販売台数80万台を突破したエクササイズマシン「ワンダーコア」の大ヒットの裏側にあったのが、ショップジャパンのオムニチャネル戦略である。ショップジャパンが考えるオムニチャネル戦略とは、顧客一人一人に寄り添った商品やサービスを展開する、顧客目線に立った戦略であるという。同時に、自らがイノベーションを起こさなければ、新しい顧客を獲得することはできないという危機意識を持って臨んできた。 写真◎Lab
変革のためにブランド認知度の向上とオムニチャネルが必要だった
テレビ通販チャンネルの「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティグは、日本市場に新たな商品カテゴリーを開拓し、通販業界におけるリーディングカンパニーのポジションを確立してきた。中でもフィットネス機器、オーバーレイマットレス、スチームクリーナー、フードプロセッサーなどの市場で、国内売上金額NO.1を獲得するなど、一般の消費者にもすっかりお馴染みの企業だ。
もっとも、オークローンマーケティグを単なる通販会社と見るのは間違いのようだ。「ワンダーコアの成功事例から見出したショップジャパンのオムニチャネル戦略」と題する講演に登壇した同社代表取締役社長のハリー・A・ヒル氏は、「私たちは通販会社ではなく、通販手法を使ったブランド会社です」と語った。
これはある意味で、自らに求められる変革への意思表明でもある。というのも、ヒル氏が2006年に社長に就任して以降、7年間で約3倍に伸ばしてきたショップジャパンの売上が、ここにきて停滞し始めたのである。その要因として顕著なのが伝統的なテレビ通販チャンネルのパフォーマンスの低下で、放送ボリュームを増やしているにもかかわらず、レスポンスは低下傾向にあった。また、顧客属性の高齢化が進み、50歳以上の顧客が全体の60%を占めるまでになっていた。
「この状況を解決するためには、ブランドの認知度向上とオムニチャネル施策の実施が欠かせません。私たち自身がイノベーションを起こさなければ、新しいお客さまを獲得・育成することはできません」(ヒル氏)
株式会社 オークローンマーケティング
代表取締役社長
ハリー・A・ヒル 氏
メディアの細分化がもたらした顧客属性の細分化
ヒル氏はまず、これまでのショップジャパンの根幹にあった伝統的なテレビショッピングについて振り返った。
まず、「顧客はインフォマーシャルを平均7回見て購入に移行する」ということが、データ分析の結果から分かっていた。したがって、どんなクリエイティブであれば顧客の心が動くのか、どの放映枠がより効果的なのかといった点が、このダイレクトマーケティングの重要な鍵となっていた。そうした中でショップジャパンがとったのが、インフォマーシャル中にURLやWeb検索ワードを表示させるといった施策であり、これにより顧客の注文チャネルを増やしてきた。
2000年代に突入してからは、マルチチャネル展開を実施。具体的には、テレビショッピングに加え、公式サイト、店舗販売、新聞広告など、チャネルを拡大してきた。併せて各チャネル(事業部)において全体最適化をはかるべく、さまざまな施策を企画・実施してきた。
しかしながら、実際には異なるチャネルとチャネル同士が融合するまでにはいたらなかった。
そこに起こったのが、外部環境の変化によるメディアの多様化だ。代表的な事案として挙げられるのが、2011年7月に完全移行したテレビの地デジ化であり、これにより日本は地方まで含めて一気にメディア分散型になった。さらにスマートフォンの普及やソーシャルメディア利用者の急増によって、顧客はいつでも、どこにいても、メディアに触れることができるようになった。
「これまでのマス媒体を中心としたマーケティング成功の図式が崩れたのです。メディアの細分化によって顧客属性が細分化し、IMC(統合マーケティング・コミュニケーション)によるさらなるチャネル別の最適化が不可欠となりました」(ヒル氏)
顧客層ごとのチャネルの最適化がもたらしたワンダーコアの成功
そうした中で多くのことを見直さなければならないことに、ヒル氏は気付いたという。
「世の中では、メディアやチャネル別に顧客属性がはっきり分かれたと言われていますが、これについては大きな疑問を感じていました。1日におけるテレビの視聴率や平均視聴時間は変わらないからです。つまり、メディアやチャネルごとに顧客年齢層がはっきり分かれたというより、お客様の習慣が明確になったととらえるべきなのです。
もともとの私たちの強みである伝統的なテレビショッピングの強みを生かし、さらにバリエーションを広げる必要があると考えました。シングルチャネルを最適化し、そこから全体チャネルの最適化につなげていくことが重要です」(ヒル氏)
こうした「顧客がさまざまなチャネルに触れることで、購買意欲が増し、購入につながる」という基本方針のもとでショップジャパンが展開したのが、
- オプティマイゼーション……これまで通りの各チャネルの部分最適化の継続
- アトリビューション……さまざまなタッチポイントにおける顧客の行動分析、全体最適化のためのビフォー・アフターの分析など
- IMC……チャネルごとの明確な付加価値を設定した、統一されたコミュニケーション
これらのPDCAサイクルを実践するオムニチャネル戦略なのである。
そして、このオムニチャネル戦略の結果として、販売台数80万台を突破する今年の大ヒットとなったのが、エクササイズマシンの「ワンダーコア」だ。
ワンダーコアの課題をオムニチャネルで解決
2014年1月から販売を開始したワンダーコアは、インフォマーシャルでのお客様の電話反応(レスポンス)が良く、これが今年の主力商品だなという手応えを早くから感じていた。しかし、本来フィットネス商品の主要購買層であるF2層(35歳から49歳の女性)からの反応が薄く、期待していたPC・スマホからの売上も少なかった。
また、小売店舗での売上も伸び悩んだ。
この課題に対し、冒頭に掲載した俳優の宇梶剛士さんを起用したCFを中心に、Webや新聞だけでなく、屋外ビジョンや交通広告、YouTubeでの公開、8月には渋谷でPRイベントも行い、さまざまなチャネルでタッチポイントを設ける施策を行った。
その結果、従来のインフォマーシャルでは、2014年4月と8月のレスポンス比較においてほぼ変動なしの状況だったが、同時期の新聞におけるレスポンス比較では約3倍、小売店の舗配下店舗数ならびに週販の比較では約4倍、PCやスマートフォンからのWebサイトへのアクセス数(ユニークユーザー)比較では約3倍と、それぞれ大幅な伸びを見せた。
さらに、オムニチャネル戦略の効果が顕著に表れたのが、チャネル別の売上比較である。
ワンダーコアの2014年4月と8月のチャネル別売上比較
「インフォマーシャル媒体費に大きな変化はありませんが、オムニチャネル戦略によって各チャネルのレスポンスが伸び、その結果として売上・利益が伸びました。CF公開前の4月とCF投下後の8月を比較すると、新聞は約2倍、Webは2.5倍、店頭は実に13.5倍に急伸しました」(ヒル氏)
ワンダーコアは1月から9月までの累計出荷台数が80万を突破する大ヒット商品となった。ヒル氏は、今回のワンダーコアの成功要因として、
- 全体的な媒体効率が向上した
- 各チャネルにおいて売上利益が増加した
- 類似品に対して対策ができた
- 小売店舗と協力し、売り場確保をすることができた
- 認知度が向上し、人気バラエティ番組・ドラマ番組・新聞・雑誌・ニュースサイトなどでの露出が増加した
といった5つのポイントを挙げるとともに、「ワンダーコアに限ることなく、今後もさまざまなカテゴリー商品においてオムニチャネル戦略に取り組んでいきます」と意気込みを示した。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「ワンダーコア」の大ヒットを支えたショップジャパンのオムニチャネル戦略 | ネットショップ担当者フォーラム2014 in 東京 セミナーレポート | ネットショップ担当者フォーラム
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.