、DMなどを用いてリピートを図る。
ただし、このコミュニケーションには課題も多い。たとえば、「チラシは若年層のリーチ力が弱い」「リターゲティングは3rd Party Cookie問題で事実上不可能に」「アプリの3ヶ月後リテンションは平均18%と低い」「メルマガは平均開封率15%、クリック率2%と低い」といったように、顧客へのアプローチとして改善の余地がある。
そこで八重樫氏は、そうしたペイドメディア中心の設計に加えて、「認知についてもSNS間で連携するのが有効だ」と説明。たとえば、Twitter、InstagramなどからLINEへの送客を実施、LINEに登録したところで1to1でコミュニケーションを一貫して行うという方法だ。
SNSを活用した新たなコミュニケーションの設計
この手法で成果をあげるポイントは2つ。まず1つ目は、顧客になる前のデータが取りにくいため、リーチした顧客のデータをどう蓄積・活用しコミュニケーションを高度化するか。その上で2つ目は、その母数(リーチ数)を最小コストで最大化することだ。
LINEの高度化ツールで「N=1データ」を収集・蓄積・活用する
八重樫氏が勧めるのは、LINEによる1to1コミュニケーションの実現を支援する高度化ツールを利用し、N=1データを蓄積して、マーケティングに活用することだ。
高度化ツールを活用すると、LINEの中で実施したアンケートなどで取得したデータをユニークIDとして蓄積できる。たとえば、年齢や性別などのデモグラフィックデータはもちろん、現在のキャリアや利用年数、既婚・未婚、子どもの有無なども、アンケートの設計次第で取得・蓄積できる。その後、顧客となった時に、あらかじめ取得したデータにより適切なコミュニケーションが図れるようになる。
Cookieに依存しないN=1の見込み顧客のデータの収集・可視化が可能に
他にも、顧客セグメントをLINE上で再現して解像度を高め、態度変容を追っていくことも可能だ。たとえば、利用期間でセグメントを切り、5年以上継続利用した「ロイヤル顧客」は、どんなきっかけ・文脈で購入し、どの競合商品を使っているのか、どんな配信に反応し、態度変容をしたのかをN=1データで確認することができる。会員データと紐付けて分析したり、テレビCMと合わせた配信で簡易的なブランドリフト調査がLINE上でできるようになるのだ。
N=1データの具体活用イメージ
また、LINE公式アカウントと自社アプリとの使い分けについて、八重樫氏は「まだ顧客になっていない、あるいはライトな顧客など、自社アプリではリーチしきれない層に対して、LINE公式アカウントなら来店促進や利用が図れる。そこでのコミュニケーションによって、自社アプリのダウンロードやリピート定着へと引き上げることができる」と語った。
アプリとLINE公式アカウントの連携イメージ
高度化ツール「MicoCloud」でできること
こうしたN=1のデータを取得するのに有効な高度化ツールとして、八重樫氏は「MicoCloud(ミコクラウド)」を紹介した。
MicoCloudは、LINE公式アカウントのAPIと連携することで、LINEのID別に前述のようなアンケートによってデータを収集・蓄積できる。そのデータに基づき、1対1の対応やセグメント別のコンテンツ配信、botでの対応などを行ないながらコミュニケーションを図り、顧客との関係性を深めていくというわけだ。
MicoCloudの提供サービスイメージ
月間予約目標200%を達成した活用事例
LINEを活用したN=1データの活用施策として、八重樫氏はある大手美容クリニックの例を解説する。
クリニックでは以前は主にペイド広告で集客していたが、Webサイトで顧客が離脱し、取りこぼしが発生していた。また、刈り取り型の既存広告施策(リターゲティングやアフィリエイト)が頭打ちで、許容できるCPA内で来院数を獲得できていなかった。
- 検索広告メディアでホームページの方に来訪しても熱量が高まりきっていないため離脱する。
- 予約・オンライン診療後、再来訪を促すフォローをメールや電話などで行ない、工数がかかっていた。
- 別商材案内ができていなかったため、アップセルにつながっていなかった。
従来の顧客コミュニケーションフロー
そこで、従来ならWebから離脱していたような、熱量が高まりきっていない層もLINE公式アカウントに誘導してプールし、MicoCloudを活用して得たN=1データを基に、顧客属性やニーズに基づくナーチャリングを実施するようにしたところ、予約率が約20%増えた。また、予約に至る単価もマイナス約30%と大幅に下げることができ、その結果、月間予約目標の200%の実績を達成することができたという。
- 熱量が高まっていない層をLINEでカバーし、データに基づくナーチャリングを実施。
- LINEでフォローを効率化。反応率が高まった。
- アップセル案内や診療後のフォロー、レコメンドもLINEで実施。
LINE公式アカウント導入後の顧客コミュニケーションフロー
また、MicoCloudであれば、LINEへの流入経路ごとにサンクスメッセージを変更するなど、柔軟なコミュニケーション設計ができる。ナーチャリングにおいても、“申し込みのタイミングを逃した”と感じている人には期間限定クーポン、他院と比較して悩んでいる人には重視する点をヒアリングしメリットの説明、金額面が気になる人には支払いやすい見積もりの提示など、“誰に何を届けるか”を設計していきやすくなる。
さまざまなパターンを想定したナーチャリングが可能
ナーチャリングの副次的な効果として、「仮予約をした後で、最終的にコンバージョンに至った率」も変わってくる。
たとえば、ある大手塾では「アフィリエイトを経由して資料請求した群」「Webサイトを経由して資料請求した群」「LINE経由でMicoCloudを活用したナーチャリングを行い資料請求にいたった群」それぞれの最終的な入塾率を比較したところ、LINE経由での入塾率はアフィリエイトと比較して約194%、Webサイト経由と比較して約159%となった。
1to1のコミュニケーションを図ることで、最終的な成約において懸念の払拭ができ、プラスの効果が得られたからではないか。(八重樫氏)
ナーチャリングで最終的な成約にプラスの効果
LINEの友だち登録母数を増やすための3つの施策
こうしたLINE登録後の施策がかなってからという前提になるが、もう1つ、全体的な効果を上げるには、LINE登録の母数を増やすことが大きなポイントとなる。八重樫氏は、LINEへの登録を増やすための方法として、3つの施策を紹介した。
① キャンペーンを軸にしたSNS間送客
TwitterやInstagramなどでキャンペーンを実施し、その場で当落がわかる「インスタントウィン」で落選となっても、LINE登録でもう一度応募ができる設計にすることで、LINE登録を促す。
キャンペーン落選者をLINEへ誘導
② 顧客の取りこぼし最小化施策
Webサイトにまで来訪してくれる人は基本的に熱量が高い。離脱しようとした時にポップアップを出してLINE友だち登録を促すことで取りこぼしを減らす。
Webサイト離脱時にLINE友だち登録のポップアップを表示
③ LINE通知メッセージを活用したリーチ拡大
「LINE通知メッセージ」は、電話番号を用いて、重要性や必要性の高いメッセージをユーザーに通知するサービスだ。LINE公式アカウント以外からなんらかの方法で電話番号をいただけている場合、LINE通知メッセージを活用して、LINE公式アカウントの“友だち追加”を促す。
ある宅配ピザ屋では、注文時に登録された電話番号宛に通知メッセージを送信することで、CPF(Cost per Fan:ファン獲得単価)わずか3~4円で、約20~30%が友だち登録にいたったという。
電話番号を用いてLINEの友だち登録を促す
八重樫氏は最後に、「こうしたものを上手く活用することで、LINEに顧客との接点を作ることができれば、コミュニケーションの全体設計も上手くできるようになる。ペイド広告の出し先としてだけでなく、N=1データをしっかりと取り、より良いコミュニケーションを実践していくことが大切だ」と締めくくった。
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オリジナル記事:Cookie規制時代の顧客接点の作り方とは? LINE公式アカウントを活用した売上UPにつながるN=1マーケティングを解説
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