アクセシビリティを確保するなら、ファインダビリティも大事。国税庁Webサイトリニューアルでリダイレクトなし
3月31日に国税庁のサイトがリニューアルされ、トップページを除いたほとんどのページのURLが変更になりました。これにより、国税庁のコンテンツにアクセスできなくなり、困っているという声があちこちで聞かれるようになりました。この問題はニュースメディアでも取り上げられています。
国税庁サイト、リニューアルでほぼすべてのURLが変更。リダイレクトもなくユーザー阿鼻叫喚
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1114712.html国税庁Webサイト、全URL変更で混乱 サイト内検索も役立たず、「無限ループ」状態に
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/02/news108.html国税庁HPリニューアルでページにたどり着けず…「決算期なのに」嘆きの声
https://www.bengo4.com/zeimu/n_7652/
通常、URLが変わる際にはリダイレクトの設定をして、旧URLにアクセスしても新URLに飛ばされるようにします。しかし、今回の国税庁ではそのような対応が行われず、旧URLはすべてNot Foundになりました。これにより、検索エンジンで検索しても国税庁サイトのコンテンツにたどり着けなくなってしまいました。これは、アクセシビリティの観点から見ても大きな問題です。
たどり着けなければ、ないのと同じ
アクセシビリティと言うと、コンテンツそのものが読める、読めないという議論が頭に浮かぶと思いますが、実はそれ以前のところに重要なステップが存在します。
ユーザーがWebコンテンツを利用する際には、コンテンツを探し出し、そこにたどり着く必要があります。コンテンツが読みやすく作られていたとしても、たどり着くことができなければ、結局のところコンテンツを利用できません。また、たどり着く手段が存在していても、その方法がわかりにくいものになっていれば、やはりコンテンツを利用することはできないでしょう。
コンテンツを見つけ出すことができなければ、使うことはできません。コンテンツの見つけやすさのことを「ファインダビリティ」と言いますが、ファインダビリティの問題は、アクセシビリティの問題でもあるのです。
ガイドラインでもファインダビリティが求められている
W3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0も、この点をふまえて「ナビゲーション可能」というガイドラインを設けています。
- ガイドライン 2.4 ナビゲーション可能: 利用者がナビゲートしたり、コンテンツを探し出したり、現在位置を確認したりすることを手助けする手段を提供すること。
https://waic.jp/docs/WCAG20/Overview.html#navigation-mechanisms
この項目の中には、ナビゲーションが使えるようにすること、コンテンツを見分けられるようにすること、といった達成基準が含まれます。また、コンテンツを見つけるために、複数の手段を提供することを求めています。
- 2.4.5 複数の手段: ウェブページ一式の中で、あるウェブページを見つける複数の手段が利用できる。ただし、ウェブページが一連のプロセスの中の1ステップ又は結果である場合は除く。 (レベル AA)
https://waic.jp/docs/WCAG20/Overview.html#navigation-mechanisms-mult-loc
コンテンツを提供する側は、ユーザーがサイト内のナビゲーションを使うことを想定することが多いでしょう。もちろんそういう行動をとるユーザーもいますが、それだけではありません。サイト内の主要なナビゲーションを使わずに、いきなりサイトマップを使おうとするユーザーもいます。そして、検索でコンテンツにたどり着こうとするユーザーもいるのです。
検索に依存するユーザーもいる
障害があるないにかかわらず、Webでなにかを探そうとするユーザーのほとんどは、まず検索エンジンで検索するでしょう。たとえば、企業を訪問しようと思い、サイトで所在地を調べるときはどうするでしょうか。私がよくやるのは、以下のような方法です。
- まず「企業名」を検索して、トップページにアクセスする
- サイト内のナビゲーションに「アクセス」「所在地」などの項目がないか探し、あればそれをクリックする
- なければ「企業情報」「会社情報」などを探し、それらの中に「アクセス」などがないか探す
しかし時には、「アクセス」という項目がなく、企業情報を見ても所在地の情報がどこにあるのかわからない、ということもあります。そのような場合は検索エンジンに戻って、「企業名 アクセス」のように検索しなおします。すると多くの場合、目的の所在地情報にアクセスすることができます。
サイト内のナビゲーションが使いにくければ、検索エンジンで直接探した方が早いわけです。これは障害者に限った話ではありませんが、障害があるユーザーの場合、サイト内のナビゲーションの使いにくさをより強く感じることがあります。SEOを行い、検索エンジンから情報にたどり着けるようにすることで、ナビゲーションを使わずに検索エンジン経由でアクセスするという、新たな経路が生まれます。こうすることで、より多くの人が情報にアクセスできるようになるのです。
この意味で、SEOにはアクセシビリティ上の意味もあると言えます。
検索エンジンからアクセスできなくなった国税庁
実は、この国税庁の問題が起きたのは、弁護士ドットコムのアクセシビリティ対応の記事の続編を書いている最中で、ちょうど上記のような検索エンジンの話を書いていたところでした。
国税庁のサイトには、税に関する手続きの案内や公式のQ&Aなど、膨大な量のコンテンツがあります。コンテンツの量がきわめて多い上、専門的な用語も多いため、多くの人は検索に頼っていることでしょう。毎年3月になると「確定申告」で検索して、国税庁のサイトにお世話になっているという方もいらっしゃるはずです (私もその一人です)。「確定申告」をGoogleで検索すると、オーガニック検索のトップに出てくるのは国税庁の「所得税(確定申告書等作成コーナー)」です。これは非常に多くの人が利用するコンテンツだと思いますが、今回はこれさえもNot Foundになってしまいました。
確定申告は年一回の行事ですから、それほど困らないかもしれません。しかし、税に関する調べ物というのは意外によくあるものです。たとえば、「契約書に印紙を貼ったあとで、間違いがわかって作り直した」というのは、ありがちなシチュエーションでしょう。「この印紙、捨てるしかないの?」と思って調べようとすれば、それがまさに税に関する調べ物になります。
この場合、Googleでシンプルに「印紙 返金」と検索すると、「収入印紙の交換と印紙税の還付について」というズバリのコンテンツが見つかります。ドメインを見ると国税庁のコンテンツで、信用できそうです。一安心ですね。
と、言いたいところですが、これに実際にアクセスしようとすると、無情にもNot Found画面が現れ、10秒後に国税庁のトップページに飛ばされることになります。
検索窓でもNot Found
さらに恐ろしいのはここからです。仕方なく、国税庁のトップページ右上にある検索窓に、もう一度「印紙 返金」というキーワードを入れて検索します。すると、ヤフーの検索結果が出てくるのですが、なんとその検索結果を辿ってもNot Foundになるのです。
そうです。検索でたどり着くことがどうやっても不可能なのです。こうなると、アクセスできないという人が出てきます。そして実際、アクセスできずに困っているという人が大勢出てきたわけです。
現在は下図のようなページを国税庁のトップページに掲載しています(4月3日)。しかし、本記事の公開時点(4月5日)ではまだアクセスができない状況が続いています。
編集部が国税庁の広報担当へ復旧のめどを電話取材したところ「お知らせにある通り、4月3日15:00頃Googleへリクエストをしています。通常ですとリクエスト後~1週間程度で検索エンジンで見つけられるようになると思います。利用者の皆様にご不便をおかけして申し訳ございません」。という回答がありました。
検索エンジンを使わずにアクセスするには?
検索エンジンを使えないとなると、国税庁のトップページからナビゲーションを順に辿ってアクセスすることになります。実際、これは可能です。先ほど探そうとしていたコンテンツは、以下のようにしてたどり着けました。
ホーム → 税について調べる → 印紙税 → タックスアンサー(よくある税の質問) → 印紙税 → 誤って納付した印紙税の還付 → 【参考】収入印紙の交換と印紙税の還付について(平成23年7月)(PDF204KB)
- No.7130 誤って納付した印紙税の還付
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7130.htm
階層がかなり深いことがわかると思います。ナビゲーションを辿ってここにたどり着くことは、たしかに可能ではあるようです。しかし、ファインダビリティが高いとはお世辞にも言えないでしょう。ユーザーによっては、途中で迷ってしまったり、たどり着く前に諦めてしまったりすることもありそうです。
検索エンジン以外にも問題はある
URLが変更になったことによる問題は、検索エンジンからたどり着けないというだけではありません。ユーザーはさまざまな経路でサイトにやってきます。中には、他のサイトからやってくるユーザーもいます。URLが変更になったことで、そういった外部サイトからのリンクも切れてしまいました。
弁護士ドットコムは、「税理士ドットコム」というサイトも運営しており、税に関する様々な情報を扱ったり、「税理士ドットコムトピックス」というニュース記事を配信したりしています。また、「みんなの税務相談」というコンテンツもあり、税理士の先生が皆さんの相談に無料で答えたりもしています。そしてこういったコンテンツでは、信頼できる情報源として、国税庁のサイトを紹介することが頻繁にあるのです。このリニューアルによって、国税庁へのリンクは全滅してしまいました。
国税庁は、Googleに対して再インデックスの申請を出しているとのことです。これによって、Googleからのリンクは修正されるかもしれません。しかし、他のサイトのリンクが自動的に修正されるわけではないのです。
税理士ドットコムについては、国税庁にリンクしている箇所を洗い出して修正する作業を進めつつあります。このように、企業が運営するサイトについては、各運営者の責任でリンクの修正が行われる可能性が高いでしょう。しかし、国税庁のサイトにリンクしているのは企業サイトだけではありません。個人サイトもあり、個人ブログもあるでしょう。また、Twitterでのツイートのように、後から修正することが難しいものもあります。そういったものは、修正されずにリンク切れのままになってしまいます。
国税庁もアクセシビリティ方針を公開している
コンテンツを探し出したり、辿り着いたりできなくなればコンテンツを利用できなくなること、それはアクセシビリティの問題でもあることを説明してきました。今回の国税庁の対応は、アクセシビリティの観点から見ても問題が大きいように思います。
国税庁はアクセシビリティを軽視しているのでしょうか?
そんなことはありません。実は、国税庁はウェブアクセシビリティ方針を公開しており、2015年3月時点での試験結果も公開しています。
- 国税庁ウェブアクセシビリティ方針
http://www.nta.go.jp/accessibility/index.html
JIS X 8341-3のレベルAAの達成基準を満たすことが目標として掲げられており、試験も実施されています。これは2015年の内容ですが、今回のリニューアルに際して、この方針が後退したとは考えにくく、同様の基準で考えていたはずです。こういう取り組みをしているはずのサイトが、障害者もそうでない人も含む多くの人からアクセスできないと言われることになったのは、なんとも皮肉な話です。
JISの達成基準を満たし、試験でそのことを確認するというのは、大切な取り組みです。しかし、それをしたからと言って、それだけで必ずしもアクセシブルであるとは言い切れないのです。今回の問題は、そのことが良くわかる教訓になったのではないかと思います。
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