故稲垣正夫氏のグローバル施策 | 業界人間ベム

業界人間ベム - 2015年4月27日(月) 07:43
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ご逝去された旭通信社創業者稲垣正夫氏のグローバル戦略について、デジタルインテリジェンスNY榮枝からの特別寄稿です。

4月17日に旭通信社(現アサツーディケイ、ADK)の創業者、稲垣正夫氏の訃報がニューヨークにも届いた。この場を借りて、MAD MANでしか披露できない稲垣氏のグローバル化への志を米国から届けてみたい。

56年 稲垣正夫現会長らが旭通信社を設立
73年 業界ベストテン入り
84年 旭通信社が米BBDOインターナショナル社と資本・業務提携
87年 旭通信社が東証二部に上場
90年 旭通信社が東証一部に上場
91年 旭通信社が中国の新華通信社と提携
96年 博報堂らとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)設立
97年 業界第3位に
98年 旭通信社が英WPPグループと資本・業務提携
99年 旭通信社と第一企画が合併、アサツーディ・ケイに (以降略)

◆「その土地の砂になれ」
これが稲垣氏の海外に派遣する人材に対する言葉であった。地理的営業拠点の拡大=海外戦略だった70年―80年代当時、「その土地の風習システムに馴染まずして、文化である広告の営業はできない」という理由で、法人設立を任された人材は「長期コミット」が抜擢条件であった。

中国語の堪能であった稲垣氏は中国にロマンをいだき、その土地、文化を尊重する事を重んじていた。だからこそ達成できた政府お膝元である北京の新華社通信との提携が91年。単独出資が難しかった当時の中国において、合弁法人拠点数を急拡大させた。そして地元ローカルのリーダーを尊重し、リーダーとして育てる手腕は「誰も真似できない」個性として着々と拠点を伸ばしていたことは、他社の目からも明らかだろう。

長期ビジョンでの人的配分は「稲垣手法」の一角であり、このMAD MANの筆者である私も95年―2000年まで中国・香港、そして01年から12年まで米国ニューヨークでのADK経営に関わる事ができた。しかし稲垣氏のグローバル施策を振り返ると、特筆される(凄かった)キードライバーは、中国への思いよりも84年のBBDOとの「株式持ち合い」を決めたビジョンであった。この時62歳。

◆外資に企業価値を売る、資本を受け入れる
84年当時、既に電通がヤング・アンド・ルビカム、博報堂がマッキャン・エリクソンという「王者同士」の合弁は誕生していたが、日本で10位そこそこの代理店の代表としてマンハッタンに乗り込み、ペプシやアップルを担当していたBBDOとの「提携」ではなく「資本の出し入れ」を決めたのだ。若気の至りではない、62歳にしてのグローバル市場での「自社(株)売り」の術だ。ちなみにこの84年は、現WPPのCEOマーチン・ソレル氏がWPPを立ち上げる(買収する)1年前で、サーチ&サーチ社のファイナンシャル・ディレクターを務めていた時だ。何と稲垣氏はBBDOとのディールが完了するまでマーチン・ソレル氏とも資本提携の話をしていた、とインタビュー記事が残っている(当時稲垣氏62歳対ソレル氏39歳!)。旭通信社がBBDOとの提携継続から解消までの14年間に、稲垣氏はWPPマーチン・ソレル氏と継続的なコンタクトを持っていた上で、満を持して98年のWPPとの資本提携へのスイッチだったのだ。振り返ってみると、

84年 BBDOへの出資、持ち合い
90年 広告会社としての初の一部上場
96年 国内同業とのDAC上場
98年 WPPとの資本提携

これら全て「(大)資本」に関わる投資決断であり、今で言うアントレプレナーシップである「全員経営」を掲げる稲垣氏らしい経営奇跡だったと思える。現にADKは日本発の広告会社、マーケティング会社において、海外で利益を出している数少ない1社となっている。

◆単なる投資ビジネス理論ではない、その上位の考え
強調したいのは、資本政策の先人である稲垣氏だが西洋的な営利を求める資本政策ではない、東洋思想に基づく「和」をもたらす関係づくりを唱えていた事だ。利潤を追い求める西洋的マーチンソレル卿に対抗できるのは稲垣氏(1990年に藍綬褒章、1997年に勲三等瑞宝章を受章)だけだと思ったが、今やグーグルを筆頭としたグローバルでマーケティング世界において、思想的なビジネスの和を世界に唱えるアドマン・マーケターは知る限り居ない。

故・稲垣氏が著者に常々言っていた言葉は「植福」(人の中に福を木のように植えて育てる)だった。MAD MAN筆者もグローバルビジネス実現を望む次の日本生まれの広告・マーケティング、アドテク企業を、支援したいと思う。

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