デジマ4つのマイルール

優秀な人が多くて劣等感……転職した職場にどう馴染む? パシフィコ横浜のWeb担当者に聞く「職場攻略の心得」

デジマのキャリアを掘り下げる連載。今回は、パシフィコ横浜のWeb担当者・松原氏に注目。キャリアの転機をチャンスに変える秘訣とは?

転職を機に、自分の世界の狭さや新たな人間関係の難しさを痛感する──そんな経験を持つ人は少なくないのではないだろうか。慣れ親しんだ環境から飛び出し、新しい職場で成果を求められる中で、自己のスキルやコミュニケーション力を見つめ直すきっかけにもなるだろう。

パシフィコ横浜のWeb担当者である松原 正和氏も、転職でその現実を味わった一人だ。挫折や学びを重ねながら、自らの「仕事攻略」法を築いてきた松原氏に、これまでのキャリアの歩みと仕事のマイルールについて話を聞いた。

パシフィコ横浜 経営推進部 経営企画課 係長 松原 正和 氏

やりたかった雑誌づくりから、1人チームの赤字部署へ

松原氏の4つのマイルール

ルール1 わからないことは遠慮せずに、社外からも積極的に学ぶ

松原氏は大学で物理を専攻し、天文同好会に所属していた。天体観測した結果を冊子にまとめて出版社に送る活動も続け、自身のレポートが天文雑誌に掲載された経験もある。こうした体験から雑誌づくりに興味を抱き、就職活動では出版社を志望。大学卒業後はパズル雑誌を刊行している会社に入社した。

雑誌編集を2年ほど経験した後、別の仕事にも挑戦したいと考えた松原氏は、自ら志願して赤字だったPCゲーム部門へ異動。しかし、異動先のチームは前任者からの引き継ぎで事実上1人きり。さらに社内にWebに詳しい人材もいない状況だった。

なりふり構わずWeb広告代理店やベンダーさんなど外部の人を頼るしかないと思いました。『わからないので、ちょっと教えてもらっていいですか?』と聞いてみたり、営業電話がかかってきたら『来てもらえますか?』と言って、打ち合わせでたくさん質問をしました(松原氏)

幸運だったのは、取引先のベンダーの担当者がとても有能な人物だったことだ。そのやり取りを通じて、外部への発注方法やコミュニケーションのコツを学んだという。

『表示をもう少し長くしてほしいという要望は何秒くらいですか?人によって感覚値が違うことは数値化して指示した方がお互いにスムーズです』と、具体的にアドバイスをくれました。正しく要望することや負担のない依頼の仕方を学ぶことができました(松原氏)

PCゲーム事業に携わるようになり、松原氏が一番驚いたのはすべてが数字で明らかになることだった。会員数が増えない理由を特定しやすく、仮説を検証しながら施策を試みることが可能だった。

施策は失敗前提と考えて、トライ&エラーを繰り返しました。事前に仮説を立てて、必ず『良かった』『悪かった』の判断と振り返りを実施するようにしたんです。すると、赤字だったPCゲーム事業は無事に黒字化することができました(松原氏)

「そのときに教えていただいた外部の方たちとは今でも飲みに行く間柄」と松原氏。

対人関係のストレスはありません。仕事RPG論

ルール2 能力不足を感じたときこそ、自分の「得意」を探す

転職するとこれまで自分のいた世界の狭さを知る。そんな転職経験者は多いかもしれない。松原氏も2社めのマイナビに転職したときにその感覚を味わったという。

初めて大人数のチームを経験したのですが、優秀な人が多くて、社会人になって初めて劣等感をおぼえました。これは頑張らないとまずい。何かひとつでも自分の絶対的自信につながるスキルを見つけなければ、と思いました(松原氏)

松原氏が自身の強みを見つけたのは、家庭教師事業の新規立ち上げプロジェクトを任されていたときだ。新規事業をはじめる上での調査分析が自分は得意であると気づいたのだ。

一日中調べ続けても苦にならないんです。たとえば、家庭教師事業では、法的な要件や面談マニュアル、家庭訪問時に必要なアイテムから家庭教師の募集育成手法などを徹底的に調べました。報告した際、チームから『その情報、どこから持ってきたの? スパイしてないよね?』と冗談交じりに言われて、自分が調査分析に向いていると気づきました(松原氏)

調査分析を苦にしない背景には、松原氏の理系出身という経歴もある。卒論では、なかなか成果が出ない実験を繰り返し、データをひたすら分析した経験が役立っているという。

松原氏は3回の転職をして、現在はパシフィコ横浜に勤めている。何度か転職を経験したことで悟ったことがあった。

転職で新しい場所でイチから人間関係を築くのはRPGゲームのようなものだと思うんです。まずは会社内を渡り歩くための地図を手に入れる必要がある。そのエリアは穏やかな街なのか、魔物がひそむダンジョンなのかを見極め、冒険を前に進めるためのキーマンはこの人だ、と気づくことが大事です。そこで、キーマンを見つけたら飲みに誘います。そこで親しくなって仕事を進めやすくしていくといった感じです(松原氏)

「この話をすると引かれるかもしれないんですけど」と前置きを入れながら、松原氏は続ける。

多くの会社や部署を経験してきて、社内で反対意見やクレームをもらうと、私は『来たぞ~!』とテンションが上がるんです。何か新しいことを提案するときには、あらかじめこのあたりからクレームが来るんじゃないかと予測しておくと、実際にきたときにテンションが上がります。調査や分析と同じように攻略法を考えるのも好きなんです。仕事で人と関わるときにはいつも攻略法を考えているので、人からストレスを受けることはあまりないです。長いときは2~3年単位で攻略法を考えています(松原氏)

多くの人が仕事で対人関係のストレスを感じるものだが、松原氏のように仕事をRPGゲームとして捉えれば、楽しみながら乗り越えられるかもしれない。

これまでのキャリア

「課題を解決したい人」の課題を解決したい

ルール3「浅く広い知識」が武器になる

現在はパシフィコ横浜で経営推進部 経営企画課に所属する松原氏。どのような仕事をしているのだろうか。

当社のメイン事業は、催事をしたい企業や団体にパシフィコ横浜という場を貸すことです。それぞれの顧客には催事担当と呼ばれる営業担当がいます。私は、営業担当から、主催者側が困っていることや実現したいと思っていることを相談されたとき、解決手段を考えたり実行したりしています。特にWebサイト上でのことが多いですね(松原氏)

その結果として、松原氏が手がけたことは多岐にわたる。コロナ禍においては即席で来場者数をカウントするシステムを構築したり、お土産の販売が難しいときにECサイトを突貫で立ち上げたこともある。これには、自身の「浅く広い知識が役立っている」と松原氏は語る。

私自身がシステムの構築はできませんが、何社かを経験してさまざまな仕事をしてきて、自分で調べることも好きなので、『たぶん、あのツールとあのツールを組み合わせればできそうだな』と発想しています。最近では、知識の浅い部分をカバーできるノーコートツールなども多くあるので、浅くても広い知識があるだけで実現できることも多いです(松原氏)

そんな松原氏が最近手がけたのがパシフィコ横浜のカプセルトイだ。「パシフィコ横浜を訪れた方に向けてお土産を作りたい」というミッションがあり、最終的に約1/2500サイズのカプセルトイを作ることになった。おもしろそうだと思った松原氏がどうやって作るのかを調べたことから担当になったのだという。取材時に実物を目にしたが、模型のような精巧さだった。

有名なデザイン監修の方に入っていただき、「せっかく作るならクオリティにこだわった方が良い」とアドバイスをいただいたので、クオリティUPに振り切ることにしたんです。パシフィコ横浜と周辺ホテルの合計6施設分の種類があるのですが、かなりコストをかけて作りました。予算が上がるたびにいろいろな声もありましたが、このプロジェクトの必要性を説きながら、2年くらいかかりましたね。でも販売直前でWebサイトを用意していないことに気づいて、これは1日で作りました(笑)(松原氏)

カプセルトイの販売は好調で、この冬にはセット売りの新商品も計画している。松原氏の話を聞くと、次々にやったことのない仕事に興味を持ち、進めていく。どんどん仕事が増えていってしまいそうだが、その原動力はどこにあるのだろうか。

私の原動力になっているのは『課題を解決したい人』の課題を解決することなんです。私は企画と設計が好きで、運用になると飽きてしまうタイプなんです。だから少し課題に首を突っ込ませてもらって企画と設計に関わり、その後うまくまわっているなと眺めるのが好きですね。誰かの困りごとを解決できると、目に見えて結果がわかるのでモチベーションにもつながります(松原氏)

「カプセル都市計画 パシフィコ横浜」のカプセルトイ一式※画像は製品に着色加工をしたもの

内製で公式Webサイトをリニューアル

ルール4ほとんどの課題は、ツールで効率的に解決できる

「仕事をする上で気をつけているのは、仕事にしがみつかないことだ」と松原氏は語る。

自分が成果を出して子どものように思い入れのあるプロダクトでも、うまくいけばすぐに手放します。手放すから新しいことにも取り組めるし、成長があるのだと思っているからです(松原氏)

常に自分の仕事を手放すことができるよう、松原氏が大事にしているのはタスク管理だ。

チーム内で『Backlog』というツールを使っていて、それぞれのタスクを全部書き出して進捗がわかるようにしています。『私が明日死んでもいいようにしています』というのが私の口癖です(松原氏)

Backlogのタスク管理画面(本人提供)


このタスク管理をフルに活用したのが、パシフィコ横浜のWebサイトのリニューアルプロジェクトだ。合計1000ページ、ピーク時では月間PV100万を超える公式サイトのフルリニューアルを行った。

『Studio』というノーコードツールを使って、5名のプロジェクトメンバーによる内製で進めました。こうしたプロジェクトを実現できたのも、便利なツールが次々に生まれているからです(松原氏)

企業の公式サイトのリニューアルは、以前なら制作会社に依頼して何ヶ月もかけて費用もかかった。それがツールを活用したことで低コストで内製で実現することができたのだ。リニューアルにあたって苦労したことはなかったのだろうか。

Webサイトのリニューアルは会社の顔を変えることでもあります。さまざまな関係者から意見が出てくることは予測できました。そのため、あらかじめ各部門と話をして意見を聞いておくようにしました。何かの記事でも読みましたが、社会人が一番怒るのは『私は聞いていない』という理由らしいです。だから、あらかじめヒアリングをしたんです(松原氏)

ヒアリングする際は、各部門のキーマンにヒアリングをして事前に方針を伝え、何か要望がないかをあらかじめ確認した。これまでの経験上、最初の時点では要望は出てこないことの方が多いので、その場合は叩きを作ってから再度意見を聞きに行くという流れで進めていった。

パシフィコ横浜の公式サイト

そして、リニューアルプロジェクトのタスク管理で使用した「Backlog」を運営する、株式会社ヌーラボ主催の「Good Project Award 2023」の最優秀賞をこのプロジェクトで受賞することもできた。

外部の賞を受賞したことで、自分の人生の風向きが少し変わった気がしています。これからも大事にしていきたいのは外部のコミュニティとのつながりをもつこと。意見をもらえる場があると自分自身が凝り固まることなくいられると思っています(松原氏)

松原氏の4つのマイルール
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